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二人の魔女と機晶姫 最終話~姉妹の絆と夜明け~

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二人の魔女と機晶姫 最終話~姉妹の絆と夜明け~

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■デイブレイカー三つ巴
 デイブレイカー内へと突入した、モニカ側の突入班。目的はモニカとヴィゼルを引き合わせることであり、その目的地もヴィゼルがいると思われるブリッジ部分に絞られていた。
 しかし、突入班の進攻を止めようとかなりの数の機晶姫たちが立ちふさがる。契約者たちとほぼ変わらぬ近接装備をした機晶姫と、おそらく援護射撃要員であろう遠距離装備をした機晶姫がバランスよく配置されていた。
「困っている女性を助けるのは、愛の伝道師を名乗る私の宿命……悪いですが、通させてもらいますよ」
 例え道をふさがれても、突入班側にも意地がある。進攻の邪魔をする機晶姫たちを退け、モニカに道を切り開くべく――エッツェルは自身の力をフル活用し、次々と襲いくる機晶姫たちを打ちのめしていく。
「せやぁぁぁぁぁぁっ!!」
 唯斗もそれに続くように、手持ちの武装やスキルの全てを駆使し、障害を排除する。しかし、敵もかなり強力な抵抗力を有しているようで、おいそれと倒れる気配がない。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 邪魔をする無言の機晶姫たちを、リカインが《レゾナント・アームズ》で次々と殴り飛ばしていく。こういった狭い場所においてならば《レゾナント・アームズ》の真価を発揮可能であり、リカインも『咆哮』を繰り返し続け、共鳴力を上げて機晶姫たちを退けていく。
「うおりゃあああああっ!」
 エヴァルトもまた、近接タイプの機晶姫を盾にするように殴り飛ばし、《バイタルオーラ》で遠距離タイプ機晶姫もろとも貫かんとする。だが敵もうまい具合に回避し、多くを巻き込めずにいた。しかしそれでも、機晶姫たちの被害はかなりのものである。
「――作戦は単純。君が切り崩し、俺たちが薙ぎ払う。いけるか?」
「……誰にものを言っている。それくらい――造作もないッ!」
 煉とモニカが軽い打ち合わせだけをすると、すぐさまモニカが大槍を構えて機晶姫の一団に向かって『ランスバレスト』による突貫攻撃を行う。これによって敵陣を切り崩して乱れさせると、煉が以前モニカに繰り出した、複数のスキルを重ね合わせた複合『ヒロイックアサルト』真・雲耀乃太刀による強力な一閃とベディヴィアの『ソードプレイ』による連携で一団を斬り裂いていく。 さらに、討ち漏らしがあるようならば煉が《機晶剣『ヴァナルガンド』》を二刀形態にし、素早く『アナイアレーション』と『真空波』で打ち崩していった。
「まだ敵はたくさんいると思われます。すぐにヴィゼルの元へ向かいましょう!」
 ベディヴィアの言うように、このまま手をこまねいていたら、すぐに次の防衛網がくるだろう。その前に何とかヴィゼルを見つけるべく、モニカたちはカイの『ディテクトエビル』を頼りにヴィゼルがいると思われるブリッジへと向かっていくのであった。


