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【ザナドゥ魔戦記】アガデ会談(第2回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】アガデ会談(第2回/全2回)
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第9章 居  城(2)

 左翼の棟の見回りを終えたエシム・アーンセトは、どこかふらつく足取りで、アラムとの合流場所である奥宮に続く回廊へ向かっていた。
 片手には、まだあの奇妙な面を持っている。あれを持って部屋の中央でたたずんでいるのを発見したときから、彼はおかしかった。口数が少なくなり、顔色は冴えず、しばしばこめかみに手をあてる。頭痛を感じているふうなのを見て支えを申し出た騎士もいたが、エシムは頑としてその手をとろうとはしなかった。
 主君に無理強いはできない。自分たちが気を配っていようと目くばせし合っていた矢先のことだった。
 ふらりと、横の通路から同じ通路に何者かが現れる。
 得物を手にした、異国の服装の麗人。電灯は半分以上が消えている。特に向こうが出てきた角は暗く、距離がありすぎて男性か女性かも判別がつかない。シルエットは女性的だが。
 居城で民の世話をしていたというコントラクターだろうか?
「見つけた……騎士……」
「おまえは……?」
「! エシム様、あぶない!!」
 正面を向いた相手の前面が乾いた血で染まっていることにいち早く気付いた騎士がエシムを壁へ突き飛ばす。
 直後、力の風が床を裂き走った。
「うわああっ!」
 避けられず、直撃を受けた騎士の1人が後方へはじけ飛ぶ。騎士はそこで動かなくなった。
「あんたか、私の恩人を殺したのはッ!」
 彼女――獅子神 玲(ししがみ・あきら)は叫んだ。
 女性にしても高く、妙にキンキンとした、聞く者を不安にさせる声だ。
「やさしい人だった! 見知らぬ者である私にあたたかいごはんをくれた、いい人だったのに!」
 手が振り切られるたび、そこから生まれた力の風が床を、壁を、天井すら裂きながらエシムたちへと向かう。問答無用の斬撃。
「アハッ☆ つっよーい、玲〜」
 吹き飛んだ血まみれの騎士から魂を抜きながら、リペア・ライネック(りぺあ・らいねっく)は無邪気に笑う。笑って、その魂をぽいと口に入れた。
「騎士なんか死ね!! 死ね!! みんな私が殺してやる!!」
「そーそー。みーんな殺しちゃおーねー♪」
 スキップを踏み、次の獲物へ近寄るリペア。
「あれー? この人、超霊の面なんか持ってるよー? もしかしてだれかのお手つき?」
 ま、いーか。喰べちゃえ♪
 壁で気絶しているエシムの胸に手を伸ばしたときだった。
「たあーーーっ!!」
 声とともにバーストダッシュで距離を詰めたセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)のウルクの剣が横から突き込まれる。
 しかしそれはわずかの差で、残像を貫いたにすぎなかった。リペアの安全が第一と、彼女から目を放さずにいたギーグ・ヴィジランス(ぎーぐ・う゛ぃじらんす)が後ろへ引き戻していたのだ。
「アハッ☆ ギグ〜」
 お礼にほっぺたにチュッ。
「てめェ俺様のリペアに何しやがるッ!!」
「それはこっちのセリフよ!! あと、戦場だっていうのにベタベタしてるんじゃないわよッ!」
 チュッ、チュッ、チュッとキスの雨を降らしているリペアをビシッと指差すセルファ。
「アハッ☆ 妬いてる〜。うらやましーんでしょ〜」
「うっ、うらやましくなんかないわよッ!!」
 そう返しつつも、後ろの御凪 真人(みなぎ・まこと)を盗み見る。真人は今、玲の煉獄斬を上乗せしたなぎ払いから全員を守護するべく、ブリザードをぶつけていた。
 氷雪と火炎が激突した場所で発生した白い蒸気が通路に充満する。
 互いの視界を奪うその白いカーテンに飛び込んだのはトーマ・サイオン(とーま・さいおん)。一気に玲との距離を詰め、手にしたアサシンソードで斬りつけた。
「ううっ!!」
 裂かれた二の腕を押さえる玲の後ろ、着地したトーマは振り向きざま八方手裏剣を投げつける。それがブレイドガードで弾かれている間に間合いへ飛び込み、ブラインドナイブスで死角から斬りつけた。
「こんなことをして、オイラ、怒ってるんだからね! ねーちゃんが女だからって容赦したりしないよ!!」
 ここにたどり着くまでに見た光景を思い出し、トーマはぎりと奥歯を噛み締めた。
 点々と続いていた、切り裂かれた騎士たち。ほんのわずかでも息ある者は名も無き 白き詩篇(なもなき・しろきしへん)によるリカバリや治療など回復魔法で命をとりとめることができたが、殺され、魂を抜かれた者はもはや、白でもどうすることもできなかった。
「さっきからの聞いてると、ねーちゃんにも、もしかしたら何か事情ってヤツがあるかもしんない。けどね、どんな事情があったって、越えちゃいけない一線っていうのがあるんだよ!」
 それが人とけだものの境なんだ!
