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リアクション
「蒼空学園襲撃だ! 誰か止めてくれ!」
華佗 元化が叫ぶ。ツァンダ上空を飛ぶレン・カースロットの後をシオン・グラードとナン・アルグラードが追っているのだ。とうていひとりで追い切れるものではない。
「まずは分断だ。いいな?」
影から接近する三人を眺めていた蔵部 食人(くらべ・はみと)が、声をかける。いつでもどうぞとばかりに、蔵部 千衛(くらべ・ちえ)が頷く。
「まずは降りてきてもらおうか!」
食人が叫び、校門の前に立ちはだかって槍を突き出す。その狙う先には、空を飛ぶレンだ。
「……レンは俺が守る!」
その一瞬だ。レンの後を追うように走っていたシオンが一瞬で距離を詰めた。その手の中にあるのは、下手をすれば彼自身よりも重量がありそうにすら見える燃えさかる槌である。
「そう来ると思ったぜ!」
がきん! 食人が掲げた腕に一瞬で盾が展開し、振り上げられた槌を受ける。
「あっ……ちいじゃねえかっ!」
勢い空中に跳ね上げられながら、食人が体をひねる。長く伸びる槍がシオンの足下に突き刺さり、衝撃を止めると同時に鋭い突きが繰り出される。
「レンの邪魔をするな!」
風車を思わせる力強い動作で振るわれる槌。受けるわけにも行かず、牽制しながら後ろへ下がる。
そこへ、
「にゃああああああああ!?」
長く尾を引く悲鳴と共に、猫のような獣人が跳んできた。
「チェストー!」
食人に届く直前、千衛の鋭い面打ちがそれを弾き落とす(つまり、見事に眉間を撃ち落とした)。獣人は声を上げるまもなく、地面にめり込んで動きを止めた。
「峰打ちです。……それよりも!」
腰を落として刀を構える千衛の剣先が示すのは、獣人を投げた本人、つまりナンだ。
「刀剣を持ちながら、人を傷つけるために使うなんて言語道断!」
シオンのフォローのために走るナンに向けて、抉り込むような突きを放つ。獣人をはたき落としたのとは違って、容赦のない攻撃だ。ナンはそれを大剣でいなす。返す刀で切りつけなかったのは、千衛に続く人影の攻撃に対処するためだ。
「その通りだよ。人を傷つけるために武器を振るうなんて、正しいことじゃない!」
高峰 雫澄(たかみね・なすみ)が月をなぞるような軌道で斬りかかるのを、大ぶりの剣で牽制して防いだ。
「一対二か。悪くない」
そうして、にやりと、普段は浮かべない笑みを浮かべた。
「なるほど、それぞれを分断する作戦だったわけか」
……と、校門前のシオン。にっと笑うだけで肯定を示す食人。
「情けない。そのような仮面に意識を乗っ取られるとは」
対峙する二人の横合いから、声がかけられた。シェスティン・ベルン(しぇすてぃん・べるん)が光によって形作られた刃を胸の高さに構えている。
「何と言ってくれても構わん。俺はレンのために戦うし……レンだって、同じさ」
「私たちの邪魔しないで!」
上空を飛ぶレンの掲げた手から、稲妻が次々に放たれる。それはシオンとナンに対峙する4人を狙ったものだ。
「くうっ!?」
伸ばした槍に向かって跳んでくる雷を受けて、あるいは苦しげにうめき、あるいは膝を突いている。
「悪いな。一発は受けてもらわなきゃ、オレが狙うチャンスは来ないからな」
ふと、レンの頭上で声がした。
「……えっ!?」
はっと上を見上げたレンに影を落とすように、魔装戦記 シャインヴェイダー(まそうせんき・しゃいんう゛ぇいだー)が落下の勢いで接近していた。
「レン!」
「おっと、こっちの相手も忘れずに頼むぜ!」
稲妻を受けて崩れた体勢。片膝をついたまま、食人が槍を振るう。
「……邪魔をするなら、先にお前たちを片付ける!」
ごうっ、とシオンの鎚が赤熱する。威嚇にすら見えるそこに、シェスティンが接近。肩を狙って容赦なしの斬撃。
「貴様とは、こんな仮面抜きで決着をつけたいと思っていたがな!」
ガッ! と火花が散る。もちろんそれはシオンが鎧を着ているからであって、まさか彼が鎧を着ていないなんて言う人は居ないだろう。ともかく、肩に負傷を受けながらも、シオンは槌を振るうために重い上半身ではなく、下半身頼りの回し蹴りでシェスティンをはじき飛ばした。
「一筋縄ではいかないか……」
