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学園祭に火をつけろ!

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学園祭に火をつけろ!
学園祭に火をつけろ! 学園祭に火をつけろ!

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     ◆

 時刻は朝の九時――。遂に空大の文化祭が開始され、ぽつぽつと人がやって来る。近隣に住んでいる人々や、各学校で空大に進学しようと考えている生徒たち。はたまた現在空大に在籍している生徒の保護者や関係者など、近くで万博が開催されてはいるが、決して客足は少なくない。
その中、嫌に目立つ集団が学校の校門前に集っていた。
 何とも奇抜な出で立ちに、頭には様々な色のモヒカン。物騒な物を持っている彼らはパラ実の生徒である。彼らの数はどんどん増えていき、そして何かを待っている様子である。
その中の一人の生徒が、大声で何かを叫び始めた。
「おいてめぇらぁ! 獲物はもったかぁ!」
「「うぉぉっ!」」
 まるでこれから戦争にでも向かう兵士が如く、彼らはありったけの声で叫ぶように返事を返す。
「相手が大学生だろうが、構う事ぁあるかぁ!」
「カツアゲ祭りだぁ!」
「火炎瓶は準備できたぜぇ!」
「行くぞ野郎共ぉ!」
 周囲を行き交う人々が困惑しながら、足早に校舎へと消えていく。どころか玄関前で踵を返す人までいる始末だ。当然、そんな物騒な集団がいる所へ喜び勇んで向かう人などいるはずもなく、多くの場合はその場から離れていく人がまず一般的だろう。と、その集団へと向かっていく女子生徒が一人――。
「ちょっとあんたたち――」
「んぁ!? なんだぁ? 俺たちに何か文句でもあんのかっ…………ってぇ!? アネさんっ!?」
 『アネさん』。そう呼ばれた彼女は伏見 明子(ふしみ・めいこ)。何ともおとなしそうな、制服姿の彼女は集団の中心に向かって、さも何もないと言ったすずやかな面持ちのままに歩いて行く。集団のちょうど真ん中に到着した彼女は、途端仁王立ちになって声をあげた。
「全員その場に獲物を置きなっ! ご近所さんや他の来賓の方々に迷惑だろうがっ!」
 彼女の言葉に、思わずモヒカン集団が言葉を失う。
「で、でもアネさん……それじゃ俺たち………」
「うっさいわねぇ。これで出禁にでもなったらどうすんのよっ! あんたらだってこの学校に進学しようと考えてんでしょうが」
「うぅ……だって」
「漢の癖に四の五の言うんじゃないよ! 駄目ったら駄目なんだ。今日はカツアゲもだんじり祭も禁止!  暴力行為、その他器物破損等の迷惑行為を全面禁止! 良いわね?」
 明子の言葉に、彼らは渋々手にする物騒な物を地面に置く。
「っとに。そんなもの持ってきてどうすんのよ……此処に置いとくわけにもいかないし。弱ったなぁ…」
 物騒な集団が持っていた武器やら凶器やらをどうしようか悩んでいた彼女は、しかし彼らの不思議そうな表情に気付き、尋ねてみる。
「どうしたの? そんな締まりのない顔をして」
「いやぁ、姉御……」
「カツアゲも駄目、喧嘩も駄目だったら、俺たち、何すりゃあ良いんだかわかんなくてよぉ」
 あら、そんな事。とばかりに、彼女は素っ頓驚な顔のままに答えた。
「楽しめば良いじゃない。文化祭を。純粋にさ」
「……するってぇと」
 パラ実生の一人が、恐る恐る声をあげた。
「その……ヨーヨー掬い、とか………やって良いのか?」
「(その顔でそれ言うか………?)う、うん。良いと思うけどね」
「やったぁ!」
 モヒカン頭が一人。なんともごつごつした、厳つい面持ちの男は、明子の言葉を聞くや頬を僅かに赤らめながらに思わず喜びの言葉をあげた。
するとその近くにいたモヒカン頭は、「ならば自分も」と、声をかける。
「じゃ、じゃあよ………わたあめとかも、食べて良いのか?」
「(わたあめ……!)食べれば?」
「ホントにっ!?」
「メイド喫茶とか行っても……?」
 次から次へと、恥じらいながら質問し始めるモヒカンに、遂に明子も堪らなくなったらしい。「だぁっ! もうあんたらは全く!」等と声を荒げた。
「良い歳していちいち聞くんじゃない! 好きな行って楽しみなさいよ!」
 彼女の言葉を聞いたモヒカン……否、パラ実生たちは喜びの雄叫びをあげながらに校舎へと一目散に走り去っていく。
「ひゃほーいっ!」
「待ってろよ、わたあめっ! ゴルァ!」
「メイド喫茶行ってカワユイメイドちゃんとじゃんけんでタイマンはんぞぉ!」
「大学生の素敵なお姉様たちとウフフキャッキャすんぞコノヤロウ!」
「ティセラちゃーん! 待っててねー!」
「くれぐれも迷惑掛けんじゃないわよぉ! ………はぁ。っとに、あんなんで大丈夫かしら………」
 がっくりと肩を落とす明子。到着してから僅か数分しか経っていないにも関わらず、彼女の顔には疲れの色が見え隠れしていた。と、疲れきった明子に向かってかかる声。
「お、明子じゃねぇか」
「あぁ、王さん。お久し振りですね」
 声の主は{SNM9999021#王 大鋸}。声を掛けられた明子も、別段驚く様子もなく返事を返した。彼は手に今回の文化祭のパンフレットを持っていて、
彼女にもそれを差し出した。
「一人か?」
「だったら楽だけどね…」
 彼女の答えで言わんとしている事が分かり、「あぁ」とだけ相槌を打つ大鋸。
「何にせよ、どこの大学でも一緒だとは思うが入り組んでっからな、精々迷子だけは御免だぜ」
「ご心配どうも。で? 先輩はこんなとこで何を? まさか『これ』配ってるだけ、ってわけでもないでしょう?」
「知り合いに案内頼まれたからよ、待ち合わせだ」
「へぇ、じゃあ挨拶も済んだし、私は此処で失礼しますよ」
 何処と無く含みを持った言い方で、明子はニコニコしながらその場を去ることにする。足を進める彼女にすれば、後ろの方で何やら宣うている男の言葉に興味はないらしい。故に彼女は、誰に聞こえるでもなく、穏やかな笑みを浮かべたままに呟くのだ。
「私だって、そこまで野暮ったい事、しませんよ。先輩」
 彼女は宛もなく歩みを進めながら、時に鬱陶しいと思う勧誘を無視しながら、今しがた大鋸から渡されたパンフレットに目を落としている。
「さて、来たは良いけど何処に行こうか。まずはあいつらが行きそうな場所を回って、迷惑かけてないか確認するでしょ。ってことはまず――」

