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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

リアクション

「……そなたたちに任せたい仕事はとても簡単である。東の山にそびえる信長の居城へ物資を届けてもらうだけなのだ」
 東の山に程近い森の中。
 シャンバラ軍に商人として参加していたクロウディア・アン・ゥリアン(くろうでぃあ・あんぅりあん)は、【資産家】による資金を用意し、協力者を雇おうとしていた。
 要するに、世の中カネである。ぶっちゃけ戦争などどんな手段を使おうとも勝てばいいのた。カネのない奴が知恵を出し、知恵の出せない奴が身体を張る。至極当たり前のことだし、今回もそうだ。
 求める協力者は、死ぬ可能性の非常に高い任務につかせる使い捨て扱い。せいぜい、そこいらの野伏しか盗賊の類でも雇えれば十分だと思っていた。
 クロウディアが【根回し】を使って探し当てた結果、本物の傭兵が見つかるとは思ってもいなかったが。
「報酬は28万G用意しいたした。言っておくが吊り上げようとしても無駄であるぞ。これ以上は出せない」
「問題ないわ」
 そう返事はしたものの……想像以上の報酬に、日向 茜(ひなた・あかね)は驚いていた。額を聞けばその任務の危険さがわかる。
 茜は、今回シャンバラ軍としてではなく、傭兵としてハイナに雇われるつもりで戦場へ赴いてきていた。現実世界でも傭兵として各地を回っている茜は、ヴァーチャルでも傭兵なのは変わらずだ。
 戦国の傭兵といえば雑賀衆が有名だが、それと同じである。
 残念ながら、ゲームシステム上能力は歩兵ユニットだが、雑賀衆と同じくらいの働きは出来るだろうとは考えていた。
「平原での合戦に狩りだされるかと思っていたら、まさか敵の本拠地に突入する羽目になるとはね。報酬の払いがいいわけだわ」
「突入ではないぞ。搬入である」
 クロウディアは言う。
「かつて、楠正成はこう言った。『門が外から開かないなら、内側から開ければいいじゃない』。というわけでそれを見習おうと思ってな」
「要するに、信長の本陣に物資を運び込むフリをして内部に入り込もうって作戦ね。裏の搬口から入って、場内を突っ切り正面の門を開ける手伝いをするのが私たちの仕事ってわけね。でも、そんなにうまくいくかしら?」
「すでに、迎えの者が来ておる」
 クロウディアの指差す先。信長軍の兵を率いて待ち構えていたのは、小早川秀秋の軍師として工作を続けていた、コルセア・レキシントンだった。
「お待ちしてましたわ。物資搬入の商人さんたち。ここから先は大変危険なので、私たちの軍が護衛するわ」
「なるほど。信長軍の部隊が護衛してくれることによって、怪しまれにくくなるってわけね」
 茜は、いつの間にこんな話になっていたのだろう、と訝しむ。
「商人っぽくしたいので、武器や防具は全て外して、兵糧や麻袋に詰めておくといいぞ」
「……運び入れる物資まで本物でないなんて、なんてあくどい商人なの」
 茜が言うと、クロウディアは胸を張る。
「カネとは素晴らしい力を持っておる。黄金の魅力に逆らえる者はおらぬよ。そこいらの下っ端にも配ってある。手はずは整っておるゆえ、安心して出発するとよい」
「何しろ、10万近い兵がこのお城に駐屯しているからね。物資はいくらあっても足りないのよ。……では、いきましょうか」
 コルセアは目配せしながら言って、茜の傭兵部隊を信長の居城へと案内する。
「技量の心配なら不要よ。これでもプロなんだからね」
「そうか。期待しておるよ」
 茜は、クロウディアからずしりと思い金袋を受け取ると、握手を交わした。当初の予定とは少々違うが、これでいいのだろう。
「はい、下がって下がって。搬入部隊が通るわよ。邪魔すると、ご飯食べられなくなるからね」