 ――一方、国軍側の突入班の面々も機晶姫たちの防衛網と戦闘を繰り広げていた。
「うわっ、これだけの人数だとヒーロー大戦みたいだねっ! とにかく、こいつら片付けて親玉ぶっ飛ばして、美味しい魚でパーッとやろう!!」
 率先して先陣を切るのは、黒豹大隊製造・にゃんこアーマーシリーズを身に纏い、狭い空間にも関わらず飛び回っては機晶姫を退けている黒乃 音子(くろの・ねこ)だ。
 腰のポーチには非常食やら従者の《にゃんネル》用のお弁当やらを詰め込み、まるで祭りを楽しんでいるかのようにデイブレイカーの内側を破壊しながら飛び回る。本人は敵の関心が自身に向くことに快感を感じているためにやっているようだが、意外にもこれが陽動に繋がっていた。
「制御室は――ブリッジと同じところみたい! その近辺まで到達したらすぐにプログラムの起動を行いましょう!」
「了解だ。だがまずは……この場を突破する!」
 大型飛空艇の守りをカルキノスに任せ、ルカルカとダリルも突入班たちと共にヴィゼル逮捕のため要塞の制御機能を持つブリッジへと向かう。襲いくる機晶姫たちをルカルカの『カタクリズム』やダリルの《ブライトマシンガン》による弾幕によって容赦なく壁に叩きつけ、とにかく突破優先で突き進む。
「主の槍として、そして鎧として――この道、切り開かせてもらう!」
 ルカルカたちと同行しているグラキエスの進む道を切り開かんと、『歴戦の防御術』などで守りを固めていたアウレウスは《強化光翼》の最高速度にて突撃する『ランスバレスト』で一気に敵を殲滅させ、文字通り道を“開いて”いく。
「……アウレウス、キース。なんだか妙な感じがする。レリウスたちなら、大丈夫だとは思うが、その反面――何か、ざわつくような……」
 ブリッジへと向かう中、精神が熟していないのか、レリウスを心配するという気持ちを理解しきれず、妙な気持ちになるグラキエス。その様子を見たロアは大丈夫だとばかりへグラキエスへ言葉をかける。
「エンド、レリウス君たちならきっと大丈夫です。だから今は私たちのやるべきをやりましょう」
 ロアからの言葉に、もやもやとした気持ちを作戦成功への決意へと変えていくグラキエス。その視線は、まっすぐと前を見つめていた。
「――わかった。……一秒でも早くシステムを乗っ取り、沈黙させるぞ」

 ……国軍側の突入班は人数が多いためか、何組かのチームに分かれて行動している。その内の数チームはヴィゼルの逮捕や説得をするためにヴィゼルがいると思われるブリッジへと向かい、残りの数チームはデイブレイカー内の各施設の制圧に向かっていた。
「さて……無事に説得できればいいんですが」
 ヴィゼルの説得を行おうと思っているザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)はパートナーの強盗 ヘル(ごうとう・へる)は、『光学迷彩』でその姿を隠しながら、ヴィゼル捜索に当たっていた。
「……それにしても、ヴィゼルの行動は少し気になるんだよな。わざわざ声明を出さずに行動を起こしてれば、今よりはこちらの行動を遅らせることもできたはずだぜ?」
 ヘルが誰もが思っていただろう疑問を口にする。それはもしかして、ヴィゼルは本当は止められたがっているのでは……とも推測したが、それは本人のみぞ知る事実であるだろう。
 その真意を確かめるためにも、ザカコたちは一刻も早くヴィゼルを見つけようとさらに動きを進めていく。

 その一方、国軍突入班側に参加していた樹月 刀真(きづき・とうま)はモニカ側の突入班にいる佑也と合流していた。
「佑也、そっちも無事に突入できたのか!」
「刀真も無事そうで何よりだ。状況はどうなってる?」
「今、月夜とゼクスが先行して道順を探ろうと、要塞のシステムにアクセスしようとしてるみたいなんだけど……直接のコンソールからでないとアクセスできないように弄られてるでね。何度かハッキングを試みてるんだけど、どれもうまくいかないみたいで……」
 どうやら刀真のほうでは漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)ラグナ ゼクス(らぐな・ぜくす)の二人が先行してヴィゼルの位置を特定ため、デイブレイカーの制御システムをハッキングしようとしたのだが、外部からアクセスできないようプロテクトがかけられているらしい。
 と、佑也は聞きなれぬ名前に首を傾げた。
「ゼクス……?」
「ん、ゼクスを紹介してなかったっけ? 月夜がヒラニプラで会った機晶姫だよ。今は俺たちと行動を一緒にしてる」
 そして、その名前は佑也の後ろで話を聞いていたラグナ一家……特にアインとオーランドのの表情を変えさせるには十分だった。
「ゼクス……って、え……?」
「どうしたんだ、アイン? それにラグナさんも」
「あ……い、いえ。とてもよく知った名前だったので……」
 オーランドもアインの言葉を肯定するように頷くだけ。……そんな中、ツヴァイは神妙な顔で何か考えているようだった。
 刀真はそのまま佑也たちの突入班に合流し、ヴィゼルの元へと急ぐ。途中、機晶姫たちの防衛網に阻まれるが、『殺気看破』で気配を感じ取っていた刀真が『百戦錬磨』の勘で一挙手一投足を見切り、動きに合わせて一気に踏み込んで『軽身功』で壁や天井などに行動範囲を広げ、『体術回避』にて死角に回り込む。
 死角の隙を突いて《平家の篭手》『ウェポンマスタリー』で振るう《白の剣》で機晶姫を首を刎ね、急所を突き、確実に葬り去っていく。モニカ側の強力な戦力がまた一人、増えたようだ……。

