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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

リアクション


ノア・レイユェイ(のあ・れいゆぇい) 霧島 春美(きりしま・はるみ) 

「お前さん、愉快な質問をしてくれるねぇ。
囚人が牢屋からでたくなくなる時、牢屋ごとこの世から消えてしまいたくなる時、か。
そうだねぇ、自分の返事は、死刑囚として収監されていて、いまから何日何時間何分何秒後には、確実に刑が執行されるとわかっている時かねぇ。
このまま、牢屋からでずにすっといなくなってしまえれば、殺風景な独房で指折り数えて死刑を待つより楽かもしれないなんて、考えたりもしたような気がするね」
「そういう人の気持ちがわかるってことは、お姉さんは、ひょっとして死刑になった経験があるのかなー」
「想像に決まってるでしょ。ディオ。いまの言葉は失礼よ。あやまんなさい。
ノアさん、答えてくださってありがとうございます。
そうですよね。
死刑囚なら、そんなふうに考えるかもしれませんね。
コリィベルの囚人は、基本、無期懲役のはずですけど、ここって特殊な刑務所だし、ある意味、死刑宣告をされているのと同じと考えてもいいかも。
とすると、彼が自分の意志でここから消えた可能性もでてくるわね」
「さて、ね」
せっかく久しぶりに刑務所にきたってのに、探偵気取りのお嬢ちゃんと、角つきのウサギもどきのお子様が側にいてくれると、しっとりした雰囲気がブチ壊しだねぇ。まったくありがたいよ。
自分は、世にもめずらしい刑務所があると聞いたんで、避暑にでも使う別荘代わりにどうかと思って見学にきたんだけどねぇ、見学中に住人さんが消えちまって。
出し物としては、けっして気が利いているとはいえないねぇ。
季節外れの怪談のつもりかい。
ここに住んでる連中に聞きゃ、身の毛のよだつような絶叫恐怖譚なんていくらでも話してくる気がするけどねぇ。
お化けはでてこないかもしれないが、もっともっと怖いもんが一杯でてくる実話をさ。
「こんなところに異な気な人がおると思うたら、ノアとニクラス。おまんら、なんしょうるんね」
「なんだろうねぇ。
探偵か、道化か、自分はなにをしにここへ来たのやら
どちらにしろ、嫌だ嫌だ…随分とナメられたもんさね…。」
自分の側によってきたのは、源内。平賀源内(ひらが・げんない)。日本の江戸時代の発明家でいまは、自分のパートナーさ。
煙管をくわえた羽織袴のおじさんなんだけど、どこへ行っていたんだか、とりたてて、いま会いたいやつでもないねぇ。
「わしは演芸会で殺人事件にでくわしたんじゃけんのう」
「殺人事件!」
「ボクらがこうしている間に、事件は演芸会でも起こってるんだよっ!」
パートナーの自分とニクラス・エアデマトカ(にくらす・えあでまとか)は聞く気もないのに、探偵倶楽部の人たちが派手に驚いてあげたもんだから、源内、喜んじまってさぁ。お二人さんの方をむいて、身ぶり手ぶりをまじえて、事件の様子をしゃべるしゃべる、まるで大独演会さね。

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ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)