「んだと、なめてんじゃねぇぞこら!」

 考えている矢先に聞こえる声。聞き覚えのある声。故に明子はため息をつき、頭を抱える。
「早速かい。……何やってんだか」
 それは彼女が文化祭に連れてきたうちの一人。パラ実生の青年の声。明子は慌てて声のする方へと向かっていく。
校舎の角を曲がったところ、モヒカン頭が誰とも知らない青年の胸ぐらを掴んでいた。一層ため息を着いた彼女は、しかし見て見ぬふりも出来ずにその現場へと向かっていく。お誂え向きに周囲に人影はなく、自分一人でも事態の収集は付きそうだ。
「あ、あのぉ……」
 まずは謝罪。相手に詫びようと明子が声をかけるが、当事者二人にその声は聞こえていない。
「何をヘラヘラしてんだよてめぇは!」
「そんなに怒らないでよ。怒るような事でもないでしょうに」
「ぶつかったら謝んのが普通だろうがよ」
「僕は悪くないよ。何で謝らなきゃならいのさ」
 あしもとに落ちているわたあめ。二人の会話。どうやらそれだけで彼女が事態を把握するのには充分すぎたらしい。故に再び声を掛けようとした瞬間。
「これだから、育ちの悪いやつは――」
 モヒカン頭が胸ぐらを掴んでいる青年は、そんな事を呟きながら後ろ手に隠していた何かを自らの真横に持ってくる。何とも不気味な光を放つそれは、使えば簡単に生き物の息の根を止める物。即ち――刃物。
「ちょ、ただの喧嘩にそんなもの!?」
 慌ててその手を払おうと前進する明子ではあるが、既にその狂気は動きを見せている。二人と彼女との距離は十メートル弱。人間の足では間に合う筈もない。パラ実生の彼は、自分の腕が死角となっている為に、その存在にすら気付いていない始末である。
嫌な汗が頬を伝いながらも距離を詰めていた明子はしかし、寸前のところでその勢いを殺した。

「おんやまぁ、そこに出店はありませんけどねぇ」

 突然の声の後、二人の近くにそれは落下し、胸ぐらを捕まれている青年の片腕を蹴りあげる。
「っ!?」
「てめぇ、凶器持ってやがったのか!」
「どうどう、お二人とも落ち着きましょうよ」
 ニヤニヤと、他人の神経を逆撫でるような笑みを浮かべ、仲裁するのはウォウル。
「パラ実生のお兄さん。ようこそいらっしゃいました。すみませんねぇ、こちらとしてもしっかりとこう言う方は追い返している筈なんですがねぇ」
「お、おう……」
「で、そちらのお兄さん。今日は文化祭なんですよ。わかります? 彼は丸腰です。当然ですよねぇ、だって、お祭りを楽しみに来ているんですから」
「…………」
 思わず足を止めたまま、明子はただただ様子を見ているだけだ。何より彼女が唖然としているのは、今仲裁に入っている男は、背中に一人、女性を背負っている。にも関わらず、何処からともなく現れてナイフを持った腕のみを蹴りあげた、その事に対しての驚き。
「さぁ、こっちに来てくださいね。少しでも変な動きを見せたら、そこにいるお兄さんとお姉さんにお仕置きしてもらいますからねぇ」
 呆然と立っているモヒカン頭の彼と明子の方を一瞬だけ見て、彼は青年の背中を軽く蹴り飛ばし、二人から離れていく。
「あぁ、そうだ。またわたあめ、貰ってくると良いですよ。お店の人には僕の方から言っておきますから。それでは、今日はごゆっくり――」
 言い残し、ウォウルはその場を後にした。
「………ほらね、物騒な物は持っちゃいけないって、わかったでしょ?」
「……アネさん、大学生ってこえぇっす……」
「やばっ! こんなとこで油売ってる暇ないじゃない! 残りの奴ら見て回らないと危ないわ。色んな意味で」
「そうっすね! 俺も早く新しいわたあめ貰って来なきゃ!」
「……………………」
 何とも緊張感のないモヒカン頭に呆れつつ、明子はその場を後にした。