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雪の季節の恋の病

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雪の季節の恋の病

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1/〜空から〜

 火村 加夜(ひむら・かや)は、強い風の吹きつける、冬の寒空を飛んでいた。
「この辺りで、その狐の使い魔さんは目撃されたんですね?」
 背中の飛行翼をはためかせ。風の中、姿勢を制御する。
 手にした携帯電話からは、学校に残ってオペレートをしてくれている卜部 泪(うらべ・るい)先生の声がノイズ交じりに、彼女の耳に届く。
『そこがダメなら、次は南南西の方向に行ってみてください。そっちにもいくつか目撃情報があります』
「わかりました」
 与えられた指示へと了解である旨を伝え、顔を上げる。
 と、遠くの空に、影をひとつ確認し、彼女はじっと目を凝らす。
 あれは──箒。空飛ぶ箒に跨った、少女だ。
「エリシアさん」
「火村加夜。どうですか、こちらには、件の使い魔とやらは」
 その少女の名は、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)。彼女の問いに、加夜は首を横に振る。
 目覚めているだけで想いあう者たちの体調を悪化させてしまう『絆患いの神』。その地祇が使役する、いや、本来するはずの使い魔は果たして、どこに行ってしまったのだろう?
 放っておけば症状をまき散らすかもしれないし。使い魔を置き去りに、無理やり地祇を眠りにつかせるわけにもいかない。
「うちの子がいくつもああやって罠を張っていますけれど……見つけないことには追い込むこともできませんしね」
 エリシアが、目線を下に向ける。加夜もそちらを見る。
 いそいそと、落とし穴を掘っているノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)がそこにいた。これで、十か所目にもなる。
 地祇の引き起こした恋の病に倒れたパートナー、おそらく今頃は家で妻に手厚く看護をされているであろう御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は、今ここにはいない。
 そしてエリシアもノーンも、ふたりとも彼が寝込んでいることを知らず知らずに、捜索に参加している。
「私は今度は南南西に向かおうと思います」
「ではわたくしは、あちらに」
「お願いします、またあとで合流を」
 会釈を交わしあい、ふたりはそれぞれの方角に向かう。
 彼女らの眼下で、完成した落とし穴に満足げに、ノーンが額の汗を拭っていた。
「また夜には、雪になるかもしれませんわね」
 自身舞う空を見上げ、エリシアはそう、ぽつりと言った。
 冷たい風の中を、彼女と箒は抜けていく。