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リアクション
〜 二日目・午後7時 〜
地球とは環境も違うパラミタにも四季がある故に、当然陽の長さも変わる
初夏に近い時節にふさわしく、陽が比較的長いなかようやく夜の帳が降り始め、ひぐらしなんかが鳴きはじめる頃
たった一人おっかなびっくりと祭壇までの林道を歩く一人の人影があった
「……おかしいなぁ、もうちょっと今日は賑わったって話なんだけどなぁ」
人気の無い林道を歩きながら彼……扶桑の木付近の橋の精 一条(ふそうのきふきんのはしのせい・いちじょう)は首を傾げる
学園の掲示板や先に訪れた者の話だと、発起者の雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)を中心に
誰かが必ず森の入り口か祭壇近くで警護についているという話であったが
そんな話が嘘のように、ここまでの道中で見事なまでに人がいない
「ラッキー!こんな話題の場所にオンリーワンなんて願かけ放題じゃん
まさに天下が俺を呼んでるって感じ?いいじゃん、俺のバンカラブルース街道マッシグラだぜ!」
意気揚々と言葉を放ちながら腕を振り回し、ずんずんと道を歩く一条
もちろん、やや饒舌な口調の裏に完全な強がりが含まれているのは隠しようもない事実である
落ちかけた陽は、完全に木々を黒いシルエットに染め、鳴り響くひぐらしが一層静けさを誘う
ああなんかこんな時に、この道にバス停とか電話ボックスとかあったらちょっとホラーゲームっぽいじゃん?
なんかいきなり『嘘だッ!!』とか言いながらベレー帽の女の子が鉈もって出てきたら思わず首筋欠いちゃうよね〜
……なんて、どこかで聞いたようなアニメ化までしたゲームネタを思い出しているうちに
外見年齢が実年齢を凌駕したらしく、オバケなんかないさオバケなんて嘘さ〜と歌いだす【見た目10歳】
うっかり視線の先に【雛○沢】と書かれたバス停の幻覚を見かかったが、そこにはちゃんと祭壇があった
「べ、別にびっくりしたわけじゃないんだからなっ!」
……と、完全に誰得なツンデレを披露した後、今一度あたりを見回し、人気がない状況を確認する
目の前にはチョロチョロとかすかに清水が流れる音と共に、祭壇とそこに浮かぶ水晶の花がひとつ
昼にはキャーキャー言われ綺麗に輝いていたそれも
薄暗がりにぼうっと光りながら、すぃーっと水面をゆっくり勝手に動く様は、雰囲気バッチリなことこの上ない
………こうなると完全に噂の一つが頭をよぎる一条君である
【 冒険の願掛けに夕暮れ時に足を運んだら幽霊のような精霊のような影を見た 】
もはや自分自身が【地祇】という存在など頭から吹っ飛び
完全一致なシチュエーションに変な汗が出かかるも、ぶんぶんと頭を振って恐怖心を振り払った
「な、なに弱気になってんだ俺!そんなんじゃ天下なんか取れないじゃん!さ、お願いお願い」
ぎゅっと目をつぶり、ぱんぱんと手を合わせる信仰違いな作法で、一条は一気に願い事を述べる
「将来はバンチョーとして、マスターにお礼返しできる位の天下を轟かせる奴になりますよーにっ!!」
言い切った後、絶対自分の主の前では言えない願いを言えた事に、ガッツポーズで感慨に浸る一条君
さぁ後は帰るだけだ、もう用はないんだからさっさと帰っていいんじゃない?でも走るとみっともないジャン俺!
