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リアクション
●第3章 空から、海から
「ブラッドレイ海賊団。たしか新興の海賊団だったかしら? その3番隊ねえ……」
話を聞きつけた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は蹂躙飛空艇を駆り、ブラッドレイ海賊団の船へと接近していく。
大砲の有効射角より外側になるところギリギリまで近付くと飛空艇をホバリングさせる。敢えて斬り込まないのはそうすることで己に被害が出るのを防ぐため。
祥子は飛空艇に乗ったまま、巨大で、凶悪な剣、梟雄剣ヴァルザドーンを構えるとブラッドレイ海賊団の船の1つを標的にし、船体へと狙いを定めた。
遊覧船へと向いている船腹を狙って、正面を向いたまま、レーザーを発射させる。横を向かないのは、反動で落水しないためだ。
レーザーは吸い込まれるように海賊船へと向かい、船腹を穿つ。けれども余程頑丈に造られているのか、一撃で穴が開くことはないようだ。
「簡単に開くとは思っていないけれど、これは骨が折れそうね」
遊覧船に反撃を向けられないよう、祥子は二撃、三撃とレーザーを放っていく。
初めに穿ったところに向かって攻撃を重ねることで、穴が開き、浸水していくけれど、それだけではまだ沈むことはない。
更に祥子はレーザーを放ち、沈み始めるまで、穴を広げた。
(海軍はヴァイシャリーと百合園だけではないわ。教導団は陸軍だけの組織ではないと言う事よ)
そう思いながら、パートナーのシルヴィア・セレーネ・マキャヴェリ(しるう゛ぃあせれーね・まきゃう゛ぇり)が変身したシャチの背に跨り、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)はブラッドレイ海賊団の船を目指して進む。
(所属校は違うけど私達も海軍――百合園とヴァイシャリーの海軍が動かないと言うのなら此方が動いて彼女達ヴァイシャリー海軍を助けなければならないわね。私達は同じシーマンシップを標榜する海軍軍人なのだから)
教導団にも海軍があることを示しておきたいのは確かだが、かといって教導団と百合園とで派閥を作ろうなどとは思っていない。
逆に、海軍の軍人同士として、強調し合いたいのだ。
2人が海中から向かっている一方で、ローザマリアのパートナーの1人であるフランシス・ドレーク(ふらんしす・どれーく)は、もう1人のパートナー、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)の操縦する小型飛空艇ヴォルケーノの下部にぶら下がりながら、空から海賊船へと向かっていた。
海賊船が近付いてくると、牽制も兼ねて、標準装備のミサイルを放つ。
「ヒーハー! ドレーク船長のお通りだぁ! 金品財宝を寄越しやがれ!」
フランシスは甲板へと飛び降りると、羽を模した柄が特徴の白い剣を続けざまに繰り出して、集まってきた海賊たちへと斬りかかりながら、彼らの注意を引き付けた。
「ドレーク? 誰だったっけ?」
「俺様の名前を知らないたぁ、お前さんら海賊としちゃ三下かモグリだな! 覚えときやがれ! このドレークは太陽すらも叩き落として通る天下の大海賊よ!」
知らないと言われてフランシスは名乗り返す。その間にも彼の周りには、捕まえようとする海賊たちが集まったため、手近な梯子に手をかけて、マストを登り始めた。
必然と彼を追うことが出来るのは1人ずつになる。
グロリアーナもミサイルを放って、海賊たちを掃討し、開けた場所へと飛空艇を降ろした。
「ローザ、浮上するよ」
海賊船の甲板が騒ぎ出した頃、声を掛けてきたシルヴィアが、舳先の辺りに向かって浮上していく。
「ありがとう、セレン」
錨鎖へと手をかけながら、礼を告げると、ローザマリアは特殊なフィルターを貼った布を纏い視覚的な感知をし辛くさせながら、鎖をよじ登る。
そして、適当なところから船内へと入り込むと、甲板に下りたパートナーたちと合流すべく、ダッシュローラーを用いて素早く船内を移動し始めた。
ローザマリアを送り出した後、シルヴィアは、彼女から受け取っていた対イコン用爆弾弓から取り外した爆弾を船底の竜骨部分に設置していく。
