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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 2『今のボクを誰も抜けないんだな』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 2『今のボクを誰も抜けないんだな』

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「それでは洗濯についてですが……最近は洗濯機という便利なものが出来て、私も随分と楽をさせてもらっています。
 イルミンスールのは少し特殊なようで、もしかしたら戸惑われるかもしれませんね」
 料理教室の中で出た大量の洗濯物を前に、ミリアが洗濯のコツを教授する。とはいえミリアの言う通り、イルミンスールにも洗濯機があるため(いわゆる電気で動く洗濯機ではなく、その辺りはイルミンスールらしく、水泡の精霊と吹風の精霊の協力の下、魔力で動く洗濯機だったりする)、用法と用量を守っていればそう大したことにはならない、はずなのだが。
「……ちょっと待った。フリッカ、それいくらなんでも洗剤入れすぎじゃないか?」
「え? 水は多ければ多いほど、洗剤は多ければ多いほどいい、じゃないの?」
 既に何杯目になるか分からない洗剤を投入しようとしたフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)が、止めに入った緋王 輝夜(ひおう・かぐや)へ何がおかしいのかといった顔をして言う。
「いやいや、そんなわけないだろ。入れ過ぎたらベタベタになって着心地悪そうだし」
「だから、そうならないように水で洗い流すんでしょ?」
「……だぁあ、会話が噛み合わない……フリッカの家が大層な所だって話は聞いてたけど、これほどなんて……」
 はぁ、と輝夜が肩を落とした所に、ミリアとサポートに回っているエイボンがやって来た。
「あっ、いい所に来た。ミリア、ちょっとこの子にいわゆる普通の家事ってやつを教えてあげてよ」
「普通って……そりゃ確かに、なんかズレてるかなって気は前からしてたけど、そこまでズレてるわけでもないんじゃないの?」
「いや、十分ズレてるから。この機会にミリアにちゃんと教えてもらいなさい。
 ……ま、あたしも人に言えるほど上手いわけじゃないんで、一緒に教えてもらうけどね」
「ええ、どうぞ。
 では、コツとしては簡単に言うと『適量になるように洗濯する量を計算して洗濯をする』ですね。意外と頭を使う作業なんですよ」
 たとえば、洗濯物を詰め込んで洗剤を大量に入れて綺麗になるかといえば、ならない。洗濯物が少ない場合も、だからといって洗剤の量を減らし過ぎたら綺麗にはならない。洗濯機にもよるが、一度に入る水の量はだいたい決まっている。その量に合うように、洗濯する物を適量に分けた上で洗濯する必要があるのだ。
「な、なるほど……勉強になるわ」
「このくらいでいいか、じゃダメなのね。うーん、考えたらなんだか頭痛くなりそう」
「難しく考える必要はありませんよ。何度か経験すると、その内自然と適量が分かってきます」
「その境地に至るまでに、どれくらいかかるかしらね……」
 真剣な表情でミリアの話を聞くフレデリカを横目に、輝夜がぽつり、と呟く。
(あたしがもっと上手く家事が出来たら……あいつは喜んでくれる、かな。
 なんか最近身体の調子、悪いみたいだしね)

「……おや、もうこんな時間でしたか」
 その頃、カフェテリアに行った輝夜を見送り、一人自分の研究室に篭っていたエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は、時計を見てようやく今が何時かを知る。最近は侵食の影響か身体が疼く上、様々な感覚が鈍くなる、あるいはしばらくの間消えるといった現象が起きていた。
(……やはり、もう長くはないのでしょう。
 編纂を急ぎませんと。自分にとっては絶望を深めるだけの研究結果でしたが、生徒の皆さんには役立ててもらいたいですから)
 机に向き直るエッツェル、机には彼がこれまで携わってきたクトゥルフ魔術に関する研究結果が山と積まれていた。エッツェルはこれを成果として纏め、生徒に利用してもらおうと考えていた。
(これと、後はそうですね……輝夜さんが一人で何でもこなせるようになってくれれば、私としては満足、といった所でしょうか)
 果たしてそうだろうか、とはもう考えない。訪れる最期の時までに自分の出来る精一杯をする、と決めた以上、後はただひたすら歩むだけだから。

