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大迷惑な冒険はいかが?

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大迷惑な冒険はいかが?

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「マスター、可愛いますこっとさんですよ。少し覗いてみましょう。ついでに聞き込みです」
 フレンディスは可愛いマスコットの二人組が客寄せをするクロウディアの店にやって来た。ベルクの心配はどこ吹く風で存分に楽しんでいる。
「いらっしゃい!」
「ぐがぁ!」
 レオニダスとテラーが元気良く客達を迎える。
「ご主人様」
 ポチの助も迷い無く店に入った。フレンディスの側にいる事が最重要であるからだ。
「……フレイ」
 ベルクも急いで何軒目かの店に入ったフレンディス達を追いかけ中へ。

 陽竜商会、店内。

「いろいろありますね」
 フレンディスは楽しそうに棚に並べられた品々を見て回る。
「是非、手に取って見て下さいな。当店は、この街一高性能の商品を扱っていますから」
 クロウディアは愛想良く接客をする。
「すごいですね。ポチの助、この兜はどうですか」
 クロウディアに感心した後、フレンディスは近くの棚から洒落た兜を手に取り、ポチの助に装着させた。
「ご主人様、どうですか。似合いますか?」
 ポチの助は精一杯胸を反らし、勇ましさを演出しながら訊ねる。
「素敵ですよ。私は……」
 フレンディスはポチの助を褒めた後、自分も何か試着したいと思い、棚から様々な花の彫刻が施された腕輪を値札を確認する事無く手に取った。

 その時、
「フレイ、無闇に品物を触るな」
 ベルクが駆けつけ待ったをかける。
「マスター、大丈夫ですよ。ほら、どうですか」
 フレンディスは笑顔でベルクに答えて手にした腕輪を左腕にはめ、ベルクに感想を求めた。
「……どうといわれてもな」
 そう言いつつベルクは腕輪の値札を確認し、言葉が止まってしまった。
 そして、他の棚に並べられている商品の値段を確認して、まずい店に入った事を知った。
「……マスター、どうかしましたか?」
 フレンディスは周囲の棚を見回すベルクに訊ねた。
「……フレイ、出るぞ」
 ベルクは理由は言わず、さっさとポチの助が被っている兜を元の場所に戻してしまった。
「何をするのだ。エロ吸血鬼!」
 当然、ポチの助は怒る。せっかくフレンディスが選んでくれたというのに。
「早く腕輪を元の場所に戻せ」
 ベルクはフレンディスにも腕輪を戻すように言う。何か粗相があって買取になってはいけないので。
「あ、はい。あれ? マスター、外れません」
 フレンディスは急いで腕輪をはずそうとするが、抜けない。力を込めているはずなのに。
「……外れない。何だこれ、注意書きか」
 ベルクは腕輪の様子を確認した時、値札に小さく書かれてある注意書きに気付いた。
 書かれてある内容とは、『主を選ぶ腕輪であり、選ばれてしまうと腕輪の力を使わない限り外れない』というものだった。
「お客様、腕輪に選ばれたようですね。素晴らしいです」
 クロウディアは両手を叩きながらフレンディスに話しかける。すっかり商売人の顔だ。
「腕輪の能力とは何だ」
「それは、触れたものを気絶させる能力ですよ。対象に制限はありません。ただ、その能力は腕輪をしている手に限りますが」
 ベルクの質問にクロウディアは素直に答えた。
「……能力を使う以外に外す方法は無いのか」
 ベルクは別の方法を訊ねる。能力を使うという事は買取になってしまうからだ。
「申し訳ありませんが、そればかりはありません。一回力を使えば、外れるようになっております」
 クロウディアは心底申し訳なさそうに言う。
「……」
 ベルクはどうしたものかと考え始める。仮想世界でも本当に苦労が絶えない。
「……それと申し訳ありませんが、ビタ一文とも値引きはできませんので」
 クロウディアは念押しにと笑みを浮かべながら一言。
「……そうか」
 ベルクはため息をついた。
「……あたいと勝負をしてみるか。勝てば、少し安くなるかもしれないよ」
 闘争好きのグラナダがとある提案をする。
「……勝負、か。少し待ってくれ」
 ベルクはグラナダを見た後、抜けない腕輪に困っているフレンディスの方を見てから手持ちを確認した。足りなければ本当に勝負をしなければならないかもしれない。
「……マスター、申し訳ありません」
 フレンディスは『超感覚』の耳と尻尾をしゅんとさせながら謝った。
「お手持ちに不安があるようでしたらローン払いや後払い制度もありますよ。ローンは最大十括払いです。後払いの利子はトイチとなっております」
 クロウディアが誓約書を出してすかさず、大変な助け船を出す。
「……現金で、一括だ」
 運良く手持ちがあったベルクは何とか支払いを済ませた。ただ、手持ち全て失ってしまったが。
「ありがとうございます。また、ご来店下さいませ」
 代金を貰ったクロウディアは清々しくフレンディス達を見送った。

「……マスター、あの、腕輪」
 クロウディアの店を出てしばらくしてフレンディスは腕輪に触れながらしゅんとした様子で言った。流れでベルクが支払ったが本当は自分がするべきだった上に迷惑をかけてしまった。
「……気にするな。終わった事だ。これからはもう少し慎重に行くぞ。ここは現実世界とは違うんだからな」
 ベルクは、これからの行動について忠告をした。終わってしまった事は仕方が無いので。
「はい。マスター、ありがとうございます。絶対にこの腕輪を使いこなして見せますね」
 ベルクの言葉にフレンディスは顔を上げ、腕輪を高々と見せながら宣言した。
「……あぁ」
 ベルクはフレンディスにうなずいた。手持ちの金は使い切ってしまったが、想い人フレンディスの嬉しそうな顔が見られただけ良かったと密かにベルクは思った。
「ご主人様、早く行きましょう」
 ポチの助はフレンディスを急かし、さっさと歩き始めた。
 フレンディスも急いで追いかけた。
「……フレイがこれ以上何かしでかす前に見つけねぇと」
 ベルク疲れた顔で魔王城を見上げた。ロズフェル兄弟に会ったら多少の怒りぐらいはぶつけても許されるだろうと思いつつフレンディス達を追いかけた。

 魔王城、通路。

「……ここは」
 ギャドルは周囲を見回して今どこにいるのかを確認していた。

 その結果、
「魔王城だな」
 しっかりと現状把握を終える。
 それだけではなく自分がどうしてここにいるかも思い出した。
「そうだ。毎度毎度刃向かう教会を始末するための準備をしていたんだ」
 しかし思い出したのはここでの役目としての記憶だった。
 すっかりギャドルとしての記憶をなくしてしまっていた。この世界に来たショックだろう。
「今日こそは魔王軍の将たる俺様が直々に始末してやるか」
 ギャドルはさっさと適当な部下を連れ、教会へと向かった。