「そうです。けだものに堕ちた者は、けだものとして狩るのみ」
 耳にするだけで凍りつきそうな冷気をまとった言葉が真人の口から発せられた。
 彼もまた、思い出しているのだろう。冷ややかな怒りが髪の先まで彼を包み込んでいる。それは、セルファやトーマのように熱く派手に外へ現れない分、向けられた者を畏怖で圧迫する。
 今また、玲は無意識にあとずさっていた。
「うおー。にいちゃんオッカネエ」
 くわばらくわばら。
「トーマ、避けなさい」
 禁じられた言葉の詠唱により底上げされた凍てつく炎が放たれる。それは玲をまるで紙人形か何かのように突きあたりの壁ごと奥の部屋へ吹き飛ばした。
 結局のところ、玲は暴走して力押しをしているだけだった。ギーグたちの補助もなく、真人やトーマの連携攻撃にかなうはずがない。
「――チッ。クソが。あのばか、この程度の役にも立ちゃしねェ」
 床に血を流して倒れている玲を見て、ギーグは苦々しく吐き捨てる。
「引き時か。おい、リペア――」
 振り向いた先。
「アハッ☆ 妬いてる〜、妬いてるんだぁ〜。自分ができないからって〜」
「ぜんっぜん! そんなんじゃないってば!!」
 剣を振り回すセルファをリペアはからかいまくっていた。
「……くっ! このっ、ちょこまかと!!」
 セルファとて、ただ剣を振り回しているわけではない。きっちりチェインスマイトを繰り出したりして相手を仕留めようとしているのだが、リペアの方も余裕綽々、スウェーで回避しているのだ。しかも処々にからかいの言葉やしぐさを混じえていたりするから、どうしてもおちょくっているような、コミカルな動きになってしまう。
「おい、リペア。遊んでねーで、そろそろ行くぞ」
「はーいっ♪」
 その言葉で、唐突にリペアは攻撃に転じた。エンデュアを上乗せしたソニックブレードを近距離からセルファに叩き込む。驚き、距離をとろうとした隙をついて、リペアとギーグは横の通路に消えた。
「あっ、待て!!」
 すぐさま追おうとしたセルファの右足に、奈落の鉄鎖が巻きついた。バランスを崩し、転んでしまう。
「……んもお!」
「いいからセルファ、こっちを手伝うのじゃ」
 白が一生懸命、小さな体で騎士たちの体を比較的安全な角の向こう側へ引っ張り込もうとしていた。
「え? どうして? ここで治療してもいいじゃない」
「ここはまた戦場になる。いいから手伝え」
 セルファに運ばせ、白はけががひどい順に歴戦の回復術で応急手当をしていく。
「にーちゃん、あいつらねーちゃん置いてっちゃった」
 ひょい、と崩れた壁から室内を覗き込む。玲はまだ気を失っているのか、さっきまでと変わらずうつ伏せで瓦礫片に半分埋もれていた。
「ひでーな、パートナーなのに。――にーちゃん?」
 返事が返らないことに振り向いた先。真人は横の通路を凝視していた。
「トーマ、かまえなさい。来ますよ」
 こちらの通路が本路で、先までいた側路と違って広く、天井も高い。電燈の消えた暗がりに向かい、真人は召喚獣:フェニックスを放つ。炎に照らし出されたのは、こちらへ加速ブースターで突っ込んでくる鋼鉄の機晶姫バルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)の姿だった。
「うわっ!!」
 トーマは目をむいて驚き、あわてて歴戦の防御術と千里走りの術を使って突進からの疾風突きを回避する。
「ニャロッ!!」
