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首狩りの魔物

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首狩りの魔物

リアクション


 水鏡 

 同じ頃、朝比奈家の一室では死闘が繰り広げられていた。隠し部屋を破壊せんとする雑魚剣豪と契約者達の戦いである。
 夢野 久(ゆめの・ひさし)もその乱戦の中にいた。彼の従者のニャンルーや武官達も主人の加勢をしている。

 と、突然、一人の美剣士が現れた。雑魚敵とは明らかに違う、静かだがどこかこちらを威圧するような雰囲気を持った細面の青年である。その目は真っ赤に光っていた。どうやら敵のようだ。
「なんだ? お前は?」

 久の言葉に剣士は答えた。

「深草水鏡」

「深草水鏡?」

「油断めさるな」
 宮本二刀が注意した。
「そやつは、昨日までは我らの同胞。この村の精鋭にして結界の守り人だった手練だ。身軽で空を飛ぶように動く事ができ、その技を用いて水の上を歩く事ができる。水や鏡に映った敵を一刀両断する事で、その本体を倒すという技も持っている」

「なるほどね」
 久は不敵な笑みを浮かべた。
「敵としちゃ申し分無しだ。草深水鏡、俺はアンタとやりてえ」
 叫ぶと久は龍鱗化で身を硬くして、水鏡の間合いへと飛び込んで行った。
 水鏡はうっすらとした笑みを浮かべると、静かに剣を抜き久に斬り掛かって来る。久は歴戦の防御術を駆使して、ブチコンダルの腹で剣戟を防いだ。
 さらに、水鏡の攻撃を耐え忍びつつ、隙を伺ってソニックブレードの一撃を狙う。
 威勢良く飛び込んではみたが、ハッキリ言って、久は草深のような素早い敵とは相性が悪い。じゃあ何で挑んだかって? 問われれば久はこう答えるだろう。
「その方が面白ぇからに決まってんだろ!」と。
「『挑む』って言うのは、そう言う事だ。俺みたいな喧嘩屋チンピラでも、あんた見たいな剣豪でも、そこは変わりゃしねえ。あんたの技! 俺の意地! どっちが勝つか……試して見ようじゃねえか!!と。」

 佐野 豊実(さの・とよみ)は、そんなパートナー静かに見守っていた。彼女は久に頼まれて、戦いを見届けに来ただけだ。その彼女の背後から、雑魚剣豪が襲いかかって来た。豊美は海神の刀を手に振り返ると、バサリとその首を斬り落とした。
 そして、再び目の前の戦いを見つめる。

 久は相変わらず防御に徹していた。それでいて、挑発するように水鏡に言った。
「……あんた、自慢の技があるんだよな? 良いぜ、やって見ろ。背にはしねえ様にしてるが、左右だの前だのにゃあるだろ? 水なり鏡なりよ」
 その言葉に水鏡がにやりと笑う。
 その位置から襖の向こう側……隣室の柱に小さな手鏡がかかっているのに気付いていたからだ。ちなみに久からは死角になって見えていない。
 水鏡は久に向かって刃を向け、相手の注意を自分に向けたたままゆっくりと隣室へと入って行った。それに歩調を合わすように久も隣室に入って行く……柱にかかった手鏡には気付かない。
 ちょうどいい位置まで来ると、水鏡は突然久から離れ、素早く柱に近づいて行った。
 久は柱を見る。その時、始めて手鏡に気付く。
 しかし、

「かかったぜ!」

 と久は叫んでいた。この機会を待っていたのだ。水鏡が『それ』をしようとした瞬間……

「そう。久君自身では無く『久君の鏡像』を斬る以上、その一瞬、意識は久君から逸れる」
 豊美はひとりごちる。
「狙いが明後日の方向になるんだから当然だ。鏡像が久君の直ぐ後ろにあるんでも無い限りね。『その時』だけは、必ず直撃する。そう言う絵図な訳だ。後は、そこに久君の手が届くか否か……さて……」

 そして、固唾をのんで豊実は『その瞬間』を見つめた。
 久が全身全霊で水鏡に突貫していく。僅かばかり先に行く水鏡の背中をめがけて、渾身のソニックブレード、音速超えのブチコンダル……!

 とっさに水鏡が振り返る、剣を持ち応戦しようとする。その腹に聖杭ブチコンダルが届く。水鏡の腹にのめり込みその体が吹っ飛ぶ。

「やった!」
 豊美が手をたたいて叫んだ。
 しかし、その次の瞬間には水鏡は立ち上がり、剣を持ち猛烈な勢いで突進して来た。そして、久に向かって一閃、さらに久の映った鏡を斬ろうとする。
 が、その時、

 パリーン!

