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リアクション
その4:わいわい。
場所は変わって、子供用のプールにて。
「ちょっと、あっちこっちで騒がしくなってきたな……」
嫌な予感がする……と警戒の目で周囲を見回したのは、仲間たちと一緒に掃除にやってきていた天御柱学院生の榊 朝斗(さかき・あさと)でした。トランクスタイプの水着にパーカーと言う普通の格好ですが、どういうわけかあちらこちらから結構ちらちらと視線が注がれています。
「……?」
まあいいか、と思いながら朝斗は真面目に掃除をしているのでありました。
彼はこの日、パートナーたちや、来る途中で合流した知人のルイ・フリード(るい・ふりーど)たちとプールにやってきています。あいにくと言うか案の定というか、ルイは我慢大会の方へ行ってしまっています。残りのメンバーたちで協力し合いながら楽しくプール掃除をする予定でした。朝斗の周囲では、謎の金属兵団がデッキブラシを持って床を磨いています。ルイのパートナーシュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)が召還した、『召喚獣:不滅兵団』が真面目に掃除をしています。それはシュールな光景でした。ここだけを見れば順調に進んでいるんです。が……。
「……」
朝斗は視線をやや後方にやります。
デッキブラシを手に、水の抜かれたプールの底を一心に磨き始めたロボがいました。フルメタルナイスバディを誇るのは、ルイのパートナーのノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)なんですが、ちょっと挙動不審です。掃除をしながら女の子たちを見てばかりいます。
ノールは可愛い女の子を見るのがとても好きなのです。暑苦しい我慢大会より、水着の女の子をたくさん見るこができるので、掃除に励みます。
その視線がさっきからずっと一人の女性を捕らえてます。
(おお……!)
ノールが内心で歓喜をあげたその相手は、朝斗のパートナーのルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)です。スラリと背が高く、大胆で妖艶な水着が似合っています。動物パーカーで覆われた体躯は流麗なボディーラインがはっきりと見てとれ、魅惑的に蠢いています。ノールはそんな彼女を見ているだけでドキドキが止まらなくなってきました。なんでしょうか、この高揚感は。彼の直感が告げています。間違いありません、あの女性……ルシェンはSっ気があると。
(おお……)
ノールは身震いします。機晶姫なのに、身体が疼いてきたではありませんか。
「……何を見ているのですか?」
そんなルシェンが、ノールの視線に気づいてニッコリと微笑みました。
「何を見ているのですか!?」
ルシェンがもう一度同じ台詞を言います。ただし、今度は語調が鋭くなっています。
「ひいっ!?」
ノールがゾクゾクした悲鳴を上げました。慌てて視線をそらせるも、そのビクビクした態度がルシェンの琴線に触れたようでした。
「あなた……、さっきから掃除もせずに女の子ばかり見ているでしょう?」
「そ、そんなことないでありますですよ……ええ、ルシェン殿のことなど全然見ていないであります」
媚びた口調のノールに、ルシェンはさらに楽しそうに近寄ってきます。
「本当に悪い子ですね、あなたは……! 本当は、こうして欲しいんじゃないですか……!?」
ルシェンは女王様的な笑みを浮かべたまま、ニュートラルウィップでノールを打ち付けます。
「ああっっ!」
色っぽい声を上げて転倒するノール。それを踏みつけながらルシェンはビシバシと鞭をふるい続けます。
「こうでいいのかしら?」
「あぁ……言われた通りに出来ぬ卑しいロボに、もっとごほうb……お仕置を!」
嬉しそうに悶え始めたノールを見て、朝斗は距離を取ります。
「……知らない人のフリをしておこう……」
「水着な可愛い子達を拝見出来……ご褒美が貰え我輩ヘヴンッ!!」
濃厚プレイは見ていてイタい気がします。
「こっちです、朝斗。少し離れましょう、みんなが不審そうな目で見てますよ」