……なんて踵を返して思案に暮れながら足を進めようとしたとき……その声は聞こえた
「ほほう、それがあなたの秘密の願いですかそうですか」
厭味ったらしいまでにひそひそと、かすかに聞こえた声にフリーズする未来のバンチョー
再び、オバケなんてないさ〜と歌おうとした瞬間、背後でがさっという音と共に再びはっきりと声が聞こえた
「ふふふ〜根掘り葉掘り知りましょう、秘密でも握りましょうそうしましょう」
「でたああああああああああああああああああああああああ」
【バーストダッシュ】をも凌駕する高速移動で一目散に逃走する夢はバンチョーの人
茂みに揺れていた影もふふふふ〜と不気味に笑いながらそれを追いかけようと、ゆらりと移動を開始する
だがその影が祭壇を離れ、林道に差し掛かる刹那……
警護役杜守 柚(ともり・ゆず)の声と共に閃光が影に炸裂した
「射抜け!【我は射す光の閃刃】!!」
「ぎにゃああああああああああああああああああああああ」
想像以上のクリティカルヒットに、影が木々を越えた上空高くまで舞い上がり
程なくしてバキバキと茂みの枝に絡まりながら、地面に人型の陥没を残して落下した
その時分でようやく所々に潜んでいた雅羅が姿を現し
アルセーネ・竹取(あるせーね・たけとり)やヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)もそれに続いて人型の穴を覗き込む
「これはまた、ずいぶんなオチの幽霊ですわねぇ〜」
アルセーネが言葉共に覗く先には瀬山 裕輝(せやま・ひろき)が高圧の光に焼かれ、煙を上げながらのびていた
呆れ顔と共にむんずとヴァルが襟元をつかんで引き上げると、理由を聞きより早く?コゲが自白を始める
「ふ……流石や……このオレの【ヒトの秘密を握って妬み隊へ勧誘するじぇ★】計画を突き止めるとは
だがもう遅い……一か月前から集めた多くのモノの秘密は、この【携帯録音機】に……」
「悪いがすでに焦げてるぞ」
「…………………………………………………………む、無念」
ヴァルの言葉に手に握っていた切り札が消し炭になっている事を見定めると、?コゲは完全に機能を停止した
それを見た雅羅が、呆れ顔で傍らの霧島 春美(きりしま・はるみ)に話しかけた
「……ホントにこれが【幽霊】の正体だったのね」
「残念ながら証言者の話が一致しすぎたのよ
あと被害者がここに願いに来た内容がみんな【人には言えない大それた野望】だったってのもね
まぁ、あともう一つの要因ももうじき捕まえて来ると思うわよ……ほら」
そう言って春美が指差した先には杜守 三月(ともり・みつき)にサーベルを突き付けられ現れる人影があった
……というか完全に【人影】としか形容できないモノで、言い方を変えれば【人型記号=ピクトグラム】
もっと厳密に言えば【ナノ粒子が収束したポータカラ人】という奴で
そんな出来損ないのCGめいた青いヒト益荒男・葵井(ますらお・あおいゐ)は足取りもしっかり
完全に外見と剣を突き付けられた状況に反して、はっはっはー……と実にさわやかな声で口を開いた
「いや〜見つかっちゃいましたか!
いやなに、うちのマスターが何やら面白いことをやっている様子だったのでね
散歩がてら観察するのがなーんか日課になっちゃって、ついでに幽霊騒ぎもあるらしいから
一目見たくてずーっと数週間前から探してたんですけどね?
なんかそんなワタシが幽霊だったみたいで……いやもうチョーうける、みたいな?あっはっはっはっは」
顔もよく見えない癖に誰よりも爽やかに笑う【NO IMAGEの中の人】
なんだか無性にムカつくのでマジックで昭和風の少女マンガな顔でも描いてやりたい衝動を堪える雅羅である
ネタとしては抜群だがオチとしては非常に残念極まりない【幽霊または謎の人影】の結末に
昨日に続いてやって来た黒崎 天音(くろさき・あまね)も完全に呆れ返っている
「【幽霊の正体見たりなんとやら】って言うけど………
なんかどんどん水晶の神秘性が失われる気がするよ……まぁ、現実なんてこんなのかな」
「落ち込むな、これ位の方が騒ぎにもならずにいいだろう?」
ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)の彼なりの慰めに苦笑しながら
天音はもう一人の新たな探究者に改めて声をかける
「……で、この水晶に対して重要な謎の一角がつまらないオチで判明したんだけど、この後は?」
天音の問いに腕を組んで返答する、探究者改めマジカルホームズ・霧島 春美
「このまま見張りを続けましょ
今までの幽霊はわかったけど、これからの幽霊も可能性は無いとは言えないし」
「こやつらの他にも迷惑な連中が来るという事か」
「いや、それはもう無いと思うけど……」
ブルーズの問いに今さっきの珍客を一瞥し、苦笑しながら春美が答えた
「【願い】ってある意味自分と向き合う事でしょ?そういうのに切実な人はきっと夜に来ると思うと思うんだ
ま、推理の初歩って事だよ、ワトソンくん」
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