「本気で戦っているなら、さすが、という所なのだがな」
対峙する二人に向け、今度はシオンの槌が振り下ろされる。身をかわす二人を、地面に打ち込まれた鎚から噴き上がった巨大な火柱が包んだ。
「ナンを先に止めるんだ。こいつが正気を失っているのはまずい!」
追いついた元化が叫びながら、拳を放つ。
「一対三か? はっ!」
敵が増えることでむしろ枷が外れたように、ナンが武器を振るう。暴風のように乱れる剣が、元化を跳ね飛ばした。
「もうおやめなさい!」
大ぶりの剣の間を縫って、千衛の刀が素早く振るわれる。が、強化人間のバリア頼りの防御が、リーチの差で体重を乗せきれない刃を反らしてしまう。
「……浅い!」
地面ぎりぎりから跳ね上げられる一撃を、読み切ったように勢いが乗る前に跳ね上げる雫澄。
「まだ人を傷つけるつもりか、ナン・アルグラード!」
「嫌なら俺の前に立つな!」
大きく掲げる形になった剣を逆手に構え、地面を抉るほどに振り下ろす。さすがに受けられるものではない。千衛と雫澄は左右に跳んでそれをかわした。
「剣をこんな風に使ってる人に……!」
悔しげに唸る千衛。その声を聞いて、雫澄の決心が固まった。
「千衛ちゃん、全力で仮面を狙って」
「……でも」
「一撃で決めれば防御のことは考えなくていい。華佗先生、後でお世話になりますよ」
「……な、何がだ、おい、やめろ!」
制止に構わず、二人が駆け出す。千衛の構えは大上段。体を守るつもりなどない必死の体勢である。
「そんなものが!」
長大な大剣を持つナンが有利に決まっている。袈裟斬りに刃が振り下ろされる。当然、千衛が接近する前に、その一撃が決まるはずだった。
「……ッ!」
その剣に向け、自ら突っ込んでくるものが居るとは思わなかった。魔鎧とフラワシを頼りに、雫澄が飛びつくように剣を受け止めたのだ。勢いが乗り切る前とはいえ、相当な衝撃のはずだ。
「おまえ……!」
「チェスト!」
愕然とするナンに向けて、千衛の刀が振り下ろされる。その剣先が、黒い仮面を断ち切った。
「刀は人を傷つけるためにあるわけではありません……かわいく着飾って愛でるものです」
「……そういうのは、特殊性癖って言うんじゃあ……」
と、言い残して、雫澄は意識を失った。
シャインヴェイダーがごく小さな短剣で狙ったのは、レンの背後の翼だった。
「……やだ、私とシオンの時間を邪魔しないで!」
「何の話だ!」
レンの体勢がぐらりとかしぐが、翼が削り取られるほどではない。反射的に炎の魔法を放つ。
「こちとら精密装置だぞ!」
本人の代わりに空飛ぶ箒を盾にして、炎に巻かれる。完全に体を重力に任せながら、シャインヴェイダーが呪文を口にする。
「天のいかづちよ!」
雲間から落ちる雷が、レンを打った。
「きゃあああああ!」
傷つけられた翼が耐えられるものではない。たたき落とされるように、レンの体が落下を始めた。
「レン!」
「隙アリだ!」
仮面を着けているとは言え、悲鳴に反応してしまうシオンに食人が迫る(火柱に飲まれたからといって、たいしたダメージがなかったのだ)。
「つうっ!」
その場に鎚を手放し、振り上げた腕で槍を受ける。取り付けられたシールドが金属がこすれる悲鳴をあげた。
「そのままでいろ! もろとも切り捨ててやる!」
「はあっ!?」
背後からの声に食人が反応するよりも早く。シェスティンの持つ光条兵器が、二人の間をすり抜けるようにシオンの仮面を両断した。
「……なんて危ないことを……」
「手元と気分が狂わなければ蔵部 食人まで斬ったりはしなかったぞ」
「手元はともかく気分は信用ならねえなあ」
……と、二人が安心感から来るミニ漫才を展開している間に、シオンは走り出している。落下するレンを受け止めて、その仮面を外したのだ。
「わわっ!? ……あ、あ……私、学校がなくなれば、もっとシオンと一緒にいられると思って……」
「ああ……もういい。いいんだ」
涙をこぼすレンを、シオンがしっかりと抱く。戦ったものたちが、大きな安堵感と、人によっては軽い嫉妬を覚えながら、それを見守っていた。
なお、シャインベイダーは柔らかい芝生の上に落ちたのでたいしたケガはなかった。
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