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ぶらり途中テロの旅

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ぶらり途中テロの旅
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リアクション

 六号車。
 ペット用に用意された車両なのだが、ヒラプニラ駅で騒動が起きたせいか手違いが生じていた。
 駅員に誤って連れて行かれたセリーナ・ペクテイリス(せりーな・ぺくていりす)アガレス・アンドレアルフス(あがれす・あんどれあるふす)。二人を見つけ出すため、リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)ナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)は車内の捜索を始めた。
「お、お師匠様ー、セリーナさーん、いますかー?」
「姫さん何処だ!」
 声を張るが返事はなく、地球の言葉を思い出すリース。
「そうです! 『捜索の基本は聞き込みから』って聞いたことがあります!」
 言うが早いか、それを如実に具現化するリース。近くから聞き込みを開始する。
「み、見た目は白いベストを着た鳩さんなんですけど……み、見たこと無いですか?」
 理解しているのか首を振るフェレット。多分習性だと思う。
 幾つか聞いて回るが、情報どころか言葉さえ返ってこない。
「情報、集まりませんね……」
「動物に聞いても仕方ないだろ」
「中には言葉を話せる子が居るかもしれないじゃないですか」
 それでも、とリースは聞き込みを続ける。それに対し、ナディムは違う言葉を思い出していた。
「『捜索は足で稼ぐ』のも基本だろ」
 刑事ドラマの見すぎではないだろうか。
「とにかく、爺さんはリースに任せて俺は姫さん優先だ!」
 ペットケージの隙間を縫い、一つ一つ中を確認していく。
「姫さん、何処にいるんだ! 頼むから無事でいてくれ……」
 セリーナを自国の姫と信じて疑わないナディム。
「姫さんに何かあったら俺はっ……!」
 守らなければいけない相手を守れない不甲斐なさ。そんなものは誰だって味わいたくない。
「絶対見つけ出すんだ!」
 踏み出す足に力を込める。
 一方、聞き込み中のリースは、鳩にしか見えないアガレスが居てもおかしくない場所にいた。
「セリーナさんは人魚さんの様に尾が生えていて、花妖精さんなんです」
 何度も首を傾げるオウム。これまた習性だろう。
「うう、どうしたらいいんですか……教えてください、師匠……」
 見つけることも、情報を得ることも出来ず、泣き崩れそうになるリース。
 そこに天啓とも言える導きが。
 先ほどのオウムが急に羽ばたく。
「えっ、何?」
「アチ、アチ」
 甲高い鳴き声は方向を示している様に聞こえる。
「……あっちにいるってことですか?」
 一際強く翼をはためかせる。
「とりあえず行ってみましょう」
 他に策などなく、リースはそれに従ってみる。
「行き止まり……」
 と思ったが、違った。
「ねえ。貴方、私の言葉が分かるかしら?」
 目の前にあったのは巨大な水槽。その中でセリーナは動物ショーに出演するため乗っていたイルカに話しかけていた。
「ここに居ることを、リースちゃん達に、知らせないといけないのに」
 困った表情をすると、イルカは慰めるように周りを泳ぐ。
「あ、リースちゃんはね、綺麗な金色の髪で、ちょっと引っ込み思案なの。ナディムちゃんは、面白い人」
 微笑を湛えて説明すると、イルカは急に泳ぐスピードを上げた。
「どうしたの?」
 水槽の壁を口で叩くイルカ。そこに視線を送ると、リースが涙を溜めている。
「セ、セリーナさん……」
「あら、リースちゃん。見つかってよかったわ」
「おいリース! そこで何を……って、姫さん!」
 ナディムも駆けつける。
「良かった、無事だったんだな!」
「ええ、大丈夫よ。ほら、リースちゃん、涙を拭いて」
「は、はい……」
「後は爺さんだけだな」
「それなら、多分――」
 セリーナが指し示した先は、水槽から少し離れた自分がいつも乗っている車椅子。その背もたれの上で睨みを利かせている白鳩。
「よもやこのような場所で偉大なる大英雄の我輩が人生最大のピンチを迎えようとは……」
