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リアクション
第2章「ロッド」
「どうやらロッドの力はファフナーの近くでも効果を発揮しているようだな」
戦場の後方、篁 透矢(たかむら・とうや)が魔力増強のロッドを使用している横で冴弥 永夜(さえわたり・とおや)がつぶやいた。
「問題は持続の方だが……どうなんだ、篁?」
「ん……魔力を吸い取られるとか、そういう感じはしないな。ただ――」
「ただ?」
「気を緩めると効果が減少するのを感じる。悪いけど、俺はこれを使う以外の事は出来そうに無いな」
「そうか……分かった。お前とロッドは俺達が護ろう」
永夜がロッドを護るように立つ。その両脇を固める形でルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)と風森 巽(かぜもり・たつみ)が頷いた。
「透矢さんはしっかり護らせていただくですぅ。透矢さんを傷付けたりしたら家族の皆さんが、天音さん達が悲しむですからねぇ」
「それに、これは『大いなるもの』からこの世界を護る為、未来の我らに託されたロッドだ。残してくれた者の想いと願いを果たす為にも……ここは、退く事など出来ない!」
「三人とも、有り難う……期待してるよ」
「託された思いと願いを護る為……この手で闇を斬り祓う! 変っっ……身っっ!」
――その時、不思議な事が起こった――
巽の着けているベルトから光の粒子が放出され、一瞬で彼の身体を包んだ。その光が収まった時、彼にはもう一つの名前が付く。その名は――
「蒼い空からやってきて! 託された希望を護る者! 仮面ツァンダーソークー1!」
(ん〜、お熱い事だねぇ。まぁ、この前見つけた宝石は取り上げられちまったし、ここらが安全になればまたゆっくり探索して金目の物を見付けりゃ良いってのが俺の理想だから、頑張ってくれる人がいるのは有り難い事だけど。自分から攻めるなんてのは面倒くせぇし……第一俺の性に合わねぇからねぇ)
張り切る者達を見つめながら、瀬道 聖(せどう・ひじり)が帽子を深くかぶり直した。最初の神殿調査に個人的な目的で同行した聖は目論見通り価値のありそうな宝石を発見したのだが、それをパートナーの幾嶋 璃央(いくしま・りお)に見つけられ、取り上げられていた。
その為今回は流れで同行を続けているとはいえ、余りテンションが上がらずにこうしてロッド防衛という名のサボりに乗じているのだった。もっとも、こうして新たな目標が見つかった今、本当に僅かながらもやる気は上がったようだが。
「あれ……? 聖、何か光ってるよ?」
璃央が聖の懐を指差す。そこからは確かに青い光が漏れ出ていた。
「……まさか、まだ隠し持ってる物があったの? 出しなさい!」
「いや、こいつはそんな大したモンじゃねぇって。ほれ」
「これって……クリスタル? 皆が持ってる、幻獣の」
「そ。聖域でこれをもらった奴が上に残るって言うから預かってきたのさ。多分使い方はさっきの黄色と赤のクリスタルと同じだろうな」
聖の言う通り、青いクリスタルは細かく分割され、ルーシェリアを初めとする何人かの下へと飛んで行った。残った一つは興味無いとばかりに璃央へと放り投げる。
「まぁ、幻獣の加護があるって言うなら璃央が持ってな。後、あんまりこっから離れないで怪我した奴の回復とかをするように」
「え、う……うん、分かった」
受け取ると同時に青い光が璃央の身体を包みだす。璃央は何かに護られているという感覚と共に、聖に対してどことなく罪悪感が湧き上がって来た。
(うぅ……前に宝石を取り上げたからまだ不貞腐れてるのかなぁ……? と、取り敢えず言われた通り、回復は頑張らないと!)
