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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(後編)

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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(後編)

リアクション

 質屋・ピースメーカー。契約者によって第四世界に作られたこの場所は、現在では契約者らの拠点として使われている。
 店長代理、龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)を中心に、第四世界への調査を進めている者たちが集まっている。商品の陳列もそこそこの店内に無理矢理スペースを広げて、灯は周囲を見回した。
「夜明けまで、もう時間がないです。なんとしても大会が終わるまでに、核心に迫りましょう」
 真剣な表情に、周囲が頷く。
「とにかく、サンダラーという人たちがこの世界の基準から大きく外れた存在であるということは分かって来ました」
「たぶん、『大いなるもの』との関係は間違いないわね」
 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)が、各所から寄せられた報告を広げている。
「それに、『大いなるもの』が、この世界にある遺跡に封印されていたとも」
 獅子神 ささら(ししがみ・ささら)も、契約者らの情報に目を通しながら呟く。
「ちょっと、なんであたしたちはこんな所にいるのよ! あたしは大会に出るっていったでしょ!」
 包帯をぐるぐるに巻いて座らされた山本 ミナギ(やまもと・みなぎ)がいきなり近づかれた猫のように叫んでいる。
「だってケガしてるじゃないですか……」
 その後ろでメロンパンを加えた獅子神 玲(ししがみ・あきら)が彼女の疑問に答える。
「このぐらい大した事ないわよ! 治療したし、根性で……」
「これでもですか?」
 ぐい。玲がミナギの体に巻かれた包帯(なぜか手首を絡め取っている)を引いて、その背中を踏みつけた。
「あいたたた! 傷関係なくいたくなってきた!」
「じゃあ、おとなしくしましょうね。みんなが話をしている所だし」
「はい、おとなしくします……」
 よしと頷いて食事を再開する玲。灯はこほんと頷いて、話を再開した。
「現在、酒場で得た情報をもとに、古い本をここに運んでもらっています」
「そしたら、あたしの見た地図の正体も分かるかも知れないってわけね!」
 ミナギに負けず劣らずのテンションで話に入ってきたのは、氷見 雅(ひみ・みやび)
 その眼前のテーブルには、彼女が市長の部屋で見かけた地図を可能な限り再現した、直筆地図が置かれている。正確性はかなり怪しいが、それに似た地形は実在するらしい、と他の地図と比較して確認されている。
「貴重な情報です。でも、それが一体何なのかを確かめないと、うかつに動くわけには……」
 と、ロザリンド。街の中ならともかく、遠くに出かけて貴重な時間を潰すわけにはいかないのだ。
「……お待たせ!」
 そのとき、店の戸を開けて、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)が駆け込んでくる。アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)と共に、本を運んで来ていたのだ。
 台車に満載された本を見て、一同が呻く。
「この量を調べるのでも、一日かかりそうですね……」
 と、ささら。
「文献調査は、宝探しの基本だけど……」
 そう言いつつも、雅はあんまり得意じゃないらしい。
「でも、とにかく調べましょう。時間、ないわよ」
 さゆみも睡眠不足を圧して走って来たのだ。だというのに、早速本の山に取りかかろうとする。
「待った! いや、待って! ……いや、待って下さい」
 背後を恐れながら、ミナギが声を上げた。
「ど、どうしました?」
 玲が踏みつける前に発言権を与えようと、灯が水を向ける。ミナギは身を乗り出して、くんくんと鼻を慣らした。
「におう……におうわ」
「今度は犬を目指すことにしたんですか?」
 かなり見下ろす角度で執事のささらが聞いた。ミナギはぶんぶんと首を振る。
「ちっがーう。あたしの主人公センスがびんびんセンサーを立ててるのよ!」
「……妖怪が近くにいるんじゃないんですか?」
 踏もうとする玲を、慌ててテレサが押さえる。
「ま、まあまあ。話を聞いてあげようよ」
「……これだわ!」
 ばっと飛び出したミナギが積まれた本のうち一冊をくわえ(手首が縛られてるからだ)、引き抜く。どさどさと本が崩れて埃が舞う。
「こほっ……ど、どうしたんですか?」
 ハンカチで口と鼻を押さえながら、ロザリンドがおそるおそる薄目を向ける。その先で、はっとさゆみが目を開いた。
「『封印の遺跡に関する調査』……それだわ!」
 手が使えないミナギの口からぱっと本を奪い、テーブルに広げる。
「この遺跡には『大いなるもの』との関連性をうかがえるものが数多くあり、調査隊は深入りを避けて引き返したのだ……」
「地図が載っていますわ」
 読み上げるさゆみに、アデリーヌが小さく囁く。
「……似てるわ!」
 雅が自作の地図と見比べて、目を輝かせる。細かい差異こそあれ、同じような場所を示した地図に見える。そして、雅が×印を書いた場所に、本の地図は矢印が示されている。
「ということは……」
 一同が興奮に上がりそうな息を飲み込んだ。
「ここに遺跡があるのよ! さあ、早速出発の準備よ!」
 雅は叫ぶなり、店を飛び出していく。灯は驚きながらも、ミナギに近づいた。
「すごい。どうして本がわかったんですか?」
「ぴーんと来たのよ。さあ、これをほどいて。あたしたちも行くわよ!」
 役にたつことを証明したミナギは意気揚々、立ち上がろうとする。
「嫌です」
「えっ?」
 間髪入れずに答えた玲に、思わずミナギが聞き返す。
「……だって、美味しいものが食べれなくなるじゃないですか」
 というわけで、彼女らは居残りになった。