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襲われた魔女たち

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襲われた魔女たち

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第四幕:因果応報

「痛い……」
「傷口に触らないで。殴り合いで怪我をするなんて子供みたいですよねぇ」
 頬を赤く腫らし、口元を切ったアルクラントの治療をしているのはキリエだ。
「クロスカウンターと思わせての相打ちだったよ。お父さんにしては無茶したね」
「まったく心配させおって。シルフィアに謝っておくのじゃぞ。誰も怪我しないように頑張ると意気込んでおったのに、パートナーが一番に怪我して見せたおかげであのとおりじゃ」
 神凪の示した先、体育座りをしているシルフィアの姿がある。
 槍の柄で地面を削っている姿は哀愁に満ちていた。
「すまなかったよ。でもほら成果はあったからさ」
 そう話すアルクラントの膝元には茶器などいくつかの品物があった。
 殴り合いを制した後、部屋にあった品物を適当に見繕って持ち出したのだ。
「しかし爆破のタイミングは絶妙だったね」
「褒められてるよシマック」
「あれくらいならお手の物だ」
 ウルスラーディは答えると洞穴に視線を向けた。
 数刻前には存在していた洞穴の入り口は今はない。崩落によって塞がれてしまったのだ。
「いつ出てくるかな」
「一刻も掛からないと思うよ。ツルハシとか部屋にあったの見たから」
 答えたのはサズウェルだ。
「ですがその前にお客さんが来たようですよ」
 御凪が皆に声をかけると森の奥に視線を泳がせた。
 近づいてくる影が二つ。周囲の哨戒に出かけていたセラータとエースだ。
「こちらに近づいてくる男たちがいました。武器を手にしていたので十中八九、野盗の仲間でしょう」
 セラータの言葉を補足するようにエースが続いた。
「ここに来る途中でマリアさんたちに会いましたよ。クウさんは無事保護したそうなので、思う存分に暴れて良いとのことです」
「それなら手加減は無用ですね」
 御凪は洞穴の前に立つと皆に言った。
「こっちは俺が一人で請け負うので皆さんは森の方をお願いします」
「だってさシマック、いいの?」
「構わないぜ。何をしようとしてるのかはなんとなく分かるし、俺たちは弱っているやつを捕まえる。悪くない役割分担だろ」
「というわけだから二度と悪さしないように懲らしめてあげてね?」
 高崎の言葉に御凪は笑顔で返した。
「任せてください」