推理研のみんなと特別移動刑務所兼少年院にやってきたボク、ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)と春美は、人間消失の謎に遭遇したんだ。
鍵のかかった牢屋から、男の人が一人、消えちゃったんだよ。
ちっちゃい頃、ボクさ、電柱と壁の間とか、少しだけ隙間の開いた扉や、おしいれとかが別の世界へ通じているんじゃないかってびくびくしてたことがあったよ。
春美に教えたらね、「緑の扉や白い喫茶店はそう簡単には、みつからないわよ」って言われたんだ。
ボクは、そんなの探してないよ。よくわかんないけど、どっちも怖そうだよね。ん。白い喫茶店は、北海道のおみやげじゃなかったっけ。
「あのさ、ボクらがパラミタで出会う事件は、いつもなんでもありだし、だとしたら、今回の消えたおじさんは、ガス人間だったり、電波人間だったりしないのかな。
ボクは、推理研のみんなの役に立とうと思って、ミステリの研究のために、それっぽい番組は、いつもテレビでチェックしてるんだけど、どっちも昔の日本の映画にでてきたよ。
空想科学特撮映画は、実話を元にした物語かもしれないよね。
だったら、秘密の鍵を握るのは、TOHOで決まりだねッ!」
「しっ。ディオ。考えをまとめてるから、少し静かにしてて」
「おまん、あんがい、おぞいうさぎじゃのう」
キセルのお姉さんには無視され、春美にもにらまれて、着物のおじさんだけがボクの頭をなでてくれたんじゃ。
言ってる意味はよくわかないけどさ。
「どうして彼は消えてしまったんだろうねぇ。
自分らの前で彼が、消える意味はあったんだろうか」
「意味がないとすれば、彼は本来はいま消えるはずじゃなかったことになる」
「消えたトリック。
そんなものに興味ないよ。
源内が言うように、全自動で人を殺す仕掛けのある刑務所なら、囚人の一人、二人、手軽に消せる装置があってもおかしくないだろ」
「うん。囚人を電波人間にしちゃぇばいいんだよ」
今度は、春美もお姉さんも、おじさんも誰も反応してくれかった。
フン。お姉さん、子供ができたら煙草はやめた方がいいと思うよっ。
「隠し通路って線もあるかもしれないねぇ。
堂々と廊下を使ってないんだから、隠れた道を通るのも道理だと思うねぇ。
角うさぎ、おまえさんはずいぶんとおしゃべりだけど、一応、動物だろ。
アイツの消えた先が、香りでわからないかい。
自分がアイツに渡した煙草はね、ラタキア草をメインのフレーバーに使った手巻きでね。
アレは煙草葉を燻製にしたやつだから、独特の燻香が漂うんだよ。
ほら。まだ、ここらに残ってるこいつさ。
姿を消しても、香りは残る。アイツがくわえたままの煙草の香りは、どこへむかっているのかねぇ」
ボクは目を閉じてにおいを嗅いでみたけど、煙草の鼻の奥につんとくる香りは、ここにしかなかったんだ。
「えーっと、におい的には、あの人はどこにも行ってないんじゃないかな。
煙草のにおいはこの牢屋からしかしないよ。
あ。
もしかして、彼は、いまもここにいるんだけど、暗黒物質化して姿がみえなくなっちゃったんじゃ。
中を調べてみるね」
ピッキングで鍵を開けて、ボクは牢屋に入ったんだ。
「もしもしー。いますかぁー、いませんかぁー。
助けてあげるから、でておいでよ。おーい」
「危険な仕掛けがあるかもしれないのに、飛び込んだりして危ないでしょ」
ボクの後に、春美とお姉さんといじさん、坊主頭でサングラスの人も中にきた。
牢屋には寝台と仕切りのむこうの簡易トイレ以外、なんにもなかったよ。
タバコのにおいはしたけど、人の気配はしない。
「アイツが煙草を吸っていた時、煙のゆらぎ方をみて、微かな風の流れがあるような感じがしたんだが。
ここに隠し通路お入口みたいなもんは、ないのかねぇ」
「人間消失装置でも隠し扉でもえーがいに隠してあるけん。簡単にはみつけれんぞな」
お姉さんは、室内を悠然と眺めてて、おじさんは壁、床、天井、あちこちをさわったりして調べてる。
坊主サングラスは、出入り口の側に番人みたいに立ってるだけで動かないんだ。
さっきまでは、春美もうさ耳をだして、天眼鏡であちこちみてた。でも、いまは、春美は、お姉さんになにかお願いしてる。
「ノアさん。ライターを貸していただけますか」
「おまえさんも吸うのかい。未成年者の喫煙は感心しないねぇ」
