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ザナドゥの方から来ました シナリオ2

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ザナドゥの方から来ました シナリオ2
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                              ☆


 衿栖と朱里が連れて来たDトゥルーの『本体』は、せいぜい1mくらいの水晶の中に入ったタコ型魔族であった。
 度重なる爆発に、何かが起こっていると感じた衿栖と朱里は、Dトゥルーの本体から抜け道を聞き出し、爆発を繰り返す『心臓部』へと乗り込んだのである。
 ケイは、驚きの声を上げた。
「じゃあ……そのタコがDトゥルー本体で、今まで俺達が戦ってきたDトゥルーは分身だった、ってワケか」
 それに対し、Dトゥルーの本体は答えた。弱く、小さな声だった。
「その通り……とはいえ、我も特に人間どもと協力するつもりなどない……暴走したとはいえ、分身のしたことは我が心の内にある願望のひとつが形を取ったものだ」
 その呟きに、ケイはまた聞いた。
「人間たちと殺し合いを繰り返す……そんなことが、あんたの願望だっていうのか?
 仮に力や技を競い合いたければ、例えば闘技場のようなもので戦えばいいじゃないか。
 共に修行して力を競い、互いの成長を楽しむことだってできるだろう?」

 しかし、Dトゥルー本体は、静かに言葉を紡いだ。

「そうだな……そこの地祇ならば……分かるのではないか」
 Dトゥルーが示した先には、カメリアがいる。
「カメリアさん……」
 衿栖は、カメリアを促した。うつむいたまま、カメリアは喋りだした。

「……わからんでも、ない」
 傍らの巽が、カメリアの肩にそっと手を置いた。カメリアは、もう一度繰り返した。

「……わからんでもない。儂のような地祇や、魔族のように永い寿命を持つ種族……悠久の時を渡る種族にとっては人間の命は短すぎる。
 それは、地球人であってもパラミタの人間であっても同じこと。
 儂はいつだって怖いと思っておる……どんなに仲良くしても、いつかは誰もが自分の道を歩み始めるじゃろう。
 地球人は、地球に帰ってしまうじゃろう……パラミタの人間は、家族を持ってそれぞれの土地へと帰るじゃろう。
 それはそれで、喜ばしいこと。じゃから儂はそれを笑顔で見送るじゃろう。
 そして、どの人間も――儂よりも先に死ぬ。
 儂の目の前で死ぬかも知れん。儂の知らぬところで死ぬのかも知れん。
 そしていつか、儂は一人になる。全ての友人も家族をも見送って。元のように一人になる。土地は変わり、人は流れて、それを見守り続ける存在になるじゃろう。たった……一人で。
 そしてきっと、また同じことを繰り返す。
 いつかその時――こう思うのかもしれん」
 Dトゥルーは、黙って目を瞑った。かつての自分を、思い出しているのかもしれない。


「『こんなことなら、誰とも友達などになるのではなかった』とな」


「……カメリアさん」
 巽の手に力がこもる。だが、カメリアはその手の上にそっと自分の手を重ねた。
「……大丈夫。今の儂は大丈夫……どんなに離れていても、友は友。その気持ちに偽りはない」
 その声は、ちょっとだけ震えていて、消え入りそうだったけれど。
「しかし……Dトゥルー……お主はそうは思えなかった、ということじゃな」
 カメリアは、Dトゥルーの本体をまっすぐな瞳で見据えた。

「そうとも……かつては好敵手と呼べる相手がいた。
 しかし我はもう内心、飽きていたのかも知れん。良き相手を待ち続けるだけの命に。
 だから我は永い眠りについた。誰とも関わる必要のないように。
 しかし、長い歳月のうちに分身に力を奪われてしまったのだ
 だが今、ザナドゥドライブは破壊された。もはやその分身に力を供給するものはない」
 その先は、誰にも分かっていた。
 空中に浮かんだままの触手の塊と、4体のDトゥルーの分身は剣を構え、コントラクター達を見下ろした。

「さて――無駄話はそこまでだ。くだらない昔話と共に、滅びるがいい」

 コントラクター達は触手から逃れ、自由になっている。だがDトゥルーの触手の数もかなりのもの。
 いくら魔力の供給が止まったとはいえ、楽な相手ではないことは分かっていた。

「ふん――事情など知ったことか。せっかくの殺し合いに水を差すなよ!」
 七誌乃 刹貴は呟いて、殺気のこもった視線をDトゥルー分身に送る。自分が戦っていた相手との決着はまだ付いていない。
「そうそう、まだ相手がいるなら、こっちもやるまでよっ!!」
 緋柱 透乃もまた別のDトゥルーに向けて視線を送る。
「危険な相手だということに変わりはない……殲滅するまでだ。いくぞ、ワンコ!!
「うぁんっ!!」
 四谷 大助の言葉に、白麻 戌子も光条兵器を口でくわえ、応える。
「私は、グリムゲーテ・ブラックワンス!! 今こそ、この名にかけて戦うとき!!」
 グリムゲーテの名乗りも、ここで初めて正式な意味を持ったと言える。

