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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 3『こんな時こそお祭り、だよ!』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 3『こんな時こそお祭り、だよ!』
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『姫子、最後の企みと独り言』

●ザナドゥ

 魔族の住まう地、ザナドゥ。点在する街は地上と同じ賑やかさに満ちてはいるものの、そこから少し離れれば荒れた地面、吹き荒ぶ身を汚す風が環境の過酷さを物語っている。

「シャンバラの大荒野も結構アレですけど、こっちはやっぱり凄いですね。
 私は平気ですけど、他の地上の人はすぐダウンしちゃうでしょうねぇ」
「確かに、過酷な地ね。……だからこそ、この地に適応した魔族は強靭な力を有している。……使えるわね
 荒野を進む、高天原 姫子次百 姫星(つぐもも・きらら)。姫子がザナドゥに下りた所で、「なんか、姫子様がここに来る気がしたんですよね」と姫星が合流し、姫子も特に拒絶することなく同行させていた。
「ところで姫子様、どなたに会いに行くんでしょうか? 私は悪魔との面識ってヨミさんくらいしかないです。開口一番「無礼な! どこの所属だ!」でしたけどね。私、これでも一応人間なんですけどねぇ」
「……末端の魔族に会っても仕方ないわ。魔族を統べるカリスマ性を備えた有力者、といった所ね」
 姫子の回答に、やはりザナドゥの魔王だろうか、などと思案していた姫星が、あ、と思い出したように問いかける。
「そういえば、前々から聞こうと思ってたんですけど。どうして魔法少女を、というか豊美ちゃんをそんなに恨んでるんですか?
 何か過去にあったみたいですが皆目検討付かないんですよねぇ。歴史さっぱりなので昔の因縁とかわからないですし。
 それに、讃良ちゃんでしたっけ? 彼女、何なんですか? ただの元が同じ英霊さん……ってだけじゃないですよね?」
 流石に鬱陶しくなったのか、険しい顔を姫子が浮かべる。しかし姫星は臆した様子もなく言ってのける。
「私は姫子様認定魔法少女。出来る限り、姫子様の力になりますよ♪ だから、困ったことがあったら何でも言ってください。
 ……あ、ですが誰かを哀しませるような事だけは止めてくださいよ。もし誰かを哀しませるようなら……私、怒りますよ?」
 見た目こそ魔族とタメを張れるであろう姫星だが、中身は心の優しい女の子だった。
「…………。豊美は、我を『殺した』のよ」
 姫子の話によれば、自分が墓を荒らされた恨みで怨霊となって出た時に、自分と戦い滅ぼしたのが豊美ちゃんだという。今から800年以上昔の話を、姫星はよく分からないながらとりあえず聞き取る。
「讃良はね。我の善の部分を持って誕生した子。人は誰しも、善と悪を持っているものだから」
「なるほどー。……ということは姫子様は、悪の部分を持って誕生したわけですね。
 その割にはドジな所もあったりで、何かこう、完全な悪ってイメージはないですね」
 言った後で、鋭い視線を向けられて姫星がうろたえる。
「……パラミタという世界がどういうものか、よく分かってなかっただけよ。今度のは勝算があるわ」
 言って、姫子が先を急ぐ。
「ああっ、待ってください姫子様っ」
 後を追いかけながら、「……つまりそれは、姫子様が悪に近づくってことですよね?」という言葉を言ったものかどうか悩む姫星であった。

●ザナドゥ:メイシュロット

 『ザナドゥ魔戦記』最後の激戦が繰り広げられた浮遊都市、メイシュロット。空にあってザナドゥの要の都市だった今は墜落し、あちこちが崩れ落ち、見る影も無い。
「姫子様の目的は、ここに?」
 尋ねる姫星を無視して、姫子が中へと踏み入れる。

「ふふふ、高天原姫子……茶番は終わりです。
 貴女の死をもって、幕引きとしましょう」


 上から声が聞こえ、見上げた姫子の視界に、ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)を纏い、両手に炎と氷を噴出させた妖刀を握り、笑みを浮かべる牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)の姿が映る。
「あわわ、姫子様、彼女はヤバイですよ。まともに相手なんて出来ません、逃げるが勝ちってやつです」
 アルコリアの噂を聞いている姫星が姫子に進言するが、姫子は一歩も退かずアルコリアに言い放つ。
「やっと我を本気で殺しに来たって所かしら? 可愛いお嬢さん」
「あれー、なーんだ、分かってたんだー。
 うーん、調子狂うなー。ひめこちゃんは私にいぢめられて喜ぶドMでなくちゃ」
 刀を仕舞い、ラズンを解放して、アルコリアが姫子をぺたぺた、と弄くり回す。引き剥がそうとするも、物理的力ではアルコリアに叶うべくもない。ハグされたり揉まれたり、いいようにされていた。
「……アル、そのくらいにしておけ。話が一向に進まない」
 シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)が姫子をアルコリアから離し、一方ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)は姫子へ何かをまとめた書類を渡す。
「高天原姫子。マイロードが貴女に行う協力の内容を纏めてありますわ、確認を」
「協力、ですって……?」
 訝りながら、姫子が受け取った書類を確認する。

