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【ぷりかる】蘇る古代呪術研究所

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【ぷりかる】蘇る古代呪術研究所

リアクション

エピローグ ドニアザード

 頭をたれる黒いローブの男達の間から進み出ると、ドニアザードはシェヘラザードへと静かに笑いかける。
 黒いストレートの髪、白い肌、そして全身を覆う黒いローブ。
 どことなく暗い印象を持つ少女だが、ドニアザードという名の少女もまたネクロマンサーだとするならば、むしろ正しい姿であるとも言えた。

「大丈夫。あたしの知り合いよ」

 ドニアザードとシェヘラザードの間に入ろうとする仲間達を制すると、シェヘラザードは緊張した面持ちで幼馴染へと話しかける。

「ドニア、聞かせてほしいのよ」
「……何、かしら」
「お前の目的は、何?」

 シェヘラザードの言葉に、ドニアザードの足は止まらない。
 その表情にも、一切の動揺は感じられない。

「私が、ここにいるのは……長の命令。二つの物を取って来いという、命令……よ」

 そう言うと、ドニアザードはローブから布にくるまれた何かを取り出す。
 それを見て、真人は気づく。
 布にくるまれていて正確なところは分からないが、あれは秘宝と呼ばれるに相応しい何か。
 そんな真人の視線に気づいたか、ドニアザードはゆっくりと布を解く。
 そこから現れたのは、透明な短刀のようなもの。

「水晶刀……英雄ドニアザードの持っていた秘宝、よ。奪われて、いたの」

 そう言うとドニアザードは、素早く短刀を布に包み直して懐へと仕舞う。

「ドニア。もう一つは……?」

 警戒を解かないシェヘラザード。そしてそれは、契約者達も同様だ。
 いつでも飛び出せる態勢の彼等を視界の隅に捉えながらも、ドニアザードは自分の供達に命令を下そうとはしない。

「……私は、この争いを終わらせたいと思って、いるわ」
「それはあたしも同じよ、ドニア」

 シェヘラザードは、シボラを出た日の事を思い出す。
 ドニアザードに、争いを止める為の力を探しに行くと言って旅立った日。
 あの日と変わらぬ表情で、ドニアザードはシェヘラザードの前に立っている。

「シェヘラザード様……」

 その横顔を見て、麗はそう呟く。
 ドニアザードとシェヘラザードの間にある、幼馴染ならではの空気を感じ取ったのだ。
 敵対しようという雰囲気ではない。
 むしろ、ドニアザードはシェヘラザードに好意的な視線を向けていた。

「長は、貴方を殺せと……部族に命令を、下したわ。だから、私は志願、したの」
「ドニア……」
「部下も、信頼している者で固めた、わ。手出しは、させない」

 その言葉を聞いて、シェヘラザードの顔には喜びが浮かぶ。

「私達の味方だって言いたいの?」

 ルカルカの質問に、ドニアザードは憂鬱な目をチラリと向けただけで、すぐにシェヘラザードへと視線を戻す。

「シェヘラ。貴方を殺すのは私、よ。他の奴に殺されるなんて、許さない」

 それは、一瞬の事。
 ローブの男達が契約者達へと飛びかかり、シェヘラザードが崩れ落ちる。

「我が真名において、汝に命じる。出でよ、召喚獣サンダーバード!」

 涼介の召喚したサンダーバードが男達を蹴散らすが、その間にシェヘラザードを抱きかかえたドニアザードの手には、一枚の宝石の羽根のようなものが握られている。

「魔導器……不可視の翼よ。私とシェヘラを……シボラへと、導きなさい」

 羽根の砕ける音と共に、シェヘラザードとドニアザードの姿が掻き消える。

「しまった……!」

 逃がした事を悟り、北都が叫ぶ。
 シェヘラザードの安否も気になるが、逃がしてしまった事は大きすぎる。
 まさか空間を移動するようなものを持っていたなど、想像もできるはずがない。

「いや、あれはもう使えないさ。一回こっきりの切り札だ」

 ざわめく契約者達のところに現れたのは、何やら資料を抱えている柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)だった。

「今のアレは、不可視の翼とかいう魔導器。女王器と呼ばれる程ではないが、それなりの力を秘めたもので、ここの研究所の人さらい計画に一枚噛んでた秘密のお宝だった……らしいな」

 そう言うと、恭也は地面に落ちた残骸をつまむ。
 とはいえ、それも限界に来ていたのだろう。
 使用限度は、先程の一回のみ。

「おそらく、最初っからこのつもりだったんだろうな。関連資料をあさってみたんだが、シボラの秘宝を盗み出す為にも使ったようだし、な」

 それが先程の水晶の短刀ということだろうが……とにかく、今はそれどころではない。
 事情も、どうなったかも、どこへ行ったかもわかっている。
 ならば、追わなければならない。

「アーシア、何ぼーっとしてるの!?」

 ルカルカは、ここにきて一言も発していないアーシアの肩を掴む。
 ショックなのは分かるが、ここで呆けられても仕方がない。
 何とか正気に戻そうとして……様子がおかしい事に気づく。

「つまりドニア達が来た目的は、かつて秘宝を盗まれた事の意趣返しと……ついでに、あたしの殺害だったってことなのね」
「え?」

 アーシアは、朗々とした声でそう言い放つ。

「でも、困るなー。ドニアにそのケがあるのは薄々感じてたけど、知らない間にこじらせてたとは……あいつ、あたしの身体に変なことしないでしょうね」
「あ、アーシア先生……?」

 恐る恐る、さゆみはアーシアに話しかける。
 そのさゆみに、アーシアはどこかで見た笑い方で笑いかける。

「違う違う、あたしよ、あたし」
「シェ、シェヘラザード……?」

 シリウスの言葉に、アーシアはにっと笑う。
 いや、アーシアの姿をしたシェヘラザード……だろうか?

「ドニアに殺された瞬間に乗り移ってみたのよ。まあ、身体を取り戻すまでの間借りってやつかしら」

 とんでもない事を言いながら、シェヘラザード(が入ったアーシア)は、更にとんでもない事を口にする。

「こうなった以上、仕方ないわ。お前たち、シボラの私の部族の村に来てくれないかしら。今からでも間に合うなら、抗争を止めたいのよ」

 殺されてもなお、部族同士の戦いを止めたいと願うシェヘラザード。
 水晶骨格。
 ネバーランド。
 深まるばかりの謎の中、それでも否応なしに状況は加速していく。
 その先にあるものが何なのか……今はまだ、誰にも分からないままに。

担当マスターより

▼担当マスター

相景狭間

▼マスターコメント

皆さん、おつかれさまでした。
シェヘラザードはドニアザードによって呪殺。
その体は奪われましたが、魂はアーシア先生の身体の中に間借りしています。
身体を取り戻すまでの間、アーシア先生とシェヘラザードは二人で一人な奇妙な状態となります。


次回、第三話は全ての謎の始まり、シボラへと向かいます。
いよいよシェヘラザードを巡る物語は解決を目指して走り出そうとしています。
女王器「水晶骨格」の謎も、その全貌を見せようとしています。
果たしてシボラで蠢く陰謀を砕く事は出来るのでしょうか?

全ては、皆様の活躍にかかっています。
それでは、次回の冒険でお会いしましょう。