 と鏡が音を立てて割れた。

 そして、水鏡の前にどこからかレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)が現れ、立ちはだかった。

「死者への冒涜は許されるものでは無いですからねぇ、あちきが引導を渡してあげましょう。」
 レティシアは両手にヴァジュラを構え、
「天震乱魔流始祖の力お見せしましょうかねぇ」
 のんびりとした口調で言う。
 水鏡は、立ち上がり刀を構えた。そして、猛スピードでレティシアに向かって斬り掛かって来る。レティシアは両手に構えたヴァジュラで水鏡の刀を受け流していく。二人の剣戟は果てしなく続いて行った。
 レティシアの背後ではミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)が補助に付いている。レティシアが水鏡の速すぎる太刀を受けそこねた時、彼女は清浄化と歴戦の回復術でパートナーを助けていた。幾ら強くても回復や強化の無い剣士は戦いきれない。その分、背中を預けて貰う身としては下手は打てないとミスティは慎重に戦いを見守っている。あくまで生き残って戦い抜く為に必要な事だけをするつもり……そう。必要な事をするだけだ。

「このままでは、いつまでたっても決着がつかないですねえ」
 レティシアは言うと、その身を蝕む妄執を展開した。しかし、水鏡には効かない。さらに、素早く姿を隠すと、ブラインドナイブスで攻撃。さらにミスティが神の目を展開。水鏡の視界が奪われる。その隙を狙い、レティシアは水鏡の背後に現れ攻撃、水鏡は素早く避け渾身の攻撃を繰り出す。レティシアは空蝉で避わすと、水鏡の隙をつき袈裟がけに振り下ろした。

 ザシュ!

 水鏡の背中からどす黒い血がほとばしる。
 しかし、水鏡は死ななかった。死なぬままその場を逃げ出した。そして、どこかに向かって行く。まるで、その場に誘導するように……。
 

 同じ頃、八塚 くらら(やつか・くらら)は朝比奈家の一室にいた。
 遠くに剣戟音を効きながら、庭にある池を見つめている。
 突然、誰かが走って来る足音が聞こえた。
 振り返ると、細面の美剣士が立っている。
 美しい容貌だが、青ざめ、その目は赤く光っている。
「あなたは?」
 くららの問いかけに剣士は答えた。
「深草水鏡」
「やっぱり……」
 くららは笑った。
「ここにいれば会えるような気がしていたんですわ」
 それには、答えず水鏡は静かに刀を抜いた。
 対するくららは「破邪の刃」を手に取る。そして、軽やかに庭へと飛び降りて行った。水鏡がくららの後を追って庭に降りる。
 背後は池だ。逃げ場所は無い。くららの目前に水鏡の刃が迫る。
 その時、くららの体が宙に浮かんだ。「空飛ぶ魔法↑↑」だ。そのままくららは池の上へと移動していく。水鏡はにやりと笑うと、くららの後を追った。そして、素足で水の上に立つ。
「すごいですわ」
 くららは言った。
「蓮妓さんから聞きいていたんですの。あなた、水の上を歩けるって。水の上を歩けるなんてすごいですわ。是非、実際に歩いている所を見てみたかったんですの。……まぁ、私にとって今一番大事な事は閉じ込められている方を救出する事ですし、そんな暢気な事も言ってられませんが……」

 その時、一人の青年がこの場に飛び込んで来て叫んだ。手には火縄を持っている。
「深草水鏡殿! 魔物に心を奪われしあわれな同士よ」
 その声に、水鏡が振り返る。
「あなたに、恨みは無いが、村の存続のためにこの場で死んでいただく!」
 青年は、火縄を構えると水鏡に向けて発砲しようとした。その姿が池に映し出されている。
 水鏡は静かに笑うと、刀を水に映った青年に上に置き、その姿を斜めに斬った。瞬間、水に映った青年の姿が二つに割れた。それと同時に、青年は火縄を構えたまま崩れ落ちる。驚く事に、水鏡が水面で斬った同じ位置から、青年の体はざっくりと二つに分かれていた。

「恐ろしい技ですわね」
 くららは身震いする。
「水に映った敵を一刀両断する事で、その本体を倒してしまう……蓮妓様の仰っていたとおりですわ。これは愚図愚図していられませんわ」
 そう言うと、くららは氷術を展開。池の水が凍り水鏡の足も凍りつけられる……はずだった。
 だがしかし、水鏡に氷術は効かず、そのままミシミシと氷の上を歩いて近づいて来る。くららは自分の姿が氷に映らぬよう気をつけながら下がる。
 くららは「光術」を唱えた。目映い閃光で水鏡は一瞬視界を奪われた。その隙を狙いくららは破邪の剣で水鏡に斬り掛かって行った。視界を奪われながらも、くららの太刀を受け流す。水鏡は、体勢を整え直すと再びくららに斬り掛かって来た。くららは、とっさに氷術を展開。氷の鏡が現れ、水鏡の姿を映し出す。
「そのまま、自分の影を斬ってしまえばいいんですわ」
 くららが言い終える前に、水鏡は自分の影ごと氷を打ち砕き、そのまま氷の上に絶命した。


 そして、舞台は隠し部屋に最も近い中庭へと移る。