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アキレウス先生の熱血水泳教室

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アキレウス先生の熱血水泳教室

リアクション

 蒼空学園の生徒でありながら、駆け出しのグラビアアイドルとして日々奮闘中の久世 沙幸(くぜ・さゆき)
 近頃仕事の量も順調に増えていき、学校に顔を出せる日が減りつつもあった。
 前日のテストにも雑誌の撮影が入っていたから、仕事を優先させる為に泣く泣くテストを見送った。
――まだ駆け出しだから仕事を選んだりしてられないもん。
  それにまた再テストを受ければいいし
 そう思っていた沙幸だったが、現実そう上手く事は運ばない。
 妙な鳴き声を気にしつつも、人が居なくて変な飛び込み台も波も無い!
 と、安心し、テストに備えて黙々と真面目に練習していた沙幸に、異変が起こったのだ。

 ぴたり。
 ぺたりと、彼女の身体を何処からか触ってくるものがあったのだ。

――んー?
「……さっきからセクハラしてくるのは一体誰なんだもん!」
 振り向くとそこに居たのは人ではなかった。
「わわわ、何でこんなところにイカの足みたいなものが?
 もしかしてさっきの鳴き声って……」
 驚いている間に、沙幸の足に触手が絡み付き、ビキニの胸元にあるリボンを引っ張って脱がそうとしている。
「ひゃ!」
 沙幸は胸元を両手で抑えるが、その間に別の触手が沙幸のパンツにある紐を引いてきたので、リボン結びがほどけて沙幸の下の部分が露になりそうになる。「悪いコね!」
 沙幸は水着に忍ばせていた手裏剣で触手をさすと、相手が怯んだ隙に空飛ぶ魔法で飛び上がった。
「こんな不埒な触手、成敗してあげちゃうんだもん」
 言い放つが、水着がはだけた状態の彼女に武器は無い。
 それでも、刀も何もなくても戦うグラビアアイドルには己の手と、足と、そして何より勇気があった。 
「手裏剣は刺さったまま……でも……

 丸腰だってちゃんと戦えるんだもん!」



「ソニックブレード! ソニックブレード!
 真空波! 真空波! ソニックブレード!」
 魔法少女 マジカル☆カナとして戦おうとして準備を終えた遠野 歌菜は、既に戦っていた月崎 羽純が鬼の様な形相で攻撃しまくっているのを見てぽかーんだ。
 普段のクールな印象が丸で無い勢いで、兎に角数撃ちゃ当たるのだと乱撃を繰り出している月崎は、既に精神的な我慢限界を越えていた。
 滅茶苦茶なコースのウォータースライダーも!
 常識外の高さの飛び込み台も!
 もの凄いスピードで流れるプールも!
 もうこりごりだ!
「こいつらを全部倒して……普通のプールにしてやる!」
「おおお、なんかすごい! 
羽純くん、がんばれー!」



「だめー、追いつかれるー!!」
 蛇行して向こう岸を目指していたジゼル達訓練生グループだが、触手は何本もある。
 避けては追いつき、避けては追いつきときりがない。
 その上、ルカルカが出したランプの魔人の召還時間は間もなく切れてしまいそうだった。
 上條 優夏は絶零斬で触手凍らせてみるもの、次の触手を攻撃している間に再び凍結状態から回復してしまうのだ。
「このままじゃ埒があかん!
 なんとかせんと……」
「泳げないジゼルを優先に向こう岸に連れて行きましょ!
 ここは私が食い止めるから、あななた達がお願い」
 リリア・オーランソートの提案に、優夏らがジゼルを引っ張って向こう岸へ進んでいった。
「私はしんがりに! 殺気看破で触手がくるのを察知します」
 フレンディス・ティラの声を遠くに聞きながら、エース・ラグランツはパートナーのリリアに向き直った。
「食い止めるといってもどうするんだい?」
 そんな質問にリリアはあら。と笑い出す。
「斬ってしまえば問題ないわ。
 こんな時の為の武器でしょう?」
 そう言いながら、リリアは腰にぶら下げられたままの剣をスラリとぬいた。
 人数が居る場所では危険だが、エースと二人になってしまえば思う存分振るう事が出来る。
 ジゼルらに向かって触手が水中を進んでいるのを見つけると、リリアはエースに向かって合図した。
「レディに対し何と失礼なその振舞い。見過ごせないね」
 エースはリリアに話しかけながら、彼女を空飛ぶ魔法で上空へと上げて行く。
「同感よ!」
 魔法がとけた瞬間。
 リリアは飛び込み台から落ちていた訓練生たちのように、上空から水中に向かって自由落下していく。
 ただし彼女の手には剣が握られ、それが水面を切り裂くと、海獣の触手はそのままプールの底に磔になった。



