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アキレウス先生の熱血水泳教室

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アキレウス先生の熱血水泳教室

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【ホームルーム! はじめ】


 「久しぶりに蒼空学園にきてみたら――。
 ……こんな施設ありましたっけ」

「無かった……はずなの」
「っていうか完全に常軌を逸していますよね」
 はて、と首を傾げる志位 大地(しい・だいち)の横で、ジゼル・パルテノペー(じぜる・ぱるてのぺー)は未だに頭を抱えていた。
 昨日の授業の終わりに落胆と共に後にした彼女の学び舎のプールは確かにこんな代物でなかったはずなのだ。
 ”至ってシンプルでノーマルな学校のプール”が、今日になってこんな仕様になっていた事に、普通の者ならば驚きを隠せずにいる事だろう。
 彼女もその例に漏れず、暫くの間はただ呆然と”天井が見えない”、”チューブが至る所の張り巡らされ”、”怪音が鳴り響き続ける”異様な施設に様変わりしてしまった
この場所を眺める事しか出来なかったのに、友人の高円寺 海(こうえんじ・かい)はと言えばそうでも無いらしい。
「泳げないものはアキレウスに申告のして、どの訓練に参加するか決めてくれ。
 既に泳げる者は教官としての手伝いも頼みたい。 各プールでの監視員も必要だからそれは俺の方に。
 救護班は流れるプールの隣のベンチに簡易の――……」
 こんな事を話しながら拡声器を片手にテキパキと働く海に、ジゼルは感嘆のため息を漏らした。
「凄いわね、こんな状況で」
「皆慣れてますからね」
 と、苦笑混じりに答えたのは杜守 柚(ともり・ゆず)だった。
 元々全く泳げない訳では無い彼女だが、試験当日は運悪く風邪による体長不良で欠席してしまっていたらしい。
 その事で柚は彼女の兄弟杜守 三月(ともり・みつき)に「夏の風邪は何とかがひく」と軽口を叩かれたのだが、
それが発破をかける事になったのか、改めて水泳の勉強をしようとジゼルら友人と共にこのプールへやってきていたのだ。
「これじゃあ逆に再テストが心配です……」
 まさか休みの間に学園がこれ程までに変わり果てていたとは思わなかったから、軽い気持ちだったのに。
――このままじゃ逆に大変な事に巻き込まれるかも。
 と、危惧する柚を尻目に、三月は大胆にも笑みを浮かべて言う。
「でもまあ何とかなるよ。良く有る事だし」
「まさか」
 冗談。と言いかけて、ジゼルは三月が決して冗談で言っているのでは無い事を近くで頷いている学園の仲間の顔を見て理解する。
「蒼空学園に限らず――俺の学校もそうだし、何処の学校も妙なトラブルが付き物ですからね」
「うむむ、奥が深いのね、学園生活って。」
――この数ヶ月の間に地上の生活も、学園生活もすっかり慣れたと思っていたのに。
 トラブルも普通の事だと言う大地に、またも頭を抱えて考え込んでしまうジゼル。
 そこへ唇を一文字に結んだ小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が割って入ってきた。
「でーも!
 こんな魔改造普通ならあり得ないよ。生徒会副会長としてはこんな暴挙許す訳にはいかないっていうか…… これに許可出したやつには後で二、三発蹴り入れてやんなきゃ!
 ――って、あ。ごめん! ……かな?」
 来るべきお仕置きの時間の為に足を勢い良く地面に打ち付けていた美羽だったが、
隣で苦笑しているのが蹴りを入れる予定の男の妻だという事に気づいて慌てて訂正しようとすが、その妻の方もこの状況に首を捻っているようだ。「本当に、アキレウスくんは何と言って涼司くんに許可を貰ったんでしょうか?
 他校生の方も沢山巻き込まれてしまっているみたいですし……」
 山葉 加夜(やまは・かや)は言いながら、アキレウス・プティーア(あきれうす・ぷてぃーあ)を見て心配そうに息を吐く。
 思った通りに事が運んで満足そうに目を輝かせているアキレウスの傍には、リブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)と彼女のパートナー達が立っていた。
 クールな漆黒のビキニと胸元結ばれた緋色のパーカー姿のリブロは、一見すればエレガントなレディそのものだが、
頭から踵まで棒を刺したような真っ直ぐの姿勢と、隙のない表情から、訓練された軍人――即ちシャンバラ教導団の人間だという事が推察出来る。
「ああ、彼女達はアキレウスの副官として手伝ってもらうとか何とかで――
 それよりそろそろ始めるぞ」
 いつの間にか加夜達の後ろにやってきていた海が合図すると、アキレウスが拡声器を持って話し出した。
『皆、今日はよく集まってくれたな。
 未だに泳げないもの…… 特に明日に再テストを控えている蒼空学園の者は焦っている事だろう。
 だがまだ慌てるような時間じゃない!
 俺と海、そしてここへ集まってくれた教官達がお前らをビシ! バシ! 鍛えて 必ず今日中に飛び魚の様に見事泳げる様にしてやるぜ!!』
 普段のぶっきらぼうな態度から一変して、声を弾ませるアキレウスは如何にも状況を楽しんでいるようだ。
 アキレウスがそのままノリノリで続けようとしていた所、肩をトントンと誰かに叩かれる。
「あーちょっと良いかな?」
「お、構わんぞ。生徒会長から一言だな?!」
 アキレウスは蒼空学園の生徒会長こと東條 カガチ(とうじょう・かがち)に拡声器とその場を譲る。
――安全の為に挨拶は大事だからな!
 と、この魔改造を施した人物とは思えない考えがアキレウスの脳内を巡っていた頃、
カガチとっくに当たり障りの無い挨拶を終えて、事故防止の為の説明を終えようとしていた。
 その間は3分にも満たなかったのだが……
『――という訳で、怪我の……無いよう……ね。うん』
 拡声器を持っているというのに、カガチの声はボソボソと歯切れが悪い。
「どうした東條。何か問題でも??」
「いや、問題は有りまくりって……もうそこ突っ込んでも遅ぇんだろうけどさ。
 悪い、続き頼むわー……」
「? ああ。分かった。
 じゃあ早速始めるか」
 妙な様子で居なくなってしまったカガチに渡された拡声器を再び口元へ持っていくと、アキレウスはそもそも拡声器が要らないくらいの大声でこう始めた。
『まずは準備体操を始めるぜ』