 天井に着地すると同時に八方手裏剣を投げたが、すべて鎧ではじかれた。お返しとばかりに神速で突き込まれた龍騎士のコピスには、ギリギリ空蝉の術が間に合った。
「わわっ、わわわわっ」
 逃げるトーマを先の先で追い、疾風突きを叩き込んでいくバルトを補助するように鉄のフラワシが襲う。
「わあっ! にーちゃん……っ!!」
 目前に迫った巨大な機晶姫の突き出すコピスに、ぎゅっと目をつぶる。
 トーマを救ったのは、割り入ったセルファのバーストダッシュからのランスバレストだった。
「あんたの相手は私よ!」 
 同時に真人は術師である東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)に猛攻をかける。
「――はあっ!!」
 禁じられた言葉を用いての凍てつく炎、ブリザード、そして召喚獣:サンダーバード……間断なく、標的を雄軒だけに絞って撃ち込む。シーアルジストである真人の攻撃は、ドゥムカ・ウェムカ(どぅむか・うぇむか)の防御に特化したスキルをもってしても完全に防ぎきることはできなかった。
 後方へ吹き飛ばされた雄軒は、呼び戻したフラワシの粘着の力で壁に激突することを防ぐ。
「城が陥落することは、国が陥落することと同じ。やはり城を守るだけのことはありますね」
 どこか感心したような口調でつぶやく。
「ダンナ、あいつら相手にいつまでも受けに回ってたら不利だぜ」
「そうですね」
 雄軒は頷き、フォースフィールドを展開した。その上で鉄のフラワシを向かわせようとする。
 しかし相手がフラワシ使いであることを知った真人が、それを許すはずがなかった。
「させません!」
 動きを読み、矢継ぎ早に連続魔法による攻勢をかける。フラワシを敵に使う余裕などないように。
 もっとも、こんな猛攻が長くはもたないことはだれの目にもあきらかだった。雄軒もそれと知り、真人のSPと精神力が途切れたときが勝負だと、エンデュアで防御をさらに強固なものとする。
「一気にたたみかけます。白、援護を!」
「無論じゃ!」
 守護の要であるドゥムカを近寄らせてはならない。
 やはり禁じられた言葉で強化された我は射す光の閃刃が次々と飛んでドゥムカを壁に押しやり、そこに釘づけとする。
 防御の壁を築くのも魔法なら、それを突き崩そうとするのも魔法。魔法力の嵐が通路中に吹き荒れ、ぶつかり合う。
 そんな中、セルファとトーマはバルトを相手に剣と剣で戦っていた。
 鉄の巨体でありながら神速を用い、効果的に加速ブースターを使って高速からの疾風突きを放つバルト。トーマは超感覚も発動させ、スキルをフル活用してその動きになんとかついていく。しかし相手をひっかき回しきるほどの余裕はなく、バルト自身、そのようなものをそれと見抜けないほど戦闘経験は浅くない。
 着実にバルトのコピスはトーマをとらえ、その体に傷を負わせた。
「トーマ、下がって!」
 今またトーマを狙ったコピスを、龍鱗の盾で強引に横から押し切って、セルファが叫ぶ。
「でもねぇちゃん!」
「はあっ!!」
 側面からチェインスマイトをかける。だがこちらはフェイク。逃げたところへレガースでの膝蹴りを入れる。狙いはコピスを持つ手だ。腕が浮いたところへヴァルキリーの脚刀で装甲の継ぎ目を狙った。
 彼女の攻撃に、バルトは意外な動きを見せた。
 膝蹴りを受ける前に、自らコピスを手放したのだ。
「えっ!?」
 ヴァルキリーの脚刀をかわし、空いた手でセルファの足を掴む。そしてそのまま振り回して遠心力とともに柱に投げつけた。
「きゃああああっ!!」
