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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

リアクション


リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)

限定ってわくわくするわよね。
期間限定、季節限定、会員限定とか。
私、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、私のファンの中のごくごく一部の人だけを対象にしたイベントを開こうと思うのです。
私、さっぱりした性格だから、正直に言うけど、すごく美人なの。
自信のあるなしでなく、これは単なる事実です。
目鼻立ちのはっきりしたモデル顔で、髪もきれいで、スタイルもいいの。
イヤな思いもずいぶんした。この容姿のおかげで、いいめにはあまり会ってない気がする、いまのところ。
同性の友達は多くないし、声をかけてくる異性は、まぁ、たくさんいますけど、彼らと仲良くする気がそもそも私の方にまるでないので、友達にも、知り合いにもなれないケースがほとんど。
なんか関係ない話になっちゃった気もするけど、そんな私ですが、蒼空歌劇団という団体に所属しておりまして、演劇をしていたりするのね。
だから、女優としての私のファンさんという人たちがいて、私は彼ら相手にたまにイベントを行ったりしているのです。
小さなお店を時間借りして、歌や朗読、一人芝居をするわけ。
私自身は自分の芸の修行になるし、ファンの人も喜んできてくれているようだから、定期的に開催してるの。
今回は私の趣味の関係もあって、そのイベントを利用しようかな、と。

「だから、刑務所帰りの人だけを対象にしたイベントを開けば、そういう人たちだけが集まってくれるわけでしょ。
そしたら、お客さんの中からコリィベルに収監された経験のある人を探して話をきけば、楽に情報が手に入るじゃない」

「おい。バカ女。いくらなんでも、ムショ帰り限定イベントはありえねぇだろ。
第一、 そんなのどうやって告知すんだよ。
広告をだすにしても、載せてもらえる媒体がかなり限られるだろうし、ネットで宣伝するにしても、おまえが望んでいるのとは、違う方向で話題を呼ぶと思うぞ
度重なる暴行事件と風紀紊乱罪で、おまえもついにゆりかご行きか」

「なによ。私はパニックを起こしたいわけじゃないの。
趣味の探偵活動の一環よ。少年探偵弓月くるとくんに協力するの。
そうね、だったら、はじめからこちらの手の内を明かして、特別移動刑務所兼少年院コリィベルを出所した人のみを対象にしたイベントをやればいいのよ」

「はぁー。
あのな、ようするに、おまえがストレートに、コリィベルへ慰問にいきゃすむ話じゃねぇのかのよ。
なんで、わざわざ、出所者と会いたがるんだ」

「中にいたら周囲の目も耳もあっていいたいことも言えないでしょ。
外でのイベント、しかも、私のファン同士の気のおけない集まりでなら、他では話せないコリィベルの秘密の話も思う存分、語れるはず。
私は、そこからくるとくんの調査に役立ちそうな情報を吟味して、あまねちゃんに」

「あらためて、つくづく思うけどよ。
あんたは、本当に、バカ女だな。
そもそも、数少ないあんたのファンの、さらに少数派のわざわざ金を払ってあんなマイナなイベントにくるような連中の中に、ゆりかごの経験者なんているのかよ。
コリィベルは実在するけど、半ば都市伝説化してるような刑務所だぜ。
よほどわけありなやつか、超のつく変人しか収監されねぇんだ。
おまえのイベントは、あの小さなライブハウスに、超満員でも、せいぜい二百人も集まりゃいいとこだろ。
確率的に考えてどうよ」

あまりにも失礼なアストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)の言い草に、私はパンチを放ったわ。
いくらパートナーでも、言ってはいけないことってあると思うの。
細身で小柄な少年の外見をしたアストライトは、顔の真ん中に拳がヒットして、派手にふっ飛んだわ。
でも、すぐに起き上った。
私が死なない程度に手加減してあげたおかげよ。

「痛ってぇな。
この大バカ女、いくらパートナーでもやっていいこと悪いことがあるんだぞ。
いい加減にしろよ」

「それはこっちのセリフよ。
私がせっかく考えたすごい作戦をアストライトがバカにするからじゃない」

「おー。そーかい、そーかい。そんなに言うなら、俺のとっておきの情報はおまえには必要ねぇってわけだな。
わかった。
忙しいところ、お時間をとらせて悪かったな。
あーあ、偶然だかなんだか知らねぇが、ちょうど、バカ女の役に立ちそうな話が俺んとこに転がりこんできたんだけどな。
聞く耳を持たねぇんじゃしかたねぇな。
うんじゃ、俺もちぃっと、用があるんで行くぜ。せいぜい、ファンの集い、がんばれよ」

私は、背中をむけ、片手をあげて去りかけたアストライトの耳をつかんで、斜め上に引っ張りあげたわ。

「て、テテテテッテ。
耳がとれるだろ。やめろ。バカ。凶暴女。
おい。ほんとにやめろ、耳たぶが切れる。うわ」

「中味は全然、素直じゃないクセに見た目だけは、金髪のかわいい坊やなんだから。
あんたなんか片耳ぐらいなくなった方が、中と外のバランスがとれてちょうどいいのよ。
ほら、どうすんの。
右耳は、いらないのかしら」

「ヤバ。マジでやべぇぞ。おい。コラ」

本当にもうじき耳たぶのつけねが裂けそうなところになって、アストライトは、ようやく私の目を見つめたの。
アイコンタクトはコミュニケーションの基本だと思います。
相手が真剣な時はよけいにね。

「悪かった。許してくれ。リカインさん。情報はお話します」

わかったようね。

「あんたに、さんづけで呼ばれたのは、ずいぶんひさしぶりの気がするわ。
さ、情報を教えてちょうだい」

アストライトは右の耳たぶを指でこすりながら、うらめしそうに私を眺めた。
切れてないんだから、すぐに痛みも消えるわよ。
まったく、もっと男らしくして欲しいわね。

「俺はジャスティシアだろ。
その筋の情報で、ゆりかごの新しいの囚人の話を聞いたんだ。
三度笠被ったみてえな奇妙な格好をした奴で、両手にオープンフィンガーグローブ、肩には釣り竿をのせてたらしい」

「つまり」

「ああ。
俺たちのパートナーのまたたび明日風の野郎が、どういうわけがゆりかごに入れられちまったみたいだ。
俺も、おまえも特に理由をつくらなくても、パートナーへの面会ってぇ名目で、ゆりかごへ行けるんじゃねぇのか。
イベントなんてしちメンドくせぇことをしなくっても、同じような境遇の連中に助言を求める内容で、ネットの掲示板にでも書き込めば、それなりに情報が集められるじゃねぇか。
パートナーがゆりかごに入れれちゃいました。どうしたらいいのでしょう。なんてふうにさ」

なるほど。

「それは使えそうね。
もっと早く教えなさいよ。
なによ、複雑そうな顔しちゃって、使えるものを使うのは正しいでしょ」