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仁義なき場所取り・二回戦

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仁義なき場所取り・二回戦

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■お花見模様:北エリア■

 さて、こちらは北エリア。
 桜の本数も少なく、どちらかというと「芝生」と呼んだ方が良いエリアだが、今年はなぜだか此所が盛況だった。
 そんな中、本数の少ない桜の足下を確保したのは、桜葉 忍(さくらば・しのぶ)たち、中央エリア争奪戦に敗れたグループだ。
 朝からいきなり北エリアを目指す人は居なかったようで、中央が満席だからとこちらに移ってきてからでも充分、早いほうだった。

 東峰院 香奈(とうほういん・かな)は、ノア・アーク・アダムズ(のあ・あーくあだむず)とふたり、お弁当を手に公園へと向かっていた。
「今年は、しーちゃんと信長さんが参加してるから、きっと大丈夫だよね?」

「そうね。それにしても、今回はあいつの相手をしなくていいから、楽でいいわ」
 去年のリベンジの意味も込めて、中央エリアの確保を狙っているはずのパートナー達の心配をしながら。
 と、香奈の携帯が鳴った。
「あ、しーちゃん? うん、うん……うん、わかった」
「どうしたの?」
 忍からの連絡を受けた香奈の顔が曇っていくのを見て、ノアが声を掛ける。
「中央エリアは、取れなかったんだって……北にいるって」
 香奈の表情から大体察してはいたけれど、いざ結果を聞かされるとノアもしゅんとしてしまう。
「でも、桜の木の下はちゃんと取れたみたいだから」
 行こう、と香奈は忍に教わった地点を目指す。
 北エリアの芝生を踏み踏み歩いて行くと、まばらな桜の木の下で忍が軽く手を振っているのが見えた。
「しーちゃん!」
「ごめんな、香奈、ノア」
 二人を出迎えた忍が、申し訳なさそうに眉を下げる。
 ううん、大丈夫、と微笑む香奈の後ろでは、
「ちょっと、去年のリベンジはどうしたのよっ」
「ええいうるさいっ! 後一歩だったのだ!」
ノアと信長が早速、相変わらずの口喧嘩を繰り広げ始めた。
「ほら、ちょっと予定はかわっちゃったけど、折角弁当詰めてきたんだから、食べようぜ」
 それを仲裁しつつ、忍は香奈に預けてあった弁当を受け取るとシートの上にそれを広げる。
 忍の手前もあってか、二人はにらみ合ったままぷい、と顔を背け、背けながら隣同士に座って弁当を囲んだ。
「はい、いただきます」
「頂きます」
 忍の音頭でいただきますをして、四人はそれぞれに箸を伸ばす。
「はい、しーちゃん、どうぞ」
 香奈は忍の隣に座って、取り分けをしたり、お酌をしたりと世話を焼いている。
「ほ、ほら、あたしの作った卵焼きなだから、残さずたべなさいよねっ!」
 ノアは身を乗り出すと忍に自分が作った卵焼きを箸で差し出した。忍は分かった分かった、と苦笑しながら、差し出された卵焼きを口で受け取る。
 その隣で、信長は興が乗らないのか、少々不機嫌そうに手酌で酒を飲むばかりだ。
 予定とは少し違ってしまったが、それでも頭上には綺麗な桜の花。
 四人はそれなりに、このひとときを楽しむのだった。

