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壊れた守護獣

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壊れた守護獣

リアクション

「よっしゃ! 撃破完了だぜ! このまま順調にいけばいいんだがな。それじゃ各自、タートとバーンに向かってくれ! 俺は遊撃部隊にここの入り口が開いたことを知らせてくるからなっ」
 アッシュの掛け声で戦い終えたばかりの契約者たちは休む暇なく次の守護獣の所へと急ぐのだった。アッシュもタイニーを倒したことを遊撃部隊に伝えに行こうと走り出した。しかし、得体の知れない声がそれを止める。
『待て、人の子よ』
「うおわっ!? い、いきなりなんだぁ!? というか誰だよ!?」
『我が暴走、よくぞ止めてくれた。感謝する』
「ま、まさかタイニーか!?」
 倒れていたはずのタイニーが体を起こしてアッシュを見つめている。得体の知れない神秘的な声はアッシュの脳内に直接流れ込んでくるように聞こえていた。
『あまり話し込んでいる暇はないだろう。他の三体も暴れているのであればなお更』
「あ、ああ。そうだな。それじゃ悪いが先を急がせてもらうぜ」
『町の中心へと行くのか?』
「ああ、そこでタイニーを倒したって……あれ? でもタイニー復活してるよな? ……とりあえず入り口が開いたんだ! それは伝えないとな」
『ならば背中に乗れ。その方が早い。私も森の暴走を抑制しなくてはいけぬのでな』
「なるほどな。そういうことなら遠慮なく!」
 タイニーの背中に飛び乗るアッシュ。そしてタイニーが走り出す。巨体からは考えられないほどのスピートで町の中心へと駆け抜けるアッシュとタイニーだった。

 町の南。その入り口で暴れ飛び交うはドリー・バーン。飛んでいるだけで火の粉を振りまくその姿は人々にとっては守護獣とは見えず、もはや敵でしかなかった。
「ドリー・バーン……守護すべく生まれたにも関わらず最早それすらもできない、哀れな獣。せめて一刻も早く楽にしてあげます。行きますよ」
 そう言ってペガサスに騎乗し、空を行くのは源 鉄心(みなもと・てっしん)だ。同じくペガサスのレガートさんに騎乗して鉄心の後に続くのはティー・ティー(てぃー・てぃー)
 鉄心は『ホークアイ』で付近を索敵する。
「周りには誰もいないな。それなら住人に被害が出ることはないか……行くとしよう」
「ねえ、鉄心。本当に倒すのですか?」
「倒すほかないだろう。これ以上のさばらせておけば確実に被害者が出る。未だに出ていないのが奇跡なだけ。なら俺はバーンを倒す」
「けど好きで暴れているわけではっ」
「不可抗力で他の命を奪うのはいいことか?」
「う、ううっ」
 ティーにはまだ迷いがあったのだ。幻獣を敬愛する彼女にとってバーンもまたその対象に近しいもの。更にこの地を長い間守ってきたバーンを倒してしまうことに、それでいいのかとずっと迷いを捨てきれないでいたのだ。
「バーンもこんなことしたくないだろう。なら俺たちがやることはただ倒すだけじゃない。バーンの気持ちを汲んでやることでもあるはずだ」
「……うん。そうですよね。やらなくちゃ、いけないんですよね」
 会話をする二人にバーンが気づく。大きく旋回し、両翼から小さな鳥状の火の子を二人目掛けて放つ。
「さあ、迷いが吹っ切れたのなら戦うぞ。町のために、バーンのために」
「はいっ」
 火の鳥たちが二人に襲い掛かる。だが攻撃を易々と受ける鉄心ではなかった。事前に『スナイプ』を発動しておき更にその上から『トゥルーグリット』で一気に火の鳥たちを消し去っていく。
 しかしバーンの猛攻は止まらない。更なる火の鳥たちが直進してくるのだ。
「させません!」
 それを見たティーが『ソードプレイ』で眼前にまで迫った火の鳥たちをなぎ払っていく。
「これはおまけだ」
 その後ろから追撃として『追加射撃』にて火の鳥を迎撃し、文字通り降りかかる火の粉をを振り払ったのだ。その下ではイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が逃げ遅れたペットたちを必死に逃がしていた。
「さあ、早く逃げますの! 町の中心の方へ避難している人たちの所へ、できるだけ早くですの!」
 犬や猫、ゲージに入っていた鳥など、逃げ遅れてしまった動物たちが感謝するように吠え、鳴き、町の中央へと走って逃げていく。
「死んでは駄目ですの。……置いてけぼりは嫌ですもの! ああ、怪我してるですの! ちょっと待ってくださいねっ」
 『命のうねり』を使って怪我をしていた犬を治療するイコナ。治療された犬はすっかり元気になったのか、嬉しそうにイコナを舐める。
「い、今はそれどころじゃないですのよ! 早く逃げるですの!」
 しかし、イコナにすっかり懐いてしまったのか、傍を離れようとはしなかった。
「……もう、仕方ないですのっ。一緒にいきますわよ?」
 そう行ってイコナは走り出す。同時に犬も走り出す。
 その姿を上から見ていた鉄心。
「さて、守るべき対象も増えた。負けるわけにはいかないな」
「そうですね。もう、足踏みしてる場合じゃありません」
「なら行くぞ」
「はいっ!」
 同時にバーンへと直進する。当然、それを阻もうとするバーン。また両翼から火の鳥を羽ばたかせる。しかし二人には当たらない。
「二度三度と同じ攻撃をするのは利口ではないぞ? だからこそ、お前はここで果てる」
 鉄心は無防備になったバーンを捉えた。【ホエールアヴァターラ・バズーカ】を構え、躊躇いなくトリガーを引く。氷属性付きの攻撃がバーンの翼に直撃。
 そしてバーンの上には急降下してくるティーの姿があった。被弾し、氷属性の攻撃により火の勢いが弱くなった翼を狙い、『龍飛翔突』をヒットさせる。
 バーンはたまらず翼を折り、体勢を崩す。飛行を続けることも叶わずそのまま地面へと落下し、モロに地面へとぶつかる。
「やりましたか!?」
「……残念だが、この程度で終わる相手じゃないみたいだ」
 めり込んだ体を無理やり起こし、強烈な嘶きを発するバーン。その姿から倒れる素振りは見られない。
「だがこれで相手も地べただ。今まで手が出せなかった人たちもこれで戦える。ここからは援護主体で行く」
「わかりました!」
 そう言って今にも暴れまわろうとするバーンへと急降下する二人だった。

