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第三章 「雷と炎――そして影へ」

「くらえぇぇ!!」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が【神の審判】で目の前の雑兵を蹴散らすと、ようやく≪雷鳴の魔人使い――アンダ≫の姿が見えてきた。
 グラキエスは頬を伝う汗を腕で拭う。
 ≪雷鳴の魔人使い――アンダ≫を守るように集まってくる雑兵。
「グラキエス様、ここは私が引き受けましょう」
「頼んだ!」
 エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)に任せてグラキエスは≪雷鳴の魔人使い――アンダ≫に向かって走る。
 追いかけようとする雑兵の前に氷雪比翼によって氷の翼を生やしたエルデネストが立ちふさがる。
「さて精々雑兵どもを相手に励んで、敢闘賞でも狙うとしましょうか」
 エルデネストの【パイロキネシス】による炎が雑兵達を襲う。
 エルデネストが着実に倒していっていると、突如レッサーワイバーンが降ってきた。
「ん?」
「悪魔よ、おまえの隙にはさせぬ」
 レッサーワイバーンのガディに乗ったアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)は槍をエルデネストに向けて宣言する。
 アウレウスの目からは敢闘賞は譲らないという闘志がメラメラ伝わってくる。
「やれやれ仕方ないですね……」
「いくぞ、ガディ!」
 張り合う二人は次々と雑兵を倒していく。
 その様子を離れた位置で見ていたロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)は戸惑っていた。
「何であんなに張り切っているんだろう……」
 仲間になったばかりのロアにはエルデネストやアウレウスの考えはまだ理解できなかった。
 そこへ怪我をしたガディが空から降りてくる。
 ロアは慌てて【ヒール】で治療にする。
「あまり無茶はしないでください!」
「すまない。だが男には時として無茶とわかっていても、やらなくてはならない時があるのだよ」
 そう言ってアウレウスは治ったガディに乗って再び雑兵に突撃していった。
「……やっぱりわかりません」
 ロアは首を振り、ため息を吐いた。

 グラキエスが【ブリザード】を放つと≪機晶ドール≫が≪雷鳴の魔人使い――アンダ≫を庇うように割り込んできた。
「俺の邪魔をするなぁぁぁ!」
 グラキエスが≪機晶ドール≫に向けて【ブリザード】を連続で叩きつけた。
 ≪機晶ドール≫の脚が凍りつき、腕が折れ、顔にヒビが入った。
 それでもなおグラキエスは攻撃を止めようとしない。むしろ勢いは増すばかりだった。
 守ることも避けることも許されず、ただ的になだけになった≪機晶ドール≫は、五体がバラバラになってようやく解放される。
 邪魔者がいなくなり、これで≪雷鳴の魔人使い――アンダ≫と戦えると思ったグラキエスは【ブリザード】の連発により悪くなった視界の奥で電流の光を見た。
 グラキエスが慌てて【ブリザード】を放つと、目の前で稲妻と氷の嵐が激突した。
 強力な稲妻は氷の嵐を押し返しながら、周辺に電流を走らせる。
 押し負けると判断したグラキエスは身体を捻って回避を試みる。耳を劈くような音が真横を通り過ぎ、右手がやけどしたような痛みを伴った。
 横に転がったグラキエスは続けざまに飛んできた稲妻を反射的に黒き翼で飛翔し躱した。
 グラキエスは右腕を庇いながら空に浮きながら、先ほどの攻撃がアンダの背後に控えている雲の巨人によるものだと理解する。
 反撃に出ようとするグラキエスだが、巨人の両腕から飛んでくる稲妻と、アンダの二丁のハンドレールガンを前に手も足もでじ、回避が精一杯だった。
 グラキエスはこのままではまずいと思った。その時、目の前で炎の嵐が燃え上がる。
「よお、グラキエス。さすがに二体一じゃつらいだろ。加勢するぜ」
 炎により視界が良好になった眼下にベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が立っていた。
 ようやく地面に降り立ったグラキエスは感謝を述べてから尋ねた。
「こちらに来ていいのかい?」
「まぁな。アリッサにはアンダの相手の方が適任だって言われたしな」
 ベルクがアンダの方を睨みつける。
 ベルクとグラキエスが話している間にアンダは弾を装填し、戦う準備を整えていた。
「短期決戦でいく。端から全力全開だぜ!」
「わかった。全力で暴れさせてもらおう」
 ベルクが【絶対闇黒領域】を発動させた。
 グラキエスが【天の炎】を唱え始める。
 アンダと巨人は伸ばした手をベルクとグラキエスに向ける。先端に電流が集まる。
 
 ――次の瞬間、両者の攻撃が正面から激突した。