リアクション
「お、己ヒーロー! ここまで追い詰めるとは聞いていないぞ!」
ドクター・ハデスがうろたえている。この戦力差であれば無理もない。
「くそっ、こうなったらここは一旦引いてっ」
そうして逃げ出そうとするドクター・ハデス。
「そうは、行きませんわ!」
小さな細いレーザービームがハデスの胸元にかけられているドクロのペンダントの鎖を断ち切る。
「愚かな男ね。世界征服なんて、そんなブルジョア的な資本独占はこのえりりんが許さないわ! 帝国主義的反革命分子は粛正よ☆」
「同志えりりんの命により、人民の敵として拘束します。自己批判なさい」
「ちょっとちょっとー! 鎖を引き裂くのは私のはずだったのにぃ!」
この土壇場でハデスを裏切ったのはエリスたちだった。彼女たちは最初からこうするつもりで、先ほどの攻撃のときも隠れてやり過ごしていたのだ。
するとハデスの動きが止まり、まるで人が変わったかのように呻く。
「……ん、ああ? ここは一体、俺は何を……?」
『ちぃ! こいつを利用して、パラミタを征服するまであと少しだったのに!』
「あんたが黒幕ね! 覚悟なさい!」
『そうはいかねぇよ!』
ペンダントが具現化して、頭骨だけとなって浮き上がる。
そう、今回の本当の黒幕。それはハデスの胸にあったドクロ型のペンダントに扮していた、ダークスカルだったのだ。
エリスとダークスカルが戦っている横で、ハデスがぼーっと突っ立っている。
「あー思いだせん……何か、悪夢を見ていた気がするのだが」
「はーい! 何とドクター・ハデスは洗脳されていたようです! 洗脳が解けた今、インタビューをしてみましょう! ハデスさん、今のお気持ちはどうですか?」
駆けつけたルカルカが洗脳から解放されたハデスにすかさずインタビューをする。何がなにやらのまま、ハデスも答える。
「ん、いや、俺の体を勝手に使い世界征服をしようとしている奴の夢を見ていたのだ」
「成る程、ちなみにその夢の中でハデスさんは何を?」
「必死に抵抗をした。俺は俺の手で世界を征服したいからな。あんな頭骨だけの奴の力なんていらん」
「そっかー……うんうん、合格っ! それじゃ最終試験! ハデス、あいつ、倒してきちゃいな!」
「あいつ?」
ハデスが振り向くと、エリスが頭骨と争っている姿があった。
「あいつは、夢の中で俺の体を操っていた奴じゃないか! どうして現実に」
「いいからいいから、さっさと倒して、最後くらいはヒーローっぽいとこ見せちゃって!」
「あっおい! 押すな!」
「はーい、そこの三人もちょっとストップしてねー」
「あ、あと少しで追い詰められ……もがっ」
ルカルカに止められるエリス。
ハデスとダークスカルの初対面。これはまずいと思ったダークスカルが逃げ出そうとするが、ハデスが喋りかける。
「こんにちわ、ダークスカルさん」
「何か用かな?」
「洗脳しましたか」
「していない」
「そうですか世界征服すごいですね」
「それほどでもない……あっ」
「……貴様に相応しい罰は決まった! そんなに世界征服がしたいのなら、己の力でやることだな!」
「や、やめっ」
「問答無用!」
『機晶ビーム』でダークスカルを撃ち貫くハデス。
『く、くそうが! こんな、こんなはずじゃあああああああああああああああ!!』
痛烈な攻撃に具現化が切れ、ペンダントにもヒビが入り、ダークスカルはその姿を消した。
「おおっ、やるねっ♪」
「ふん、俺を利用するからこうなるのだ!」
「兄さん! 元に戻ったんですか!?」
駆けつける咲耶とヒーロー一行。ボロボロになりながら事の顛末がどうなったのかを見に来たのだ。
「うむ、心配をかけたようだな。だがもう大丈夫だ」
「よかった……」
「皆にも多大な迷惑をかけたこと、悪く思っている。すまない」
素直に頭を下げるハデス。ヒーローたちが今日一番の驚きの声を上げる。
しかし次の瞬間には、ああやっぱりハデスはハデスかと思うことになる。
「これからはドクター・ハデスとして世界征服をすることを誓おう! フーハッハッハッハッハ!」
「……いま、なんて?」
「聞こえなかったか? 今回のように誰かに操られている状態で世界など征服したら悪いだろう? だからこそ、次から世界征服をするときはちゃんと自分の力でやる!