「ジゼルちゃん! こっちへ!!」
 山葉 加夜はすでに自分が岸に辿り着いていたにも関わらず、ジゼルを助ける為に再び水の中へ戻ってきていた。
「落ち着いて呼吸を整えて、あと少しですからね」
 不安にならない様に声を掛けながら進んで、もう手を伸ばせばプールサイド。 というところで
「きゃあああああ!!!」
 加夜は触手に捉えられてしまったのである。
 ジゼルを守ろうとする余り、自分の事がおろそかになってしまったのだ。――しまった!
 フレンディスが鉄扇を投げつけるが、それは加夜の居る場所から遥か遠い触手に当たってしまった。
 
「「加夜あああああ!」」
 ジゼルの声とユニゾンしたのは、恐怖のプールの扉を開けてプールサイドに飛び込んできた山葉 涼司(やまは・りょうじ)の声だった。
「くそーこんな滅茶苦茶な施設、一体どこのどいつが作りやがったんだ!!」
「おまえだー!!」
 涼司の頭に、小鳥遊 美羽のキックが炸裂する。
「お、俺ぇ!?
 こんなの許可した覚えないぞ!!?」
「あんたが新婚ほやほやでふにゃふにゃしてるから、ぼんやり許可通しちゃったんだろぃ」
 東條 カガチが呆れた顔で言いつつ爆発しろと付け加える。
「盛り上がっている所申し訳ないんだが、校長の奥さんがピンチだぜ?」
 高柳 陣が指差す先では、触手に捉えられた加夜の、蒼空学園指定水着で一番ヤバイ部分――、
 胸の谷間に向かってもう一本の触手が伸びていた。
 このままでは水着が剥がれてしまう!
「俺の装備で今飛び込んでも、もう間に合わないかもしれませんね」
 鬼龍 貴仁がライフセイバー仲間のコハク・ソーロッドや蔵部 食人を見るが、二人もやはり無理だと首を振った。
「ああああそんな事言ってる間に加夜があああああ」
 叫ぶ涼司の横で、海が呟いた。
「まさか……ぽろりか!?」
「てめえ高円寺海、その顔は期待してやがるな!?
 あれは俺の新婚ほやほやのかわいいかわいい新妻だぞ!」
「新妻だからだ!」
「うええええ!?」
「皆目をそらせ! ……いや、正直そらせない!」
「そこはちゃんと反らして欲しいよアキレウス!」
 そういう自分が一番目を反らす事が出来ずに居た涼司。
 プールサイドで女子達がもういい加減にしてください。とあきれ果て、
 男達が人妻がぽろりの退廃的瞬間を固唾を飲んで見守っていたときだった。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
 雄々しい叫び声をあげ、イルカが水面を猛スピードで進んで行く。

「流れに逆らわずに! 抵抗せずに! 見本みたいに正しいフォームで! バタフライ!!

 バーッ!! グワーッ!! ガバーッ!!

「その声……まさか、ジゼルちゃん!?」
「加夜あああああ!」

 教官に、仲間に。
 皆に教えてもらった技術の結晶となったジゼル・パルテノペーは飛び上がり、見事加夜を触手から奪い取り人妻ぽろりの瞬間を阻止したのである。



 新たな戦いを求めて、今、強者 緋柱 透乃(ひばしら・とうの)は笑顔を浮かべ緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)と共にプールサイドに立っている。
 透乃は大胆なパターンの赤いチューブトップにビキニの水着。
 陽子は競泳用の水着を着用しているが、今からプールで遊ぼうとか、泳ごうとかそういう気分じゃなかった。
「海獣の居るプール……」
 それだけで透乃の心は踊る。
「海獣と殺し合いをしよう! 訓練後は倒した海獣の肉でみんなで食事会、これだね!」
 弾む透乃の声に、陽子は頷いた。
 相手を考えれば水上か空中から攻めるべきだと分かっていたが、元より彼女は強敵との殺し合いを好む戦闘狂なのだ。
 ウォータブリージングリングをはめて、透乃はパートナーとあえて水中で戦おうとプールへと飛び込んでいった。

