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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの真実

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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの真実

リアクション

――妖精村、書庫。
 村の成り立ちについて調べていた者達にも、過去から戻ってきた者達からの情報が伝わった。
「……あの四つの世界は全部仮想空間だった、ってわけか」
 矢野 佑一(やの・ゆういち)が呟く。
「けど、これで他世界の事について書かれた本が無いってことがわかったよ」
 及川 翠(おいかわ・みどり)が納得したように頷いた。
「おかしいと思ったんだよね……一日書庫で四つの世界に関する事が書かれている本を探してみたんだけど、全く見つからないんだもん」
 書き手であるドロシーは異世界について、何も知らないのだ。知らないものを書くことはできない。
 だから、いくら探しても関連する書籍が見つからなかったのだ。
「少ない、というのならわかるけど、全くないのも変な話だものね」
 同じく、一日書庫で探していたミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)も頷く。
「う、うん。見つからないのは仕方ないよね!」
 アリス・ウィリス(ありす・うぃりす)が言うと、ミリアが呆れたように溜息を吐く。
「アリスが見つけられないのは当然じゃない……自分の興味のある本ばかり探していたんだもの」
「そ、そんなことないよ! ミリアさんひどいよ!」
「……あなた、ずっと私のそばにいたのに見えないとでも思ったの?」
 じとっとした目でミリアがアリスを見る。広い書庫、迷子になるのが怖かったアリスはずっとミリアの傍にいたのだ。
「まあまあ、そんなにアリスちゃんを怒らないであげてよミリアお姉ちゃん」
「うぅ……翠ちゃ〜ん……」
 宥める翠に縋るアリスに、ミリアが苦笑する。
「……ところで翠さん、なんで彼女はあんな距離を取っているんだい?」
 佑一がミリアを見て、翠に問いかける。
 ミリアは、佑一達から距離を取っていた。男性が居るからだ。
 諸事情により男性に苦手意識があるミリアは、ほぼ無意識レベルで距離を取っていた。
「ああ、気にしないであげて」
 翠が苦笑しつつ答える。
「……でも、何も見つからなかったのも痛いわ」
 プリムラ・モデスタ(ぷりむら・もですた)が悔しそうに呟く。
「そうだなぁ……少しでも手がかりになる物でも見つかれば良かったんだけど……」
 溜息を吐きつつ、佑一も呟く。
 佑一もプリムラも、翠達同様に一日をおとぎ話整理で過ごしていた。
 プリムラが村を守る為に何か手がかりを得たい、ということで調べていたのだが、得られた情報は芳しくない。
「ささやかな事でもあれば良かったのに……」
 プリムラが溜息を吐いた。
「そっちも芳しくないようだな」
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)がプリムラ達の様子を見て言った。
「そっちも、って事は真司さん達もか」
 佑一の言葉に真司が頷く。真司とヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)は村の成り立ちについてを調べていたのだが、成果は今一つだったようだ。
「色々と関連する絵本を探してみたけど、私は見つけられませんでした……」
「同じく。どうやらドロシーは話を聞く限りだと、『大いなるもの』との戦いの後眠っていたらしいし、成り立ちについては知らないようだ」
 ヴェルリアと真司が溜息を吐いた。
「村ができる以前の話だというと、これくらいしか本は無いらしい」
 真司が手に持った『樹の守り人』を見て呟く。
「ところで真司、それ【サイコメトリ】をかけたようですが何か見えたんですか?」
「ああ……見えた物は……恐らく『大いなるもの』との戦いの後だ」
「……詳しく聞かせて!」
 プリムラが飛びつかんばかりの勢いで真司に迫る。
「プリムラ、ちょっと落ち着いて……真司さん、聞かせてくれる?」
「ああ……と言っても、見えたのは昔の荒れ果てた地にいる人達の手伝いをするドロシーっぽい姿がぼんやりと見えたくらいだ」
「荒れ果てた地の? 復興作業かな?」
 翠の問いに「多分」と真司が頷く。
「……そう」
 少しがっかりしたように、プリムラが項垂れる。
「まあまあ、そこまで落ち込まない。まだ見落としている物があるかもしれないじゃないか」
「……そうね、そうと決まったらまた探すわよ、佑一」
 早速本棚へ向かうプリムラに、「はいはい」と返事をしつつ佑一が立ち上がる。
「よし、私達も見落としが無いか作業しますか」
「ええ、何か見つかるかもしれませんし。行きましょう」
 そう言って翠とミリアが立ち上がり、本棚へと向かう。
「あ、待ってよ翠ちゃん! 置いてかれたら迷子になっちゃうよぉ!」
 その後ろを、アリスが慌てて追いかけていった。
「ふむ、あの子も迷子になるんですか……親近感を覚えますね」
「いや覚えちゃダメだろ」
 ヴェルリアの頭を、真司は軽くチョップした。


