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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

リアクション



ロレッタ・グラフトン(ろれった・ぐらふとん)

世話のかかる彼氏の話というのはわりによく聞く話題なんだぞ。
二マタや三マタのキングギドラもそうだし、しょっちゅう仕事をかえるとか、家庭の事情が複雑すぎてわけがわからない、なんてのもよくあるパターンなんだぞ。
ロレッタのは、いきなりノリノリで女装して、あげく悪の魔術師に捕まって塔に監禁され、半裸で街を徘徊して警察のお世話になった後、あっちの趣味の神父の養子になりかけ、気がついたらマッシュルームがモヒカンになってたんだぞ。
徘徊した時は、犯罪者としてTVのニュースでも紹介されたんだぞ。
彼氏かどうかはおいといて、そいつがロレッタを好きだと言うから見守ってやっているのに、見ているだけでこっちの気分が悪くなるような人生を送っているんだぞ。
今回も、探偵の味方として調査にきたはずなのに、不良グループの一員になってラリっていたので、顔面に膝蹴りを入れて連れ戻してきたぞ。いまはいい気なものでいびきをかいて寝てるぞ。
起きたら、また、きっとすごいことをするんだぞ。
うーん。
このテの話のシメの決まり文句なんのだが、「別れるっていうか、縁を切った方がいいかなー」だぞ。
つい数メートル先のところでさっき殺人事件があったばかりなので、ここでこいつを殺しても、うまくやればロレッタのせいにならないかも、とも思うんだぞ。
けど、ちょっと考えてるだけで、そんなこと実際にはしないんだぞ。
ロレッタのまわりには、ちょうど誰もいないんだぞ。
幸せそうな寝顔なんだぞ。
起きて生きてる時より、こうして寝てる方がこいつは幸せそうなんだぞ。
ずっと寝てたほうがいいかも、なんだぞ。
ロレッタを好きなら、殺してもきっとうらまないよね、だぞ。
「な、なんだってぇ!?」
寝顔をじっと眺めてたら、誰かがPMRの決まり文句を叫んだので、とっさにあいつに首をしめそうになって、あわてて、手をひっこめたんだぞ。
声の主は、あ。
「おまえは、イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)なんだぞ。
ロレッタをびっくりさせイレブンは、これでもくらえなんだぞ」
PMRのメンバーなのに、コリィベルに収容されておかしくなってたイレブンがこっちへむかって歩いてきてたんだぞ。
イレブンのやつ、あさっての方をむきながら、決まり文句を連発して叫んでるんで、周囲の注目をひきまくりだぞ。
ロレッタは、殺人犯にされそうになった怒りをこめて、なぜか持ってたお豆腐をイレブンに投げつけたんだぞ。
べちゃ。

□□□□□

どこから飛んできた豆腐の角に頭をぶつけたおかげで、正気に返ったイレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)だ。
私は、為すべきをなさねばならない。
ここは大講堂。となれば、私のすることは一つだ。
私の姿をみつけ、こちらに駆け寄ってくるPMRの仲間たち、ミレイユたリネンを腕をのばして制して、私はステージに中央に立って、床にあるマイクを拾った。
指先で軽く叩いて生きているのをたしかめる。
感度良好のようだ。はじめるとするか。
「大講堂にいる諸君、真実の言葉を聞いてほしい。
話は聞かせてもらっていないが、説明しよう!
この大講堂で間もなく大量殺人が行われる!
それがコリィベルに隠された罠だったんだよ!」
「な…なんだってぇ!?」
タイミングは少し遅かったが、PMRのみんなからレスがきた。
そうだ。これが私の、PMRの使命なのだ。
我々は、隠された真実を暴きだす。
大音量で響いた私の声に耳を塞いでいる聴衆もいるようだ。
「目をそむけるなっ。いや、耳を塞いではいけない」
熱弁のあまり、頭を振ると、髪から豆腐のかけらっが飛び散った。
スピーカーから流れる子守唄が答えだったんだ。
コリィベルは少年院なので、私の坊やとはすなわち「受刑者と学生」。そして、甘い夢とは、受刑者たちが受けている洗脳のこと。子守に選ばれた「風と、太陽と鷲」はそのままの名前の者たちがいる。そう、医療チームだ。鷲もどこか上の方にいるはずだ。鳥だし。
この医療チームによって私たちは洗脳され、記憶を失い、現実から夢の世界に誘われ、人格を殺される!
そんな地獄絵図が母親の望みなのだ!」
会場のあちこちからまばらな拍手が起きてた。
「すげぇ、これが超推理か、はじめて聞いたぜ」
「わけわかんねぇけど、熱はかんじるな」
「11号のやつ、急にどうしちまったんだ。誰かあいつをひっこめろ。ヤバイぞ」
聴衆たちの声援が聞こえる。正義の険しい道を歩く私にとっては、励みになるな。
「そして、最初のターゲットはゆりかご。すなわちコリィベルの中心、この講堂にいる人間なんだ!
私が潜入中に得た情報によれば、講堂は完全密室になり、毒ガスを噴射する仕組みらしい!」
うぉぉぉぉ、だが、ぐぎゃぁぁぁ、だが、私の話の途中だというのに会場に悲鳴、怒号がこだまし、一部の連中が出入り口に殺到した。
「待て。自分の身さえよければそれでいいのか。
違うだろう。
みんな、いますぐ大講堂の人々を助けに行かなくては!
……ところで、私たちは、どこにいるんだ。
ここはどこだ」