撃沈させるのは最後の手段だ。
「其方ら、私掠船とは言うが――それは一体、誰の許可を得て掠奪をしておるのだ?」
甲板に降り立ったグロリアーナが両の手に陽の剣ブリタニアと陰の剣タイタニアを構えながら、海賊へと問いかける。
「私掠船だぁ? 俺らはエヴァ船長の下に集まった誇り高き海賊だ! 誰が、国家の狗になんかなるか!」
対峙した海賊は、怪訝そうに眉を寄せながら応えると、彼女に向かって、長剣を振るった。
「私掠船ではないと言うのか……それならば、其方らは単なる海賊に過ぎぬ。成敗!」
舞踏のようにその一撃を回避したグロリアーナは、ブリタニアを構えた手を急所を狙って突き出し、大きな痛みを与えた。
不意に現れたローザマリアが、海賊が手にした長剣を光条兵器で斬り、無力化させる。
「ま、あんまり細かい事は気にせずいきましょっかね」
蹂躙飛空艇を駆り、ブラッドレイ海賊団の船に向かうのは伏見 明子(ふしみ・めいこ)だ。
近付いてくる飛空艇に警戒してか、デッキに海賊たちが集まって彼女のことを見上げている。
そんな彼らに向かって、明子は飛空艇ごと突込み、手にした梟雄剣ヴァルザドーンを振り回した。
吹き飛ぶ海賊たちに向かって、歴戦の戦士すら畏怖するという闘気を纏った明子は口を開く。
「はろー海賊サン♪ 今から商売道具沈めるから、命が惜しかったらとっとと逃げ出してね?」
告げて、明子は手近なマストに向かって、ヴァルザドーンを突き刺し、深くめり込ませる。そして、そのままレーザーを放った。
「マストがっ!?」
驚く海賊たちを他所に、明子が更にレーザーを放つと、マストを穿った傷が広がっていき、ミシミシと軋む音がし始める。
次の瞬間、更に大きな音を立てて、折れ倒れてきた。
「んっ!」
マストを掴んだ明子は勢い良く振り回して、集まる海賊たちをなぎ倒す。
そして、マストを甲板へと突き刺すと、蹂躙飛空艇に乗り込んで退避した。
氷華翔翼を用いて、空中戦の練習をするため、パートナーのナン・アルグラード(なん・あるぐらーど)と共に、シオン・グラード(しおん・ぐらーど)はパラミタ内海を訪れていた。
適当な場所を探して飛んでいると、視界の先に遊覧船と2艘の海賊船が見えてくる。
「旗の片方は見覚えが無いが、もう一方は黒髭か……」
様子を見ようとシオンは飛翔速度を緩める。
(シオンの奴、何を迷ってるんだか、この状況なら見覚えのない方が敵だと判断すりゃいいんだよ)
「ま、先に行くぞ、俺は!」
「……って、おいナン!?」
対するナンは、一言だけ告げると、飛び出した。
向かうは、黒髭ではなく、見覚えのない旗の海賊船だ。
彼の飛んでいく先をじっと見ていたシオンはやがて「ん?」と首を傾げる。
「黒髭側の乗員が見覚えのない海賊船の奴と戦っているみたいだな……」
見覚えのない海賊船は遊覧船へとボーディングして乗り込んでいるのに対して、黒髭海賊船からは遊覧船ではなく見覚えのない方へ乗り込んで行っているように見える。
ナンから遅れること数分。シオンは背中に発現させた氷の翼をはためかせ、見覚えのない方――ブラッドレイ海賊団の船へと向かった。
一方、先に船へと辿り着いていたナンはドン・ドラグーンの吐き出すブレスで着地点になる甲板の一部の敵を蹴散らして、悠々と船に乗り込んでいた。
「スリバチ修練場管理人、ナン・アルグラードだ。一般人襲うとは楽しそうだ。混ぜてくれよ。ただし……俺が斬るのはこの船の乗員だけどな」
「いきなりやってきて格好付けてんじゃねえ!」
名乗り上げたナンに、ブラッドレイの海賊が襲い掛かる。それを回避し、手にした高周波ブレードで斬り返していく。
上空へと辿り着いたシオンは、轟炎鎚を構える。甲板では2つの海賊団と遊覧船からの助っ人が入り乱れる中、ナンの戦う姿もあった。
彼を巻き込まない程度に、急降下していくと、轟炎鎚を振り回し、着地点を作る。
空から現れたシオンに、海賊たちは驚きつつもすぐさま周りを囲った。
「どうにもこの船の乗員が悪者に見えたんで、ぶっ飛ばしに来させてもらった」
告げて、シオンは氷の翼を広げ、轟炎鎚を構え直した。
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