ルシェンとノールのやり取りを見て呆れ気味のアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)が、朝斗を手招きします。彼女は朝斗のパートナーの機晶姫で、お母さん役のような存在です。しっかりとお世話を焼く口調でいいます。
「あの二人……、警備の人に報告して連れて行ってもらいましょう」
「いや、そこまで手荒なことしなくても、そのうち飽きると思うけど……」
まあ大事には至らないだろうと、朝斗は掃除を続けることにします。
「ああ、気持ちはわかります。私もサウナで多くの殿方がハァハァ息を切らしている姿を想像すると……」
プールの端っこで掃除をしていたベル・フルューリング(べる・ふりゅーりんぐ)がそんな彼らの様子を見ていてポソリと呟きます。
と……。
「アイスクリームいりませんか」
朝斗に声をかけてきたのは、蒼空学園の神崎 輝(かんざき・ひかる)です。女子用水着の上からTシャツを着た、朝斗とは少し違ったタイプ髪の毛の長い男の娘で、パートナーに機晶姫の一瀬 真鈴(いちのせ・まりん)を連れています。二人とも首からクーラーボックスを提げていてアイスを配って回っているようです。輝はボックスから数本の棒アイスを取り出し、差し出してきました。
「さっきの休み時間にアイスの差し入れがあったそうです。偶然近くを通りかかったボクが配ることになったんですけど……」
「そうなんだ、休み時間があったなんて知らなかった」
言いながら、朝斗は輝からアイスを受け取ります。
「ありがとうございます。ですが、もしよかったら向こうの子達にも上げて欲しいんですけど」
真鈴からアイスをもらったアイビスがプールサイドに視線をやります。朝斗たちと一緒にやってきたシュリュズベリィ著・セラエノ断章とちび あさにゃん(ちび・あさにゃん)がいるのですが、それより先に。
「え、アイスですって? いただいていいですか……?」
耳ざとく単語を聞きつけたマリオン・フリード(まりおん・ふりーど)が素早く近寄ってきます。彼女は、さっと手を伸ばしかけてすぐにハッとなります。輝と真鈴がいるのを見やって、ぺこりと頭を下げます。
「マリオン・フリードです。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
輝はニッコリと微笑みながらマリオンにアイスを手渡します。
「あ、ありがとうございます。……さっそく食べてもいいですか?」
「……そうだな。ちょっと休憩しよう」
アイビスが答えるより先に朝斗が言います。
「あ、それからあっちの二人にはアイス渡さなくていいから」
まだプレイしているノールとルシェンを半眼で眺めながら付け加える朝斗。
「ずいぶんとはかどっているみたいですね」
シュリュズベリィ著・セラエノ断章と隣にいるちび あさにゃんにもアイスを渡して、輝はプールを見渡します。予想以上の大勢の参加者が手伝ってくれているおかげで、掃除は順調に進んでいるようでした。
<ボクが応援していたからね>
アイスを口にくわえたまま、ちび あさにゃんは『ハンドベルト筆箱』から筆記具を取り出し、紙に書いて見せます。
「ほとんどはセラだよ。ちびあさちゃんは、セラのドラムをちょっとだけ叩いただけじゃん」
アイスをなめながらシュリュズベリィ著・セラエノ断章は言います。
「あなたたちだったんですか。太鼓の音がするって噂になっていたんですけど、ここで『密林のドラム』叩いていたんですね」
輝も一緒に休憩しようと思ったらしく、ボックスを脇に置きプールサイドに腰掛けました。
「たまにはこんなのも気持ちいいね」
朝斗たちは、しばらくの間プールサイドでのんびりとアイスをなめながら休憩します。青空がきらめき、作業の汗を拭う微風も心地よく、ゆったりと時間が流れていくようでした。
「アイスをいただいてまいりました」
ベルはもう一人の連れのアルフェリカ・エテールネ(あるふぇりか・えてーるね)の元に、アイスを持って帰ってきます。
「ああ、ありがとう。……わしらもしばし休憩するか」
アルフェリカは掃除の手を休めてアイスを受け取りました。
「おいしゅうございますね」
「ああ。まあまあだな……」
「和深様は、味わえませんですね」
「ああそうだな、気の毒に……」
「和深様は、あれでよかったんですか?」
