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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 2

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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 2

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第9章 プランニング

「環菜、次はどこまでレールを敷くんですか?」
 すでに考えているのだろうかと陽太が妻に聞く。
「まだ考え中よ」
「ツァンダ辺りなどはどうでしょうか?」
「ヴァイシャリーからツァンダまではかなり距離があるから、急にそこまで進めるのは無理よ。イコンで資材を運べたとしても、設置は人の手で行わなければいけないもの」
 細かいところはやはり、人の手でないと無理だろうと環菜は首をふるふると振る。
「レールを敷くにしても、そこに住む者もいるから。交渉もしなければいけないわ」
「ただ案だけ考えても、順調に事が進むかどうか分からないってことですか」
 せっかく妻のためによいプランを提供しても、その提案がそのまま通るわけでもないのだ。
「わたくしからの提案もありますわ。カゲノ鉄道会社で、魔列車の修理用パーツの製造を行うというのはどうですの?」
「修復さえ済めば、その心配はいらないわ」
「魔列車のレプリカの製造というプランもありますわ」
「―…相応の素材があるとしたら、アダマンタイトくらいだから難しいわね。小さな玩具として、駅舎で販売するのはどうかしら。もちろん、素材は普通の鉄などでね」
 一般の客が手に入らないような高級品よりも、お土産品として小さな玩具のレプリカを製造してみては?と言う。
「手に入りやすい素材を利用して作るということですの?」
「えぇ、そうよ」
「ヴァイシャリー湖南の駅が、魔列車の出発点でもありますし。観光土産としてよさそうですわね!」
 それくらいなら実現出来そうかと頷く。
「玩具をモデルにSR弁当を考えるのもよさそうですよ、エリシア」
「お料理といったらノーンが得意ですわね。容器のイメージをまとめたら話しておきますわ」
 そのノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は今どこにいるかというと…。
「おつかれさまー、差し入れの夜食を持ってきたよ!」
 パラミタ内海の浜辺で、発掘担当者たちに手作りの夜食を振舞っている。
 落とさないようにカゴに入れ、空飛ぶ箒スパロウの後ろの方に紐で結びつけて運んできた。
 魚介類中心の食事なのかな?と、野菜たっぷりのシチューやフルーツゼリーを用意した。
「エリザベートちゃん、こんにちは! 元気してた?」
「はぁい♪ノーンさんもお元気そうですねぇ〜。長旅ご苦労様ですぅ〜」
「うん。でも、早く食べてもらいたいから、急いで持ってきたよ」
「ゼリーがぷるぷるで美味しいですよぉ」
「あ〜っ、それデザートだよ」
 持ってきたガスコンロでシチューを温めている隙に、エリザベートがデザートを食べてしまう。
「はい、シチューもどうぞ」
「いい香りですぅ〜」
「エリザベートちゃん、私がフーフーしてあげますね♪」
 明日香はスプーンでシチューをすくうと、軽く息を吹きかけて冷ましてから食べさせる。
 このままだと彼女ナシでは生きられず、そのうち一緒に住むことになり、1生面倒をみてもらいそうだ。
 相変わらずの甘やかしぶりだが、美味しそうに食べてくれている様子にノーンはにこにこと微笑む。
「んー…明日香ちゃんは食べないの?」
「私はエリザベートちゃんがお腹いっぱいになったらいただきます」
「そうなの?」
 お腹空かないのかな?と思いつつ、他の者にシチューやゼリーを配る。