 コルセアは少数の兵で先導し、布陣している歩兵たちを退けて信長の居城へと部隊を進めた。それに挟まれるように茜の傭兵部隊が堂々と山道を行く。
「……」
 これは、話がうますぎると茜は思った。きっと自分たちは敵陣へ誘い込まれているのだろう。まあありがちなことだ。傭兵はいつもこんな目にあう。それを想定して、兵士たちに指の合図だけで指示を出しておく。
 ややあって。
「私は、他にやらなければならない事があるから、ここまでね」
 信長の居城の裏門に差し掛かると、コルセアが別れを告げてくる。
「……」
 茜は用心深く周囲に気を配りながら城門をくぐった。そして……、ほらやっぱりと一人頷く。
「……新たな搬入資材が届くとは聞いておりませんな。いったい誰でしょうか、勝手な発注をしたのは?」
 城門の先で兵を伴い待っていたのは、信長の参謀総長として使えていたゲルハルト・ヨハン・ダーヴィト・フォン・シャルンホルストだった。
「参謀総長であるこの私の目を欺けると思いましたかな? それは残念です。嫌な予感がしたので、出陣せずに防備を固めていたら、的中とは驚きですな」
 ゲルハルト・ヨハン・ダーヴィト・フォン・シャルンホルストは、余裕の笑みを浮かべる。パチリと指をはじくと、四方八方から軍団の部隊が集まってきた。
「資材搬入と見せかけて内部に入り込む手はよく使われるのですよ。まあ、それくらいは警戒しておりますとも」
「……」
 茜は身構えながらも落ち着いて少し後退する。敵に発見されたからといって逃げるつもりはなかった。報酬をいただいた以上、依頼は確実に遂行する。それが傭兵だ。敵軍を突破し、正面の城門を開くのだ。
「ふっ……、かかれ!」
 ゲルハルト・ヨハン・ダーヴィト・フォン・シャルンホルストは、茜の傭兵団への攻撃命令を下した。
「吶喊!」
 茜も傭兵段に号令する。すでに搬入物から武装を取り出していた傭兵たちが、いっせいに立ち向かった。
「はい、すでに用意してありますよ!」
 後方で兵士たちに紛れて様子を見ていたエミリィ・メタファルクス(えみりぃ・めたふぁるくす)が、敵に向けて弾幕を張る。 
 視界がおぼつかないうちに、傭兵団は隙を突いて場内の信長軍と戦い始めた。
「HAHAHAHAHAHA!! 想定していた戦場とは違うが、ようやく私の出番のようだな!」
 これまで空気を読んで黙っていたアレックス・ヘヴィガード(あれっくす・へう゛ぃがーど)が誇らしげに名乗りを上げた。
「アレックス・ヘヴィガード、ここに推参! この私を倒せるものなら倒して見やがれ!」
 ようやく活躍の場を得ることができたアレックスは、イコンのプラヴァーを武器に、問答無用で敵軍の渦中へと飛び込んでいく。
「あっ、ちょっと待てよ。俺まだ名乗り上げてないのに、イコンもって行くんじゃねえ!」
 イコン装備で高名乗りを上げようとしていた種谷 一樹(たねや・いつき)も、アレックスを追って突撃した。せっかく自己アピールする絶好の機会だったのに、ここを逃したら目立てないではないか! 兵をなぎ倒しながら必死に前進する。
「邪魔だ、どけ! 俺はアレックスからイコンを回収しないと名無しのまま終わっちまうんだぜ!」
「ふっ」
 全く、愚かなことだ。この鉄の軍神にかなうとでも思っていたのか。ゲルハルト・ヨハン・ダーヴィト・フォン・シャルンホルストは薄い笑みを浮かべると、身を翻す。いつまでもこんな傭兵部隊にかまっている暇などなかった。城内にはまだ多数の軍勢が残っているし、モブNPC武将もいる。後は彼らに任せよう。
「……コルセア・レキシントン、そして小早川秀秋。やはり裏切っていたようですな。証拠をつかんだ以上は、一網打尽にしてやりましょう」
 小早川秀秋の率いる軍は、現在シャンバラ軍と戦うために出陣している。平原に陣を構えているはずだった。