 地に落とされたバーンの眼前に立つのは平 武(たいら・たける)。そのパートナーであるイクス・カリィ(いくす・かりぃ)伊賀 恋(いが・れん)も武と共に臨戦態勢を取っていた。
「あの人たちのおかげでこれで地上からでも攻撃ができるようになったんだ。自分の力は、こんなときのためにあるんだ! 行こう!」
「もうー、なんでこんなでっかいやつと戦わなきゃいけないわ訳? 分が悪すぎじゃない?」
「ぐだぐだ言っても始まらぬだろうに。何なら後ろに下がっていてもいいんだぞ?」
「やらないとダメなんでしょ?」
 武に返答を促すイクス。それに対してきっぱりと答える武。
「もちろんだよ。自分やイクス、伊賀の力。それはきっと何かを守るだけの力がある。なら今戦わないとね! 準備はいいかい?」
「まあ、仕方ないか。やるからには全力でじゃんっ!」
「いつでもよいぞ」
「それじゃ行くよ!」
 武の掛け声で同時にスタートする二人。みるみるうちにバーンの元へ駆け寄る。しかしバーンが翼をばさっと思い切り凪ぐ。風圧が三人を襲う。
「伊賀!」
「わかっておる」
 武が『鋼鉄の絆』を使用して、伊賀を装着する。伊賀を装着した武はイクスの前に立ち体全体で盾となる。何とか風圧を凌いだのだ。
「やーるぅ。それじゃこれは助けてもらったお礼ねっ!」
 イクスが『パワーブレス』を武に使用する。武の全身に力がみなぎってくる。
「ありがとう。さあ、もう一度前進だ!」
「りょーかいりょーかい!」
 再度突進を開始。バーンまでの距離はさほどない。しかし、バーンを取り巻く炎が天然の鎧となって攻撃させまいとしている。
「全体がダメならピンポイント! さっきあの人たちがやったように! アルティマ・トゥーレ!」
 『アルティマ・トゥーレ』でバーンの炎を一時的に弱めた武は、そのまま『光条兵器』でバーンに攻撃をする。二段構えの攻撃は見事にヒット。
 だがしかし、バーンも易々とは倒れてはくれなかった。武目掛けて翼をぶち当てる。何とかガードに成功した武だが、そのまま後ろへと吹き飛ばされる形で着地する。
「あの攻撃がちっとも効いてないとか、まじぃ?」
 さすがに困惑を隠し切れないイクスに対して、武は冷静だった。
「仕方ないよ。あれだけのサイズ、しかも守護獣なんて大層な名前。これで弱かったらそれこそ大嘘だよ。でも、だからって自分は引かない。引いてしまったらいろんなものが犠牲になるから」
 強い信念と決意を持って武は断言する。そんな武を見て、観念したように肩をすくめるイクス。
「……はいはいわかりましたわかりました。やりゃーいいんでしょう? 善処すりゃいいんでしょう?」
「我がままに付き合ってもらって、ごめん」
「いいって。恩人の頼みだものね。せいぜいがんばらせてもら、う?」
「どうした?」
「……心強い助っ人たちのご登場みたいよ?」
「えっ?」
 武が振り返ると、こちらに向かって走ってくる契約者たちの姿が見えたのだ。タイニーを撃退した契約者たちが遂にこの戦場に駆けつけることに成功した。
「……よしっ! これまで以上に頑張るぞ!」
「がらじゃないけど、わかったじゃん!」
 だが武たちはここ一番で油断してしまった。振り返った先にはバーンから放たれた火の鳥たちが迫っていたのだ。とっさに武はイクスをかばう。
「ごめん伊賀! 何とか耐えてくれ!」
「無茶を言うな! あの攻撃に耐えられるか!」
「それでも!」
「武っ!」
 刹那、火の鳥が、武に、伊賀に。