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再び、みんなで楽しく? 果実狩り!

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再び、みんなで楽しく? 果実狩り!

リアクション

「そういえば、レンさんとアメイアさんの馴れ初めってどうだったんですか?
 私その場に居なくて、後でお二人から話を聞いただけで。とにかく凄かったってのは分かるんですけど」
 休憩中、ノアがアメイアに『イナテミス防衛戦』でのレンとアメイアの一騎討ちの話をせがんでくる。
「確かに、互いに酷いものだったな。私は左腕と左脚を使い物にならなくされたし、レンは内臓と顔面を大きく損傷していた」
「うわ……想像したら気持ち悪くなっちゃいました。メティスさんが治療、すごい頑張ったんですね」
「そうですね。放っておいたら間違いなく死んでいました」
 メティスの発言に、レンがツッコミを入れかけ、まぁ、いいかと引っ込める。実際は危機的状況というわけではなかったが、死にかけた思いをしたのは事実だった。
「それにな、普段はあのようにクールな素振りだが、実は熱い男だぞ。
 確か……「アメイア、俺はいつか、お前とも分かり合えると思っている。その未来を望むからこそ、俺はあえて戦う道を選んだ。……俺は、逃げない」だったか?」
「わぁ、レンさんカッコいいです!」
 ノアからキラキラとした眼差しを向けられ、レンはこそばゆい気分に陥る。確かに言葉通りの言葉を口にしたが、それをそっくりそのまま他人、しかも言葉を放った対象から言われるのは、どうにも恥ずかしい。
「他にも……「戦いを避けられるのであれば、互いに努力すべきだろう。だが、戦いが避けられない状況は確実に存在する。そして今がその時ならば、俺達は戦うことから逃げてはいけない」とも言っていたな」
「……分かった、降参だ。もう勘弁してくれ」
 レンが白旗を上げ、笑いが満ちる。
 ……こうして、過去の思い出を笑って話せることは、この上ない幸せであろう。


「いっぱい動いて、いっぱいお話したからお腹空いちゃった! いただきまーす!」
 テーブルに載せられた、博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)が作ったタルトやシャーベットをキラキラとした目で見つめて、リリーが心底幸せそうな表情で食していく。隣に座るリンネも美味しそうに料理を口にするのを見、博季は安堵の表情を見せる。
(僕の怪我の事を、随分と気にしてくれていたリンネさん。今日の果実狩りでリフレッシュしてくれたかな?)
 博季がリンネを見ていると、フッ、と、その面影が揺らいだかと思うと、とても小さな女の子がやっぱり美味しそうに、手にしたお菓子を食べている光景が映し出される。
(えっ? あっ、これって……)
 その光景に、博季は既視感を覚える。記憶の棚の引き出しが開けられ、まだ自分が幼かった頃、兄嫁の勧めでイギリスへ招待された時の思い出が蘇る。
(……そうだ。ああ、そうだったんだ。
 僕はあの時……リンネさんに会っていたんだ)
 古い大きな屋敷で、小さな女の子がお菓子を食べている場面に遭遇して、二人だけの秘密を共有して。そのままもう一度会うこともなく帰ってしまって、記憶の棚の奥深くに仕舞われていた記憶。
(どうして気づかなかったんだろ? 今思い出せたのは、果実たちのおかげかな?
 僕の初恋の人はリンネさん、そして僕は、僕が考えてたずっと前から、リンネさんに恋してたんだ)
 子供の頃の気持ちが蘇る、女の子の嬉しそうな顔を見て、胸が高鳴ったこと。……きっとそれが、恋のはじまり。
(リンネさんは、知ってたかな……? 覚えてるかな?)
 聞いてみたい思いが強くなって、博季はリンネを呼ぶと、耳元へ口を寄せ「食事が終わったら、辺りを散歩しませんか」と誘う――。