 今すぐ伝令を飛ばし、平原に展開中の信長軍別部隊で連携をとらせて包囲殲滅してやるつもりだった。出陣は、その後でいいだろう。
 コルセアに至っては、まだこの城内にいるはずだからしらみつぶしに探して捕まえる。
 必要なことだけを伝えると、ゲルハルト・ヨハン・ダーヴィト・フォン・シャルンホルストは、裏切り者を処分するために城の奥へと姿を消した。
「……」
 程なく、茜たちが運び込んできた物資の米俵の隙間から、コルセアが姿を現す。戦闘が始まるなりこっそりと隠れていたのだ。城内をいくら探しても見つかるまい。
「想像以上にうまくいったわね」
 外に走り出たコルセアは大急ぎで狼煙を上げた。
 後は……、他の面々の活躍を期待するだけだった。



 残念ながら、ゲルハルト・ヨハン・ダーヴィト・フォン・シャルンホルストは間に合わなかった。
「トイレ行きたくなったから、帰ってきたであります!」
 平原に陣を敷いていたはずの小早川秀秋が、すごい勢いで信長本陣へ戻ってきた。退却してきたわけでも助太刀しに来たわけでもない。
 シャンバラ軍に寝返り、信長の居城を攻撃するため全力で突撃を敢行する。
「踏み潰せ!」
 城のすぐ傍に配置され、信長本陣を防衛していた部隊がすぐさま小早川秀秋の軍団を迎え撃つ。数は城門警備の部隊の方が多い。あの愚かな裏切り者を圧倒的多数で押しつぶしてやればいいだけのことであった。
「自分たちの邪魔をするやつらは、痛くしてやるであります!」
 小早川秀秋は、本陣に魚燐の陣形で突撃し攻撃を仕掛けた。勢い任せで突き刺さった小早川秀秋の軍団は、そのまま城門警備軍団をかき回し始めた。
 一気に戦いの渦が広がっていく。
「……がう」
 そんな中、騒ぎに乗じてテラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)が、こっそりと城の壁を乗り越えようとしていた。
 どうしてこんな格好をしているのだろう? 怪獣の気ぐるみのような外見は見た者を唖然とさせるに十分だった。
 今日も今日とて、マスコットとして皆に可愛がられるためにいたのだが、たまには少し働きたくなったのだ。
 この場にいた信長軍の部隊は、ほとんどが茜の傭兵部隊と寝返った小早川秀秋の動向に注目している。やるなら今しかなかった。
「が、がうぅぅっっ!?」
 悪戦苦闘しながらなんとか壁を登り終えたテラーは、そのまま城の内部に転がり込む。
「……! おい、なんか変なのが来たぞ! 追え!」
 さっそくテラーを見つけた城内の敵兵が追いかけてくる。
「が、がう!」
 テラーは全力で逃げた。目指すは城門。
 あの傭兵部隊に完全に任せてもよかったのだが、少々心もとなかったのかもしれない。
 テラーは城門に取り付くと、決死の思いで内側からかかっている三つの頑丈な閂を大急ぎで落とす。
「が、がううううううう!」
 外の仲間に大声で伝えたときだった。
「そこまでだ、この不逞の輩め! ……というか、なんだこいつ」
 大勢の兵士たちがテラーを取り囲んだ。
「が、がうううっっ!」
 抵抗もむなしくボコボコにされて捕まってしまった。
「がう……」
「いや、十分であろう。よくやった!」
 城門がゆっくりと開き、テラーのパートナーのチンギス・ハン(ちんぎす・はん)が猛然と侵入してきた。先ほどまでは城門警備の軍団が分厚く守っていたのでうかつに近寄れなかったのだが、寝返った小早川秀秋軍と戦っている間にわずかな隙ができていた。
 がう……、と叩き潰されたテラーを見て、チンギス・ハンは怒りの笑みを浮かべる。
「面白いことしてくれているじゃねえか! よろしい、ならば戦争だ!」
 特殊武器【侵攻スル龍撃槍砲】が火を噴いた。
 続いて、グラナダ・デル・コンキスタ(ぐらなだ・でるこんきすた)は動き回りやすい軽装歩兵を引き連れて突入してきた。
