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悩める夢魔を救え!

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悩める夢魔を救え!

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Dreaming Dreamers2


 困り事の解決の手伝いを受けはしたものの、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)の思考は今そこにはなかった。

(前に、美緒さんに告白して、色々と考えさせられる答えをもらったけど……。

 ちゃんと考えは伝えておきたいから、夢の世界に行く前に美緒さんと一度話したいな)

考え込んだ表情で、ぼんやりした目を美緒のほうに向ける正悟。

「しかし美緒さん ……凄い格好をさせられてるな」

ぼそっと呟き、そちらに歩きかけたときだった。何かが頭を一撃し、正悟の意識は闇に沈んだ。

「美緒さんをめぐっての妙な状況…… か。

 ダメ兄貴分をこそっとフォローするのも家族しての役割。

 正悟よ、余計な事をせずに夢の世界で遊んでいてくれ」

正悟の頭を一撃したのは、チェリー・メーヴィス(ちぇりー・めーう゛ぃす)の雅刀の峰であった。それから彼女は正悟を空いているベンチに移すと、持参してきた毛布をかぶせ、ほかに夢を見る予定のメンバーにも防寒が必要か聞いて回った。そして寒そうにしている美緒にも、毛布を手渡す。

「ありがとう」

「うん。私はチェリー。正悟から話は聞いてる」

そこで一旦チェリーは言葉を切った。正悟から直接相談されたわけではもちろんないが、ぶつぶつ一人で言っているのを聞いているチェリーに、彼の思考はダダモレだった。考え込むような表情の美緒に、チェリーは言葉を継いだ。

「私は守ると言われた事はある。でもな、恋愛対象として大事にしたいとは言われた事はないよ。

 だからそこは気にしないで欲しいんだ」

美緒はゆっくりと目を上げた。同性のチェリーから見てもはっとするほど美しい。

「正悟様がチェリー様の事を大切に思って守られているのは分かります。

 エンヘドゥ様の事も守られたいと思っておいでだという事も」

美緒は憂わしげに目を伏せたた。

「……そして、正悟様はわたくしにも守りたい ……とおっしゃいました」

チェリーの瞳が、まっすぐ美緒を見つめる。美緒は再び目を上げチェリーを見つめ、ゆっくりと言った。

「わたくしはどなたかをお守りすることは出来ない、……ただ守られるだけの人間です。

 でも……でもね、その方にとって唯一の守りたい、大切にしたい存在でありたいと思うのです。

 ……そういうものではありませんか?」

チェリーはその問いに対しては何も言葉を返せなかった。女として、その気持ちは良くわかったからだ。

「……余計なお節介だと思ったんだけど、家族だからさ」

それだけ言って、そびらを返した。

 そのころ正悟は、どこまでも続く坂道を凄い勢いで転がって来る米俵から、必死で走って走って逃げている夢を見ていた。そんな状況なのに、なぜか高笑いしながら。

 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は、ツァンダの自宅で夫婦でたまの休日を過ごしていた。ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は、せっかくお天気が良いからと、空京の友人を訪ねようかどうしようかと歩いていたところ、困った様子の美緒と瑛菜を見かけ、今回の一件を聞いたのだった。

「楽しい夢を見たらいいのね! 多分、わたし得意だよ!」

夢の香を渡すメアベルに微笑みかけ、ノーンは美緒のそばに腰を落ち着け、甘い香りを胸いっぱいに吸い込んだ。

 クッキーとチョコレートの柵に、キャンデーや砂糖菓子で出来た草花がいっぱいの花壇。土の代わりにシフォンケーキの土台。そこは全てがお菓子で出来た小さな花園だった。そばには氷砂糖で出来た小さなテーブルセットがあり、その上にはポットにいっぱい入った紅茶と、見ているだけで楽しくなるような色も形もさまざまのプチフールがどっさり乗った、氷砂糖製のトレイが乗っている。

「うわぁあ、美味しそう!!」

メアベルそっくりの女性が、微笑みながらお茶とお菓子を勧めてくれる。ノーンは幸せそうに勧められるまま、お菓子を頬張り、紅茶を飲んだ、どれもすばらしい味だ。それでいておなかいっぱいにもならないし、トレイのお菓子も減らない。

「うーん、とっても美味しいですよ」

柔らかな日差しと美味しいお菓子。ノーンはしばしの夢を楽しんだ。隣で美緒もまた楽しげな表情を浮かべていた。お家に帰ったらおにいちゃんたちにも、この楽しかった夢の話をしよう。ノーンは思った。

「夢だけど美味しかったよ!

 夢魔さんは…… みんなに怖い夢を見せて、良い人でいられるよーにしてくれてるんだよね? 

 わたしは、スゴく良いお仕事だと思うよ!」

ノーンの言葉に頷きながらルカルカが言う。

「他人の為になら楽しい夢を紡ぐ力があるんでしょ。

 それなら良い事した人には楽しい夢を見せるのもいいのじゃないかな?」

メアベルが目を見開いた。

「そのように考えたことはなかったが……」

「試すだけ試してみたら?」

アコが後を受けて言い、メアベルは考え深げに頷いたのだった。