 その頃、ヴァイシャリーの別邸では、真と蒼が通常座席の考案を続けている。
「精錬で余った二酸化珪素があるんだったな。列車の窓ガラスが届いたら、修理用の素材として業者に使ってもらうか。それと、拡散剤の材料としてもね」
「窓だけに使うのー?」
「灯り用のランプの素材にもいいね。蛍光灯みたいに、明るい照明は合わないだろうからさ」
「イスはどうしよぅ〜…」
「ふかふかな素材にしようか?長旅用だし、席の間隔もこんな感じに、広くとって…。背もたれを倒しても、他の人の邪魔にならようにね」
 イメージ図を紙に書きながら蒼に説明する。
「席は2人がけなの?にーちゃん」
「真ん中の通路を挟んで、両側に2人ずつ座れる感じだね」
「くる〜ってイスを回転させようー。そーしたら、4人席みたいになるよー?」
「土台の後ろにペダルでもつけておこうか。動かないように、もう1度踏んだら固定されるようにすればいいね」
「モニターつきの客車は、いちりょーめにしたい!」
「食堂車は、通常車両と寝台車の間にしてもらおうか」
「うん!」
「それじゃ今、頼んじゃうね」
 真はそれぞれ注文内容をまとめると、ネットで業者に依頼する。



