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ザナドゥの方から来ました シナリオ2

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ザナドゥの方から来ました シナリオ2
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第4章


「ふんふんふ〜ん♪」
 ここは宮殿内のとある通路である。もう少し進めば、『心臓部』へと繋がる通路に出られそうだ。
 仮にも戦いの場であるというのに、秋月 葵(あきづき・あおい)の鼻歌は軽やかだ。それというのも、葵の手には『似顔絵ペーパー』が4枚ほどあり、そこに似顔絵を描いている最中なのだ。
 お絵描きには、やはり鼻歌であろう。
「よ〜っし、でーきたっと♪」
 渾身の似顔絵を描き終えた葵は、満足そうにそれを眺める。葵はカメリアから『バキュー夢』を借り受け、それを使って自分の記憶の中から『似顔絵ペーパー』を取り出したのだ。『似顔絵ペーパー』はそこに描いた似顔絵をそのまま『フェイク』という偽者に化けさせる特殊な紙。危険だということで本物はカメリアとブレイズが過去において始末したのだが、記憶の中のものは始末しようがない。

「これで準備はOKっと……ところで、こっちは大丈夫かな……?」
 葵が心配しているのは、パートナーのイングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)である。
「ふっふっふ……心配ご無用だにゃ」
 根拠なき自信に満ち溢れた表情のイングリット。彼女がこういう笑い方をした時は、大抵大丈夫ではない。
「実は……葵には黙っていたけれどにゃ……」
「な……なあに?」
 一瞬だけ、暗い表情を見せたイングリットに葵は聞き返した。

「実はイングリットは……神から遣わされし魔族狩人……あくの魔族を殲滅せしめる為、この大地に降り立ったのにゃ!!」

「……それは……知らなかったよ……大丈夫かな……拾い喰いとかしちゃったのかな……」
 呆然とする葵。言うまでもなくイングリットはザナドゥ時空にやられて、ちょっぴり勘違さんなおちゃめでキュートな中二病患者になってしまったのである。
「ふっふっふ……この魔眼からはどんな魔族も逃げられないのにゃー!!!」
 色々な内圧に耐えられなくなったのか、イングリットは通路を奥のほうへと走って進行してしまう。似顔絵ペーパーを抱えて、葵もその後を追った。
「あ! 待ってイングリットちゃん!!」

 イングリットの後を追う葵。その葵を、後ろから走ってきた男が猛スピードで追い抜いていく。

「え?」
「どりゃあああ!!!」
 それはブレイズ・ブラスだった。白く光り輝く『正義マスク』で肉体を強化した彼は、いち早く心臓部へと乗り込みたかったのだが道に迷って今やっと心臓部付近に他取り付いたのだ。

「あ、ブレイズさん!!」
「おお、葵か!!」
 すでにイングリットは先に走って行っている。葵とブレイズは走りながら会話した。
「お前も『心臓部』に行くのか!?」
「うん……『ザナドゥドライブ』を壊しちゃえば、無駄な戦いを避けられるかなって……ブレイズさんは?」
「ああ……無駄な戦いというか……先に『ザナドゥドライブ』とやらをぶっ潰しておかねぇと、あのDトゥルーって奴は……どうも危険な気がするんだ」
 二人がイングリットに追いついた時、そこは『心臓部』であった。
 情報によれば、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)のパートナー、マリオン・エーディン・ノイシュバーン(まりおんえーでぃん・のいしゅばーん)の体を取り込んでしまったマンドラゴラの花妖精 ラウネがいるはずだ。

 そして、確かにラウネはいた。もちろん、空中宮殿の心臓部『ザナドゥドライブ』も。
 『ザナドゥドライブ』は強大な魔力を制御するために作られた巨大な機械。魔界のテクノロジーで作られた魔族の魔科学は、それはそれで研究したら得るものは多そうだが、今はそんなことを言っている場合ではない。

「『そう、今はそんなことを言っている場合じゃないのよっ!!』」
 通路をくぐって出たイングリットと葵、そしてブレイズに何者かが話しかけた。
「誰だ!?」
 それは、キャロル著 不思議の国のアリス(きゃろるちょ・ふしぎのくにのありす)の声だった。
「『わたくしが誰であるか――それはそう、真実の愛の在り処よりもどうでもいいこと』」
 多くのキャラクターが登場する物語の魔道書であるアリスは、口調がまったく一定しない。次から次へと変わる口調に真面目に付き合っていると、軽い眩暈を覚えるほどだ。
 外見上は10歳程度の女の子。しかし、その中には軽く数百を越える人格と役柄が詰まっているのだ。
「『そんなことよりお客人、私の話をお聞きなさい――損はさせないよ』『その通りじゃ、わらわの言葉に耳を傾けぬものには天罰が下るぞよ』」
「……どういうこと?」
 似顔絵ペーパーに似顔絵を描いていた葵と、道に迷っていたブレイズだから、先客がいること自体は不思議ではない。だが、ここまで乗り込んできているということは、敵であるラウネと戦い、ザナドゥドライブを破壊することが目的のはずではなかったか。
「危険は承知のうえだぜ!!」
 怪訝な顔をする葵と、意気込むブレイズの前で、アリスはチッチッチと指を振った。
「『ゆめゆめ忘るるなかれ!! 汝、かの花妖精に傷でもつけようものなら、花妖精の母親が黙ってはおらぬぞ!!』」

