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第二章 墨染めモンスター

 せっかくの雑煮大会を盛り上げたいと考えたレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、とにかく大きな半紙を広場に広げた。墨で汚れないよう、体操着に着替えて筆を振るうという力の入れようだ。
 隣ではミア・マハ(みあ・まは)も半紙を広げ、墨の準備をしている。
 少し離れたところでは、相変わらず餅つきとは思えない破壊音が響き渡っていた。
「とりあえずボクたちは、書初めに専念だね」
「そうじゃな」
 二人は他の生徒たちと共に、静かに半紙に向かい合う。
 レキがその大きな半紙に思う存分書き上げた今年の目標は「もふもふ」。
「ずいぶんと意気込みを感じる文字じゃな」
 ひょっこりと覗き込んだミアが興味深そうに呟いた。
「うん。もふラーとして、まだ見ぬ生物をもふるっていう大きな目標だからね」
「ふむ。まだまだ生物たちの世界は幅広いからのう」
「もしかしたら、ニルヴァーナにも行けるようになるかもしれないし! きっと向こうの世界にももふもふした生物がいると思うんだ!」
 パートナーの目標が込められた非常に力強い筆に、ミアは目を細める。
「……ところで、ミアは何を書いてるのかな〜?」
 一方のミアの半紙にはお椀型の二つの山が描かれていた。
「これじゃ」
 レキの問いに、ミアは胸を張って答えた。
「え?」
「だから、これじゃ。アーデルハイトもぼんきゅっばーん!になったのじゃ。ならば、わらわがそうなってもおかしくは無い筈じゃ。目指せ巨乳!」
「な、なるほどね……」
「だが、他の者も加わっている作品の中に巨乳とは流石に書けぬからな。図で示してみただけのこと」
「発想がそっちにいっちゃったんだ……」
 ミアの言葉に思わず呆れつつも、一生懸命なその姿を見るとどうかその目標が達成されてほしいと願わずにはいられないレキ。
 周囲の生徒たちも次々に作品を書き上げ、お互いに見せ合い意見の交換を始めていた。
「いやー、これだけ揃うと圧巻だね! やっぱり書初め大会も一緒にやってよかった」
 そこに響いた高根沢 理子(たかねざわ・りこ)の言葉に一同が振り返る。
「しっかし、大きい作品だね」
 レキの作品を見た理子が感嘆の声を漏らす。
「せっかくの書初め大会だからね。もう少し飾り気も足して、みんなで雑煮大会を盛り上げる作品にするよ」
「ありがとう。じゃあ書初め班はレキとミアに任せて、あたしは巨大チキンを狩りに行ってくるよ」
 そう言って去っていく理子を見送ると、また一同は各々半紙へと向き直るのだった。
 集中して書に向かう書初め班のメンバーには、迫り来るもち米の不穏な足音が聞こえなかった。
「ぎゃー!! 今年の目標が、べとべとになっちゃったあ!!」
 一人の生徒の叫び声に、ミアたちは一斉に顔を上げた。
 やっと書き上がった作品の上を、気ままなモンスターに通過されたその生徒の書初めは、「パラミタ食べ歩き」とやたら達筆な毛筆文字の上に余すところなく米粒が付着していた。
 モンスターが墨をひっくり返し、辺りにもち米と墨を撒き散らしながらホップステップジャンプする様を見たレキは、慌てて書初め班のメンバーに声をかけた。
「みんな! とりあえず作品持って一旦下がって!」
 メンバーが下がったのを確認したレキはサイコキネシスでモンスターたちを吹き飛ばし、無事に書初め班の作品が完成するのだった。
 と同時に、参加者たちは一斉に振袖や袴に着替えるべく走り出していった。