 まず最初に彼女は飛び込みの勢いのまま、プールの底スレスレの部分をドルフィンキックで泳いで行く。
 相手が気づかない間に触手を視界に捉えると、透乃はプールの底に足を付けて踏ん張った。
 流れるプールで無くても幾らか波があるから、それは容易な事ではない。
 しかし彼女は中国拳法の使い手が震脚をする要領でもう一度足を上から振り下ろし、己の体幹がしっかり保たれている事を感じて攻撃を繰り出した。
 透乃の繰り出した拳と共に周囲の水が圧となり海獣の触手を攻撃する。
 重い一撃を受けた海獣は、別の触手で彼女を攻撃しようと振り下ろすが、透乃はそれを避けなかった。
 確かに透乃は武装等によって打たれ強くはなっている。
 だがそれよりも何よりも攻撃を避けないのは、”私らしくいきたいから”という驚くべき理由によってだった。
 肩に受けた衝撃を耐えきって、透乃は目を見開き相手に不敵な笑みを送った。
 これは殺し合いなのだと告げる視線に、海獣は恐れ錯乱する。

 仲間を求めて暴れ回った海獣は、やがて自分と同じ様な影を見つけて手(触手)を伸ばした。
 忍者超人 オクトパスマン(にんじゃちょうじん・おくとぱすまん)がそこにいた。
 「別に目的はないが、暴れるためにやってきたんだぜー!」
 オクトパスマンはそう言うと、逃げて行ったプールサイドの訓練生達に向かって泳いで行く。
 訓練生らは悲鳴が上がるが、オクトパスマンは逆ににやりと笑った。
「ケケケー!
 奴らの足を掴んで沈めてやるぜ〜!」
  彼こそが追い求めていた仲間だと、海獣はオクトパスマンの近く迄やってくる。
「ほほう、てめーも触手系か。
 じゃあ、ここは一先ず手を組んで人間どもに誰が水の覇者か教えてやろうぜ〜」
 オクトパスマンは海獣に向かって握手に手を出す。
 ……が、その手に海獣が触手を伸ばして来たところ、オクトパスマンは海獣のそれを乱暴に振り払ったのだ。
「ケッ!
 ……とでも言うと思ったかこの触手野郎が〜!
 俺様こそが海の覇者! タコの化身の悪魔超人オクトパスマン様よ!
 お前如き海の淫獣、この俺様が始末してやるぜー!」
 オクトパスマンが叫ぶと、周囲が黒くなり、海獣は視界が奪われてしまった。
 それはまさに蛸が炭を吐いて目くらましをするの如く。
 混乱に乗じて、オクトパスマンの攻撃と、透乃のズシンとくる重いパンチが海獣を襲う。
 海獣は悲鳴をあげ、暴れ回った。
 
この錯乱には透乃の睨みの他にももう一つの原因があった。
 当てる事で対象の精神をかき乱す、フールパペットによる効果も含んでいたのだ。
 恐れを知らないパートナーの透乃とは違い、冷静に定石通り空中に陣取っていた陽子の放ったスキルだった。
 元々の耐性に加えて、黒光の呪法と呼ばれる彼女特有の黒色の闘気で耐性が倍加しているとは言え、雷電属性のスキルを使う人がいないとも限らない。
 ならば攻撃はここから当てるのが一番だと、陽子は考えていたのである。

 透乃の攻撃が続く間に更なる精神への攻撃をと陽子が集中していた時だった。
 彼女の予想が的中し、水上バイクに乗った章が武器から一瞬水面に覗いた頭部らしき部分に轟雷を放ったのである。
 ビリビリと雷の衝撃にあわせて触手が小刻みに揺れる。
 とどめは樹が放ったライトニングウェポンをかけた一発の銃弾だった。
「料理の手間が省けましたね」
 プールにふよふよと浮かぶ丸焦げの巨大烏賊――らしき海獣――を見て、陽子は空中から薄く微笑んだ。



 ところで運悪くも雷撃を受けてしまったのはウーマ・ンボーだった。
 誰にも気づかれぬままにウーマはプールに漂っていたが、かなりたってからパートナーのアキュート・クリッパーがウーマを見つけてくれたのだ。
 アキュートはウーマを背中に背負い、蒼空学園の校門を抜けて行く。
「マンボウ、今年も泳げねえままだったな……」
 かえって来ない返事をゆっくり待ちながら、独り言のようにそう言って、アキュートは落ちて行く夕日に目を細めた。