 切迫感漂わせているアガレスだが、実際はセリーナの連れていた二匹の子猫が座席でじゃれているだけ。
「し、師匠ー!」
「リースか、やっと見つかったのじゃ」
 首を向けるアガレス。子猫はそれに反応し、じゃれ付きだす。
「あらあら、楽しそう」
「んなもん、日常茶飯事だろ? 遊んでやったらいいじゃねぇか」
「やーめーるーのーじゃー!」
「し、師匠……でも、見つかってよかった……」
 安堵と嬉しさ。また涙が溜まった。


「がげぅぎぎごがぁぁぁぁぐぅ!」
 恐竜の着ぐるみからから発せられる奇声。テラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)もまた、駅員の間違いで六号車に乗せられていた。
「ぅがぎぐがぁ! げぇぐぎが!」
 興味を持ったのか、アルパカがじっと見つめる。
「ぎぎぃがぁ!」
「なんだかなあ、まあテラーが喜んでいるから良いかな」
「間違えられても気にしていないでありんす」
 傍からはまったく何を言っているのか分からないが、レオニダス・スパルタ(れおにだす・すぱるた)グランギニョル・ルアフ・ソニア(ぐらんぎにょる・るあふそにあ)は意思疎通ができている様子。
「ぐがげがぁ? がぁ!」
「ん? 何か見つけたでありんすか?」
 テラーの指差す方向へ目を向けるグランギニョル。そこには伏せの状態で吉井 ゲルバッキー(よしい・げるばっきー)が欠伸をかみ殺していた。
「ゲルバッキー様、ぬしは一体何をしているのでありんすか?」
(……聞くな)
 それですべてを悟った面々。
「がぅがぅぎぎぃ」
(何と言っているのだ?)
「同じ境遇だね、だそうよ」
 ゲルバッキーの背中をポンポンと叩くテラー。
「ぐげぇごごがぐご!」
(ふむ、『ゲルバッキーさんの背中のフォルム、まじカッケーっす』と)
「みんな一緒に楽しもうよ! と言っているでありんす」
 通訳会話みたいになっていた。
「がぅ? ぅがぁ! がぎぎぐぅ!」
 何かに気付いたのか、テラーは走り去っていく。
(元気だな)
「イルカが跳ねたそうよ。それを見たいって」
(好奇心旺盛であるな……)
「ん? そこにいるのは我が同胞ゲルバッキーではないか」
(ほう)
 現れたのは毛並みふわふわの銀色の猫。と言っても、ゲルバッキーと同じポータラカ人。
ンガイ・ウッド(んがい・うっど)である! 呼びにくければシロでも構わぬぞ! 我がエージェントはそう呼ぶのである」
 五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)を首で示す。
「あのアルパカ……もの凄く威圧感が……」
 主はアルパカと見詰め合っていた。
(して、シロは何故ここへ?)
「他愛ないことなのだよ」
 フッと鼻で笑い、
「駅員のせいである」
(同士よ)
 意気投合する犬と猫。
 駅員の対応はどれだけずさんなのだろうか。
「しかし、ゲルバッキー。我らは過去に知り合い……だったと、思うので……あるが、どうだったか……」
 段々と言葉に詰まっていくのは、記憶が曖昧なせいと、
「くっ! ゲルバッキーよ、尻尾をゆらゆらさせるな! 身体が勝手に動くー!」
 前足でちょこちょこ動く尻尾にじゃれ付くンガイ。
「猫の性だね。とっても癒されるよ」
「我がエージェントよ! 我は、猫では……ない……!」
 抗議しつつも、やはり首と前足は尻尾を追う。
「可愛い……」
「ゲルバッキーよ! 悪乗りしておるであろう!?」
(ばれちった)
 残念がるゲルバッキーだが、悪びれる様子も無い。
「……まあよい。ただの戯れにしておくのである」
 などと言いつつも、実はンガイも楽しんでいたりした。
「がががごぅぐ!」
 そこに戻ってきたテラー。
「テラー、何をしてきたの?」
「げぇごぐがぐぅぉ!」
「だからといって、一緒に泳がなくてもいいでありんす。服が破れたらどうするでありんす?」
「ぎぃごげぇぐがぁ!」
「テラーがそういうなら、大丈夫よね」
「ぬしはエージェント・Tに甘いでありんす」
 三人で交わす会話。
「何を喋っているのか……」
 辛うじて理解できる部分はあるのだが、詳しい内容まではわからない。
 呑み込めたのは、テラーの着ぐるみがプールでびしょ濡れになったことだ。
(乾かしてやろう)
 ゲルバッキーが尻尾の部分を噛むと水が滴る。
 同時に何か黒い靄も。
