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リアクション
「これで、どうだ!」
先頭を進んでいたグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は、立ちふさがる敵に向かって魔法を放った。
凍てつく吹雪が敵を氷漬けにするまで襲いかかる。
周囲が冷え込み、羽織った衣のありがたさを感じているグラキエス。
すると、ふいにゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)が苦しそうな声を上げた。
「すまん、グラキエス」
「ん、どうした?」
「別に抱えている必要はないんだ……」
ふかふかもふもふのミニどらごんになったゴルガイスを、グラキエスは脇にしっかりと抱えて戦っていた。
「ぬいぐるみみたいになったとはいえ、自力で行動するくらいはできるのだが……」
「ああ、そっか。悪い」
グラキエスがゴルガイスを解放する。
自由になったゴルガイスは、小さな羽でぱたぱた飛びながら大きく深呼吸していた。
すると、グラキエスが掴んでいた手をしきりに握ったり、開いたりしていた。
「どうした、グラキエス?」
「いや、なんかこう……いい感じだったなと」
「そ、そうか」
慌てて顔をそむけたゴルガイスは、鼻を鳴らして小さな炎を出していた。
――ゴルガイスが【殺気看破】により気配を感じる。
「グラキエス、敵だ!」
「きたか。じゃあ一気に決めさせてもらおう!」
通路から無数の足音が聞こえてくる。
グラキエスは曲がり角を抜けて敵の姿が見えるまで、魔力を溜めた。
そして――
「ファイアァァァスト――ム」
紅蓮の炎が渦を巻き、通路を赤くに染めていった。
チリチリと焦げ臭い臭いと共に、気温が急上昇した。
今度は衣が邪魔に感じられた。
それから間もなくして、他の生徒達が追いついてきた。
「よし、皆揃ったな。先を急ぐぞ!」
ここからは艦橋、動力炉、そして捕まった人を助けに行く者達でそれぞれの道を行かなくてはならない。
「ポラリス、ちょっといいですか?」
生徒達がそれぞれの道へ分かれていく中、魔法少女アウストラリス(アイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう))がポラリスを呼び止めた。
「どうかしたの、アウストラリスちゃん?」
「ここからは別行動になります。
私は捕まっている人を助けに、ポラリスさんは艦橋を抑えにいきます」
「う、うん」
ポラリスはギュッと杖を握りしめる。
するとアウストラリスは優しく微笑んだ。
「一人でも大丈夫ですね?」
優しい目でポラリスを見つめる。
アウストラリスはポラリスを信頼していた。
私が選んだパートナー……ポラリスならきっと大丈夫。
だが、ポラリスはなかなか頷いてはくれなかった。
自分に自信がなかったから。
一人で、アウストラリスなしで、ちゃんとやれると確信が持てなかったから。
ポラリスはどう返答していいかわからずに悩んだ。
すると、シリウスが頭に手を乗せてきた。
「一人じゃないぜ。な、相棒!」
シリウスは白い歯を見せて笑っていた。
その笑顔に胸の奥が熱くなる。
だから、それに答えようとポラリスは力強く頷いた。
アウストラリスは嬉しそうに目を細める。
「大丈夫そうですね」
「うん」
「ポラリスをお願いします」
「ああ、任せておけ」
「ボラリス、足手纏いになってはだめですよ」
「頑張る」
アウストラリスが優しくポラリスの頭を撫でた。
ポラリスはくすぐったそうにしながら、落ちかけた眼鏡の位置を直していた。
「あの、アウストラリスも……あんまり無茶しないで」
ポラリスの視線が頭を撫でるアウストラリスの腕へと向けられていた。
そこには戦いで負った傷がくっきりと刻まれている。
アウストラリスは慌てて背中に腕を隠しながら苦笑いを浮かべた。
「だ、大丈夫ですよ、これくらい……」
「そんなぁ。やせ我慢はよくないわよ、ていっ」
「――!?」
想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)が傷口を突くと、アウストラリスは声にならない悲鳴をあげてしゃがみ込んだ。
瑠兎子は、頭から渦巻状の白い大きな角が生え、モコモコした黒い羊毛がへそを出した状態で上半身を包み、下半身はハーフパンツという出で立ちだった。
「夢悠」
「うん。少しじっとしててね」
瑠兎子の指示で想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)がアウストラリスに近づき回復を行い始める。
「え、あ……」
その間アウストラリスは、呆気にとられた様子でマスコット姿の夢悠を見つめていた。
「よし、できた」
「あ、ありがとうございます」
満足そうな夢悠。引きつった笑顔のアウストラリス。
あれ? マスコット的パートナーってこういうのでしたか?
アウストラリスの思考を疑問符が埋め尽くす。
なぜなら、目の前にいる夢悠の姿が、マスコットとか、動物とか、そういったものではなく
『足の生えた座布団』
だったからである。一応猫らしい顔がついているだが……。
アウストラリスが困惑していると、ご丁寧に瑠兎子が紹介してくれた。
「これはマスコットのオモチィね」
「は、はぁ」
「ワタシは魔法執事バトルーネね。魔法執事は頑張っている魔法少女をサポートするのが役目の特殊な魔法少女なの」
どうやら夢悠の奇妙な姿はマスコット的にパートナーに間違いないようだ。
瑠兎子も魔法執事と名乗っているが一応、魔法少女の類らしい。
もしかしたら、契約書に不備があったのかもしれませんね。
いえ、そうに違いありません。
アウストラリスは深く考えるのをやめた。
「アウストラリスはどうしてそんなに無茶してるの?」
瑠兎子が尋ねる。
戦闘中、アウストラリスは無謀とも思えるくらい、正面から敵陣に突っ込んでいた。
アウストラリスが俯き、強く歯を噛みしめる。
「それは……平和な未来を守るためです」
その表情には憎悪の色が映る。
「私の両親は戦争で亡くなりました。
優しくて、いつも笑顔で、何の罪もないのに。
ただそこに住んでいたという理由で殺されたんです」
――そんな未来は嫌。
誰にも悲しい思いをしてほしくない。
「だから私は――むぐっ!?」
「はい。暗いは話はそこまでよ」
瑠兎子はアウストラリスの頬を手のひらで挟み込んで話を中断させた。そしてそのまま頬をムニムニする。
アウストラリスが瑠兎子の腕を掴んで抵抗する。
「ふぉにをふぃるんふぇすふぁ」
「今はのんびり話を聞いている時間はないし、そんな聞きたくもない!
何よりそんな悪者みたいな顔は可愛い魔法少女には絶対『NO!』なんだからっ!」
瑠兎子はアウストラリスの頬を両サイドに思いっきり引っ張り――離す。
バチンと音が鳴り、アウストラリスが頬を抑えながら涙目で瑠兎子を見つめる。
「可愛い魔法少女ですか……」
「もちろん!
ほら、早く行きましょ。
魔法少女の目的は『明るい未来を守りたい』それだけ充分よ!」
瑠兎子はクルクルと回って両手を広げる。
その様子にポラリスとアウストラリスが顔を見合わせ――笑った。
色々考えるのが馬鹿みたいに思えてきたのだ。
「アウストラリスちゃん、私一人でもしっかり頑張るよ。
明るい未来を守るために!」
「そうですね。私もあまり無茶しないように注意します」
二人は両手を強く握り合って、それぞれ目的の場所へと向かった。
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