お姉さんは、自分はずっと煙管をくわえてるのに、人には厳しいんだね。
あれっ。春美。いつから喫煙者になったの。
「ダメだ。春美。不良になっちゃうよ」
ボクは、春美が借りたライターを取り上げようとしたんだ。
「違うわよ。私はたどりついたのです」
「ううん。最初の一歩がかんじんなんだよ。人間、堕ちていくのは、あっという間なんだ」
「ディオ。あんた、なに言ってるの。
あり得べからずことを排除していって、残ったものがいかに奇抜であろうと、真実。
ホームズ大先生も、エラリーも言ってるわ。
ストーガーデンも、コリィベルも、そこにある辞書に、あり得ないという言葉が存在しない場所だけど、けどね、それでも、探偵はこたえをみつけなければならないのです。
問題です。
ここになんらかの装置、瞬間移動、タイムマシン、人間消去、隠し扉があると仮定して、作動させるのに必要なものはなんでしょう」
「燃料とか、あとは、スイッチかな」
みんな春美をみてるのに、誰もこたえないから、ボクが言ってみたよ。
「正解。
燃料よりもスイッチの方が解明しやすいと思うので、スイッチに的をしぼります。
装置を作動させるスイッチが存在するとして、なんなんでしょうね。
現在、装置は作動していないわけだから、スイッチはOFFになってる。
彼が消えた時にはONで、いまはOFFのもの。
消去法でいってみるわね。
いまもあるものは排除します。
タバコの煙、人の話し声、足音でもない。
匂いでも、音でもなく、あの時ここにあったものでイッチになるものってなにかしら。
前提条件として、もちろん、普段はここにないはずのものでなくてはならないわ。
状況をよく思い出してみると、候補は、二つね」
春美は、消えた人が、最後にボクらと話していた時に立っていたところへ歩いていって、格子の間から腕を外へのばしたんだ。手にはライターが握られてる。
「一つに絞ってもいいんじゃないかねぇ。
そいつに反応するセンサーは、意外と一般的さ。
実験が成功すると自分らは全員、消えちまうって趣向かい。
おもしろいじゃないか。
ニクラス。扉をしっかり閉めておくれ。できる限り同じ状況にしておかないと、いけないからねぇ」
お姉さんは楽しそう。
春美は黙って、ライターの火をつけたんだ。お姉さんが、タバコをくわえた男の人にそうしてあげたみたいにね。
炎があがって、あたりはほんのり明るくなった。
「タバコに火をつけたライターの炎の温度か光がスイッチと思ったの」
「答えは光です。
ようこそ、マジカル・ホームズさん。
PMRのシェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)です。
こちらのゆりかごには、あなたにとっても興味深い人物が来所しているようですよ」
ボクたちがいるのは、もう、暗い牢獄じゃなかった。照明のともった普通の倉庫みたいなところで、銀色の髪、赤い目をした男の子、PMRのシェイドさんが立ってたんだ。
「私たち、瞬間移動したの?」
「テレポーテーションでは、ありません。
コリィベルは一つではないのです。複数のゆりかごがパラミタ各地を闊歩していて、時にはこうしてそれぞれが接続している時に、部屋というかブロックを入れ替え、乗員、囚人、物資の交換等を行うようです。
今回のブロック交換は、いまのが最後になると思います。
現在、接続を解いている最中で、この艦はいまから、老朽化したあちらの艦を廃棄処分にるるために、不要な人員ごと、攻撃、破壊するようですからね。
私は、あちらに戻るつもりだったのですが、あなた方が移動してくるのがほんの少しだけ先でした」
「興味深い人物って」
「名前を口にしたくはありません。
パラミタに犯罪の歴史を創りあげようとしているかの人物です」
ボクらはみんな、あ然として、シェイドさんの話を聞いた。
東宝特撮映画でも、電波人間じゃなくて、海底軍艦か惑星大戦争だったなんて。
ボクらは轟天号に乗ってるんだ。
びっくりしすぎて、あいた口がふさがらないよ。
「光か。自分のアタリだったようだねぇ」
お姉さんがこっそりつぶやいたのをボクは、聞き逃さなかった。
「おめでとう。景品だよ」
「それはどうも、ありがたいねぇ」
ボクが差しだした四葉のクローバーをお姉さんは受け取って懐にしまったんだ。
今回の事件もこんがらってて、難しそうだけど、ボクらの未来に幸運を(はーと)だよね。