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無法者と怪盗と契約者と

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無法者と怪盗と契約者と

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■蒼空学園女子寮周辺(丑三つ時)


 キロスが見張りで待機していた空き地に、皆が集まっていた。
 正座する少女を中心に、地上から高所まで隙無く囲っている。
 まだあどけなさの残るその十代の少女こそが、怪盗ユートピアの正体だった。
 完全に逃走ルートを断たれたユートピアは、説得の末に投降したのである。
 囲いの中から長身の青年が一歩前に踏み出した。

「さて、全て吐いてもらうぞ」

 怒りを隠そうともしないキロスが、少女の前に出ると指を鳴らす。
 柚はキロスがやりすぎないか心配していた。今の青年を止めるのは誰であれ難しいだろう。

「はい、ストップ、そこまで!」
「この期に及んで俺の邪魔をするな!」

 もう少しで盗まれた心が取り戻せる。
 そんな矢先に制止の声をかけられたキロスが、大声で怒鳴る。

「じゃあ、ぶっとばしてみなさい」
「いい度胸だ……って、何!?」
「「「ええええええええ」」」

 驚きの声を上げる人々の間から現れたのは、怪盗ユートピアの被害に遭い、昏睡状態なっていたはずの夏來 香菜だった。

「香菜……お前、どうしてここに……。こいつに心を盗まれたんじゃ……?」

 訝しげな表情を隠さないキロスの横を通り、少女――怪盗ユートピアの隣まで来た香菜は、そっとその肩に手を置いた。

「確かに心を結晶化されて、身体の方はずっと昏睡状態だったわ。でも、時間が経つと自動的に元の身体に戻るようになっているの。これは連れて行かれたときに彼女から聞かされていたのだけれど、結晶の状態だったからキロスに伝える手段がなかったのよ」

 心配かけてごめんなさい、と香菜が言うと、ようやくキロスの表情がいつも通りに戻る。
 だが、依然として表情を崩さない者も多かった。

「そうね、いずれ元に戻るとは言え、彼女がやったことは許されないわ。何の関係もない人を巻き込んでしまったんですもの。でも……」

 少し間をおいて、香菜は言葉を続けた。

「それとは別に協力してもらいたいことがあるんです」


■ツァンダの病院前(夜明け前)


 香菜とユートピアが病院の裏口から音もなく出てきた。

「皆様、本当にご迷惑をおかけしました。こちらが今まで盗んだ心の結晶です。結晶化してから一週間ほどで自動的に元の身体に戻りますが、眠っている本人の胸の上に置けばすぐに戻ります」

 ユートピアが開いた両手から淡い光が溢れて、集まった人々の顔を照らした。

 セレンフィリティは優しくそっと結晶をつまむ。
 なぜだかわからないけれど、これが最愛のパートナーの結晶だと確信できた。

『セレン……』
「セレアナ……よかった」
『心配かけてごめんなさい。でも、もう少しだけこのままに……してもらえないかしら……』
「なんで、せっかく元に戻れるのに」
『もう少しだけ……あと少しなのよ……』


 霜月の頷きに、ジンも二つの結晶を手にする。
 間違いない、アイリスとメイの心だ。

『お願いであります……あと少しだけ……』
『ボクからもお願いする……よ……』


 理沙は手にした結晶をそっと抱く。
 結晶から感じられる温もりは、セレスティアのものだった。

『元に戻ったら理沙の大好物を用意しますわ……でもそれまでは……』


 某はフェイと並んで手の上に置かれた結晶を眺めていた。
 穏やかに輝く光は綾耶の笑顔を彷彿させる。

『某さん……フェイさん……お願いします……』


 結晶から想いが伝わってくる。
 病院に向かうまでに、事情は聴いていた。
 瀕死の重傷を負った怪盗のパートナーである地球人の少女。
 その少女を助けるために、心清らかな女性たちの力を借りていたということ。

「セレアナの頼みは断れないんだよね」

 セレンフィリティが、そっとユートピアの手に結晶を置いた。

「アイリスとメイの気持ちを壊したくないからな」

 霜月がそう言うと、ジンも優しく結晶を並べた。

「事情を聴いたときから、予想はしていたわ。だけど、だからこそのセレスティア・エンジュなのよね」

 理沙も苦笑しつつ結晶を置いていく。

「お前を許す気は毛頭無い。だが、それ以上に綾耶の気持ちを優先するだけだ」

 某の言葉に、フェイもまた無表情で結晶を戻す。


「皆さん、本当にありがとう……ございます……」