リアクション
■その名は、魔吸桜
――翼の根気の入ったパンチによって、戦闘は無事に終了した。種のほうもボス化け物が絶命したことによりその成長機能を失い、これ以上は増えることはないようだ。
契約者たちは翼と樹菜から戦闘中に何が起こったのかを訪ねていく。そしてそこで、二人の口から契約を交わしたことを聞くこととなる。そして、契約をしたことで樹菜も決心がついたのだろう。「皆さんにお話があります」と、樹菜は契約者たちに話そうとしなかったことを話すことにしたのだった。
とはいえ、このまま工場跡地で話すわけにもいかなかったので、翼が無事なことを伝えに、そしてもとより最初からそこへ行く予定の契約者たちも多かったため、一行はここでの後処理を終えたのちに『天使の羽』へ向かい、そこで樹菜の話を聞くことになった。
「――どうやら、この化け物に染み込んでいる『怨念』が、封印を解きたがっている……と言ったところでしょうね」
後処理の一環として、ボス化け物を『サイコメトリ』、並びに『博識』で調査し、どのようなものなのか調べる運びとなった。そしてその結果、『サイコメトリ』から見れたものはさっき見たのと変わらぬ、まるですべての恨みを体現したかのような怨念のみ。しかし、化け物たちが固まって一つの大きな個体になったことでその怨念が『封印を解け』という呪詛のような声がずっと響いていたことが判明した。しかしわかったのはこれだけであり、『博識』における調査でもこの樹木がいたって普通の桜の木であることのみ。どこにでも生えているようなものなので、特定するのも難しそうであった。
……のだが。どうやら樹菜に心当たりがあり、そしてそれは樹菜が話すこととも関わりがあるらしく、その時に一緒に聞くこととなった。
これ以上調べても情報は得られそうにない。残りの後処理は国軍が引き継ぐこととなり、契約者たちは『天使の羽』へと向かうことにしたのであった。
……『天使の羽』は、契約者たちによる貸切状態となっていた。というのも、ここのクレープを愛するクレープ好きの人たちが中心となり、翼と樹菜の契約記念プチパーティーのようなものが取り行われている真っ最中だった。
「――わぁ、このクレープ美味しいです」
「でしょ、でしょ! こっちのもおすすめなんだ、それを食べたら食べてみて!」
樹菜はマーガレットからおすすめされた『七色チョコチップ』を口にし、その美味しさに思わず目を輝かせる。『天使の羽』のクレープに興味を持ってもらおう、というマーガレットの作戦だったようだが、大成功と言ってもいい。
さすがに店員だけじゃ足りないためか、一部の契約者や主賓であるはずの翼も手伝いに駆り出されている。さすがに手慣れているのか、翼の動きは実にテキパキとしていた。
「もう、ゼクスったら! 私を守るのはいいけど怪我とか気を付けなきゃダメでしょ!」
「ん……」
パーティの片隅のほうでは、ゼクスが月夜の『命のうねり』で治療を受けているところだった。どうやら、月夜の盾としてゼクスが戦闘に励んでいた時に足に怪我を負ってしまっていたらしい。しかし、寡黙である点と無理をしてでもマスターを守るという想いから怪我のことはは黙っていたようだ。なのだが……結局月夜に見つかってしまい、こうして治療を受けているというわけである。
治療を受けている中、ゼクスはやはりわからずにいた。なぜ刀真の行動基準を月夜たちは容認しているのか……。その想いを理解するのは、まだ先の話なのかもしれない。
――プチパーティーもたけなわを過ぎ、全員がようやく落ち着いたところで、樹菜がついに話を切り出す。ここからは樹菜の話す『“鍵の欠片”、そして仙道院家の封印しているものの』の話となる――。
「……まず、私から話すことは“鍵の欠片”についてです。これは仙道院家初代当主が作ったという封印具で、三つ揃って初めてその力を発揮できます。そして、仙道院家がそれを使って封印しているモノ――それが、魔吸桜と呼ばれる桜の大樹……。
