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★第一章・3★


「ニルヴァーナ文明に少しでも触れられるといいんだけど」
 他の人が魔物を惹きつけている間に遺跡へ入った酒杜 陽一(さかもり・よういち)は、遺跡探索を楽しんでいた。まだまだ謎の多いニルヴァーナ。その遺跡にいるのだ。期待するなというのが酷というもの。
 もちろん、素材を探すのも忘れない。
「壁も、ただの岩という感じじゃないし、何の素材でできてるんだろう。これも持ち帰ることにしますか」
 崩れた家壁を袋にいれていると、明らかに壁とは違う黒い物体が見えた。警戒しつつ手に持ってみると、ひんやりとしている。どうも金属らしいが
「……機械の一部? っぽいですね……これも持ち帰るとしましょう」
 一応写真もしっかり撮る。周囲を探してみたが、他にそれらしいものはない。風が運んだのか、生き物か。
 荷物がたくさんになってきたのでそろそろ一度戻ろうかと陽一が踵を返した時、彼の上に影が覆いかぶさってきた。
「良かったら素材、俺が持って行きますよ」
 空に浮かんでいるのはケイオスブレードドラゴン。その影から顔を出した紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が陽一へ声をかけた。
(皆頑張ってるしなぁ。
 俺はどーしよう? 取り敢えず皆が集めた素材を運ぼうかねぇ。持てきれなくなってしまう前に順次運んで行けば、収集効率も多少は良くなるだろう。
 なるべく多く集められる様にしないとなー)
 ということで、唯斗は素材回収班の運び屋のようなことをしていた。
「いいんですか? ではお願いします」
 陽一から差し出された素材を乗せる。唯斗が「頼むよ」とドラゴンの背を撫でた。
「じゃ、互いに頑張りましょう」
「そうですね。ではまた」
 たがいに手を振って別れる。
 唯斗はそのまま出口へと向かおうとしたが、今まで抑え込んでいた好奇心が勝ってしまう。
「ほら、運び屋的にちょっと寄り道というか、途中で素材を集められたら効率アップというか。別にサボっているわけではなく」
 誰にともなく言い訳をしてから、きょろきょろと遺跡の中を探す。
「は! アレはまさか! 機械の部品っぽいですね。ん、あれは!」
 見つけた黒っぽい破片に目を輝かせたり、視界を横切った何かを追いかけて見たり。ノリノリである。
「さて他には……ん? あっちで誰か戦ってますね」


「さぁて、ここいらで一仕事するかな……」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)がデッキチェアから立ち上がってそう伸びをした時、恋人のセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が「熱があるんじゃ」とセレンフィリティの額に手を当てたのは今から30分前のこと。
 今は魔物狩りの真っ最中だった。
 ひらひらと揺れるコート。その中から見える素肌。……例のごとく、ビキニとレオタードの上にコートという格好だ。
「硝子蜂は砕けちゃうのが難点ね」
「形は崩れても問題ないとは思うけど」
 今倒したばかりの透明な蜂を袋に入れ、セレンフィリティは柱の一つに寄りかかった。
「セレンっ」
 その瞬間、柱がぐねっと曲がり、色も変色して巨大なミミズへと姿を変えた。
「へぇ、やるじゃない!」
 迫る大きな口を後ろに跳んでかわしたセレンフィリティは、愛用の銃を構えた。そして神経を攻撃へと集中させる。
 防御は気にせず前進してまず一撃を加える。セレアナはそんな様子に苦笑しつつ、他にも魔物が隠れていないか確認する。
 どうやらこの1体だけのようだ。
 それからすぐさまセレンフィリティと自分の防御力を高め、逆に悲しさあふれる歌を歌ってミミズの戦意を下げる。
「動きは単調ね。なら」
 先ほどの銃弾は表皮ではじかれてしまったが、動き、攻撃方法はごくごく単純。さらに口の中が弱点とはあらかじめ知っている。
 セレンフィリティはセレアナの攻撃で開かれた大きな口に向かって容赦なく銃弾を撃ち込む。反射的に閉じられた口は、数秒後内から無理やり開かれた。
 爆音とともに。
「ま、こんなところかしら」
 飛び散る血肉を避けながらセレアナの横に着地する。それからミミズの巨体を見上げ
「でもこれ、どうやってもっていく?」
「無駄におっきいわねぇ」
「セレン」
 けらけら笑うセレンフィリティに、セレアナの口から出るのはため息ばかり。本当にどうしたものかとセレアナが考えていると

「っと、良かったら俺が運びましょうか?」
 ドラゴンの背に乗った唯斗がそう声をかけてきた。
「あらほんと? 助かるわ」
「少し重いかもしれないけど頼むよ」
 そして唯斗は今度こそ素材をお気に戻り、セレンフィリティたちは身軽なまま、再び狩りへと戻っていった。