 しばらくして森の中から男たちが姿現した。
「思ったより多いな」
 ウルスラーディの視線の先には十数名の男たちの姿がある。
 一人当たり二人相手にして丁度良いといったところだろうか。
「シマック。これあげる」
 高崎から手渡されたものをそのまま男たちめがけて投げる。
「頼んだからな!」
「何の合図もなしでそれはないんじゃないか!?」
 叫んだのはアルクラントだ。
 彼は言葉を発すると同時、肩に下げていたライフルを投擲された物に向けた。
 タン、タタンという連続した射撃音。直後、視界が光と音に埋め尽くされた。
「ゆくぞあるべーる!」
『お任せあれ』
 突然の爆音に列が乱れた男たちに向かって神凪があるべーるを伴い奇襲を仕掛ける。
 体勢を立て直そうと後方に下がろうとした男の視界いっぱいに人形の姿が入ってきた。
 しかしそれは瞬間的に消失する。光学迷彩だ。姿の見えない襲撃者に浮足立つ。
「気をつけろ! 変なのがいるぞ!!」
 言うが、しかし伝えるだけでは意味がない。そこに対策方法は含まれていないのだ。
「うお!?」
 何かに足を取られて倒れる二人の男。
 彼らの足には、先に鉤爪のついたワイヤーが巻き付いていた。
「よくやったあるべーる」
 凛とした声が彼らの耳に届く。
 しかし姿はやはり見えない。
「こっちじゃ」
 声のする方を向く。しかしそれが間違いだと気づくのはことが終わってからだった。
 刹那、目が眩むほどの閃光が視界を埋め尽くした。
「あああああーーっ!!」
 目が痛い、ただその思いだけが男たちの脳裏を埋め尽くす。
 彼女が彼らに使用したものは照明弾だ。これだけ至近距離で見てはひとたまりもない。
「さて、残りは何人じゃ?」
 神凪の振り向いた先、高崎とウルスラーディが男たちの攻撃を捌いている。
「ちょっと……きついよ……ね」
「数が多いんだよ!」
 右から拳が来たかと思えば後ろから剣が振り下ろされる。
 実力的な差もあってか二人の服は自らの血と泥で汚れてしまっていた。
 ウルスラーディに至っては左手に深い傷を受けていた。
「下がるのじゃ!」
「それが出来たら困ってねえ!」
「ならば後方に大きく飛んで目を閉じるのじゃ!!」
 高崎たちは言われるままにその通りに行動した。
 一瞬、男たちと距離が空いた。
 そこに神凪はさきほど使った照明弾を放つ。
「いつぅ!?」
 さすがに近かったか、ウルスラーディたちも被害に遭ったようだった
 同様に彼らに襲い掛かっていた男たちも目が眩んでいる。
 彼らの戦う後方、キリエは全体の攻防を見つめていた。
(アルクラントさんはサズウェルさんと共闘中。御凪さんは向こうが片付く前では動けない、と。セラータは私を守るために――)
 さほど距離を置かない場所で戦っている。
 二人を同時に相手をしていた。大きな余裕は感じられないが、熟練の腕を感じさせる的確な戦い方を披露していた。同時に相手をせず、一人一人捌いているのがわかる。
「皆さん下がってください!」
 叫ぶ彼の後方、キリエの背後から黒い影が形を伴っていく。
 それは瞬く間に人の形へと変化した。身体全体を鋼鉄で包んだ軍勢だ。
「怪我した人は私の所に来てください。治療しますよ」
 皆が引くのに合わせて鋼鉄の軍勢が前へと進む。
 その異様な姿に男たちが戦意を喪失していく。
「ったく、こうしてみると烏合の衆だな」
 ウルスラーディは痛む腕を押さえてキリエの元へ向かった。
 エースとアルクラント、サズウェルが戦う気力をなくした男たちをロープで縛っていく。
 鋼鉄の軍勢によって彼らの戦いが収束を見せた頃、御凪の戦いが始まろうとしていた。

 洞穴の入り口を塞いで岩に亀裂が走る。
「やっと来ましたか」
 背後、キリエによって形勢が変化するのを聞き届け、笑みを浮かべる。
 そしてついに洞穴から男たちが姿を現した。
 しかし彼らはすぐに洞穴へと逃げ帰ることになる。
 暗闇からやっと抜け出した彼らの視界に入ったのは赤々と燃える炎の壁。
 遠目に見ればそれが鳥の形をしていることに気付いただろう。
「さあ行ってらっしゃい」
 熱量とともに衝撃が男たちを追って洞穴の奥へ奥へと向かっていく。
 阿鼻叫喚の声が聞こえてきた。逃げ惑っているのが分かる。
「ではもう一つ」
 パリ、パリッ、という火花が散るような音が周囲で鳴り始めた。
 合わせるように御凪の髪が軽く浮き上がる。
 彼の背後に現れたのは雷鳥だ。それは炎鳥を追うように洞穴へと姿を消した。
 続いてさきほど以上の叫び声が洞穴から響いてきた。
「ああ、そういえば入り口が一つしかないって言ってましたっけ」
 洞穴から倒れ込むように出てきた男たちの姿を確認すると、彼は近づき頭を垂れた。
 男が怯えて後ずさる。御凪は笑みを浮かべて口にする。
「すみません。逃げ場がないことをすっかり忘れてました」
 事を終えて近づいてきたほかの仲間たちはその様子を眺め――
(嘘だな。絶対に)
 しかし言葉は飲み込んで発することはしなかった。