空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

大切なアナタの為に

リアクション公開中!

大切なアナタの為に

リアクション


第6章  うみから


 小島へと辿り着き、目的は無事に達成。
 なんとも順調に、ここまでは進んでいた。

「おや、ようやく終わりましたか。
 お疲れ様です」

 木陰から立ち上がり、装束に付いた埃を払う。
 プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)の手へと、甲殻類が渡った。

「それでは私は一足先に帰りますのでごゆっくりどうぞ」

 『オーロラハーフ』に乗り、飛び上がろうとした……刹那。

「なにっ!?」

 海から伸びたのは、至るところに眼のようなモノがついた、腕。
 咄嗟に『光明剣クラウソナス』を抜いたためかすり傷で済んだものの、直撃していたら危なかった。

「なにかいるぞ!」
「プラチナム殿、退がって!」
「……」

 匡壱もゲイルも、武器をとる。
 海から姿を現したのは、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)だった。
 とはいえ。
 『無貌の仮面【アンノウンスカルフェイス】』で隠れた顔からも。
 『怪異の躯【双錐の衣】』に包まれた全身からも。
 最早、エッツェルの面影は見受けられない。

「あれは……」
「最近各地で見られるようになった異形、か?」

 膝から下はまだ、海に浸かった状態。
 よく見れば辺りには、魚介類の死骸が浮かんでいるではないか。
 ゲイルも匡壱も、まだあまり上手く事態を呑み込めていない。

「とっ、とにかく戦うしかないってことだろ!?」
「っちょ、昶っ!」

 本能のままに、白銀 昶(しろがね・あきら)は砂浜を蹴った。
 エッツェルの頭上へと、2本の『ブレード・オブ・リコ』を振り下ろす。
 清泉 北都(いずみ・ほくと)も【サイドワインダー】を撃った……しかし。

「うわっ!」
「昶っ!」
「……」

 攻撃は、傷ひとつ与えることができなかった。
 『水晶翼【レッサーダイヤモンドドラゴン】』に跳ね返された昶を、北都が辛うじて受け止める。
 舐められているようで腹立たしいが、エッツェル自体は動かないのが幸いだった。

「プラチナム!」
「え?」
「俺達があいつの気を惹く!
 その間に行け!」
「匡壱と私も、すぐに後を追いましょうぞ!」
「……分かりました。
 心配などしてやりませんからね」

 指示を出す匡壱とゲイルを、プラチナムは信じることに。
 【龍鱗化】に【エンデュア】と【インビンシブル】のうえ【フォーティテュード】も発動。
 剣を逆手に持ったままで再度、天馬へと跨がった。

「2人とも、これを使うがよいぞ!
 陸の護りは任せろ!」
「かたじけない!」
「おぅ、ちょっと借りるぜ!」

 『蒼炎槍』を構え、夏侯 淵(かこう・えん)が仁王立ち。
 渡された『ウォータブリージングリング』を着けて、ゲイルと匡壱は水面を駆けた。

「看病をしている相棒へ連絡を入れておいた!
 行け、プラチナム殿っ!」
「淵様もご無事で!」

 タイミングを見計らい、淵はプラチナムへ合図を送る。
 エッツェルが戦闘行為を楽しんでいる隙を突いて、策は成功した。

「ぐっ、ダメだ!
 物理でも魔法でも、全部防がれちまう!」
「魔力も、底をつく気配がありませんな」
「……」

 距離もダメージの大小も、エッツェルの前では無意味。
 まったく無力で、個々の能力だけでは歯が立たないと識る。

「けど……」
「同時に仕掛ければっ!」
「「どうだっ!」」
「「どうですっ!」」

 だからこそ、顔を見合わせて頷くゲイルと匡壱。
 空へと飛び上がり、左右から突撃を試みた。

「……」
「ぐっ……」
「くそっ……」

 瞬間、エッツェルの方が上空へと飛び上がる。
 派手にぶつかった2人だが、初めてエッツェルを動かしたのだ。

「ぁ……」
「紅の、髪……」
「……」
「ぁ、待てっ!」
「追うな、匡壱っ!」

 脱げたフードの下から現れたのは、血のように赤い髪。
 後ろで束ねたそれには一瞬、記憶のなかの笑顔が重なった。

「ゲイル、匡壱!」
「淵殿……」
「無事でなによりだ、とにかく帰ろう!」
「あぁ、頼むぜ!」
「一気に飛ぶぞ!」

 先に飛んだプラチナムの安堵も気になり、淵はすぐに『空飛ぶ箒シュトラウス』を構える。
 2人を乗せれば、間もなく葦原明倫館を目指した。

「僕達も食事はするし何とも言えないけれども。
 できることなら、殺生はして欲しくなかったなぁ」

 残された北都達は、海を眺めて心を痛める。
 せめてきちんと葬ってやりたくて、全員で砂浜へと埋葬した。

「んじゃあ気を取り直して、ハイナさんへの『心の薬』を探そうか」
「お見舞いには手ぶらで行けないもんな。
 何か、お土産になるような物は……」

 北都と昶の声に応え、皆で辺りを大捜索。
 綺麗な貝殻や椰子の実など、面白珍しいモノを持ち帰るのである。