「……む? 洗濯物を入れた、洗剤を入れた……だが、動かぬな」
 見よう見まねで一通りの準備を済ませたまではいいが、一向に動き出さない洗濯機にイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が首を傾げる。
「こういうのは、どこかにスイッチがあるはずですわ! ……そこですわねっ!」
 キラーン、と目を光らせ、ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)が右手のスイッチをパシーン、と操作する。
「わぷー!」
 ……すると、中から勢い良く水が吹き出してきた。
「大丈夫か、ユーリカ」
「もー、イグナちゃん、フタがちゃんと閉まってなかったんですわ。ほら、急いで閉めないと」
 イグナに濡れた顔を拭いてもらいつつ、ユーリカが洗濯機を示す。確かにこのままでは、辺り中水浸しになってしまう。
「あ、ああ、分かった――ッッ!!」
 慌てて駆け寄り、蓋に手を伸ばしたイグナの顔に、水が勢い良く当たる。のけぞりつつも再度手を伸ばそうとすれば、再び顔めがけて水が噴射される。
「むー、なんか遊ばれてるような気がしますわ! あたしを怒らせると後悔しますわよ!」
「まあまあ、ユーリカさん、熱くならないで。こういう時はですね……」
 飛びかからん勢いのユーリカを宥め、アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が洗濯機に歩み寄り、イグナがあれほど苦戦していた洗濯機の蓋をいとも簡単に閉めてしまう。
「えー、なんでどうしてー?」
「言葉で説明するのは難しいですが……優しく接すればちゃんと応えてくれる、といったところでしょうか」
 ふふ、と微笑むアルティアに、ユーリカとイグナが分かったような分からないような顔をしていると、申し訳なさそうな顔をしたミリアがやって来た。
「すみません、精霊の力を利用しているので、たまに小さな精霊が面白がってイタズラをすることがあるのを言うのを忘れていました。
 少し遊んだら満足してちゃんと協力してくれるので、困ることはなかったのですが……」
「って、やっぱり遊ばれてたんですわ!」
 むむむ、と洗濯機を恨めしげに見つめるユーリカだが、ここで下手に手を出して反撃されても色々と面倒なことを考えると、それもできない。
「まあ、ひとまずは無事に洗濯とやらが出来そうだな。行こう、アルティア、ユーリカ」
「はい」
「……そうですわね。……ちゃんと仕事するんですわよ?」
 言われなくとも、と答えるように、洗濯機がヒュン、と風切り音を放った。

「フリッカ、何をそんなに真剣になっているのですか?」
 洗濯をしている間、裁縫の練習に移った所で、ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)が何やら繰り返し布に糸を通しているフリッカに声を掛ける。
「えっと……フィル君の着ている服を手直ししてあげられたら、って思って」
 そう言って、フレデリカが視線をある一点へ向ける。ルイーザもそちらを見ると、ミリアが涼介の服の裾の乱れを直してあげていた。一枚服を脱いだ格好で、どことなく恥ずかしげな様子の涼介を、エイボンが微笑ましく見守っている。
「ふふふ……なるほど、それであれほど熱心に練習していたのですね」
「わ、笑わないでよルイ姉。私は至って真剣よ。
 今回の教室だって、花嫁修業のつもりで参加しているんだからっ」
「花嫁修業って、でもフリッカ、肝心のお相手さんにはまだ告白、してないんだよね?」
 にゅっ、と顔を出して口を挟んできた輝夜に、フレデリカは頬を染めてこくり、と頷く。
「逃げられる前に、ガッツリ捕まえとかないとダメよ? 彼、押しには弱いタイプと見るわ」
「か、輝夜さんっ!」
 思わず手をあげようとしたフレデリカから、あはは、と笑って輝夜が逃れる。そんな様子を微笑ましく眺めていたルイーザの目が、ミリアと涼介、そしてリンネと博季、リリーを捉える。
「うーん、なかなか上手く行かないよぅ」
「慌てないで、ゆっくり、余計な力を抜いて……。大丈夫、リンネさんならきっと出来ます」
「そうそう、ママは誰よりも頑張り屋さんだってこと、リリーは知ってるもん!
 だから頑張って、ママ!」
 二組のカップルの様子を見、ルイーザは心に季節が逆戻りしたような風が吹くのを感じる。
 ……そう、もしかしたら彼らと同じような光景が、自分にもあったかもしれないのだ。
(…………)
 ルイーザはただ黙る。寂しさを表に出せば、この時を楽しんでいるフレデリカに悪いと思ったから。せっかく元気になったフレデリカを、また悲しませるようなことはしたくなかったから。