「ま、仕方ないよな」
 一方こちらは同じく中央エリア敗退組の黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)リゼルヴィア・アーネスト(りぜるゔぃあ・あーねすと)だ。
「ちぇー、残念だなー」
「仕方ないよ、みんなの方が速かったんだから」
 リゼルヴィアは自信があっただけに悔しそうにぶーたれて居るけれど、竜斗の方はダメならダメで仕方が無い、という感じで北エリアに腰を落ち着けている。
 とそこへ、おーい、と手を振りながらやってくる二つの人影。
 竜斗のパートナー、ユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)ミリーネ・セレスティア(みりーね・せれすてぃあ)だ。その手には勿論、お弁当箱の入った鞄。
「場所取り、おつかれさまです」
 そう言いながら、ユリナは手にした鞄から大小のお弁当箱を取り出して、シートの上に並べる。四人で食べるには些か量が多いようにも見えるが。
「腕によりをかけました。沢山食べて下さいね」
「やったー! ユリナお姉ちゃんのお弁当ー!」
 リゼルヴィアが諸手を挙げて喜びを示すと、早速蓋を開けて中身に手を伸ばす。
「こらこらルヴィちゃん、まずはいただきますでしょう?」
「いただきまーす!」
 ユリナの忠告に一応いただきますは唱えた物の、リゼルヴィアの眼中にはお弁当しかないようだ。
 その様子をほほえましく見詰めながら、ユリナと竜斗、それからミリーネもいただきます、と手を合わせる。
「こういうときこそ、飲まなくてはな」
 ミリーネは荷物の中からお酒も取り出す。このメンバーの中で成人済みなのはミリーネだけなので、少々寂しいが一人酒だ。
 あまり強くは無いので普段は飲まないミリーネだが、折角の花見の席だ。
 少しくらいは、と手元のコップに酒を注ぐ。
「綺麗な桜の下で美味しい弁当をみんなで食う。んー、これが幸せってやつかー」
 竜斗がお弁当を食べながらフッと微笑み、呟く。
 四人の幸せなひとときは、もう暫く続きそうだ。

「そうだ、お花見に行こう!」
 そういえば公園の桜が満開になったと聞いたっけ、と思い出した滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)は、既に公園では弁当が広げられている時刻、午前十時過ぎ、突発的にパートナーを伴って桜の森公園へとやってきた。
 当然、場所取りは既に行われた後。めぼしい箇所には既にシートが広げられ、宴会が始まっている状態だ。
 洋介達はしかし慌てず、広さのある北エリアへ向かう。
 だが、そこもめぼしい桜の木の下は既に埋まってしまっている状態だ。
「なあ、これじゃただの芝生じゃねえか。花見にならねえよ」
「まぁ、別に桜の真下で見なきゃいけない訳じゃないし、遠くから眺めるのも結構楽しいよ」
 たどり着いた芝生ばかりのエリアを見るなり大友 宗麟(おおとも・そうりん)が文句を付けるのに、のんびりとした口調でそんなことを言うのは程? 仲徳(ていいく ちゅうとく)だ。
「確かに、それもそうだな。さっすが隠居軍師さん! まったりすることに長けてる!」
 洋介の、褒めてるんだか褒めてないんだかよく分からない評にも、仲徳はにっこりと笑って「それはどうも」と答える。
 それから四人は、桜の木から適当な距離を置いた芝生の上に、ばさりとシートを広げて座り込んだ。
 幸い空は雲一つ無い晴天で、日差しがぽかぽかと暖かい。
 仲徳の言うとおり、花見は桜の真下でやらねばならないという道理もない。ここからでも、視線を遣れば美しい花を愛でることが出来る。
「さ、お弁当お弁当」
 洋介のリクエストに従って、本日のお弁当係、フローレンス・粟嶌(ふろーれんす・あわしま)がはいはい、とお弁当を取り出して包みを解いた。
 宗麟とフローレンスとで協力して詰めてきたお弁当は、何というか、和洋折衷という感じ。
 とはいえ、今朝思いついて、思いつきのまま飛び出してきたような状態だ。それほど大量のお弁当は用意出来なかったようで、四人のおなかを丁度よく腹八分くらいにしたところで空っぽになってしまった。
「うーん、食べた食べた。昼寝、昼寝っと」
 おなかが満たされたことで眠気に襲われたか、仲徳はうーん、と伸びをするとごろりと横になった。
「あぁー、最高」
 そう呟く仲徳がそれは幸せそうなものだから、じゃあおれも、と洋介もごろんと横になる。
 人々の歓声、遠くに見える桜の木、暖かな日差し、柔らかな風に混じる花の匂い。ちょっと酒の匂いも混ざっている気がするが、それもまた一興。
 何とも心地よい時間だ。
「ほんと、さいこー……」
 このまま本当に一眠りしてしまおうか、と洋介があくび混じりに呟く。
「うーん、私もお昼寝したくなりました……ご一緒していいですか?」
 するとフローレンスも感化されたか、洋介の隣にころん、と横になる。
 残された宗麟は暫くそわそわして居たが、そのうちに、
「洋介ちょっとこっち来い……そ、その……わ、私が、その……ひざ枕……してやるよ」
と恥ずかしそうに洋介の洋服を引くものだから、洋介はくすりと笑って、ありがとう、とその言葉に甘えることにする。
 青い空の下、四人はそうしてのんびりとしたひとときを過ごすのだった。