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動物たちの守護者

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動物たちの守護者

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◆怒りとは、


 火術で照らされた洞窟内を、すごいスピードで駆け抜けるのは3つの影。
「こんなことしてる奴らを許すわけにはいかねぇ! イキモさんまで狙われているらしいしな」
「自分の利益の為に、罪も無い動物たちを密売をするなんて最低だ! このまま野放しにしちゃいけない、絶対に壊滅させてみせる! ね、歳兄ぃ?」
「ああ、総司。俺も奴らのことは気に入らない。止めるぞ」
 鍵屋 璃音(かぎや・あきと)一ノ宮 総司(いちのみや・そうじ)土方 歳三(ひじかた・としぞう)の3人だ。
 彼らは構成員たちがいる場所を発見するため、璃音のタウジングで水源を探し求めていた。この中で住んでいるのなら、水は欠かせない。その近くに居住区のような場所があるはず。
「アキト。どっちだ」
「えーっと……あっちにあるはずなんだけど」
 暗闇の中でも無理なく行動できる歳三が、璃音の指差した方角を確認する。
「歳兄ぃ、側に居てね? 僕らを置いて何処かに行かないでね?」
 術で照らしているとはいえ、やはり暗い。不安そうな総司に、見えてはいないと分かっていても歳三は笑顔を浮かべた。
「心配するな、総司。俺は此処に居る。アキトも、あんまり離れるなよ」
 再び走りだした彼らは、突如広い空間に出た。やはりそこも薄暗いが、人の気配を感じた。総司が叫ぶ。
「歳兄ぃ、アキト! 行くよ」
 2人が意図を察して目をつむった次の瞬間、その空間が一瞬だけ明るくなった。雷術だ。
「ぐあああああっ目が!」
 構成員と思われる悲鳴が上がる。再び目を開けた歳三は、予想以上に多い構成員と戦闘準備の整った様子に目つきを鋭くさせた。
 しかしもはや、そんなことは瑣末なことだった。
 いまだに目を押さえて苦しむ男の1人へに肉薄し、怒りを込めて得物をたたき込む。一応急所は外しているようだが、容赦ない。
 璃音もまた矢を2本、敵の気配へと向けて放つ。矢は見事に敵の手と足に刺さって動きを止めた。
 総司は弓を放って無防備な璃音の背から襲いかかって来た敵の攻撃を刀で受け止めながら、目の前にいる敵の目を睨みつけた。

「あなた方を滅する! 動物たちの無念、僕らが晴らします!」
「お前らの罪、その身を以って贖え!」
「ああ。アジト殲滅して、イキモさんの気を楽にしてやるぞ!」

 怒り。それは時に人から判断力を奪う欠点となるが、同時に普段出しえない力を引き出すこともある。3人の場合は、まさしく後者であった。

 そうして、怒りを纏うものは彼らだけではない。
「同じように生きているもの達を、何だと思っているの。そんな密売組織を私は、許さない」
 九十九 昴(つくも・すばる)にとって動物たちとは、家族であった。家族を傷つける存在へ、彼女が怒りを感じぬわけがない。
(昴が怒り心頭で御座いますなぁ。自分の身より、組織の心配をした方が良さそうで御座います)
 パートナーの様子を横目で見た九十九 天地(つくも・あまつち)が心配の対象を変えてしまいそうになるほど、昴は怒っていた。
 賢狼の迅と星が鼻で人の気配をかぎ取り、サラマンダーの陽炎が薄暗いアジト内を照らす。しかしその明りだけでは光源が少し足りない。天地が光術でさらに照らそうとした時、パッと明るい……明るすぎる光が2人の目を焼いた。
 ヒュンッと何かが昴に向かって放たれた。音で察した昴は身をひねり、避ける。ピリッと左腕に走る痛み。傷は浅い。
「チッ外したか」
「何やってんだよ、へたくそが」
「おっ? 高そうな商品がたくさんあるじゃねぇか」
「頭が喜びそうだな」

 下卑た笑い声をあげながら堂々と姿を現す構成員たち。その浅い傷が、動物たちの怒りを買った、などとはつゆにも思わない。
 いや、思ったところで脅威とは考えないのだろう。彼らには、動物たちがただの『商品』にしか見えないのだから。

「ぐぁおおおおおおおおおおおぅ!」
 レッサーフォトンドラゴンが、怒りの咆哮を上げた。他の家族たちもだ。昴は少し驚いた後、嬉しげに微笑んで、頷く。
「ありがとう。行きなさい……白夜、迅、雪、陽炎、雨月」
「朧。白夜たちの援護を。空中から炎のブレスで御座います」
 魔獣達が戦場を駆け抜け、白夜たちが乱れた陣形をさらに歪ませ、破壊し、とどめとばかりに朧がブレスを放つ。
 逃げ回る構成員たちに、昴は冷たい頬笑みで告げた。
「私達は、食料として動物を食べる。しかしそれは、生きる為……決して征服する為ではない。
 それに私達も同じ動物。ならお前達もこの子達の道具になる覚悟は、あるのよね? ふふ」


◆えーっ?