魔吸桜は元々、葦原島に古くから生えていた桜の樹だったのですが……大気中の魔力を無尽に吸い尽くすという特性を持った、大変危険な大樹でして、近づくことで体力すら吸おうとしてしまうため切り倒すこともできず……魔吸桜のすぐ近くに居を構えていた仙道院家が、“鍵の欠片”を使うことによって封印を施しました。元々強力な封印なのですが、施された封印は仙道院家の女子当主が襲名された時に補強されるので封印が弱まることは早々なかったのですが、パラミタの崩壊による影響が原因で封印に綻びが生まれてしまったらしく、早急に再び封印を施さなくてはなりません。
しかし、“鍵の欠片”は前回の封印補強を最後に、行方不明になってしまいました。探そうにも行方不明になってしまってから私が産まれる日までの間、仙道院家の血筋を持つ女子が産まれなかったこともあり、捜索に時間がかかってしまったのです……」
ここで一度話を区切り、全員に視線を渡していく樹菜。この話を聞いてどう感じてくれているかは、その契約者次第だろう……。
「そういうわけで、私は“鍵の欠片”を探しています。もし封印が解かれてしまった場合は魔吸桜が復活し、葦原島を始めとした大気中の魔力と人々の体力を全て吸い尽くしてしまうでしょう。それだけは何とか阻止しなくてはなりません……」
「え、このペンダントを『サイコメトリ』したい?」
樹菜の話の大部分が終わり、今後のこともあってか一度解散の運びとなったその時。ダリルが翼のペンダントを『サイコメトリ』したいという申し出がきた。欠片の正体を知りたい、というのもあるらしいがなぜ行方不明になったのかわかるかもしれない……という、冷静な考えのもとの提案であった。
「樹菜……大丈夫かな?」
「問題ないと思います。何かわかるかもしれませんし、お願いします」
許可をもらえば、さっそく翼からペンダントを預かって『サイコメトリ』を試みる。そして、そこで見えてきたのは――。
「……。すまん、何も見えなかった」
そう言いながら、申し訳なさそうにペンダントを翼へ返すダリル。ダリルの様子を見て、翼は小さく首を傾げてしまった。
(――まさか、翼の両親のことが見えてしまうとは……)
ダリルが『サイコメトリ』によって見えたもの、それは翼と翼の両親の思い出。そこには楽しさと辛さが織り交ざった、簡単に触れてはいけない思い出ばかりであり……。
さすがにこれを口にするわけにはいかない。そう判断したダリルは胸の奥にそのことを仕舞い込み、翼たちと別れていった。
「……みんな、いっちゃったね。もしさ、協力してくれる人が少なくなっても……私は樹菜の手伝いを絶対する。それだけは絶対約束!」
契約者たちを見送った後、翼と樹菜は『天使の羽』の片づけを手伝い、従者の案内で近くの宿で休んでいた。そして、翼は今の言葉を樹菜に口にしていく。
「はい……よろしく、お願いしますね翼さん」
「私のことは翼、でいいよ。せっかくのパートナーなんだしさ」
「ふふ、そうですね……じゃあ改めて。これからよろしくお願いします……翼」
「うん! もちろん!!」
新たに紡がれた契約の絆――その名は、翼と樹菜。これから二人に待ち受ける未来は、まだ誰もわからない。
初めまして、もしくはこんにちは。柑橘類系マスター・秋みかんです。
今回もたくさんのご参加ありがとうございました。……えー、正直なところ今回は難産でしたね。しかし、その分うまく練り込めたかなぁ、と自負してはおります。続き物なのでこれからどうなるか……実に気になるところでもあったり。
今回も称号が増えてたり増えてなかったりします。お楽しみに。
それでは、またお会いできることを願いつつ――。
〜次回予告〜
契約を結んだ地球人・天翔 翼と葦原島に住む仙道院家の一人娘・仙道院 樹菜。
二人はより互いを磨き、守るものを守るべく芦原明倫館に転入することとなる。
そんな二人に待ち構えていたのは、温泉旅館貸し切りの全校交流イベントだった!
温泉に襲うにゅるにゅるしたもの! そしてさらに事態を加速させる、堕ちた飛空挺!
果たして残りの“鍵の欠片”は見つかるのか!? そして、謎の影の正体とは!?
次回、桜封比翼・ツバサとジュナ 第二話〜これが私の交流〜