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リアクション
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「そういうわけでさ、なんか騒がしいのよ、こっち」
『それは、なんというか山葉校長も災難な話だな』
リーシャ・メテオホルン(りーしゃ・めておほるん)は蒼空学園の騒動について電話に向かって語りかけていた。電話の向こうのマグナ・ジ・アース(まぐな・じあーす)がパートナーに対し釘をさすように、
『状況に流されてあまり無茶なことはするなよ』
「無茶なことはしないわ。回答を送ったくらいよ」
『……送ったのか』
「ええ、まだ読み上げられてはないけど」
折よく校舎内に放送の声が響いた。
『おかしな放送を挟んで、こんにちは。ああいう放送は正直困るんで、放送委員の人たちにはきちんと仕事をしてほしいですね』
どの口が言うか、という声が聞こえる。よく通る声だ。
『あ、山葉校長への要求は今もどんどん増えていってるので、山葉校長は自分の格好について検討してみてくださいね』
余計なお世話だ、という声が聞こえる。本当によく通る。
『では、第二回の回答発表いきましょう。この方は三つ送ってくれましたねー。まず一つ目、「蒼空学園を廃校させなさい」。思い切ったの来ましたね。次に二つ目、「蒼空学園の全部の組織をぶち壊そう!」。なるほど、いっそパーッとやって作りなおすのも面白いかもしれませんね。では三つ目ですね、「一狩り行こうぜ! 場所は百合園女学院だ」。いやー正直こわいんで私は遠慮したいですね』
これこれ、とリーシャが言えば、電話からは呆れたように、
『……無茶なことをするなと言っただろうに』
「遅いのよ。それにどうせ単なるアンケートだし、なら無茶苦茶な方が面白いでしょう」
単なるアンケートか、とマグナがリーシャの言葉を繰り返した。
『単なるアンケートならいいが』
「確かにいかにもなにかありそうだとは思ってるわ」
『気をつけろよ』
「言われるまでもないわ」
軽い口調で放送はまだ続く。
『もう一ついきましょう。「蒼空学園校長の権利の譲渡」。おっと大がかりなの来ましたね。ふーむ、なるほど、現状一番大きい要求ですかね。しかし、どうでしょう。例えば爆弾片手にこれを要求し、権利を手に入れたとしてみなさん納得するでしょうか。しないでしょうね。そうなれば、同じような手段で校長の座を奪い返されてしまう。少し難しいですね。では、今回はこんなところで。回答、お待ちしております』
「アンケートにはああ書いたけど、要するに僕がほしいのは彼の人望さ。蒼空学園校長、山葉涼司のね」
炎羅 晴々(えんら・はるばる)が楽しげな笑顔で言った。
「放送の言ったことなんて百も承知だよ。権利を手に入れたって、その維持は難しいってね。誰も納得しないものね。納得させるにはなにが必要か。人望なのさ」
例の、クロセルの扇動によって山葉校長の服装についての要求で沸いている教室である。いきなり現れて語りだした晴々を前に、クロセルと優奈はその話にじっと耳を傾けている。ユニやその他の生徒たちは、うさんくさげに、しかしクロセルと優奈が話を聞くならとりあえずは話を聞いてやろうという態度で口を挟まず聞いていた。
「彼が校長であり続けているのはその人徳によるものだろ? それがなきゃ、校長の権利なんて意味がない。逆に言えば、それがあれば権利なんて必要ないとも言える。だから、求めるべきはその人望」
ここに来て初めてクロセルが口を開いた。
「それで? 具体的にどうやって手に入れるんですか?」
「校長に成り代わるのが一番だけどね、さすがにそれは難しいし、そうだなあ、言うことを聞かせて裏から支配できれば、と思ってるんだけど、どうかな? ねぇ、ピアノ」
晴々の傍らでつまらなそうにしていたピアニッシモ・グランド(ぴあにっしも・ぐらんど)が、晴々に突然意見を求められ、ん、と首を傾げた。少し考えるような仕草をし、あきらかになにも分かっていない様子でこくりと頷いた。
「うん、マスターの言ってることは正しいことなのよ?」
ほら、と晴々が笑って、
「ピアノもこう言ってることだし、ね」
「言いたいことは分かりましたけど、なんで俺たちに?」
「校長に言うことを聞かせたいのは、君たちも同じだと思ってね」
「具体的な手段をまだ聞いていませんけど」
晴々は口端を上げて、小さく、
「犯人、なにか持ってるんだろ?」
ユニが隣の優奈へ振り向こうとする。首が動き出そうとして、ぴたりと止まった。
「そのまま」
「う、うん」
優奈がユニの手を握った。話がまどろっこしい。カマかけだ。知っているのであればもっと直接的な言葉で協力を持ちかけてくる。
晴々は特に反応を見せないクロセルの様子を窺う。
「ま、いいか」
クロセルが言った。そして、教室に集まった生徒に向き直り、
「そろそろ俺たちも行きましょうか」
ざわざわと、教室が騒がしくなる。
「人を通して要求伝えるんじゃなくて、俺たちが直接伝えましょう」
にっこり笑って、
「というわけで、放送室を乗っ取りましょう」