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追ってっ!ロビン・フッド

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追ってっ!ロビン・フッド

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 第1章 - 『謎と謎』

 1
「用意してきたよー、ロザリン」
 桐生 円(きりゅう・まどか)が額縁を抱えて、物々しい雰囲気の回廊に表われた。
 昨日『魔法の額縁』が見つかった直後にロザリンドが円にすり替え用の額縁の手配をしていたのだ。
 絵画そのものも描画のフラワシによって複製した為、違いは無い。
「まるで本物みたいですね」
「ほとんどね。プロが見たら流石に分かっちゃうかな」
 言うと、円は大胆にも本物の額縁に光学迷彩の布を被せ、贋作の額縁と入れ替えてしまう。
「本物の額縁はとりあえず警備班に渡すしかないかなあ……」
「発信器が付いてますから、迂闊に持ち運べないですからね」
「それじゃ、あとはあたしたちもロビン・フッドさんが表われるまで待機してよっか」
 七瀬歩が言う。
「ロビンもこの前のチビちゃんたちと関係あるのかな、やっぱり」
 円が小さく漏らした。
「だとしたら、ちょっとでも協力したいと思うんだけどね」
「状況が状況だから……どうなるかな」 
 警備の人員で賑やかな回廊を見回して、歩が呟いた。


 2
 夕刻。
 逢魔が時。
 普段ならば人影も引き始める時間に、美術館は喧騒に包まれていた。
 昼と夜の混じり合う時間に、人々の騒ぎに紛れて、美術館の周囲を走る影があった。
 誰かがおかしく思ってその影を追う。
 しかし先に見えるものを確認してから、なんだ、と呟き――すぐに視線を戻した。
 にゃあ、と鳴く猫が三匹、居ただけだから。

 
 3
 薔薇十字社の私立探偵であるリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)は、卜部 泪(うらべ・るい)から借り受けた予告状を眺め、考えていた。
「ふむ。それで、貴女はどう思います」
「場合によっては、ロビン・フッドに協力しちゃってもいいと思っていますよ」
 悪戯っぽく笑って、小声で言う。
「でしょうな。美術館関係者が黒幕という事も有り得る。リリとしては、何より額縁にまつわる謎が興味深い。盗まれるかどうかは二の次と言っても良い」
「探偵さんがそんなこと、言っちゃ駄目じゃないですか」
 泪がおかしそうにこぼす。そこにリリの助手であるララ・サーズデイ(らら・さーずでい)が歩み寄る。
 ララは泪に優雅に一礼してから、リリに向き直った。
「額縁は本来あった回廊から別室に移されているらしい。場所までは聞きだせなかったが、警備班が守っているようだ」
「警備班もナーバスになっているのだろうな。そう簡単に隠し場所を教えてはくれないだろう」
「それにしても、訳ありの額縁なんか盗んでも幾らにもならないだろうに……」
 ヴァイシャリーで聞いた限りの情報では、モンスターを顕現させたともいう。
 その力こそがロビン・フッドが、或いは黒幕が欲しているものだと考えられるが。
「それなのだよ。義賊と呼ばれているようだが、今度の仕事ばかりは目的が違うのだよ」
「不特定の誰かに施しをする為では無い、と?」
「額縁は対象を絵にして閉じ込める封印装置のようなもの、と考える事もできる。絵画の中の何かを呼び出す、というだけでも動機はあるだろう」
「例えば――」
 泪が声に振り返る。
「もうどうしても会う事のできない誰かと再開したい、だとか――尤も、その人の肖像画を持っていればの話ですけどね」
 幼くして亡くなった一番下の妹、アリーチェには会いたいかもしれない、私なら。
 ロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)が言った。
「会いたい人の肖像画などを持つ人には、垂涎の秘宝かも知れませんね。事情によっては、力添えするのも吝かじゃない」
「だから、きっと、ロビン・フッドにはこの特性を利用して、困っている人を助けたい……という思惑があると思うの」
 できる事なら、ロビンと実際に話してみたいものだけど。アリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)が付け加えた。
「うむ。探偵と事件の間に惹かれ合う何かがあるように、怪盗と品々の間にも惹かれ合う何かがあるのだろう」
 ロビン・フッドを追ってみるに越したことは無いな。リリが呟いた。