 その場の一同がやる気になった時、心臓部の入口から声が響いた。


「ちょおーっとまったあ−っ!!!」


「!! お主は……!!」
 カメリアが振り返ると、そこには南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)がいた。パートナーの琳 鳳明(りん・ほうめい)も。そして天津 麻羅(あまつ・まら)水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)の姿もある。
「カメリアさん、大丈夫ですか? ――遅くなってすみません」
 さらに博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)もやってきて、カメリアに声をかけた。
「博季にぃ……!!」
 カメリアの目が潤む。
 その様子を、物陰から西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)がそっと見守った。そして、その幽綺子に、もうひとりの博季が声をかける。
「ね、ねえ幽綺子さん。危ないですよ……」
 かつて『似顔絵ペーパー』で作られた博季のフェイク、『女性にトラウマがあって言うことに逆らえない博季』である。
 その博季にお姫様だっこで自分を運ばせて戦闘を徹底的に避けてきたので、博季は到達するのが遅れたのである。

 そして博季は、カメリアからバキュー夢を吸い出して、ひとつの剣を取り出した。
「……それは?」
「みんなの想いをひとつにして――『想い束ねし祈りの剣』です」
 博季はその大剣を両手で構え、心を込めて祈った。少しずつ、少しずつ力が集まるのを感じる。
 もう誰も悲しまなくて済むように――。


 それはそれとして、麻羅は叫んだ。
「話は聞かせてもらったぞ、椿!! ならばここはわしにバキュー夢を使え!! 緋雨は手を貸せ!! これから剣を打つ!!」
 麻羅は、カタカナ言葉が苦手で、カメリアを『椿』や『紅椿』などと呼ぶ。
 カメリアはバキュー夢を取り出し、麻羅へと駆け寄った。
「どういうことじゃ!?」
「天叢雲剣を打つ!!」
 天叢雲剣とは、日本の神話において、ヤマタノオロチの尾から出てきたとされる、日本を代表する神剣のうちのひとつである。
 後に、それは草薙剣とも呼ばれ、神器のひとつとして永く祀られることになる。
 『天津麻羅』は、その剣を打った神の名とされている。

「よし……つまり、その天叢雲剣を麻羅の記憶から吸い出せばいいのじゃな!!」

 カメリアはバキュー夢を構え、麻羅の前に一つの光の球を作り出した。
「よし、緋雨!! わしはこれを剣の形にする。おぬしは神話の神剣を強く思うことで、これを強化せい!!」
「――分かったわ……せっかく麻羅が剣を打つんだから、ゆっくり見学したいけど……しかたない、集中集中!!」

 麻羅の手の中で、光が剣の形を作り始めている。そこでヒラニィが呟いた。
「そうか、ヤマタノオロチも8本首。Dトゥルーの分身も元は8体!! その因縁を持って奴を倒そうというのじゃな!!
 麻羅もカメリアも頑張れ!! 頑張ってあのタコを討伐する剣を作るのじゃ!!」

「ちょっとヒラニィ、二人の邪魔しちゃ……」
 鳳明は呟く。そんな外野の騒ぎをよそに、麻羅は次第に手の内の光を剣の形に変えていった。

「よし……これで完成――って何じゃこりゃあああ!?」
 麻羅は叫んだ。天叢雲剣が出来上がるはずが、そこに出来たのは天叢雲剣に8本足がついた奇妙な剣だった。
「え……どういうこと?」
 緋雨も困惑を隠せない。緋雨としても刀剣類に関しては手を抜くはずがない、しっかりと天叢雲剣のイメージを固めたはずかのだが。
「あ」
 緋雨と鳳明はヒラニィを見た。先ほどの呟きが何らかの影響を与えてしまったとは考えられないだろうか。
 それもそのはず、ヒラニィはザナドゥ時空にしっかりとシンクロし、この空間そのものに影響を与えている。ここではカメリアの『バキュー夢』もザナドゥ時空を逆手に取っているので、それを利用した刀剣作りであれば、ヒラニィの影響を受けないわけにはいかないのだ。

「ヒラニィ、おぬし、人の最高傑作を魔改造しおってからに!!」
 どうやら天叢雲剣はタコ討伐に特化した『オクトパススレイヤー』になってしまったらしい。とは言うものの、相手の特性を考えればこれも悪い話ではない。
「ぬうう……しかたない。後は任せたぞ!!」
 と言って、麻羅は鳳明にその天叢雲剣の成れの果てを渡した。
「え……私?」
 鳳明は戸惑う。カメリアも麻羅も、剣は得意ではない。緋雨は銃。ヒラニィはスペランカーだ。

「はい……分かりました」
 鳳明は即効で何かを諦めた。確かに、八極拳の使い手である自分ならば、刀剣の扱いも修行している。
「よし、こんなこともあろうかと、いいものを用意しておたわ!!」
 その様子に満足した緋雨が引っ張ってきたものは――。