ベルはマスターの瀬乃 和深(せの・かずみ)を思いながら聞きます。彼は今我慢大会に参加していてこの場にはいません。後ほど登場するでしょう。
そんなベルにアルフェリカが冷たく言い放ちます。
「水着の女子を目の前にすればはしゃぐに決まっている。そして、はしゃぎすぎて滑って転び、他の女子を押し倒して『ごめーん、足が滑っちゃった。テヘペロ!』などと殴りたくなることを言われてはたまらんからな」
「ああ、その情景が目に浮かぶようでございます」
ベルは遠くを見つめる目で言いました。
「……さて、ボクたちは行きますか」
輝がボックスをかけて立ち上がります。
「ちょっと休んでリフレッシュできたかな。……じゃあ、僕たちも掃除を再開しようか」
皆がアイスを食べ終わったのを見計らって朝斗はいいます。棒をゴミ袋に捨て掃除用具を持ってプールの底に下り立った時でした。
「……?」
足元にぬめりと変な感触が走って、朝斗は目を丸くします。
「きゃあああっっ!? なんですか、これ……?」
立ち去ろうとしていた真鈴が涙目で悲鳴を上げます。
プールの底をぶよぶよとしたゼラチン状の物体が、うーにゃーうーにゃーと這い寄ってくるのが見えました。それも数匹。
「これは……スライム……?」
どうしてこんな所に? と輝が言うより先に、そのスライムたちは朝斗たちにへばりついてきます。
「れっつにゃー」
「れっつにゃーじゃねぇ!」
輝は、名状しがたいデッキブラシのようなものを取り出し這い寄ってくるスライムを叩き潰します。
「ちょ、こ、これ……、剥がれないんだけど……!?」
朝斗は、腰から下にへばりついてきたスライムにちょっと焦ります。思った以上の吸引力で、このまま放っておくと大変な事態を招きそうな予感です。這い寄る物体に水着でも持っていかれようものならトラウマもので、SAN値がガリガリ減っていきます。用意してあった『PPW』2機も自分ターゲットにこの精神状態で撃てるのでしょうか……?
「待ってくれ、それは俺に任せてくれ!」
その時、向こうから大慌てでこちらにかけてくる人影がありました。プール掃除を手伝いに来ていた蒼空学園生の蔵部 食人(くらべ・はみと)なんですが、顔が真っ青です。
「す、すまん。そのスライム、俺のペットだ!」
ドロドロした汚れには、ドロドロしたモンスターで対抗だ! ということで、彼はプールに複数のスライムを解き放ったのですが、それが逃げ出してかってにこんなところでうーにゃーやり始めたのです。
事態の収拾にプールの底に飛び降りた食人は、這い寄るスライムと格闘する朝斗の横を通り過ぎ、いつの間にかアルフェリカの腰から胸に纏わりついていたスライムを慌てて引き剥がしに掛かります。
「……」
「……」
アルフェリカとベルはあからさまに白い目になって唖然と立ち尽くしています。
根が純情な食人は、一生懸命なのですが、アルフェリカの胸元を直視できずあまり見ないようにしたせいで手元が狂って胸を掴んでしまいます。
「ちっぱい! じゃなくて失敗、いややっぱり“ちっぱい”かっ!? ろりっろりっ!?」
ブフォッ! と鼻血を噴出す食人。鼻血で酷いことになってる顔をひきつらせながら、言います。
「……これはまたけしからんスライムですね。ボインボインよりもちっぱい」
「けしからんのは、おぬしじゃろうがぁぁぁっっ!」
アルフェリカは問答無用で『ハイエロファント(神官)』の攻撃魔法を食人に連続で食らわせます。吹き飛ばされ、ゆるい弧を描きながら宙を舞う食人。さらには……。
ドドドドド〜ン!
真鈴の放った機晶キャノンと六連ミサイルポッドが食人を消し炭にすべく襲い掛かります。ものすごい爆発に巻き込まれ食人は爆散し砕け散ります。
「ってかさ、こんなの普通の攻撃で充分じゃん」
シュリュズベリィ著・セラエノ断章が、問答無用で召還獣フェニックスを呼び出し、スライムたちを一瞬で焼き払ってしまいました。
「……ふぅ」
辺りのざわめきも収まり、解放された朝斗はほっとため息をつきました。
「何も起こらないって聞いていたのに……今日もまた被害者だった……」
それでも、プール掃除は順調にはかどっているのでした。
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