――******――
・目的
高天原姫子の目的を知りたい。

内容次第では全面協力もする。

・副目的

イナテミスの施設・一般市民への被害を抑える
魔族の地の視察
暇つぶし

・協力内容

こちらの目的が十分に満たされるなら、パートナーを含む全戦力で戦闘及び要請された作戦に従う。

まずまずの成果であれば
ガードとして、こちらからは基本攻撃を仕掛けない防衛戦力として消極的な協力を行う。

最低限敵対の意思が無いのならば、中立という立場をとる。
――******――

 書類を読み終えた姫子へ、シーマが言葉をかける。
「出来ればな、姫子。キミが許しがたい邪悪であって、同情の余地の無い人物であればと願うが……。
 惜しむらくはそのような人など殆ど居ないということだ。……ただ盲目に、皆が正しいと思っている側に付く事は、数の力に屈したという考え方も確かにあると最近知ったのだ。
 願わくば、力を貸すに値する望みであることを期待する」
 言いたい放題、とも取れる振る舞いを見せて、アルコリアの元へ戻ろうとしたシーマが踵を返し、姫子に口を寄せて呟く。
「アレはアレで、二度も一方的に叩いてしまい申し訳なく思っているのかもしれん。それなりの期間パートナーやってても、何考えてるか読めんが」
 言い終えたシーマが、今度こそアルコリアの元へ戻る。
「……やはり人は、善と悪を二つとも生まれ持っているものかしらね」
 誰にともなく呟き、姫子が「今から話すことは私の独り言であり、また憶測でもある。その事を心得た上で、どうするか決めるといいわ」と前置きして、言葉を紡ぐ。
「私は昔、墓を暴かれ遺骨を捨てられた恨みで、怨霊、というのかしらね、その状態で当時の人々に危害を加え、そして豊美に滅ぼされた。……このことは、私の中では完結しているの。豊美のしたことは、かつて帝として君臨した者の当然の行い。滅ぼされたことを良くは思わずとも、そのことでまた恨みを抱くなんてことはしない。
 まあ、豊美の方は自分のしたことを今でも悔いているのかもね。言ってしまえば自分の『子』を自分の手で殺したわけだから。思うに私と讃良は、そのことが原因でパラミタに呼ばれてきたのではないかと考えるの。過去の自分に因縁のある存在。善の心を持った讃良と、悪の心を持った私。私は完全な悪となり、豊美は悩み抜いた末、善の心を以って私を再び滅ぼす。……魔法少女の筋書きとしては至極妥当ね」
 魔法少女について自分なりに勉強してみた結論、と姫子は付け加える。
「今から私は、この地に眠る魔神を蘇らせ、地上に連れて行く。かつて墓を暴かれた者が、今墓を暴いて事を成さんとする。……なかなかの悪役ぶりね。そして私を豊美が、蘇らせた魔神をその子供が倒し、全てに決着をつける。この筋書きを満たすのが私に課せられた、なんと言えばいいのでしょう……天命、なのかしらね。
 くだらないと思うかしら? 馬鹿馬鹿しいと思うかしら? でもね、おそらくは誰かがやらなくてはならないことだと思うの。そうすることで人々が平和に暮らせるというのなら、私は自らに課せられた使命を果たすわ」
 姫子が見つめる先には、地面に突き刺さった太身の槍、その周りに供えられた花や木の実。
「……せめてあなた達の誰かに滅ぼされるなら、豊美に一矢報いたことになるのかしらね」
 独り言を耳にしていたであろう、それまで周りにいた者たちを強制的に地上へ送り返した姫子は一人、最後の策を実行に移すために準備を始める――。


「……ハッ!? い、今のは一体……」
 イナテミスで露店巡りをしていた毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)は、先程まで聞こえていた声(何となく聞き覚えのあるような声だった)の内容を思い返し、はて、と首をかしげる。何故自分にこのような言葉が聞こえたのだろうか。そういえば最近、ある時間だけ記憶が飛んでその後妙に身体が痛かった経験が二度ほどあった。
「……まさか、私は誰かに操られている?」
 言ったすぐ後で、あまりに稚拙な中二病思考に馬鹿馬鹿しくなる。自分に限ってそんなことはあるまい。
「だいじょうぶだ……おれはしょうきにもどった!」
 何故かその言葉が頭に浮かんで、大佐は呟いてみる。確かこの台詞を口にしたキャラはその後再び裏切ったような気がしたが、気にしない事にする。
「後で薬屋を見ておくか……」
 折角イナテミスに来たのだから、薬屋にでも寄って様子を見ておこう、そう思いながら大佐がその場を後にする――。


「人は死にゆく定め、その間に何かを果たしたいものだ。
 ……しかし、大抵は何も果たせず、自らの中に在る他の第二・第三、果ては考えてもいなかった目的に変え、それを達成し満足するものだ」


 ここに、演説する一人の人物、瀬山 裕輝(せやま・ひろき)がいる。
 彼は何故、演説をしているのか。その理由は他人はおろか、本人にもハッキリと説明は出来ない。

「──それでいいのか? 本当に、それで終わらすつもりか?」

 周りの聴衆(……といっても、今彼の演説を聞いている人はいない)に向け、掌を上に押し上げる仕草をしながら声を張り上げる。

「立て(アップ)立て(アップ)立ち上がれ(スタンダップ)、だ!」

「諸君らには何かを果たせる力がある! しかし、それを上手く使いこなせずにいるだけだ!
 意思を意志に! 思考を施行しろ!」


 その後も延々と演説を続ける裕輝。その場では、大した影響を与えなかったかもしれない。
 ……だが、もし彼の演説を姫子が「……これは使えそうね」と思ったとしたら。彼の演説が、未だ地上への侵攻を諦めきれない魔族に届いたとしたら。

 結果が明かされるのは、そう遠いことではない――。