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リアクション
アイドルライブがひと段落したのち、穏やかな空気が流れていた。
茶色の尾にーテールを揺らしながら、六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)がパートナーであるアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)を伴ってルーノ・アレエたちの輪の中に入ってきた。ルーノ・アレエは懐かしい友人の顔に、顔をほころばせる。
「六本木 優希。お元気そうで何よりです」
「お久しぶりです、ルーノさん。と、ニーフェさんとは初めてでしたか」
「はじめまして、優希さん!」
「初めまして。これからもよろしくお願いしますね。今日は、パートナーのアレクも連れてきてます」
「金の姫君と銀の姫君だな。学校の場所柄逢うことはなかったが、よろしく頼む」
銀の髪をかきあげながら簡単に挨拶を済ませると、アレクセイ・ヴァングライド自身は少し離れたところに腰掛けた。
六本木 優希はすこし笑みを零しながら、二人の機晶姫に向き直って手を合わせた。
「それで、もしよければなのですけれど、留学中のことを教えてもらえませんか?」
「留学中のこと、ですか?」
「みんな聞きたがっていることかもしれませんけれど、無理のない程度で構いません」
では、と少し痛みが着ている鞄から本を取り出した。
それは、かつてロザリンド・セリナから贈られた本。途中まで彼女の直筆で書かれ、途中からは白紙だったその本が、二冊目に入っていたのだ。
「書き足していってくださったのですか?」
ロザリンド・セリナの言葉に、ルーノ・アレエはコクン、と頷いた。
その半ばはおととしのクリスマスでの出来事。そこから少し時間が飛び、留学の申請をお願いをしたところから開始されていた。
「桜井校長と、蒼空学園の校長、そして御神楽 環菜にお願いして、地球へいかせて頂いたのです」
「地球? なんでまた」
「パートナーを探しに?」
矢継ぎ早に質問を受けるが、今度はニーフェ・アレエが答えた。
「パラミタ以外を知りたくて、聞いた話やデータじゃなくて、その空気を感じたかったんです。本当は私だけ行こうとしていたんですけれど、姉さんもついてきてくれたんです」
「パートナー契約をしていない私たちでは、簡単に地球にいかせてはくれなかったのですけれど、二人一緒ならということで許可を頂きました」
「ルーノさんの兵器化を止められるのが、ニーフェさんだけだから?」
ソア・ウェンボリスの言葉に、ニーフェ・アレエは力強く頷いた。
「オーディオさんのこともあって、本当ならパラミタで対策を練るべきだったのかもしれませんが、私だけじゃなくて姉さんも、もっと自分の《心と思い》に自信を持ちたかったんです」
「私たちは、機晶姫です。皆さんが思ってくださっているとおりの人に近い存在だと今は思えます。でも、その時の私たちにはその確証がなく、自信もなかった」
「口にしてしまえば、きっと止められてしまうかもしれなくて、急いで出てしまう形になりました」
「わがままを押し通しちゃって、ごめんなさい」
二人の姉妹機晶姫が頭を垂れると、拍手が起こった。不思議に思ったのか二人が顔を上げるとそして、毒島 大佐がパシャ、と一枚写真を撮った。
「なんだ、まだ理解が足りないな。みんな、勝手にしたことだなんて思ってないし、謝る必要もないんだよ」
「ということで、謝るのは今の一回ですよ? あとは笑って飲み食いしましょう!」
プリムローズ・アレックスがにっこり笑ってそう話しかけると、涼介・フォレストが一つの布がかぶせられた大皿を持って二人の前に現れた。
エイボン著 『エイボンの書』が、こほん、と咳払いをしてからその布を取り払う。
「お二人の歓迎会のときに作った、ミモザサラダです。今日の席に相応しく、カナッペにして見ました!」
「あの時のサラダですか! ありがとうございます、エイボンさん!」
「エイボン著『エイボンの書』、それに本郷涼介、あ、いえ。今は涼介・フォレストでしたね。ありがとうございます」
「喜んでくれたなら嬉しいよ」
涼介・フォレストが笑うと、エイボン著 『エイボンの書』も嬉しそうに笑った。
ネコミミメイド姿の榊 朝斗から参加者達に新しいカップが回されていくが、それは今度は桜酒ではなかった。透明なコップに、中の茶葉が花のように開いていくものだった。
「これ、琳 鳳明さんからだよ。珍しいお茶なんだって」
「どう? 珍しいでしょー。せっかくだから、桜酒の合間に飲んでみて」
琳 鳳明がにっこりと笑ってカップを直接ルーノ・アレエとニーフェ・アレエに差し出すと、藤谷 天樹が「味は保障する」と、ホワイトボードに書いて伝えてくれた。
「それじゃ、百合園に復学するならこれまでのこととか、私たちが教えてあげましょうか」
イリス・クェインがにっこり笑ってニーフェ・アレエの隣に腰掛けると、崩城 亜璃珠も「私も教えてあげるわ」とルーノ・アレエの隣を陣取った。ロザリンド・セリナは見させてもらった本を返して、百合園の花壇で次に咲く花について教えてくれた。
楽しい時間が流れていくなか、少しはなれたところにイシュベルタ・アルザスがいた。
「嘘を振りまくな」
「シスコンなのは嘘じゃないだろうが」
ため息混じりに、だがわずかに嬉しそうな様子で緋山 政敏は声をかけた。リーン・リリィーシアはそんな二人を苦笑しながら眺めていた。
「エレアノールさんは?」
「茶会の準備のほうで忙しい。あいつらが戻ってくると聞いてからずっとはしゃぎっぱなしだ」
「そういうアルザスも、お茶を作って大はしゃぎだったみたいじゃないか」
深々とため息をつくと、吸血鬼らしいにらみを緋山 政敏に向ける。
「で? お前がただで話しかけてきたとは思えないが?」
「いいや。お前は留学につい照ったわけじゃないんだな?」
「ああ。あの二人は、あの二人だけで解決しなきゃならないことが多いんでな……あまり、付き合ってやれないんだ」
「寂しそうだな」
「俺たちは……エレアノールもそうだが、種族の違う兄弟だ。あの二人は、機晶石でつながった本当の姉妹だ。見た目は似てないけどな」
「……オーディオは、その中に入れないのか?」
「わからん」
「……入れるつもりではあるんだな?」
「拒絶する理由がない。俺たちには、オーディオほどに誰かを強く拒む理由がないだけさ」
小さく笑ったイシュベルタ・アルザスと緋山 政敏も同じように笑った。
その時、遠くに感じたある女性の気配に、緋山 政敏はテレパシーで返した。
心配は要らなそうだ。と、一言だけ。
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