 それぞれが各々の理由で参加している作戦ではあるが、彼、瀬山 裕輝(せやま・ひろき)の理由は少々? 変わっていた。
(動物たちで不当に儲けようなど、許せない! しかし、よくやった! 褒め称えよう)
 裕輝は、犬と猫が嫌いで苦手だった。
 ゆえに、動物たちが捕らえられたその場所にいた構成員たちに向かって、
「動物の密猟・密売組織の諸君──よぉやってくれた! 褒め称えようやないか、盛大にな!」
 と、声をかけたのだ。
 もちろん警戒する構成員たち。裕輝は、そんな構成員たちの態度はどうでもいいらしく、籠に入れられた犬や猫を見て、顔をひきつらせた。身体が石のように固まっている。そうとう苦手らしい。

「待て、渚! 罠の可能性も」
「ん?」

 そんな時、第3者の声が響く。
「今すぐ、解放してあげるからね!」
 現れたのは雨宮 渚(あまみや・なぎさ)。彼女もまた怒りをエネルギーへと変えている1人で、彼女の後からやって来た氷室 カイ(ひむろ・かい)はその場をざっと見渡してから刀と手を伸ばした。
(数が多いな。それに動物たちを巻き込まないようにふるまわないとな……向こうにとっても大事な『商品』だろうが)
 冷静に構成員たちの動きをみるカイの後ろで、渚が俯いた。
 今回の話を聞いた時から彼女は怒っていた。これ以上怒ることは不可能だろうと思うぐらいに。だが、狭い籠に入れられて周囲にいる人間たちを怖がっている動物たちを目にしてしまえば、今までの怒りが可愛らしく思えるほどだった。
「可愛い動物達を金儲けの道具にするなんて許せない! あなたたち、覚悟なさい!」
 銃を構えて撃つ……前に、別の場所からも怒りの感情が生まれていた。

「てめぇらーーー、いい度胸しとんやないか! ぶっ潰す!」
 叫ぶ裕輝。本当に、心の底から彼が怒っている理由は、単純。
 彼は爬虫類が大好きで、ここにはヘビやトカゲも囚われていたからだ。
 そんな事情を知らないものからすると「えーっ? さっきと言ってることちゃうやん」なのだが、裕輝にとってそんなことは些細なことだ。
 すぐさまトカゲを解放しようとする裕輝に、焦った構成員が襲いかかる。……背を向けていた裕輝が身体をひねる。解放しようとしたのはフェイク。回し蹴りが無防備な敵の横腹へと吸い込まれる。さらに右から切りかかって来た男に向かって、足元で寝ている男を蹴飛ばし、盾にする。
「うおっ? 卑怯な!」
 
「卑怯? それはあなたたちの、ことでしょうっ?」
 銃を乱射する渚。めちゃくちゃに撃ちまくっているようで、動物たちには全く当たらず、かつ敵の腕や足を狙っているのはさすがと言おうか。
 カイはそんなパートナーに「やれやれ」と肩をすくめてから、
「渚に完全に火がついてしまった。こうなれば俺には止められない。まあ、自業自得だな」
 身をかがめて背後からの攻撃をしゃがんで避け、手をついて体を回し足元をなぎ払う。バランスを崩した敵に渚の銃がとどめを刺し、動物たちを連れ去ろうとした男の前にカイが回り込んで気絶させる。
 立ち回る位置を見極めつつ、カイは渚の動きを、渚はカイの動きをサポートしていく。それはもはや、意識せずとも行える当たり前のこと。

「俺も、手加減はしない」


◆闇が一つ、二つ、三つ

「なるほど。反対してくれればしてくれるほど、値段が上がるわけですね」
 両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)が大げさに感嘆してうなづくと、組織の頭は機嫌よく笑った。
「そういうことよ。手に入りにくくなれば希少価値が上がる。それでも手に入れようとするやつがいるんだから、俺たちにとってイキモはありがたい存在なんだよ」
 がはは、と大口を開けて酒を飲んだ頭は、ギョロっと目を動かした。
「だから契約者なんつー、『力』を持ってもらっちゃ困る。ったく、ピーピー騒ぐだけでよかったのによぉ。余計なことしやがって」
 今回の騒動は、イキモと契約者の縁を切るための作戦であった。契約者の誰かが怪我でもすれば、イキモはもう誰かに頼ったりはしないだろう、と。
「それだけで縁が切れるものでしょうか?」
「んぁ? ああ、お前は知らないだろうが、あのオヤジはそれはもう甘ちゃんでな。裏の世界を知っているが、知らない」
「ああ。だからこそ、これからも騒ぐだけ騒いでくれ、ということですか」
 頭の言うことにいちいち驚いて見せる悪路とは少し離れた場所に、三道 六黒(みどう・むくろ)が静かに座っていた。
「……では、販売ルートについて教えていただけると?」
「今回のお前たちの働き次第だがな」
「ありがとうございます。必ず、ご期待に添えて見せましょう」
 あくまでも腰低く交渉を終えた悪路だったが、胸の内は冷めていた。
(ええ、ちゃんとあなたたちの『功績』は引き継いであげますとも)
 悪路は一度契約者に狙われた組織の寿命が短いことをよく知っていた。もちろん、ある程度の協力はする。そのためにネヴァン・ヴリャー(ねう゛ぁん・う゛りゃー)に仕掛けを用意してもらっていた。
「用意できたわよ」
 そこへネヴァンが帰って来た。六黒が音もなく立ち上がる。

「では、作戦開始と行きましょうか」