 自走式人間砲台


「つまり……これで飛べ、と。緋雨さん、普段何を考えて生きてるの……」
 がっくりと肩を落とす鳳明。
「ほい、風除けのゴーグルじゃ」
 ヒラニィが鳳明に『正義マスク』を手渡す。
「これ絶対ゴーグルじゃないよね!! なんでこんな格好悪い格好で飛ばなきゃいけないのっ!?」
 鳳明は嫌がるが、そこにカメリアが頭を下げる。
「すまぬ鳳明……頼めぬか……」
 鳳明は基本的に人がいい。こうして頼まれてはなかなか断り辛いのも事実であった。
「わ、わかったよっ!! こうなったらしっかり砲弾になって、残った触手もタコさんも全部切り落としてくるから!!」
 半ばやけっぱちで鳳明は自走式人間砲台に入り込み。緋雨は、その砲台を調整して、コントラクター達と戦い続けるDトゥルーの分身、そして触手に狙いをつける。
「角度よし……位置よし……よし、フィイアー!!!」


「いっけぇぇぇーーーっ!!!」


 無責任なヒラニィの掛け声が響く。
 人間砲台で発射された鳳明は、Dトゥルーの分身と触手目がけて勢いよく飛び立ち、手に握った天叢雲剣を次々に振るった。
「うりゃあああぁぁぁーーーっ!!!」
 ザナドゥ時空にシンクロしたヒラニィの思い込み尾パワーが秘められた剣は、確かにDトゥルーと触手にのみ絶大な威力を発揮した。
 まず最初の一刀で触手の塊を滅し、壁に当たった鳳明弾丸は、緋雨の緻密な計算によって求められたルートに従って跳弾し、Dトゥルーの4体の分身を次々と切り捨てていく。

「バ……バカなっ!!」

 Dトゥルーの分身がうめいた。

 そこに、巽が叫ぶ。
「カメリアさん……君の想いを借りるよ、誰かを助けたいっていう……想いの力!!」
 ティア・ユースティは『バキュー夢』を使ってカメリアから想いの力を取り出した。
 好意のある相手とは誰とでも仲良くしたり、楽しいことには何でも興味を持ったりする、椿の古木。その想い。

 それは、3枚のメダルとなって現れた。

「何でメダルなんじゃっ!?」
 まあ気にするなカメリア。

「タツミッ!!」
 ティアがそのメダルを投げると、巽は片手でそれを受け取り、腰のベルトにセットした。
「――変身!!」
 『椿!』『好意!』『興味!』
 3枚のメダルは奇妙な音声を発し、巽の姿を変化させていく。
 そこには、巽が変身する変身ヒーロー『仮面ツァンダー』がさらにメダルの力でパワーアップした姿があった。

 『ツッコ〜ミ!! コミコミ、ツッコミ!!』
 ベルトのメダルがまた奇妙な音声を発した。

 仮面ツァンダーソークー1、ツッコミコンボの誕生である。

「だから何でメダルッ!?」
 まあ気にするなカメリア。

「誰かの好意を受けて、何にでも興味を持って、どんどん世界を広げていく……それがカメリアさんの夢。
 自分だけ良ければいいっていう奴にはわからないさ。
 最初は一人ぼっちの夢だったかもしれないけど、もうたった一人だけの夢じゃない!!」

 巽は鳳明が切り裂いた4体のDトゥルーの分身に向けて、一直線に必殺キックを放った。
「ええかげんに、セイヤアアアァァァッ!!!」

そこに重ねて、博季が手に持った『想い束ねし祈りの剣』が大きな光を放つ。

「いきますよカメリアさん……」
 呼びかけに応じ、カメリアは祈る。
 確かに感じる、仲間や友人との繋がり、その想い。
 その目には見えない力――それは人との繋がりを否定し、刹那的な快楽に明け暮れたDトゥルーには、決して得られない力だった。

「たとえどんなに力があろうが……人の想いを踏みにじる権利は、決して! 誰にもないっ!!!」

 博季の叫びと共に、剣の先から光が発射された。

「すごい……」
 Dトゥルーの本体を抱えたまま、衿栖は呟いた。
 眩しい光が周囲を覆いつくし、触手とDトゥルーの分身を消し去っていく。
 その光景に誰もが心を奪われた時、それは起こった。


「あらあら、これでおしまいですか? Dトゥルー様も分身とはいえ、不甲斐ないことですわねぇ」


「!!」
 秋葉つかさだった。素早く伸びた触手が、衿栖が抱えた水晶――Dトゥルーの本体を奪い取る。
「しまった!!」
 すぐに朱里がつかさに襲いかかるが、つかさはDトゥルーから受け継いだ力で、ふわりと空中に浮かんでしまう。

「おお……お前か。人間のわりに面白い奴だったな……だが終わりだ。ザナドゥ時空の影響からは解放してやろう……」
 Dトゥルーの本体はつかさに語りかけた。分身のしたこととはいえ、触手を生やされてしまったつかさをこのままにしておくわけにはいかない、と思ったのかもしれない。
 だが、つかさは触手で絡め取ったDトゥルーの本体を前に、口元をゆがめて、笑った。


「いいえDトゥルー様……余計なことはなさらないで下さいましな」