 ――また、別所にいる月夜とゼクスのほうも、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の二人と共に、制圧した一部屋からなんとかシステムへアクセスできないものかと試行錯誤していた。
 月夜がセレンフィリティと協力して、『先端テクノロジー』や『機晶技術』を駆使してアクセスを試みているものの、その経過は芳しくない。
「この方法もダメ、さっきの方法もダメ……月夜、そっちのほうは!?」
「ダメ……! あらゆるハッキングが弾かれてる!」
 なんとしてでもアクセスしようと、いささか大雑把にキーボードを乱暴に、なおかつ目に見えないスピードで叩くセレンフィリティ。この様子を見ていたセレアナは思わず口を挟んでしまう。
「セレン、あんまり大きな音を出してたら敵に気付かれるんじゃ――」
「どっちみちもう見つかってるんだから問題ないわよ! ええい、こっちが外部ハッキングかけるのを読んでたとしか思えないようなプロテクトじゃない!」
 ……すぐ返答が帰ってきた。文系のセレアナにはハッキングもわからない世界なので、室外の敵を退けるべく、ゼクスと協力して敵機晶姫を相手することにした。
(あの男がいなかったからマスターが傷ついた、なんて言わせない。マスターは……必ず僕が護ってみせる!)
 月夜たちの邪魔をさせないためにも、ゼクスが『エンデュア』や『スウェー』込みの《紋章の盾》を構え、攻撃をそらしたり受けたりしながら隙を伺い、その隙を狙って《カルスノウト》の刃を寝かせての峰打ちを繰り返していく。ここで機晶姫を殺してしまっては、昔の自分やあの男と同じになってしまう……その想いが強いようだ。
 月夜もプロテクトを破るためにハッキングを続けながらも、ゼクスの援護をするため、敵以外を全て透過する設定にしてある《ラスターハンドガン》で敵機晶姫の手足を狙って、ゼクス越しに援護を行う。
「二対……いえ、ゼクスは防衛専守中だから一対十数体……。一人で相手取るには少々キツいわね。でも――!」
 『神速』『軽身功』で極限まで反応速度と機動力を極めたセレアナもまた、ゼクスより先の位置まで先行してから、敵を迎え撃つ。ゼクスとは守る対象は違えど、守りたいという想いは同じである。
 『女王の加護』で防衛能力を高めながら、『龍の波動』『統括地獄』『鳳凰の拳』を繰り出して、襲いくる敵機晶姫たちを片っ端から屠っていく。この様子をゼクスが見ていたら色々と思うところがあるだろうが……離れた位置での防衛ゆえ、その心配は今のところはなさそうだ。
「……私ってつくづく文系ね。機械とは相性が最悪みたい」
 ……周囲に積もり出す、機晶姫の残骸を見やりながら、セレアナは一人そう呟く。
 ――外部からのアクセスはシャットダウンされたまま。それでも月夜たちは、なんとかアクセスしようとあれやこれや試していくのだった。

「――これだけの悪意が多くいるとなると、『ディテクトエビル』でも察知は難しいか」
 ルカルカたちと共にヴィゼルを探しているエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)。『ディテクトエビル』でヴィゼルの所在を探そうとするものの、周囲に多数いる敵機晶姫たちから感じる害意のせいでうまく感知できずにいる。かなりの数がいるため、全てを片付けながら……というのも時間がかかるだろう。
「うーん……結構隔壁が降りてて、迷路状態になってますね」
 事前にルカルカからデイブレイカーの地図を受け取っていたエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)はその地図を確認していたが、ところどころ隔壁が降りていて思ったようなナビができずにいる。なるべくなら時間をかけず、ヴィゼルの所へ向かいたいところではあるが……それもまた、難しそうである。
「……女王を殺して、それで国家を獲れるわけでもないと思うんだけど」
 そんな中、リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)がそんな疑問を投げかける。他にも、軍備などの中心の街は別にもあるのになぜ空京を狙ったのか、こんなことをしても国民は彼を元首として迎えるわけがない……などの疑問に対し、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が一言、答えていく。
「――“武器”の使いどころを誤った。それだけだと思うね」
 ……メシエの考え方からの一言なのだろう。しかし、リリアにはすぐに理解できそうにはないのであった……。