「ねぇちゃーーんっ!!」
 2人の悲鳴に真人の注意がそれた。
 セルファはオートガードを発動させている。吐蕃の鎧でも覆っている。たとえ柱に叩きつけられようとも、カバーはできるはずだった。だがまさに今彼女が柱に激突しようとしているのを見て、そんな理性は吹き飛んだ。
「セルファ!!」
 氷雪比翼でセルファと柱の間に無理やり割り入る。セルファのウエストに手を回した瞬間、真人は柱を砕いて背後の壁に激突した。
「真人! セルファ!」
 白が蒼白し、悲鳴のように名を呼ぶ。
 雄軒の目がきらりと光った。
「いきなさい」
 鉄のフラワシがその刃で周囲の柱や壁を斬りつける。崩れ落ちる柱と壁から生じた煙幕にまぎれ、彼らはこの場から退いていった。
「真人、真人! しっかりして!! ……やだぁ!!」
「……大丈夫、です……。それより揺さぶらないでください、頭がくらくらしてるんですから……」
「まったくじゃ。頭を打った者を揺すってはならん」
 真人の胸元を掴んだセルファの手をはずさせ、白が治療を始める。気丈さを装っているが、白もまた、まだ目にしたショックが抜け切れておらず、その手が震えていた。
「……にぃちゃん、オイラがかたきとってきてやる! 待ってて!!」
「待ちなさい、トーマ」
 千里走りの術で追いかけようとしたトーマを呼び止める。
「彼らより、外の魔族です。もうほとんど、中の人たちは脱出が終わっています。俺たちは、魔族の撃退に、回りましょう。――どうやらバルバトス軍がきたようです」
 真人の言葉を裏付けるように、爆発音がして居城が揺れた。


*          *          *


 はたして居城上空には、バルバトス軍の飛行型魔族の部隊が集結し始めていた。
 その数、軽く百を超える。
 迎え撃つはジェットドラゴンに乗った夏侯 淵(かこう・えん)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)、そして自翼で飛ぶカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)である。
 数の差は圧倒的だった。彼らがどれほどの腕前であろうと、1人に対し数十でかかられれば、個別撃破は時間の問題に思えた。
 しかしバルバトス軍の魔族には軍として決定的に欠けているものがあった。
 統率――。
 それがなければ、軍は軍として成り立たない。どれほど個に力があろうとも、群として戦術を用いて動けないようであればそれはただの烏合の衆、ろくに訓練もできていない新兵の集まりにも等しい。
 であるならば、教導団として日々訓練を積んできた彼らにかなうはずがなかった。
 空に仁王立ちし、己を遠巻きにしている魔族をジロリとにらむカルキノス。全身には、淵のかけたゴッドスピードの輝きが流動している。
「さあ俺に焼かれたいのはどいつだ!! きさまか!! それともきさまか!!」
 ドラゴニュートの猛々しい咆哮とともに、巨大な天の炎が次々と落ちた。
 叡智の聖霊によって強化されたそれは、直撃した魔族だけでなくその周辺の魔族も一瞬で蒸発させる。
 彼はここに来る前から腹を立てていた。迎賓館で講和会談が開かれている間、彼は外部から部屋の警備をしていたのだが、隙をつかれ、敵によってあっさり石化させられてしまったのだ。
 接近に全く気付けなかったことも腹立たしいが、一番腹立たしいのは石化をかけたヤツに報復ができていないということだった。