「椅子だね。ちょっと変わった形だけど」
 1つの建物内にあった3脚しかない椅子を見て清泉 北都(いずみ・ほくと)がほうっと息を吐きだした。破損しているが、もともとは5本の足があったようだ。
「変な椅子だな。ニルヴァーナの奴らはこんな椅子に座ってたのか」
 隣で白銀 昶(しろがね・あきら)がぼやくと、北都は「どうだろうか」と首をかしげた。
「もしかしたらこれを使っていた人たちが変わってただけかもしれないし、これ一つだけで全員がそうだとは決められないかな」
「そっかー……これ、持って帰るのか?」
「うん。普通の木材とはちょっと違うみたいだし、ばらせば素材になるだろうし……どうもここらへんは居住区みたいだねぇ」
 HCに場所と写真を残しながら遺跡を進む2人には、獣の耳や尻尾が映えている。五感を鋭くさせて発見しようとしていた。
 と、遺跡が大きく揺れる。どうやら外の戦いが激しさを増しているようだ。
「おっと。やってんなぁ……んん?」
「どうかし……この音は」
 最初にその音をとらえたのは昶。続いて北都も気づく。
「楽器の音?」
「にしては雑音が混じってるね」
 2人は慎重に音が聞こえる方へと向かう。そこは小さな部屋。使う人のいない埃をかぶった家具が、何とももの寂しい。
 音は家具の1つ。机と思われるものの引き出しから聞こえていた。
 中を開けると、小さな箱のようなものがあった。音はそれが発しているらしい。
 北都の顔が真剣になり、それを眺め、写真にも収める。
「音楽を再生する機械みたいだね。壊れてるみたいだけど」
「うぅ。とにかく音、止めようぜ」
 ところどころ音が飛んだり不快な雑音が入るそれに昶が顔をゆがめた。北都はしばしいろんな角度でそれを見てから、スイッチと思われるものを見つけてそこを押す。音がやんだ。
 とにかくいい収穫ができた、とそれを壱号の元へ持って行く。
「にしても気になってたんだが、お前って弐号とか参号って兄弟居たりするのか?
 それとも、火星か木星か?」
 その際に昶が壱号へそんな質問をし、壱号が号泣した。

「ワシの名前はコーン・スーじゃ、おんどりゃーーー。あの小娘めぇーーー、おーぼえーてろー」

 泣いているというより、一昔前の悪役みたいだったが、見た目だけは可愛らしいのであった。



 壱号が漢泣きしているのとほぼ同時刻。何という偶然か。泣き叫んでいるものがいた。
「いやいやいや、何で! 何で俺が囮役なんだよ!?」
 頑丈な縄ですまきにされ、つり下げられているのは扶桑の木付近の橋の精 一条(ふそうのきふきんのはしのせい・いちじょう)。講義を上げている先にいるのは
「まあ話くらい聞けや」
 堂々と胸を張っている瀬山 裕輝(せやま・ひろき)。一条を突如襲って縛った態度ではない。一条は文句を言おうとしたが、とりあえず話だけは聞いてやろうと先を促す。
 悪い予感はひしひしとしていたが。
「知っとるか。ミミズにしょんべん掛けるとな……アソコが腫れるらしいで」
 だから何?
 どや顔で言われても困る。
「うん……で、何?」
「頑張ってきぃ」
「言い訳ですらねぇ!? つか何だその無駄な情報、ホント何も関係ねぇだろおおおおお!」
 裕輝が釣竿を大きく振って一条を放り投げる。その際、あちこちの柱や岩に一条が身体をぶつけ、そのうちの2つがグネグネと曲がり、ミミズへと変貌した。
 一条が騒ぐが、裕輝は気にせずミミズへと突撃していった。
 目がないミミズは裕輝の存在には目もくれず一条を飲み込もうと動く。よだれが一条の顔にかかる。
 裕輝がまず近くにいたミミズへ拳をたたき込む。と、拳が身体に沈みこんだ。
 しかし慌てることなく、そのままミミズの身体の上を走る。ミミズはなんとか裕輝を振り落とそうと動き回る。
 その間にもう一匹が一条を食おうと口を開き、暴れまわるもう一体の尾がミミズを攻撃した。そのことでミミズ同士が戦い始める。
 互いしか意識していないミミズに裕輝が追撃をかける。
「剥ぎ取れ剥ぎ取れぇい」
 時間はかかったものの、裕輝は無事にミミズを倒したのだった。
 そう。一条の尊い犠牲の元。

「犠牲とか言うな! 終わったんならさっさとほどけー」
「さあ、第二ラウンドと行くで」
「まじかよ! 今度こそ危なくなったらどうすんだよ」
「お前が犠牲になってもかまわない」
「うわ、こいつ本気で言ってやがる。最悪だ!」

 一条の災難はまだまだ続く。がんばれ! 天から応援しているぞ。