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初日
人材発掘プログラムに参加した、生徒の集まる教室。その中、教師と共に小さな女の子が前にある教壇にあがる。
「おはよう、生徒諸君。これより、プログラムの日程を説明する。だが、その前に今回、オブザーバーとして、参加する。西枝 レイ君を紹介する」
「やぁ、みんな。今回オブザーバーとして、参加している西枝 レイだよ。よろしくね」
ざわめき立つ生徒達。
「しずかーにー! 姿で相手の能力を決め付けるのは良くないんだからね! 分かったら黙りなさーい!」
黙りかえる生徒達。それを見て、満足そうに頷くレイ。
「よろしいかね? それでは日程のほうを発表する。期間は一週間。最終日には生身部門とイコン部門のトーナメント大会がある」
「戦闘以外にも、知を比べる勝負もあるから、しっかり勉強しておくように! 言っておくけど、普通の筆記とかじゃないからね」
「それ以外は他校の生徒と交流するもよし、共に勉強するもよし、模擬戦を行うのも自由だ。だが、今日は初日ということでみなの実力を見るためにこちらで組んだ予定で動いてもらう」
「基本的に自由だけど、しっかり勉強はしなよー? 後で、みんなの前で恥をかきたくないならね♪」
「では以上だ! 皆、準備しておくように」
「もし、何かあったら相談してねー。ばいばーい!」
教師とレイが教室を出て行く。それと同時に生徒のほうも動き始める。
「さてと……、私たちも行きましょうか」
雪比良 せつなも他の生徒にならって立ち上がり、隣に座るナナシに声をかける。
「そうだな。ターゲットを見極めに行くとしよう」
ナナシも立ち上がる。
二人の目的は未来で脅威を振るうとされる『C』の発見と始末。そのためにナナシは未来からやってきたという。
「でも、どうやって見つけるの?」
「まずは、生徒達の様子を伺う。それで大半は絞れるだろう」
「なるほどね。それじゃ、そこから始めるとしましょう。えっと、最初の予定は……、実技演習ね。これならうってつけじゃないじゃないかしら?」
「そうだな。今、一番必要としている授業だ。早速観戦することにしよう」
「了解」
二人は、実習が行われる会場へと向かった。
最初に向かったのは生身同士の模擬戦の行われている会場。それぞれの生徒が自身の実力を見せ付けあう。
「ふむ……」
その光景をジッと見るナナシ。
「どうかな?」
「ん? あれは……」
その中でも、一ヶ所人だかりの出来ている場所を見つけるナナシ。
「すごい人だかりだね」
「……行ってみよう」
その人だかりの中心では模擬戦が行われていた。
「これでどうだ!」
一人は、いくつもの魔導書を展開し、魔法を放つ女子。
「姉さん」
「……うん」
対峙するのは、その魔法を高速で動き悠々と避ける男女。他の模擬戦では見られない、戦闘がそこでは展開していた。
「…………」
その光景をジッと睨む、ナナシ。
「どうしたの?」
そんなナナシを見て、首を傾げるせつな。
「いや……。そこの少年」
「え? 俺のことか?」
ナナシが急に模擬戦を観戦していた男子生徒に声をかけた。
「あそこで戦っている人物を知っているか?」
「えっと、あの魔導書を使って戦っているのが、王立ヴィクトリアカレッジの次席、パトリシア・ブルームフィールドさんだ。原典クラスの魔導書、数十冊と契約しているから『ロード・オブ・グリモワール』って異名も持っているんだ。そして、戦っているのが、たしか……」
「極東新大陸研究所が生んだ、超能力の申し子、サーシャさんとミーシャ姉弟よ!」
言いよどむ男子生徒の代わりに横にいた女子生徒が答えた。
「姉の方がサーシャさんで地球人、弟のほうがミーシャさんで強化人間よ。この二人はすごいんだから!」
「すごい、とは?」
「身体能力強化と脳のクロック数操作によって、『アクセルギア』いらずで体感速度を変化させることが出来るの! それにイコンパイロットとしても高い能力を持っているのよ!」
「なるほど……。教えてくれて助かった」
「いえいえ!」
「急に声をかけるからビックリしたわよ」
一通り会話を終えた、ナナシに声をかけるせつな。
「情報を手に入れなければ先へは進めないからな」
「だからって、急に見知らぬ生徒に話しかけるのはどうなの……?」
「次だ」
ナナシが模擬戦を終えたばかりらしい、三人の方へと向かう。
「えっ! ちょっと待って!」
せつなもその後を追う。
「あなた達やるわね。私の魔法を軽々とかわすのだもの」
「いえいえ、パトリシアさんも中々のものでした。相手の先を読んで狙った位置への正確な魔法。お見事です」
「……強かった、です」
「話しているところ失礼する」
会話している三人へ割ってはいるナナシ。
「ちょっと、ナナシってば! あ、急にごめんなさい。あたしは雪比良せつな。こっちはナナシって言います」
後から来たせつなが三人に自己紹介する。
「初めまして、僕はミーシャです。こちらは姉のサーシャ」
「……(ぺこり)」
「私はパトリシア・ブルームフィールドよ。それで、何か用かしら?」
「……いや、特に用があったわけではない」
「じゃあ、なんで話しかけたの!?」
ナナシの発言につっこむせつな。
「あはは、あなたは面白い人ですね」
「ごめんなさい! ナナシってばちょっと変なところがあって……」
「変とは失礼だな」
「まぁ良いじゃない。ここで知り合ったのも何かの縁。これからしばらくの間、仲良くしていきましょ」
「そうですね。よろしく、せつなさんにナナシさん」
「あ、よろしくお願いします!」
「よし、では次に行くぞ」
もう終わったとばかりにすぐさま回れ右をするナナシ。
「えっ! 話しかけたのあなたなのに、さっさと打ち切るってどういうこと!? って、待ってよ! えっと、それじゃ、また会いましょう!」
「またねー」
「はい。また、会いましょう」
「……ばいばい、です」
三人に挨拶をして、慌てて後を追うせつなだった。
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