「あ、あの……幻獣が来ます。こちらへ……」
敷島 桜(しきしま・さくら)の声で皆が上を向く。見ると、前線にいる者達を越えて飛行系の幻獣達が接近しようとしていた。
「グリフォン……それと、同等の者達でござるか」
「真っ直ぐに向かって来ていますね。狙いは私達……いえ、ロッドでしょうか」
源 明日葉(みなもと・あすは)と南蛮胴具足 秋津洲(なんばんどうぐそく・あきつしま)が冷静に相手を把握する。秋津洲の予想通り、まず一匹のグリフォンがロッド目掛けて高度を下げてきた。
「やはり……桜、私の後ろへ」
「は、はい」
素早く秋津洲が桜をかばう形で突撃に備えた。それと同時にルーシェリアが盾を構えながらグリフォンの進路上に立つ。
「やらせませんよぉ」
数mはある幻獣の突撃を真っ向から受けるルーシェリア。だが、彼女は勢いに負けず、身体ごと後ろに押し込まれながらもロッドへの攻撃は防ぎきってみせた。
「幻獣さんの想いは私も受け取っていますぅ。だから、簡単には負けないですぅ」
クリスタルの青き輝きを放ちながらルーシェリアが言う。聖域にいた幻獣の中でも特段に大きなベヒーモスの力を得た彼女の防御は固く、今の突撃でも笑みを崩してはいなかった。
「では、申し訳ありませんが――」
「しばしの間、大人しくして頂きます」
抑えたグリフォンに対し、すかさず秋津洲とアルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)が剣を振り下ろした。この世界の環境で力の高まっている二人の攻撃で再び舞い上がる前に昏倒させられる。
「この調子で行こう! 明日葉!」
「うむ」
次に行動を起こしたのは高島 真理(たかしま・まり)と明日葉だった。弓を構え、空を飛ぶ幻獣達へと狙いを定める。
「それがし達の役目は皆の補助」
「だから狙うのは……ここっ!」
放たれる二本の矢。それらは幻獣の翼へと刺さり、墜落という形でこちらへとやって来る。そこにすかさずティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)が駆け寄った。
「ごめんね、すぐ治してあげるから、ちょっとの間眠っててね」
優しく子守唄を歌うティア。その歌声に誘われて眠る幻獣の下に璃央と桜も駆け付けた。
「聖は回復って言ってたけど、この子達も治してあげていいよね。ティアさん、私も手伝うよ」
「わたくしも……こちらでならお役に立てると思います」
「ありがと〜、それじゃあこっちの子をお願いね」
ティア達が治療に奔走している頃、中央から大きな馬の幻獣が駆けて来るのが見えた。外見はユニコーンのようだが、瘴気にやられたのかその外見は漆黒となっている。
やって来る幻獣を発見したリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)がグロリア・リヒト(ぐろりあ・りひと)に呼びかけた。
「どうやら広場で戦っている人達だけでは手が足りてないみたいですね……グロリア、あの幻獣はオレ達で抑えましょう」
「分かったわ、リュース。これだけ人がいるなら遊撃に回った方が良さそうだしね」
「前に出るのか。なら俺が二人を援護しよう」
銃を持った永夜がこちらへとやって来た。
「冴弥さん。そうですね。お願いします。シーナ、あなたはここで皆と一緒にサポートに回って下さい」
「はい、リュース兄様。幻獣の皆さん……どうかその感情に支配されないで下さい。黒い心に支配されたままでは、きっとあなたの身に悲しみが訪れてしまうから……」
歌うように祈りを捧げるシーナ・アマング(しーな・あまんぐ)。彼女の祈りに同調するようにリュースと永夜の持つ黄色のクリスタルが輝きを増す。
「ロッドと篁さんが落ちると中々厄介ですからね。すみませんが……ここは通しませんよ」
リュース、グロリア、そして永夜。三人が同時に駆け出した。幻獣の力を得ている二人の方が速度としては速く、自然とリュースが最初の一撃を与える形になる。
「この速度を活かして……!」
さらに加速して強烈な突きをお見舞いするリュース。自身の速度すらも利用され、サラブレッドなど比では無いほどの巨大な馬体が衝撃で大きく仰け反った。
「機動力が売りであれば活かせば良い。そして……相手の機動力は削ぐ。すまないな」
再び駆け出そうとする幻獣の前に永夜が弾幕を張る。素早く移動しながらの射撃に幻獣は中々進む事が出来ない。それどころか、じわじわと体力を奪われていく。
「あれがクリスタルの力ね……さすがと言うべきだけど、私だって!」
ふらつきながらもロッドへと向かおうとする幻獣に、グロリアが剣で追い打ちをかけた。弾き飛ばして倒した所に、リュースの魔鎧であるロイ・ウィナー(ろい・うぃなー)の声が聞こえた。
「三人共、気を付けろ。側面から二匹、来るぞ」
「分かったわ! アルトリア、秋津洲、手前を!」
「えぇ、グロリア殿……共に!」
グロリアとアルトリア、二人の剣が音速の舞いを見せた。そして左右に続き、正面から秋津洲の一撃が加わる。
「周囲の瘴気を何とか出来ない限り、また暴れ出してしまうでしょう。ですから、少しの間眠っていて下さい」
「リュース、余り離れ過ぎるなよ。広場以外から来た幻獣のせいで前が捌ききれなくなっている。こちらに来る幻獣の数も増えるだろう」
「えぇ、分かってますよ。向こうはファフナーの対処が最優先ですからね。その露払い以外はオレ達で引き受けるつもりで行くべきでしょう」
グロリア達とは別の幻獣を倒し、素早く自陣へと戻るリュース。だが、確かに徐々に近づいてくる幻獣の数が増えて来ているのが分かった。
「とは言え、空の方は俺達では如何ともし難いぞ」
「確かに……冴弥さん、一度向こうの援護に戻って頂けますか?」
「あぁ、分かった。こっちは頼んだ」
リュースへと頷きを返し、永夜が後方へと戻る。
「シーナも一応弓を持ってますし、他の人と連携を取って何とかして欲しい所ですけど」
「そうだな……ん?」
「どうしました、ロイ?」
「いや、どうやらそれも杞憂だったと思ってな」
ロイはリュースの死角を補佐する形で纏われている。その彼の視界に入って来たもの、それは後方から現れた援軍の姿だった。
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