 それは仕方ない。物事には優先順位というものがある。自分の復讐よりまずは城の防衛だ。
 だが、だからといって腹の虫がおさまるわけではない。
 彼は今、視界に入る魔族という魔族、すべてあのマッシュとかいう小僧に見立てて攻撃していた。
 ひとはそれをやつあたりと言うのだが。
「ま、防衛の役に立っておるのだからよいか」
 少し離れた所でレーザーナギナタをふるいながら、淵はそう評した。
 腹立ちにあかせ、鬱憤を晴らすように強化版天の炎を落としているように見えて、その実そこは敵を効果的に倒す上で最も効率のいいファイアーポイントだ。文句のつけようがない。
「ならば俺も負けてはおれぬな」
 魔族の放ってくる魔弾をアクロバティックな飛行でかわしつつ、淵はジェットドラゴンを上昇させた。
「はッ!」
 気合いとともにその背から跳躍し、彼を目で追っていた魔族たちに向け、龍飛翔突をかける。しかもただの龍飛翔突ではない。彼と交錯した魔族はすべて身をひきつらせ、落下していった。エアリアルレイヴだ。
「おー。やるじゃねーか」
 ジェットドラゴンの背に再び降り立った淵を見て、カルキノスが一応感心らしき声を発する。
「しかし俺の域にはまだまだだな!!」
 言うなり、火炎の滝さながら天の炎を連続で叩き込んだ。一面、炎にまかれた魔族が、まるでイカロスのように墜落していく。
 その光景を見渡して。
「どうでもいいが、俺は焼くなよ!」
 淵は面前の魔族の一群に突撃をかけた。



「とにかく動き続けろ」
 とダリルは指示した。
「囲まれるな。全個体撃破は考えなくていい。撃ち漏らしを気にしていたらそちらに意識をとられて自滅する!」
 それを実践するように縦横無尽にジェットドラゴンを操り、魔道銃を用いて朱の飛沫を連射する。射出された魔力の弾丸は的確に魔族を貫いたあと、燃やした。翼でも肩でもいい、とにかく命中すれば炎が魔族を討つ。
「侵入した魔族は……中の者に任せるしかない」
 3人は善戦していた。
 だがそれでも――。
 倒しても倒しても、飛来する敵の数は増えるばかりで、到底3人の手に負えるものではなかった。
「うおおおおーーっ!!」
 SPタブレットも使い果たしたカルキノスはアウィケンナの宝笏での打撃戦に持ち込んでいる。怪力の籠手による殴打。しかし魔弾は容赦なく彼の体をえぐり、傷つけていた。
 淵もまた、油断なく周囲に目を配りながらも肩で息をしている。
「……くそッ。手が足りねぇ……」
 今また彼の隙をつくように背後を下降していった魔族を視界の隅でとらえ、カルキノスはうめく。
 夜空を、新たな白炎が走ったのはそのときだった。
「!」
 地上より上昇してくる、若々しい白炎。それは鳥の形をしていた。
 パチパチと火花を放ちながら、召喚獣:サンダーバードが地上十数メートルまで近づいた魔族に体当たりを仕掛けてゆく。
「手伝います!」
 中庭に出た真人が、下から叫んだ。
「セルファ、トーマ、白は、降りた魔族の対処をお願いします」
「うん、分かった。あの首から下げてるヤツ、切ればいいんだろ!」
 八方手裏剣を手に、さっそく着地した魔族に向かう。
「真人も頑張って!」
「用心するのじゃぞ!」
 セルファ、白もまた、自分の攻撃方法に最適と思われる位置をとる。
 防御の網の目をくぐり抜けてきた魔族が、まるで雪のようにひらひらと音もなく着地を果たす。
「ここは絶対に通さないわよ!」
 魔族との戦いは始まったばかり。
 城への入り口に立ち、セルファは剣をかまえた。