「ふーむ……そんなことがあったのか……」
 双葉 みもり(ふたば・みもり)が用意したキャラメルティーを啜り、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が呟く。
 元々はこのキャラメルティーはドロシーと飲もうとみもりが用意した物であったが、今は正吾と鴉真 黒子(からすま・くろす)が啜っている。
「……以上が聞いたお話です。村の成り立ち、という事はドロシーさんも知らないようでした」
 自分の分のキャラメルティーをカップに注ぎつつ、みもりが言う。
 彼らは現在、先程みもりが聞いてきたドロシーの過去について話をしていた。
「自分の稼働年数がわからない、っていうのも……あれだ。寝てたからわからないんだってよ……ほれ、食えよ」
 黒子が用意したホットケーキを差し出しながら言う。

――ドロシーは、『大いなるもの』が封印された後、この土地で復興作業に当たっていたらしい。
 しかし、その作業は長い間続いた。長い時が流れ、その当時居た者達も変わっていく。
 やがて、機晶姫である彼女をメンテナンスできる技術を持つような者が減っていったのも、仕方がない事だ。
 そのまま稼働していたとしたら、いつしか機能を停止してしまうかもしれない。当時の者達はそのように考えたらしい。

「その結果が、休眠か……」
「ええ……ドロシーさんは『四賢者』の方から『原典』を託されていました……当時の方々は機能停止をされてはいけないと考えたのかもしれません」
 みもりが一口、カップを啜る。
「で、その後花妖精達に起こされるまでの間ずーっと寝ていたから時間経過もわからなくなってたんだってよ……そりゃ無理もねーよな、時計も何もなけりゃわかるわけねーよ」
 黒子の言葉に、正吾が考える仕草を見せる。
「時間の概念がない、というのもそう言うところから来ているのかもしれないな」
「どういう事です?」
「……俺は時間の概念がない、という事はこの村で時間がループしていたり、止まっているんじゃないかとも思ったが、考えてみればこの村には普通に朝が来て夜も来る。季節の巡りもあるらしい……それにそんな過去があった、ってことは時間の流れは一応あるんだよ」
「……えっと?」
「そんなんもわかんねーのかよ、お前」
 首を傾げるみもりに、黒子が言う。
「解るんですか?」
「考えるのもめんどくせぇ」
 黒子の言葉に、みもりが溜息を吐く。
「例えば、『一秒』とは何か、とか時計無しで説明できるかい?」
 そんなやり取りを見て苦笑しつつ、正吾が言う。
「……難しいです」
「無理」
 みもりは少し考えて、黒子は考える様子を微塵も見せず答える。
「そういうことなんじゃないか、と思う。多分、時間の概念を知らないのは花妖精の子供達だろう。しかしドロシーさんに時間を知る術は無い。この村に時計といった物は無いからね。教えようにも教える事が出来ず、時間の概念について触れることがなくなっていったんじゃないかな」
「それで時間の概念がなくなっていった、と」
 そうかもね、と正吾が頷いた。
「まあ、あくまでもドロシーさんの話を聞いた上での想像だけどね……村の成り立ちはまだわからないけど、一つ前進したかな」
 空のカップを置いて正吾が言った。