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ザナドゥの方から来ました

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ザナドゥの方から来ました

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第2章


「そうか……そういうことだったのでありますか!!」
 金住 健勝(かなずみ・けんしょう)は唐突に理解した。
 彼もまた、ザナドゥ時空の脅威に晒されたツァンダの街を救うため、通路の一つである『鉄』の通路へと向かった者の一人である。
 その健勝は、とある部屋の中で光条石の光を浴びながら眠る少女を発見した時、まるで雷に撃たれたような衝撃を受けた。

 その時、ひらめいてしまったのである。
 彼こそは250億分の一の確率で産まれて来る『生存率が高い遺伝子』持つ人間であるということを。
「そうか……だから自分はいつも第3師団やコンロン、そしてカナンのような過酷な状況でも生き延びることができたのでありますか!!
 確かに普通なら何度死んでいてもおかしくない状況だった……、自分は生き残る天才だったのでありますね!!」

 もちろん、これはザナドゥ時空に影響されて彼が思い込んでしまった勘違いなので、死ぬ時は本当に死にますのであしからず。

 だが、感動に打ち震える健勝にそんなことは知る由もない。
 そうこうしているうちに、棺のような透明なケースに入ったレジーナが目を覚ます。

「……あなたは……」

 これが、古王国時代に最強の剣の花嫁を作る計画の過程で、その素体として産み出されたパーフェクト花嫁(パーフェクトブライド――略称はPB)であるレジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)の目覚めであった。

 もちろん、レジーナさんは本来、普通の剣の花嫁ですのであしからず。


                     ☆


「どうして着いて来るでありますか!」
「……」
 自分を最強の兵士であると思い込んだ健勝。
 となれば彼がすべきことは、あてもなく炎の匂いの染み付いた戦場をさすらったり、乾いた心で地獄を見たりすることなのだが、そのためには女子供は邪魔なのだ。
 だが、レジーナもまた目覚めて最初に見た健勝に対して、強い依存心を抱いている、と思い込んでいるので、つい健勝の後を追ってしまうのだ。

「……この通路の罠は熟知しています……道中を攻略するなら、罠を解除しましょう……」
 たしかに、彼女の真意は不明だが、この通路の中にいた彼女であれば、罠の解除もたやすい。
 健勝は、前方の通路を通りがかった敵――この通路にいる6人衆『ウド』の配下のアンドロイド型機晶姫――を通路の死角でやり過ごすと、レジーナに頷いた。
「――しかたない。この通路を生き延びるには、協力してもらうしかないであります」
 その言葉を聞き、無表情なままレジーナは、しかし少しだけ嬉しそうな声で、健勝に応えた。
「――では、こちら……できるだけ罠を回避して、最低限の解除だけをして行きます。どうしても戦闘を避けられない時は――」

 レジーナの言を継ぎ、健勝はハンドガンを構えた。
「心得ている……たまには火薬の匂いを嗅ぐのも悪くないであります」
 ここに来て、二人の間には奇妙な信頼感が生まれていた。


 そして、そんなちょっといい雰囲気をブチ壊したのが六鶯 鼎(ろくおう・かなめ)であった。


 突然、通路を激しい振動が襲った。どこかで爆発が起こったのだ。
「――レジーナっ!」
 無意識的にレジーナをかばって落下物から守る健勝。
 連続して起こる爆発。トラップに引っかかったというレベルではない。
 誰かが、故意に破壊工作を行なっているのだ。

 そして、その破壊工作を行なっているのが六鶯 鼎――いや、今の鼎は六鶯 鼎ですらなかった。


「魔法少女・けみかる☆かなみん! 参!! 上!!!」


「……はぁ」
 レジーナをかばったままの健勝はそのまま、数秒間停止してしまった。
 その空白は兵士にとっては命取りだったのかも知れないが、まあ仕方ないことだろう。
 何しろ、外見上は性別不詳で妖艶な鼎が、長い白衣をひらひらさせて、おそらくは可能な限り明るい笑顔で、さらさらの髪をなびかせつつ、両手に持った銃でトラップへの破壊活動を繰り返しているのだから、目が点になっても仕方がないというものだ。

 一応、本人の名誉のために申し上げておくと、これもまた鼎に影響したザナドゥ時空の仕業である。
 普段の鼎は『面倒臭い』という感情が白衣を着て歩いているようなテンションの低い、ちょっぴり腹黒がウリな研究者であるが、そんな鼎の深層心理に何かがちょっとお邪魔してしまったらしい。
 まあ、そんなわけで本日の鼎は魔法少女、けみかる☆かなみんなのだ。特に魔法少女のコスチュームを着ているわけでもなく、いつもの裾が紫がかった白衣を着ているだけなのが非常に残念だが、それもまた仕方ないということにしておこう。

「反省しないと――電解しちゃうぞ☆」

 誰にともなく――おそらくはカメラに向かって――びしっと決めポーズを決めた鼎は、健勝とレジーナの横をすり抜けて右手の『プルガトリー・オープナー』を乱射した。左手の孤影のカーマインからもそれに合わせて乱射される。
 そして魔法少女であろうがなかろうが、発射される銃の威力は本物だ。
 通路の端へと弾丸が次々へと発射され、次々にトラップを爆破していく。

「けみかる☆ディストラーップ!!!」

 煙に巻かれた健勝とレジーナがむせる中、そこに現れたのが、朝霧 垂(あさぎり・しづり)と、そのパートナーライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)である。
 ライゼは、鼎――いや、ここは敬意を払ってけみかる☆かなみんと呼ぶべきだろうか――がトラップと通路を破壊していく様を見て、無邪気な笑顔を浮かべた。

「なーんだ、ホラ垂、みんな考えることは一緒なんだよ!!
 別にこの通路がどうなっても僕たちが困るわけじゃないんだし、勘が働くほうにどんどん進んじゃえばいいんだよ!!」
 と、ライゼが取り出したのは機晶爆弾である。最初は地道にトラップを解除していたライゼだったが、いい加減面倒になったらしい。
「ちょっとくらい壊したって大丈夫大丈夫!! もともと爆弾トラップが仕掛けられてるくらいなんだから通路は丈夫だよ!!」

 次々に機晶爆弾と破壊工作で通路を押し進むライゼと垂、行く先はトレジャーセンスの働く方だ。

「よーっし、全速前進だよーっ!!」
 けみかる☆かなみんの声を合図に、垂とライゼ、そしてかなみんの破壊工作トリオは、次々にトラップを破壊しなかが進んで行った。


「……無茶もいいところであります、が」
 と健勝はぼやくものの、これは確かにチャンスではある。隠密行動を基本とする彼ではあるが、戦場は常にケース・バイ・ケースだ。
 あの破壊行動の勢いなら、破壊音を聞きつけてやってくる機晶兵たちも撃退して突破できるだろう。
「――よし、行くであります」
 進行する健勝、その横に並んだレジーナはぽつりと呟いた。
「……レジーナって……私の名前……ですか?」
 あくまで視線は通路の奥――敵である機晶兵へと向けたまま、健勝は頷いた。
「……無意識に呼んだのであります。……気に入らないでありますか?」
 しかし、レジーナは表情ひとつ変えずに、首を横に振った。
「……いいえ、個人が判別できれば、名前自体に意味はありませんから……問題ありません」


 と言いつつも、名前のある存在として扱われることに、湧き上がる喜びを隠せないレジーナだった。


                              ☆