「通常席は他の人が考えてるから、俺たちは寝台車を担当しようぜ」
 まずはアイデアを出していこうと、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はノートパソコンの電源を入れて起動する。
「通路の幅は広めにとって、折りたたみ式のベンチを窓側辺りに置いてみない?」
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)も1等車両で快適に過ごしてもらおうと言う。
「それだと、部屋のスペースが狭くならないかね?弥十郎」
 メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は貴族も泊まるのだから、広々としたスペースを用意するべきだと意見を言う。
「えー、そう?」
「あまり通路を広げると、部屋の幅がきつくなってしまうのだよ」
「飲物なら食堂車でもらえばいいんじゃ?」
「甘いな、弥十郎。君の考えはスイーツよりも甘い!」
「じゃあ、必要な理由をいってくれるかな」
 フンッと笑い飛ばすメシエの態度に、少しだけ眉を潜める。
「紅茶を入れる温水設備の設置は、貴族にとっては必須だと思うのだよ。あぁ、それと呼び出しボタンでスタッフを呼ぶことができるようにしたまえ」
「スタッフって…。まだそういう人を雇う予定は立ててないんじゃ?」
「フッ、エース君に任せるとしよう」
「―……ぇ、…はっ!?何で俺がっ」
「エース、君に労働という喜びを与えてやろうというのだと、ありがたく思いたまえ」
 この中で1番、動いていない者がどの口で言う…という感じで、堂々と言い放つ。
「誰か、他に意見はあるか?」
 それに対しては何も言わずスールし、他にいいアイデアはないか聞く。
「ソファにも変化するベッドや鏡台、外の景色を楽しめる大きめの窓もあるとよい。1等車なのだからやはり、個室がよいと思う」
 貴族からしたら、子供などが騒ぐ声が聞こえてしまっては、せっかくの旅行が台無しなのだろう。
「1番後ろをスイートにして、展望を楽しめるようにしたまえ。もちろん、他の1等車にもだよ」
「そうなると、4部屋くらいか。通信や電気は、2・3等車にも部屋にもいるよな。女性なら特に、ドライヤーは必要だと思うし」
 エースはラズィーヤの方へ顔を向け意見を求める。
「わたくしとしては、洗面室も欲しいですわね。1日中、顔を洗わないなんて、わたしくには耐えられませんわ」
「いつでも身奇麗にしたい女性にとってはかなり必要だね。ラズィーヤさん的には、やっぱり庶民との領域をわけるべきだと思うかな?」
「高級車両ですけど、きちんとお支払いいただければ、身分はあまり関係ありませんわね。まぁ、どの車両も券の購入は現金1括払いと決めてますけど」
 ラズィーヤらしくいただけるものはきっちりいただく、という態度で支払い方法も決めてしまった。
「その方がちゃんと資金も入りそうだね。だけど、本当に身分的なものは気にしないのかな?」
「えぇ、エリザベートさんも出資していますし。そこまで厳しく考えることはありませんわ」
「あぁ…そういえばそうだったな。ヴァイシャリー側の雰囲気だけっていうことは出来ないのか」
「私もあったらいいんじゃないかなー、っていうのがあるんだけど」
 真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)も女の子として意見を言おうと片手を上げて言う。
「長時間列車に乗って移動するんだよね?なら、シャワー室とかもあっていいんじゃないかな。水が積める量も限度があるから、チケット制とかで」
「えぇ、それも必須ですわね」
「女の子の観点からすると、シーツやカバー類はクリーニングが行き届いていると嬉しいね。あとは、何かあった時に車掌に連絡できるような配置があるといいね」
「先生、他の要望があれば教えて」
 女の子の目線からの意見も求めようと、弥十郎はメモを取りながら聞く。
「そうだなぁ。肌が乾燥しそうな空調だよね。過湿できるといいなぁ。あと、荷物の収納スペースはちゃんととっとかないと」
「1人分のスペースとしては、かなり広いね。まさに1等車って感がするよ。メシエさんとしては、1人のスペースとして考えてるんだっけ?」
「優雅に寛ぐならそのほうがいいね」
「うーん…。1人旅もいいけど、2人用の部屋くらいはあってもいいと思うよ?1人用と2人用があるようにしようか。スペース的にはどちらも同じだけどね」
 いくつも作れないから、そんな感じでどうだろう?とメシエに提案する。
「ちゃんと1人部屋があるなら、私はそれでかまわないよ」
「壁紙や天井は白に近い水色とかどうだろう?」
 窮屈さを感じないように薄い色合いの、色見本を弥十郎がメシエたちに見せる。
「他の車両も落ち着いた雰囲気だし、それでいいと思うよ」
「ガラスは防弾ガラスにしてもらって、部屋はオートロック式の指紋魔法認証タイプがしたいね。2人用の方は、座席とベッドがチェンジするのとかどう?」
 夜はソファーの座席で景色を眺め、夜はベッドとして使えるようにチェンジするタイプにしたいと提案しつつ、イメージを説明しようと用紙に窓側へ鏡台とテーブルを描き込み、部屋の空間を有効に使おうとテーブルは持ち上げると洗面台になる図を描く。
「それも素敵ですわね。でも、1等車だけ防弾ガラスでは意味がありませんわ。どうせなら、全室そうしましょう」
 2車両だけ頑丈なガラスを設置するのではなく、全ての車両をそうするべきとラズィーヤが言う。
「あぁ〜、確かにそうだね」
「工事が終わっている魔列車のガラスもそうしてありますわ♪」
 列車の工事を行っていた者たちが知らない間に手配し、そのガラスを用意したようだ。
「2等車両と、3等車両も考えないとなぁ。あぁそうだ、寝台車にも通路に自動ドアを設置しなきゃね」
「位置的に魔列車の正面から見て右側ということか?」
 構造を確認するように佐々木 八雲(ささき・やくも)が聞く。
「そうじゃないと構造的に無理があるよ。通常車両へ下りたり、上ったりする階段もいるね。で、2等車は2段ベッドを向かい合わせになるように置こうかな。3等車の方は、その3段ベッドバージョンね」
「階段を作って2階部分を2等車にして、4部屋ずつ用意するか?」
「それもいいね♪で、下の3段ベッドの部屋は、中段のベッドを下ろすと背もたれになるんだよ。まぁ、ベッドの室は、2階の部屋のほうがいいんだけどさ」
「通常車両へ移動するところの近くに、それぞれの階に共有のシャワールームを設置しないの?」
 せっかく泊まるなら、必要じゃないのかと西園寺が言う。
「車両の後ろ側になら出来るけど、2・3等車の共有になっちゃうね」
「うーん…人数のことを考えたら、それも仕方ないね。1人30分くらいにすれば、皆使えるよね!」
「まぁー……1時間とかは、さすがにちょっと簡便してもらいたいかな。トイレは通常車両側の近くでいいかな?これも共有だけど」
「後は、使う素材を選んで発注するか」
 エースはそれぞれの意見をまとめ、ネットで注文しようと素材選びを始めた。