「アルティアちゃん、何を作っていますの?」
 覗き込むユーリカ、アルティアの手元が忙しく動き、糸が絡み合ったものが次々と出来上がっていく。
「近遠さんに、軽く羽織れるものをと思いまして。今の時期は暖かさと寒さが交互にやって来ますから」
「そうね、昨日は寒かったし、かと思ったら今日は暖かかったし。
 近遠ちゃんもそれで、体調崩しちゃいましたし」
「人が大勢いるとあっては、無闇に来てもらうわけにもいかないしな。何かお土産を用意して帰るべきか」
 彼女たちのパートナーである非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は、ここ最近の寒暖の変化がたたったか、風邪を引いていた。
「あたしは、お菓子を作ってみたわ。アルティアちゃんはそれで……イグナちゃんは、洗濯をやってみるとか」
「そうだな……そうしてみるか」
 ユーリカの提案に、イグナがうむ、と頷く。ここで得た経験を早速、パートナーのために活かそうとしているようだった。



 参加者にとって楽しい時間はあっという間に過ぎ、カフェテリアを少しずつ、夜の闇が包んでいく。
 既に豊美ちゃんや馬宿、讃良ちゃんはイルミンスールを後にし、他の参加者もそれぞれの場所へと帰宅していた。
「……と、もうこんな時間でしたか。
 それじゃ、俺はこの辺で。今日作ったクリームシチュー、環菜に作ってあげないと」
「ああ、また。御神楽さんによろしく」
「今度はぜひ、お二人でいらしてくださいね」
 フォレスト夫妻の見送りを受けて、最後の参加者である陽太が『宿り樹に果実』を後にする。数時間前まであれほど賑やかだったカフェテリアは、今は涼介とミリアだけになっていた。
「あれほど賑やかだったのは、最近ではなかなかなかったかもしれないね。
 度重なる混乱もあって、イルミンスールも随分人が減ってしまったから」
 涼介の言葉に、ミリアが頷く。元々イルミンスールの校風的に、生徒はあちこちに調査や修行に出ることが多く、一度イルミンスールを出るとしばらく戻って来ないこともあるため、『宿り樹に果実』は普段はそれほど混雑しない。加えてエリュシオン、ザナドゥとの戦争があった影響で、最近は昼時でも空席が目立つようになっていた。
「生徒の皆さんが、それぞれの場所で元気に過ごしてくれているのなら、それは幸せなことですわ。
 ……けれども、そう思ってはいけないことなのかもしれませんけど、皆さんがこの『宿り樹に果実』でお腹を満たして、がんばろう、って気になってもらいたい時もありますわ」
 どこか寂しさを含んだ声を漏らすミリア、その手を涼介が取る。
「確かに、これまでは色々とあった。だけどこれからは、ミリアさんを悲しませるようなことは決してさせない。
 私が付いている。私と一緒に、頑張っていこう」
 涼介の言葉を受け止めたミリアが、柔らかな笑みを浮かべる。
「ありがとうございます、涼介さん。……ふふ、今日の涼介さんはなんだかいつも以上に頼もしいですわ」
「そう、かな。多分、陽太君の影響を受けたのかもしれないな」
 恥ずかしくなって視線を逸らす涼介、ふわっ、と良い香りが鼻をくすぐり、ミリアが涼介の胸に頭をつける。
「今日はずっと……このまま、一緒にいてくださいね」
「……ああ」

 そして、時は夜へと流れていく――。