そのために、このペンダントは俺が回収しよう! 今度はこいつの力を俺が利用するのだ!」
まったく懲りもせず、悪びれも無いハデスだった。
「……言いたいことはそれだけですか?」
「えっ?」
「……それだけでいいんですね、これだけ心配も迷惑もかけて、それだけですね?」
わなわなと震える咲耶にたじろぐハデス。
「お、おい? どうしたんだ?」
「……フレンディスさん」
「はい、ハデスさん、お久しぶりです。いつもお世話になっておりますので、今回お礼を言いに参上しました」
一人だけ平和を貫き通すフレンディス。
「いや、そんなお礼など……」
「ハデスさんたちは賑やかで楽しく良い方たちばかりで……アリッサちゃんは良いお友達に恵まれております」
「いやいや滅相もない」
「それには私だけではなくてマスターも感謝していらっしゃるのです。今回はマスターからもお礼の言葉を、ということです。私は下がらせていただきますね」
「……えっ?」
「よう、ハァァァァァデェェェェェス……会いたかったぜぇ……!」
ボロボロのベルクからは今に爆発せんとする怒りのオーラが見える。それだけではない。ヒーローたちや怪人たちからも同じオーラが立ち上っていた。
「な、何か用かな?」
「ポチィ……準備はオーケーかぁ?」
「目隠し完了です!」
「あの、どうして私は目隠しをされているのでしょうか?」
「少しだけ辛抱しててください!」
「って、ことだぁ……ここにはもう、お前を助けてくれるものはいないぜ……!」
ベルクがゆっくりと動き出す。その手には魔力を携えて。
「は、話をしよう! ゆっくりと、ミルフィーユを重ねていくが如くゆっくりと!」
「こっちはもううずうずしてんだよぉ……お前と、遊びたくてなぁ!!」
ベルクがハデスに思い切り魔法をぶちまける。辛くもそれをかわすハデスだったが、逃げ道はない。四方八方をヒーローと怪人が取り囲んでいるからだ。
「お、お前等それでもヒーローか! こんなことしてタダで済むと思っているのか!」
じりじりとハデスに詰め寄る一同。最早、ハデスに逃げ場はない。
「お、おい咲耶!」
「今回ばかりは問答無用ですっ」
「る、ルカルカ!」
「まあ、最後はよかったけど、それだけじゃ挽回しきれなかったねぇ、残念☆」
「マネキ・ング」
返事が無い。ただの屍のようだ。
「お、お、おっ……!」
そしてハデスが心の底から叫ぶ。
「俺が一体何をしたって言うんだー!」
『お前が全ての原因だろうがぁぁーっ!!!!!!』
ヒーローと怪人、全ての気持ちが一緒になった瞬間だった。
ドクター・ハデスによる世界征服は幕を閉じた。
だがドクター・ハデスは諦めない、世界征服をするまでは不死鳥の如く復活するのだろう。
その日まで負けるなドクター・ハデス。君の思いがいつか世界を征服すると信じて!
「なんら? このヘロップふぁ?」
「とりあえず、付け足しておいたの。それじゃ私、このDVDをみんなに配ってくるから、ばーい!」
「お、おい! そんなもほ、くばふな! おーい!」
あれから数日後、そこには元気にボッコボコにされたハデスの姿があり、日常を取り戻していたそうな―――――。
こうして、ヒーローvsオリュンポスの戦いはヒーローたちの勝利で、無事に終わったのだ。
「俺は、無事じゃないぞ! 俺のカラダはボドボドダァ!」
……めでたしめでたし!
どうも皆様、秘密結社オリュンポスとの激闘、お疲れ様です。
まず始めに、アクションが全て出揃って思ったことは、
怪人とヒーローの数がほぼ同一で、そんなにハデスさんが好きか!
と心の中でツッコンだことです。
それからは皆さんのアクションを見て、
こんなことを考えるなんてすごいなーと思ったり、
なるほどそういう見方もあるのかーと思わされたり、
逆に勉強になることばかりでした。
何より、このシナリオを全力で楽しもうとして書いたんだなぁというアクションがたくさんあって、
何よりもそれが嬉しかったです。
今回、このシナリオを担当させて頂き本当によかったと存じます。
ありがとうございます。
それでは、僕も今から秘密結社オリュンポスに入団してくるのでこれで。
またどこかでお会いすることがあれば、是非。
ああ、先ほどの入団の件は冗談です。僕じゃ受かりそうも無いですから。