「がぅ! ぐぅぅごぉ!」
「お、落ち着くでありんす!」
「テラー落ち着いて」
「がぁがぅぐぉ!」
「着ぐるみの恐竜よ、落ち着くのである!」
「ぅぁぉぎぃぐぉぅ」
「一体どうしたというのだ?」
「ダメでありんすゲルバッキー様。この着ぐるみはわちきの特製でありんす。それを噛んで破いちゃ、大変なことになるでありんす」
 破れた箇所の補修を行うグランギニョル。
「がぅがぅ!」
「よしよし、テラー。いい子ね」
 レオニダスが宥め、冷静さを取り戻すテラー。ンガイは気になっていた事を尋ねた。
「グランギニョルと言ったか。そなたも我が同胞であるな?」
「わちきでありんすか? その通りでありんす」
「やはり。一目見たときからそう思っておったのだよ」
 髪のボリュームがおかしく、ナノマシン体なのが見て取れる。
「やはり我らは不定形ゆえに」
(このような場所に居るのだな)
 頷くンガイとゲルバッキー。
「いえ、わちきはエージェント・Tの保護者でありんす」
『なっ、なんだってー!』
 二匹に電流走る。


「わーいご主人様! この車両は素晴らしいですね!」
 大喜びの忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)。それを眺めるベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)はボソリとフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)に尋ねる。
「……俺はフレイを誘ったんだが」
「え、えぇと、マスター申し訳ありません。ポチがどうしても一緒に列車に乗りたいとの事で連れてきました」
「僕はご主人様をエロ吸血鬼から守るための同行で、決して列車に乗りたかったんじゃないんだぞ!?」
 と言いながら尻尾はパタパタ振れっぱなし。愉悦を隠しきれていない。
(こいつのせいで……)
 ポチの助に一瞥をくれ、
「それとフレイ、どうしてペット車両なんだ?」
「この車両につきましてはその……他のペットさんと仲良くできるか心配でしたので、ついご一緒にと……」
 ベルクの質問にさすがのフレンディスもしどろもどろに言い訳する。
「ポチは獣人なんだから、別にペット専用の必要はなかったんじゃねぇのか?」
「……あっ!」
「それに一応は忍犬なんだから、放置しておいても……」
「ベルクさん、不満なら一人で向こうの車両に戻ってもいいのですよ?」
 ポチの助の頭をガシガシ撫でるベルク。
(このワン公、邪魔ばかりしやがって。いつか遠くに捨てて野良にしてやる……)
 対してベルクの脚を齧るポチの助。
(ご主人様と二人っきりにさせるものか、この下等生物め……)
 視線で会話を繰り広げる一人と一匹。口角がつりあがっている。
 それを見ているフレンディスの元へ、
(フレンディスではないか。何をしておるのだ?)
「あ、ゲルバッキーさん」
 衝撃から立ち直ったゲルバッキーがやってきた。
「二人がじゃれているのを見ていたんです」
(じゃれているのか。あれは)
 いつの間にか口を両側に引っ張り合っていたベルクとポチの助。
「ポチっ、爪は卑怯……だ」
「肉球で、掴める訳、ない!」
「仲良いですねー」
 と感想を漏らす。伝説的鈍感さ。
 一旦距離を取るベルクとポチの助。そこでゲルバッキーがいることに気付いた。
(ゲルバッキーだ。宜しく頼む)
 挨拶を掛けるが、
「ゲロハッキーだか何だか知りませんが、僕以上の犬ではありませんね!」
 とっても上から目線。
「どうしてもっていうなら、仲間になっても……」
「ポチ?」
「よろしくお願いします」
 フレンディスの声で素直になるポチの助。
「ポチはゲルバッキーさんと友達になりたいみたいです」
 ベルクはゲルバッキーに耳打つ。
「甘やかされすぎて性格が歪んでるんだ。なんなら矯正してやってくれて構わない」
(どうやら、色々とレクチャーしなければならないようだな)
 ポチの助に向き直るゲルバッキー。
(ポチよ、私が色々教えてやろう)
「ありがとうございます! それじゃ、機械や銃に関する――」
(まず、キャバクラの選び方についてだが)
「キャバクラってなんですか?」
 頭に疑問符を浮かべるフレンディス。ベルクはゲルバッキーの口を押さえ、一発拳骨を下ろすと、
「帰りは絶対一号車にするからな」
 そう、宣言した。