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【WF】千年王の慟哭・前編

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【WF】千年王の慟哭・前編

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「数だけは無駄に多いようですね」

 行く手を阻まれ先へと進めない仲間たちの状況を見て、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)がぽつりとつぶやく。

「ちょっと、エッツェル! ぼさっとしてないで、手伝いなさいよ!」

 と、彼のパートナーである緋王 輝夜(ひおう・かぐや)が、腕に絡み付いて爪の形に変じている不可視のフラワシ――ツェアライセンで応戦しながらいった。
 文句をいわれたエッツェルは、口元を歪める。

「ふふふっ……わかっていますよ。くだらない邪魔者のお相手は、私がいたしましょう」

 エッツェルがそういうと、彼の体内で何かが蠢き出し、体中がボコボコと泡立つ。
 そしてエッツェルの肉と皮を喰い破り、先端に口のようなものがあるワームが体中の到るところから次々と現れた。
 だが、異変はまだ終わらない。
 今度は両脇腹あたりの肉が裂け、がちゃがちゃと動く刃のような助骨がその姿を現したのだ。
 現れた奇怪なものたちは、エッツェルの意志とは関係なく、敵を勝手に襲いだした。
 異形の者へと変化を遂げたエッツェルは、そんな自分を嘲笑うかのように仲間たちに向かっていった。

「さあ、この場は私にまかせて、囚われた姫を救う勇者達は先へ進んでください――お姫様を救うのは勇者や英雄のお仕事ですからねぇ」

 エッツェルにそう言われ、仲間たちは前を向く。
 そして、第2フロアに残って戦うことを決めたエッツェルと輝夜、ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)、志方綾乃、蔵部 食人(くらべ・はみと)東 朱鷺(あずま・とき)第六式・シュネーシュツルム(まーくぜくす・しゅねーしゅつるむ)が、次のフロアへと向かうための道を作り出す。
 敵が倒れたその隙をつき、ひとりまたひとりと、仲間たちは最奥のフロアへと向かっていった。
 そしてついに、最後のひとりが第2フロアを抜けた。

「よし、全員突破したな」

 蔵部食人はそういうと、悪い目つきをさらに悪くして敵を睨みつける。
 そして何を思ったのか、頭にかぶっていたニット帽をズリ下げて、自分の目を隠してしまった。
 それを見た敵たちは、食人のそのあまりにも突飛な行動に思わず攻撃の手を止める。
 と、ニット帽で目を覆った食人が敵たちに向かってびしっと言い放った。

「お前ら程度じゃ、目隠しをしていても勝てるぞ! かかってこい!」

 顔の半分をニット帽で隠した男にそう挑発された敵たちは、口々に「なめてんのか、コラァ!」とか「バカにバカにされる覚えはねぇ!」と言って食人に襲い掛かる。
 だが食人は、歯をのぞかせて笑う。
 彼は邪気目レフという布を1枚だけ透かして見ることができる特殊なコンタクトレンズを装着していた。
 つまり食人には、ニット帽を透かして敵の動きがすべて見えていることになる。
 そんな食人は、ファランクスの構えで敵の攻撃を迎え撃つ。

「無駄だ!」

 シールドマスタリーである食人は、手にした混沌の楯を巧みに操って敵の攻撃を一斉に受け止める。
 目が見えないと思って襲い掛かった敵たちは、食人に攻撃を防がれて動揺した。
 食人は受け止めた武器たちを払いのけると、さらに敵を挑発する。
 敵はムキになってさらに食人に襲い掛かるが、結果はさきほどと一緒だった。

「志方ない人たちですね――敵はひとりだけじゃないですよ!」
「その通りよ!」

 と、食人と敵が押し問答をしているところに志方綾乃と緋王輝夜が颯爽と現れた。
 綾乃は手にしていた誇り高き烈士の武器・法と秩序のレイピアを素早く振るって敵を打ち倒し 輝夜は自分の周囲に幻影を出現させて相手を惑わし、不可視の爪ツェアライセンで敵を切り裂いた。

「なかなかやりますね」

 綾乃が輝夜に向かってそういった。
 すると輝夜は口元に笑みを浮かべる。

「私の実力はまだまだこんなもんじゃないわよ」
「そうですか、それは頼もしいです」

 ふたりはそういいあうと、まだまだ残る敵を倒すために再び武器を構えた。

「マリアンヌ、どこにいるんだヨー」

 と、ナノマシン拡散状態で第2フロアを探索するポータラカ人、第六式・シュネーシュツルムはマリアンヌの姿を求めて声をあげた。
 どこからともなく聞こえてきたその声に、近くにいた敵は周囲を見回した。

「マリアンヌー」

 再び聞こえてきた第六式の声に、敵は脂汗を浮かべてめちゃくちゃに剣を振った。
 すると、その攻撃がたまたま第六式にヒットする。

「アウチっ! いきなり斬りつけるなんておぬしヒドイネ。でも残念だったヨ、オレには物理攻撃は効かないネ」
「――ギャー!」

 姿の見えない相手の声に、敵はついに発狂した。
 そして再び闇雲に剣を振り回す。

「だから、さっきもオレはいったヨ。オレには物理攻撃は効かないネ」

 第六式は滑稽な敵の姿を見てそうつぶやく。
 と、そんな敵の前にイコンのプラモデル――通称イコプラが現れる。
 敵は目を見開き、剣を振っていた手を止めた。

「やってしまいなさい、イコプラ」

 と、東朱鷺がイコプラに指示を出す声が聞こえた。
 朱鷺の式神の術で忠実な従者となっていた戦闘用イコプラは、主の命令通りに敵を攻撃し、相手を殲滅する。

「おーっ、朱鷺。マリアンヌは見つかったのカナ?」

 朱鷺の姿を見るや、第六式はそういった。
 その言葉に朱鷺は首を横にふる。

「いえ、見当たりません」
「そうか、残念だネ」

 朱鷺は空京大学で噂となっていたマリアンヌと主従契約を結びたいと考えていた。
 だが、この事件にマリアンヌが巻き込まれたことを知り、朱鷺は彼女を助けるためにここにきた。
 しかし、肝心のマリアンヌの姿が見つからず、第2フロアを捜索していた。

「まあ、とにかく探して見るネ。遺体がなかったから絶対に生きてるヨ」
「そうですね、もう少しここを探してみましょう」

 朱鷺と第六式はそういうと、再びマリアンヌの捜索をはじめた。

「さて…好きに暴れましょう…か」

 ネームレス・ミストがククク、と低い笑い声を漏らし、体から溢れる瘴気の中に無数の獣たちを生み出していく。

「自由に貪って…いいですよ…我の可愛い…獣達…」

 ネームレスのその声に、生み出された瘴気の獣たちが吼えた。
 小さな蜂の姿をした毒蟲が敵に瘴気をまき散らし、猟犬と魔狼が弱った敵を容赦なく喰らう。
 そして、逃げ惑う敵の行く手は樹木人が遮り、そこへ大虎に跨ったネームレスがやってきて大斧『要塞崩し』を振り回す。
 そんなネームレスの様子を見たエッツェルは口元を歪めた。

「ネームレスに負けてはいられませんねぇ」

 エッツェルはそういうと、歴戦の魔術を敵に向かって放つ。
 彼の体から出現した異形のものたちに襲われていた敵たちは、さらなる攻撃に跡形もなく吹き飛んだ。

「ふふふ……外なる者と関わろうとしている組織のものならば、私は容赦なく滅っします」

 エッツェルはそういうと視線を動かし、仲間たちが消えていった先を見つめる。

「さて、勇者たちはお姫様のところに辿り着きましたかねぇ」