【握砕術『白虎』】や【燕返し】を駆使して門前を守る信長軍を蹴散らして行く。 
「……やれやれ、私もヤキが回ったものですな。これまでに、このような不手際など起こしたことはありませんでしたのにな」
 ようやく、ゲルハルト・ヨハン・ダーヴィト・フォン・シャルンホルストが裏門から正面の門も前へと辿り着いた。その背後には無数の兵士たちの影。全員殺気立っている。
「ふっ……度胸だけはほめてあげましょう。死になさい」
「【アナイアレーション】!」
 ゴゥッ! とチンギス・ハンのスキルが炸裂していた。
「【弾幕援護】!」
 だが、スキルは大して効果がなかった。ゲルハルト・ヨハン・ダーヴィト・フォン・シャルンホルストは衝撃に吹っ飛ぶ。
「なるほど。先にこいつらを倒さないといけないということか。調子に乗るのも程々にしてもらおう」
 すぐさま体勢を整え直したゲルハルト・ヨハン・ダーヴィト・フォン・シャルンホルストは怒りを秘めた表情で応戦してくる。
「ヒャッハー! イカス姉ちゃんじゃねえか! 【ファイナルレジェンド】!」
「まだまだ!」
 チンギス・ハンの攻撃を受けても直ぐに体勢を立て直すマクシミリアン・フォン・エスターライヒ。
「……いいぜぇ! たっぷり楽しもうや。俺様が最後まで付き合ってやるからよ」
 チンギス・ハンは嬉しそうに笑う。
「ふっ……、この城内には一歩たりとも踏み入れさせませんよ」
「あの人たちが信長軍の参謀さんですか。ここで倒しておくのがいいのでしょうけれども」
 信長の城の門が開いたのを見計って、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が山のふもとから自軍を全速力で進めてきた。 
 心やさしい性格のベアトリーチェだが、だからこそシュミレーターに取り込まれた人たちが延々と殺しあう姿に耐えられなくなりそうだった。一刻も早く戦を終えて全ての人たちを助けるため、全力で戦い始める。
「全軍、突撃してください!」
 ドドドド! とベアトリーチェが率いる部隊が、信長の居城の守備軍と戦い始める。城門前は、瞬く間に大乱戦になった。
「発車……もとい、発射!」
 すかさずベアトリーチェは【ラスタートレイン】を信長軍に討ちこむ。派手に巻き込まれた敵軍の兵士たちがまとめて吹き飛んだ。
「今の内です。早く……」
「わかったわ、後は任せたから。私、先に行くわよ!」
 敵に隙が出来たのを見て取って、ベアトリーチェのマスター小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、城内へダッシュする。
「ごめんね、大変なところだけ押し付けて。でも必ず信長を倒してくるから」
 もう一人、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)も美羽と並んで城の奥へとなだれ込みを図った。
「そう簡単に奥へと行かせるわけがないでしょう!」
 ゲルハルト・ヨハン・ダーヴィト・フォン・シャルンホルストが大勢の兵士とともに行く手を阻もうとするが。
「あら。ごめんあそばせー!」
 助走をつけた美羽の綺麗な跳び蹴りがゲルハルト・ヨハン・ダーヴィト・フォン・シャルンホルストの顔面に命中していた。そのまま踏み台に宙返りしながら、美羽はゲルハルト・ヨハン・ダーヴィト・フォン・シャルンホルストの頭上を飛び越えて、城の奥へと着地していた。
「【一騎当千】!」
 奥から更に飛び出してくる信長軍の兵士たちを一斉になぎ倒しながら、美羽は信長の陣営に切り込んでいった。
 おおおお、と歓声が沸き起こる。
「ちょ、ちょっと待ってよ。一人で行ったら危ないよ!」
 コハクはその後を慌てて追う。美羽より出遅れてしまったのは、今の美羽のパフォーマンスを見とれて……い、いや、何も見ていないよ!