「はあぁぁぁぁぁっ!!」
 ミルゼア・フィシス(みるぜあ・ふぃしす)が吠え、愛剣で敵機晶姫を一刀両断する。その横では、同様にリディル・シンクレア(りでぃる・しんくれあ)が敵機晶姫を屠っていた。
 が、その二人の横をすり抜けて近接装備の機晶姫が巫剣 舞狐(みつるぎ・まいこ)へ襲いかかる。だが――これでよかった。
「せいっ!」
 舞狐が対人用の剣術を存分に振るい、襲ってきた敵機晶姫を退ける。その後方ではルクレシア・フラムスティード(るくれしあ・ふらむすてぃーど)が遠距離持ちの機晶姫たちに対して『我は射す光の閃刃』や弓攻撃による牽制をおこなっていく。
「――シア! 前衛の機晶姫まで巻き込んだら、舞狐の相手がいなくなるじゃないの!」
「ぬ……手抜きせずに安全確保をしようと思うたんじゃが……ちと、やりすぎたかの」
「でもいいわ……銃持ちが厄介なのには変わらないから、優先して射抜いて。あと、回復と補助は任せたわ」
「了解じゃ、さて……某も気張らねばの!」
 ……この四人が何をやっているのか。それは至極単純で、舞狐の戦闘経験を積ませるための陣形を組んで、敵機晶姫を相手に修行を施していたのである。
 ただ、舞狐は単体相手の剣術が得意なため、ミルゼアを始めとした三人で敵の量を調整し、舞狐が単体戦を挑めるよう仕向けさせていた。
(これも、ミリアリア殿とモニカ殿が本来あるべき姉妹に戻る過程で必要な修行……頑張らねばなりませぬ!)
 ……どうやら、そういう風に言われているようだ。
「また出てきたわね――リディ、いつもよりやや攻勢に回して。殲滅速度を重視していくわよ」
「わかりました。……機晶姫たち、そちらが立ちふさがる以上は敵です。障害は排除します!」
「マイも私たちを気にせず、対峙した一人に集中しなさい。周りは私たちが対処するから」
「はい! ――愛洲陰流 巫剣舞狐、推して参ります!」

 ……その陣形のすぐ近くには、これより動力室の制圧に向かおうとする高峰 雫澄(たかみね・なすみ)シェスティン・ベルン(しぇすてぃん・べるん)水ノ瀬 ナギ(みずのせ・なぎ)の三人がいた。
「くそ、どいてくれよ!」
 しかし動力室へ進もうにも、その道には重圧な機晶姫の防衛網が敷かれており、その壁に移動を阻まれてしまう。雫澄やシェスティンはそれぞれの武器で白兵戦を挑み、ナギはなんとか敵の少ない通路を『殺気看破』の応用で見つけようとするが、想像以上の防衛網の厚さによってその望みは断たれる形となる。
「あの鉄仮面の騎士に比べれば、脆過ぎるな……!」
 『クライハヴォック』から、『チャージブレイク』を乗せた一撃で次々と機晶姫を打ち倒していくシェスティン。その活躍のおかげか、思ったよりは早く道を切り開くことができたようだ。
「……うーん、直して情報を聞き出すことはできないのかな」
 ――周辺の敵をあらかた片づけた所で、ナギが動かなくなった機晶姫の身体を注意深く確認し、自分の意思で動いていたのか操られていたのか……そして、直せるかどうかを確認していた。と、その時ナギは機晶姫の背中に彫られているぐるぐる太陽のマーク……すなわち、“夜明けを目指す者”のシンボルともいえるマークを見つける。
「……この子たち、もしかして機晶姫のゆりかごで盗掘に遭った機晶姫かも……」
 このマークが彫られている、ということはすなわち、これまで入った二つの遺跡の関係物。そして、機晶姫のゆりかごだけ盗掘の被害が多かった……その事柄が結び付ける、事実。それは『機晶姫のゆりかごで眠っていた機晶姫をこのデイブレイカーの防衛として使っている』ということである。
 ……素敵な機械をこのようなことに使われ、さらに機晶姫も消耗品のようにしか扱っていないヴィゼルに対し、怒りを抑えられないナギ。しかし……ナギにはナギにしかできないことがある。
「――動力室までの安全なルート、できたみたい。いこう、なす兄、シェス姉」
 再び『殺気看破』の応用使用で安全なルートを洗い出したナギの瞳には、力強さが携わっていたのであった……。