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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(後編)

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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(後編)

リアクション

「くっ!?」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーが剣を掴み、サンダラーへと近づこうとする。が、連射に阻まれて踏み込むことができない。グロリアーナのほうも剣で弾丸をかわすのがやっとだ。
「なんてやつ……!」
 ローザマリアが影からサンダラーを撃つも、ダメージを受けた様子はまるでない。肉が弾丸で飛び散っても構わずに戦い続けている。
「まだ生きてやがったのか、バケモノめ! おい、やつを狙え!」
 さすがのジャンゴも、ローザマリアたちを背中から撃っている場合ではない。サンダラーに弾丸を浴びせるが、遠方からの狙撃で部下がひとり、またひとりと倒されていく。
「そのまま引きつけて! 手伝ってやるよ!」
 ……と、言いながら明らかに殺し目的で、葉月 エリィ(はづき・えりぃ)がローザマリアたちを相手どるサンダラーに接近。人間なら心臓があるべき場所を狙って、弾丸を放つ。
「これなら……いかがですか?」
 タイミングを合わせたエレナ・フェンリル(えれな・ふぇんりる)が、虚空から暗黒ギロチンを振り下ろした。
 サンダラーの拳銃使いは胸を貫かれながらも、首に半ばまでめり込んだギロチンをそのまま引き抜く。ずぶずぶと切れたはずの首を奇妙なつなぎ合わせていく。
「……くっ、本当に不死身ってことかい……」
「エリィ!」
 驚いているエリィの背後に殺気を感じたエレナが、その体を突き飛ばす。どっ、とその脇腹に、遠距離からの弾丸が放たれる。
「くうっ……!?」
 痛みに顔をしかめるエレナ。エリィは何よりも身を守ることを優先して、その体を掴んで拳銃使いから離れた。
「大丈夫か!? あたいが気を抜いたせいで……」
「吸血鬼ですもの、……死には、しませんわ。それより、今の狙撃……」
 呼吸を喘がせるエレナが、そっと指を伸ばす。示す先には、広場を見下ろす形の建物……しかし、かなり距離が離れている。
「間違いなく、あそこから。……サンダラーの片方が、潜んでますわ……」
「……分かった。おい、誰か治療してやってくれ! 広場から出たら失格なら、あたしは失格でいい!」
 叫び、エリィは広場の外へ向かって駆け出していった。



「……なあ」
「へ、へへ……」
 ぼそりと聞いた斎賀 昌毅(さいが・まさき)の隣で、阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)が乾いた笑みを浮かべている。
「これ、後からみんなが弱ったところを叩いて優勝! って作戦は、やめといた方がいいんじゃないか」
「実は那由他も、そんなことを考えていた所なのだよ」
 さも大会に参加していないかのような顔をして見物している作戦で、実のところエントリーしている昌毅をここまで残し、那由他が胴元となった賭けで大もうけ、というのが彼らの作戦だったのだが……
「俺たちが賭けの客と口論してる間に撃たれたっていうし、絶対怒られるよな」
「しかし、このままサンダラーに勝たれてしまったら賭けは大損になるのでそれをどうしようかと那由他は考えているのだが……」
「なんでディーラーが損する仕掛けを作ってんだよ!?」
「契約者たちが頑張って一番人気のサンダラーを倒してくれることを前提にオッズをつくっていたのだよ!」
 欲にくらんだ目で言う那由他。そこへ……
「止めてーっ!」
 と、叫ぶ声が急速に接近してきた。
「昌毅、止めるのだよ!」
「なんでだよ!」
 叫びながらも、聞こえてくる声に向き直る昌毅である。そして、拘束で飛来したもの……空飛ぶ箒に跨がった氷見 雅と盛大にぶつかった。
「ぶぎゃっ!?」
「きゃっ!」
 ずざー、と滑った上に絡まり合って倒れるふたり。
「お、おー……大丈夫?」
 那由他がそーっとふたりをつつく。
 転がったままの昌毅の上で、がばと雅が起き上がった。
「みんなに伝えきゃいけないことがあって来たの。何せろくに武器を準備してなかったのはあたしだけだから、遺跡にある銃を壊すのはみんなに任せて、こうして全力で戻って来たのよ」
 まくしたてる雅に、思わず耳を押さえかけて、昌毅が(踏まれたまま)顔をしかめる。
「……つ、つまり、どういうこと?」
 聞き返されて、はたと思い出したように、雅は広場へ向き直った。
「ああ、やっぱり始まってる……みんな、聞いて!」
 そして、あらん限りの体力を振り絞って叫んだ。
「サンダラーを操ってるのは、銃よ! 銃を壊して!」