「え――母親って……お母さんってこと!?」
「何――ラウネに、母親がいたのかっ!?」
 驚いたブレイズと葵、そしてイングリットは『心臓部』の部屋に入る。そこで、彼らが見たものは。


「誰も――誰も私のラウネちゃんを傷つけさせたりしないんだからっ!!」
 族6人衆最後の生き残りであるはずのラウネを全力で守る、多比良 幽那(たひら・ゆうな)の姿だった。

 巨大な魔力制御装置である『ザナドゥドライブ』は部屋中から延びた無数の機会質の管と、生物質の管に繋がれていた。この宮殿を空中に浮かべ、かつ無尽蔵ともいえるDトゥルーの魔力を常に供給しているのだろう、ゴウンゴウンと轟音を立て、全力で稼動している。
 その前にいるのは、魔族6人衆最後の生き残り、花妖精のラウネ。本来3つの上半身を持っていたラウネだったが、【緑の通路】の戦いにおいて二つは撃破され、その代わりとしてマリオンを取り込んでしまったのだ。
 現在のマリオンはラウネの意識の支配下にあるようで、どのような状態かははっきりしない。
 そのラウネに立ち向かうのはマリオンのパートナーである、ローザマリア・クライツァール。当然、自分のパートナーを取り戻すためにいち早く心臓部に乗り込んできたのであるが。

「――どういうつもり? 敵を庇うというのなら人間であっても容赦しないわよ」
 両手に曙光銃エルドリッジを構えたローザマリアは、部屋中に張り巡らされたラウネの蔦から逃れるべく、威嚇射撃を続ける。
 だが、幽那はその鋭い眼光をものともせずに、ラウネを庇い続ける。ラウネはというと、どうやら幽那が自分側に味方していることを知り、幽那を利用してローザマリアからの盾にしているようだ。
 幽那は叫ぶ。
「どうもこうもないわ!! 全ての植物は私の子よ!! 花妖精となれば全て私の娘なのよ!! 娘が傷つけられて平気な母親などいるものですか!!」
 植物全般にやや行き過ぎた愛情を注ぎまくる幽那は、魔族の中に花妖精がいると聞き、しかも重要な『心臓部』を守っていると聞いて、いてもたってもいられなくたったのである。

「だって層でしょ、こんな重要なポストにいたら、コントラクターが大勢押し寄せてくるに決まっているもの!! お母さんそんなの耐えられない!!」

 言いながら、幽那は左手に寄生させた『龍樹の左手』から闇の弾を射出して、ローザマリアを牽制する。
 その周囲を、幽那が連れてきた5人のアルラウネが邪魔をする。
 更に、幽那のパートナーであるネロ・オクタヴィア・カエサル・アウグスタ(ねろおくたう゛ぃあ・かえさるあうぐすた)アッシュ・フラクシナス(あっしゅ・ふらくしなす)の援護もあって、ローザマリアはなかなかラウネにダメージを与えることができない。

「……なかなかやっかいね……敵を庇うなんて正気の沙汰とは思えない……ザナドゥ時空の影響を受けているのかしら。
 だとしたらうかつに撃つわけにもいかない……何とか無力化しないと」

「母よ、早くラウネを保護して救出するのだ!!」
 アッシュは、退路を確保しながらも驚きの歌や『聖緑のスコア』による歌で幽那をサポートしている。
「ふん、さすがにここで火を使うわけにはいかんのう!!」
 と、ネロも共に幽那のサポートをしつつ、何とかラウネを救助しようとするが、腕利きのコントラクターであるローザマリアから逃れることはなかなか出来そうにない。
 そもそも、ラウネ自身に逃げる気がなく、チャンスを狙って幽那ごと全員倒す気でいるのだから、事態は混乱の一途を辿るのだった。

「どうなってんだ、これ」
 やや呆然としたブレイズが呟いた。傍らのアリスがそれに応える。
「『ま、ぶっちゃけると花妖精の救助自体には興味ないんだけどな!』『で、でもでも、幽那ちゃんが頑張るっていうから、お手伝いするだけなんだからねっ!!』」
 意思疎通の難しいアリスを無視して、葵はブレイズに応えた。
「う〜ん……この隙にザナドゥドライブ自体を攻撃しに行けばいいんじゃないかな……」
 ブレイズはぽんと手を打った。
「お前頭いいな」
 イングリットもそれに続く。
「よっし、みんなで魔族どもをやっつけるにゃー!!」


 聞いてくださいよイングリットさん。


                              ☆