「……」
 こっそり鼻血を出していたのを手で覆って隠しながら、コハクも信長を探して城の奥へと急ぐ。
「……お、おのれ〜! もう許さぬ!」
 完全に翻弄されたゲルハルト・ヨハン・ダーヴィト・フォン・シャルンホルストが憤怒の表情で攻撃を繰り出してきた。
「……」
 ベアトリーチェは自軍の部隊を少し引いて敵の攻撃を受け流そうとする。兵力をムダに消耗するつもりはない。あとは、美羽とコハクを信じて、敵軍をここで足止めすべくじりじりと長時間粘るだけだ。
 グラナダとチンギス・ハンは一気に勝負に出た。もう一度、スキルを全開でゲルハルト・ヨハン・ダーヴィト・フォン・シャルンホルストに叩き込む。
「これで、終わりだぜ! 俺様こそが支配者! 俺様こそが征服者! 大人しく、ひれ伏せ!」
「ぐううううっっ、そんな馬鹿な……この私がぁぁぁぁぁ!」
 チンギス・ハンの渾身の攻撃を食らったゲルハルト・ヨハン・ダーヴィト・フォン・シャルンホルストは、城の壁ごと崩れ落ちる。瓦礫に埋もれ、隙間から手だけを出した状態で動かなくなった。
「無念……。信長さま……お許しを……」
 せっかく立案した作戦行動を見届けないまま戦場に散ったのであった。
「よし、収穫だ! 全てを真っ平らにしてやるぜ!」
 チンギス・ハンは部隊を城の中へと突入させた。
「ああああああ、ああいうのはどうでしょうか……」
 あまりの乱暴さに唖然としながらも、ベアトリーチェと部隊も奥へと突っ込んでいった。
 その後から桜葉忍たちの部隊も合流してくる。共に、信長の居城へと入っていく。
「無茶しやがって……」
 金の入った【闇のスーツケース】で戦っていたクロウディアは、テラーを助け起こす。
「がう」
「え、お金より根性だって? まあ、たまにはそんなこともあるかもしれないな。たまには……」
 テラーの頭を撫でながら、クロウディアは笑った。
 一方で。
「こちらも敵陣への侵入に成功したわ。城門も開いた今、任務達成なんだけど……」
 裏門で戦っていた茜と傭兵部隊も信長の城に入ってくる。シャンバラ軍の城内潜入を手伝い周辺の防衛部隊を一掃した以上、もうここには用はない。傭兵部隊としての任務は十分に全うしたのだから。
「帰りましょうか。今回はとても美味しいお仕事だったわ……」
 アレックスからイコンを剥ぎ取り高名乗りをあげる一樹を眺めつつ、茜は身を翻した。



「計画通り進んでおるようで安心しました……」
 藤原頼長は双眼鏡で様子を見ながら口元にニヤリと笑みを浮かべる。
 信長の居城の門が開いたのも想定の範囲内だった。
 さて、こちらはすでに手はずは整っている。後は他の軍勢の働き次第だ……。
 彼は、ゆっくりと檳榔廂車を前進させ始める。


 さて……。
「こっちは計画狂いまくりじゃん。もうここで相当兵力消耗しちゃったぜ。どうするんだよ、これ。もうこれ以上戦えねえよ」
 信長本陣に近い山中で戦っていたオルフィナは、腹立たしそうに舌打ちする。
 それもこれも、奇襲をかけてきたヒルデガルドとその部隊のおかげだった。激しい乱戦の末、双方ボロボロになってしまっていた。
「……申し訳ありません、幸祐……私、もう……」
 ヒルデガルドは奮戦していたが、二対一では分が悪い。オルフィナとエリザベータに集中攻撃を食らい、倒れて動けなくなっていた。
「……仕方ねぇか。作戦計画はここで中止だぜ。後は、捕らえた獲物で楽しませてもらうとするか……」
 オルフィナはこれ以上の無理な進軍は諦め、代わりに精根尽き果てたヒルデガルドと楽しい時間をすごすことにした。
「おい、お前らも好きにしていいぞ。いやまず、当然俺からだが……」
 よい決着がつけられず欲求不満がたまりまくっていた兵士たちが殺到してくる。
 とは言うもののオルフィナは少々困る。
「しっかし、機晶姫かぁ……ゲテモノ食いというか、初めてすぎてどうするんだこれ? どうやってひん剥いてやればいいのやら……」
「うっ……あうっ……やめて、ください……」
 ヒルデガルドが声を漏らす。
「もう、何でもありでついていけません」
 エリザベータはため息をついた。そういえば……先に城に入っていったセフィーはどうしているだろうか……。

▼リブロ・グランチェスター、戦死
▼ヒルデガルド・ブリュンヒルデ、戦闘不能。

  〜〜 オートセーブ中 〜〜

『セーブに失敗しました!』