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首狩りの魔物

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首狩りの魔物

リアクション

 無想の前に、カガミ・ツヅリと若松未散が立ちはだかる。カガミは手に雅刀を。未散は『苦無』と『鎖鎌』を携えていた。
 
 まず、動いたのはカガミだった。武器の聖化で光輝属性を付与した刀で無想に斬り掛かって行く。無想は、カガミに向かって剣を振りおろした。
 そこに、未散が飛び込んで来る。彼女は降霊でアメノウズメを呼び出しダッシュローラーで勢いを付け二方向から無想の利き腕に先制攻撃をお見舞いした。
 無想の腕が大きく割ける。無想は血をほとばしらせながら、未散にむかって大太刀を振りおろした。その懐に、カガミが潜り込み鬼神力を解き放って破邪の刃をカウンターに叩き込む。武芸者なら同じ手は二度と通じないだろう……と、一撃で決める。無想の右足が大きく割け血が溢れ出した。
 無想はカガミを叩き潰そうとした。氷雪比翼を装備した氷藍が飛び回り、それを妨害する。

 さらに、追い打ちをかけるように、未散がダッシュローラーの機動力を生かし遊撃し残りの四肢の切断をしようとする。
 しかし、斬った先から無想の傷は塞がって行く。傷口から発する瘴気が未散を苦しめる。それに気付いたレイカが、とっさにイナンナの加護の加護で未散をフォローした。力量差の大きい相手と戦う上で一番大切なのは『味方の戦力を失わないこと』だからだ。

 未散は瘴気と血飛沫を浴びながら、再生速度を上回る速さで無想の四肢を切裂いて行く。

『こいつは倒されなくてはいけない! 真桜のためにも』

 と、心の底で叫びながら。

 彼女が無想との戦いを決意したのは隠した姉への思い……そして口には出さないが真桜の為だった。
 実は、自身、幼い頃に姉を亡くしており、それで姉のいる真桜のことが気になっている。姉を亡くしたショックで体の成長が14歳で止まり心に蟠りを残した日々を過ごしていた彼女は、真桜には自分のような思いはして欲しくない……と口には出さないがそんな思いでいた。

 無想が太刀を振りおろしてくる。未散はそれを殺気看破で予測すると、鉄のフラワシと粘体のフラワシを用いて防ぐ。

 ……その時、突然無想の動きが止まった。鈍ったという方がいいのかもしれない。そして、次に苦しみ始めた。体中から瘴気を出して暴れ回る。

「どうした?」

 一同はぼう然として暴れ回る化け物を見た。


***


「うまくいってるのか?」

 ハヤテは祝詞を唱える地祇に向かって叫んだ。

「気が散るから黙れ!」

 と、地祇は言い返すと再び祝詞を続行する。

 地祇の膝元には無想の首の封印された鏡がおいてある。その表面には六芒星が描かれており、その向こうで生首がのたうち回っているのが見える。それは、半ば白骨化しかけて行った。不気味な光景だが、祝詞が効いている証拠のようだ。

 このまま封印できれば、村は救われるはずと皆固唾を飲っで見守っている。



***


 フシュウウ……


 瘴気を立ち上らせて暴れ回る無想を、一同はぼう然と見ていた。未散とカガミにつけられた傷跡は塞がる事なく、そこから赤黒い血をほとばしらせている。

「一体、どうしたのだ?」

 蓮妓の言葉に慈恩が喜色をもって答えた。

「きっと、真桜達が何かしているんだ!」

「そうか!」

 十兵衛がうなずく。

「きっとそうに違いない」




「どうした?」

 暴れ回る化け物の前に真田 幸村が立ちはだかる。

 しかし、もとより耳のない化け物にその声が届くはずも無い。

「……哀れなものだな。執着に取り憑かれた者の末路というのは。しかし、無想、今はこちらを向け。……主の命もある。一人の武人として、一差し交えようぞ…無想」

 その声が届いてか、はたまたただの偶然の所作なのか。無想が幸村に向き直った。

 幸村は【クライ・ハヴォック】で全体強化。【龍鱗化】で【チャージブレイク】の弱点カバー。そして、【猛禽龍・鬼灯】と融合し鳥翼、龍角、尾羽を得て飛行戦闘を可能にし、【大帝の目】を首の後ろに付け視界拡大。【パスファインダー】で素早さを上昇させて無想に躍りかかって行く。

 無想はめちゃくちゃに幸村に斬り掛かる。しかし、そこには先ほどまでの正確さは無かった。それでも、一撃一撃の重さに幸村は警戒し、太刀を間をぬぐいながら【轟咆器【天上天下無双】】を槍形態に変形させて用いて近接戦闘。柄が4m近くにまで伸びた規格外れの長槍で無想を突く。そして、攻撃の合間に槍の裂け目の中心の銃口から砲撃も行う。

 フシュウウウウ……

 無想は幸村のなすがままにされていた。槍を突き立てられた体のあちこちからは、血と、そして瘴気が溢れ出している。

「ここまでか……」

 幸村は地上に降り立つと槍を捨て【ブレイドガード】を構えた。無想は大太刀をふるって斬り掛かって来る。幸村は、それを【ブレイドガード】の二股に分かれた間で受け止めると、渾身の力を以て太刀を弾き飛ばした。

 フシュウウウウ……

 ……愛刀を折られてしまった。わしの強さの証である、あの剣が……。このままでは滅ぼされてしまう……いやだ、わしはまだ完璧な強さに至っていない……

 その途端、無想がいきり立った。


***

「いかん!」

 地祇が叫んだ。

「どうした?」

 ハヤテが尋ねる。

「無想が怒っておる。何があったか知らぬが……」

 見ると、鏡の中で無想の首が暴れ回っていた。宙を飛び交いこちらに突進している。それは、再び完全な生首となり、目を光らせて食らいつかんばかりの形相だ。そして、首は何かつぶやいていた。
『呼び寄せられる……呼び寄せられる……呼びよせ……』

「いかん。我を失っておる!」

 地祇は叫ぶと渾身の力を込めて祝詞を唱え始めた。しかし……


 バリーン!


 ついに鏡の表面が砕けて無想の首が飛び出す。


「うわ!」

 身構えるハヤテと真桜。しかし、首は二人に目もくれる事なく、恐ろしいスピードで村に向かって跳び始めた。

「追え!」

 地祇が叫ぶ。

「村に行かせてはならん! 体とひとつにしてはならん! あやつらをひとつにしてしまったら、もう、倒せる者はこの世にはおらん!」

 それから地祇は水竜を呼び寄せて叫んだ。

「追うのじゃ!」

 そして、契約者達を水竜の背に乗せ、首を追って赤津城村へと急ぐ。