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リアクション
第11章 水の都の駅舎に相応しくあるには…Story3
工事開始…2日目。
内装の工事のみ完成した雑貨店に、グラキエスとアゾートが商品棚や、椅子を並べる。
カウンターや照明の配置は、リーズと陣が連れている技士が、夜中に作業を行い終わらせてくれた。
「車輪つきの棚を選んで正解だったな…。品の入れ替えをしたりする時、レイアウトしやすくなる」
「建築って面白いね。素材ごとの役割があって、中には隠れて見えなくなるのに。それがないと他の工程に進めないし。別のもので代用しようとすると、きっと失敗しちゃうんだろうね」
配線と枠だけだったのに、まったく別のもののようになった。
雑貨店を眺めながらアゾートは、錬金術とどこか似てるかも…と考える。
休憩がてら、シートの上に座り込む2人のところへ、月崎 羽純(つきざき・はすみ)がやってきた。
「2人が全部運んでくれたのか?」
「ガラス棚は少し重かったな…」
「うん、重かったよ。まぁ、見てるだけってのも退屈だからね」
「ありがとうな」
礼を言うと羽純はマネキンに、静香の写真をプリントしたTシャツを着せる。
「シャツを置けるのは左だけだ。もう片方はメシエたちが使うらしい」
「分かった」
「こちらも並べるとするかな」
大事そうにグラスを抱えたメシエは、傷をつけないように、ゆっくりと配置する。
「高そうなものばかりだな…」
「庶民も買える値段だよ。高額なものはないね」
「(いや…高いだろ、絶対に!)」
メシエが言う庶民でも購入可能な価格が、羽純にもわからない…。
彼的に庶民も…というのは、ブルジョアに近い人々のことなのだろう。
ジオラマショップの担当であるアウレウスの方は、ようやくクロス工事に入ったところだ。
養生シートを床に敷き、壁紙を広げる。
「たわまぬよう、丁寧に張らねば…」
「休まなくて平気か?」
「片側の壁の工事を終わらせた後に、休息を取ろうかと思います!主もご無理をなさらぬようにっ」
「俺は先に、別邸へ戻っているな」
「はいっ、おやすみなさいませ!」
アウレウスは主の姿が見えなくなるまで見届ける。
「あのー…イコンで運びきれないので、取りに来てくれませんか?」
途中で落としてしまいそうだからと、玄秀がエースたちを呼ぶ。
「駅舎の入り口まででいいよ、ありがとうな」
「もみの木なんてどうするんですか?」
「クリスマス・イルミネーションにするんだ」
「なるほどですねー…。(だからあのレンガの入れ物があるんですか…)」
駅中の待ち合わせ場所となる予定エリアをちらりと見る。
「シュウ、土が足りないんじゃないの?」
「駅舎を建設する時に、掘り起こした土がその辺りに残っていそうだから。イコンで運びましょうか」
「俺たちはもみの木を鉢に固定するか。エオリア、一緒に木を支えるんだ!」
「うわっ、重いすぎます…っ」
「技士さん、木を鉢に固定してくれ」
「ほんじゃ、ぱぱっと片付けるかな」
金具月のロープを木に巻きつけ、鉢の底にある金具に止め具をひっかけ、固定する。
「エオリア、もう手を離しても大丈夫だ」
「はぁ〜…木ごと倒れるかと思いました…」
「土、持ってきましたよ」
「ロープの部分を隠さなきゃな」
パートナーを休ませ、エースは技士たちとスコップを手に、コンテナの中の土を鉢に敷き詰める。
「木に電飾と飾りをつければ完成かな…」
エースは脚立に上り、もみの木を電飾の飾りつけを手伝う。
「天辺には星型の明かりをつけて…、その下の周りにはお花のライトもあるといいね」
箱やサンタの人形などの小さな小物もつけ、技士にカセットボンベにつないでもらう。
「ヴァイシャリーなら、なんかいそうだよな…」
普段の待ち合わせ場所としても活用するスペースなのだから、それに相応しい雰囲気で仕上げてもらった。
人魚姫のようなゼンマイ仕掛けの大時計を見上げ、湖に住まう姫がいれば、こんな姿だろうか?と想像する。
「駅の近くにあるのは湖だけどさ。海じゃなくっても、ヴァイシャリー湖なら住んでいそうな感じするし」
「エースさんの想像の中にのみ…ですね」
「想像するだけならタダだからな」
「あははっ、まぁそうですけどね。あの人魚って1時間おきに、ハープの音色を鳴らす仕組みになってるそうですよ」
「ゼンマイって…巻き忘れたら時計が止まるってことか?」
「造るのは次の機会に回すにしても、最初の工事の時に提案しておくべきでしたね」
電気を扱う仕組みにするとなると、大規模な工事を行うことになり、また別の機会に作業するはめになりかねない。
ゆえに、ゼンマイ仕掛けの大時計にするしかなかったのだ。
「巻き忘れなきゃ大丈夫だって!」
「そうかなー…」
「悔やんでも仕方ないだろ?坊やが組み立て入る長椅子の他に、テーブルもあって、ゆっくり待てる場所になったじゃないか」
「ねぇエースさん。駅舎って禁煙?」
「当たり前だろ。もちろん車内も全部禁煙だな。あのシミがつくのはちょっとなー…」
白い煙が充満し、黄ばませられるのはイヤだ。
車内や駅舎内だけでなく、駅舎の外も禁煙にするべきだと言う。
「そういうのは、常にアナウンスで流したほうがいいですね」
「だな…」
後ほどラズィーヤに要望を出しておくことにした。
「駅舎の中は水気がないようから、木で十分ですね」
「それって、本物の木だよな…?」
「えぇ、木は冷えすぎないですから、座りやすいはずです。長く使えば使うほど、色合いが深くなっていきますよ」
崩れないように玄秀はしっかりビスで固定し、曲線型の長椅子を組み立てる。
駅車内の店舗の内装工事が進む中、魔列車は撥水用コーティング剤を塗る工程へ進んだ。
雨風で塗料が剥がれないよう、ルカルカの提案で塗装した上から、さらに重ね塗りをする。
その作業も数日かかり、全ての工程が終了する頃には、クリスマスの時期にさしかかっていた。
駅に飾るパネルを作ろうと、記念撮影を行うべく月夜は、魔列車の前へ皆を呼び集める。
「カメラのセットよし…」
自動で撮れるよう、タイマーをセットする。
月夜自身も写ろうと皆のところへ大急ぎで駆け寄る。
「皆、笑ってー!」
パシャリッ。
発掘を始めたあの真夏から数ヶ月、長きに渡り協力し合った仲間たちの笑顔が、後に1枚のパネルとなり…、駅舎内に飾られることとなる…。
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