□□□□□

PMRのミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)だよ。
イレブンさんはとにかくよくも悪くも、あいっ変わらずだよね。
誰の仕業なのかイレブンさんの話の途中から、出入口はすべて外側から封鎖され、ワタシたちは大講堂に閉じ込められてるんだ。こわい展開だよねー。
とりあえず、ワタシたちは超推理を信じて講堂内に仕掛けられた毒ガスを探したんだ。
「ミレイユさん。わたくしたち苦労人チームは、秘密の鍵をみつけてようでごじゃります」
「ハルは知らんが、俺は苦労人のつもりはない。鍵をみつけたのは事実だがな。
毒ガスと関係があるのかはわからん」
846プロ所属の落語家さんとアイドルさん、それぞれのマネージャーさんのハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)さんとレオン・カシミール(れおん・かしみーる)さんが、プラスチックのフダのついた鍵を持ってきてくれたよ。
普通の金属製の鍵なんだけど、フダに文字が書かれていたはずのところが削れてて、どこの鍵かわかんないや。
「鍵は客席の椅子の下に落ちていた。落としたのか、置いてあったのか」
「わっしは、ここを調べてる間に、フラワシらしき怪しい影が舞台裏にいたのをみたでごじゃりますよ。
フラワシを使ってよからぬことたくらんでるやからがおるでありんすかね」
「衿栖も未散もいまはここにはいないんだ。BB(ビックッブラザー)とどこかへ行ったようでな。まぁ、いない方が安心な気もするが」
「ねぇ、あのぉ。PMRのみんなはそれぞれ調査してるし、ロレッタは彼の側にいるし、シェイドは音信不通だしで、ワタシ、一人なんだぁ。お二人さんと一緒に、その鍵のはまる鍵穴を探したいんだけどいいかな」
「歓迎するでごじゃいますでありんす」
「ああ。危険な目にあうかもしれないしな、かまわないぜ」
ワタシとハルさんとレオンさんは、講堂中の鍵穴に鍵をさしてまわったんだ。
けっこういっぱいあって、ぴったりはまるのは、なかなかみつからなかったんだよねぇ。でも、三十五個めでついにみつけたよ。
壁に備え付け収納棚みたいに、壁の模様に混じって目立たないとこにこっそりあった鍵穴に鍵は、はまった。
「開けていいのか。迷うな」
「見なかったことにして、鍵を捨ててしまうでございますか。なら、とーくに投げつけねぇといけないでげす」
「冗談だ」
レオンさんの冗談と、ハルさんの後ろむきな受け答えは、どちらも真顔でこわかったよ。
「開けるからな。いいな」
「いいな。と聞かれても、なにが入っているのか知らないでごじゃいますです」
「もーどうでもいいから、開けないとメっなんだよ。先に進むために冒険するのも大事だって、シェイドも言ってた」
二人がやらないから、私が戸を開けたの。隙間から白い煙がもれてきて、
「わ。毒ガスだっ。どーしよう」
「心配はいらんよ。我のパイプの煙だ。
鍵がかかっていなかったので内側から閉めて隠れていたのだが、見つかってしまったようだな。
もっとも、もとはといえばそれもこれも、そなたの愚行のせいなのだよ」
「わかっているよ、全部、僕の責任だ。汐月はもちろん、マデリエネ、きみにもすまないと思っている」
「ふん、気にするほどのことでもないさ。
さぁ。表にでようか。カレヴィ、さっきの傷の応急手当ぐらいはできたのかな」
「かすり傷だよ。平気さ。汐月を探しに行かないと」
戸の中にいたのは、パイプをくわえたドラゴニュートさんと体の大きな金髪、顎鬚の優しそうなライオンみたいなおじさんだったんだ。中に座っていた二人は、立ち上がってでてきてワタシたちにあいさつしたの。
「我はマデリエネ・クリストフェルション(までりえね・くりすとふぇるしょん)。パートナーのこの大男が無実の罪でここに捕まっておったので、解放しにきて目的をはたしたのだよ。
しかし、やり方がいささか乱暴だったのでこいつがケガをしてしまってな。
演芸会の人混みにまぎれ、追手をまくつもりだったが、偶然、ここが空いていたので休憩していたのだよ」
「僕は、カレヴィ・キウル(かれぶぃ・きうる)だ。驚かせてすまなかったな。
さっきの人の演説は、ここで聞いていたけど僕らは毒ガス騒ぎとは関係ないんだ」
「そーなんだね。でも、でも、いまは講堂からはでられないんだよ。ドアに鍵がかかってるんだ」
「脱走した僕を閉じ込めるためかな」
人のよさそうなカレヴィさんが眉間にしわを寄せてるよ。
「それは違うな。閉鎖状況は毒ガスを効果的に使うためだろ。
あんたらがいたのはともかく、俺がみつけた鍵も、この隠し収納庫みたいな空間も怪しい。
なにが置かれていたんだろうな」
レオンさんの疑問に答えてくれたのは、ステージ上で再びマイクを握ったイレブンさんだったんだ。
「毒ガスがみつかったんだよ。私が持っていたんだ。
ほら。この水晶玉をみてくれ。中の液体が気化すると、数千人は殺せるガスが発生するんだよ!
・・・・・・ハイ。私は言いつけを守りました。
私は、さっきの話の途中でリモコンで、ここの出入り口を封鎖しました。
私の任務は、ここでみなさんと共に死ぬことです。
私は、命令に従順な11号です」
な、な、な、なんだってぇ!?
正気に戻っていなかったんだね。イレブンさんは、みんなを殺すためにここへきたってことなの。
「私に危害を加える人がいれば、水晶玉は床へ落とします。
みなさん、落ち着いてください。
もうすぐ放送があるはずです」
PMRの仲間が悪の手先になってしまって、ワタシたちはどうすればいいの。
二度、ひどい揺れがあって講堂内のみんなが茫然としているところで、天井のスピーカーからノイズが流れだし、放送がはじまったんだ。