「うーんうーん……お願い果実さん、私にも力を貸してっ!!」
 博季から『過去の出会いの話』を聞かされたリンネが、なんとかその場面を思い出そうと果実にお願いをするように両手を組んで必死に記憶の棚を開こうとする……が、鮮明に思い出す所までは辿り着けなかった。
「あうぅ……博季くんごめんね、思い出せなくて」
「いえ、いいんですよ。僕は僕が思っているより昔から、リンネさんの事を好きだった。それを僕は思い出して、そしてリンネさんが今知ってくれた、それだけで僕は幸せなんです」
 申し訳なさそうに頭を下げるリンネの頭を、博季の掌が撫でる。あの時の女の子が立派に成長し、そして今は自分の生涯の伴侶として傍に居る。それはどれほどの奇跡だろう。そしてどれほどの幸運だろう。
「可愛いリンネさん。僕の自慢のお嫁さん。
 ねえ、リンネさんは何を思い出しましたか? 良かったら、聞かせてほしいです」
「……うん。博季くんにも、聞いてほしい。えっとね……」
 秋の空の下、ゆっくりと歩きながら思い出話を紡いでいく。リンネが話すのを、笑顔で聞く博季。
(愛しいリンネさん。……愛しています)
 二人だけの時間が、流れていく。


「さあ、ご飯の時間だ! いやぁ、どれも美味しそうに見えて仕方ない」
 テーブルに並べられた、栗ご飯やキノコ汁、果実を使ったケーキやゼリーといった料理を、大吾が嬉しそうな顔で今にも食べたそうにしている。
「大吾、最初はみんなで、「いただきます」だよっ」
「分かってるさ。……さ、準備はいいかな。それじゃあ、いただきます」
「「「いただきま〜す!」」」
 大吾とアリカ、ナベリウスたちが「いただきます」の挨拶をして、思い思いに料理に手を付ける。
「くりごはん、おいしい〜!」
「きのこのおしる、おいしい〜!」
「けーきもぜりーも、おいしい〜!」
 それぞれ食べるものは違えど、食べたもので笑顔になる点は変わらない。
「うん、本当に美味しい。素材の良さが生かされている。
 設備が限られる中でこれだけのものを作れるなんて、正直、凄い」
「ふふ、誉めていただいて、ありがとうございます。
 おかわりも用意していますから、たくさん召し上がってくださいね」
 微笑むミリアに大吾が思わず見惚れかけ、隣のアリカに脇腹を鋭く突かれて悶える。
「皆でワイワイ食べるのって、楽しいね!」
「「「そうだね〜」」」
 しばしの間、楽しく賑やかな時間が流れる――。


『果実たちとの、幸せな一日』

「えっと……果実狩りって聞いたから楽しみに来てみたんだけど……これは一体どういうことかしら」
 他に果実狩りに来た生徒に交ざる形で、黄緑色に白色、茶色の髪の幼女が交流している現状に川村 詩亜(かわむら・しあ)は戸惑いの表情を隠せない。
「お姉ちゃんお姉ちゃん、分かったよ!
 えっとね、よく分かんないけど果実さんが人の姿を取っちゃったみたい!」
 知っていそうな人に話を聞きに行った川村 玲亜(かわむら・れあ)が、聞いたありのままを伝える。『よく分からない』のは玲亜が、ではなく、誰も本当の事を分からないのである。一応世界樹が関係しているとか、果物の人になりたかったという思いがあったからとか理由は挙げられるが、これ! という確実なものはない、というものであった。
「そうなの。よく分からないなら……いいわ。
 って、玲亜ダメじゃない、私の元を離れて。あなたとっても方向音痴なんだから」
「えへへ、ごめんなさ〜い。
 でもね、果実さんと仲良くなれたんだ! 紹介するね、マロンちゃん!」
「か、勘違いしないでよね。放っておいて迷子になったら困るから連れてきただけなんだから」
 素っ気ない態度を取るマロンだが、詩亜と玲亜の質問には律儀に答える。自分の他にも葡萄と梨が人の姿を取ったこと、それぞれ『フロウ』と『ナンシー』だということ、葡萄ならみんな同じ『フロウ』という名前を持っているのだということを二人は知る。
「つまり、マロンさんの他にもマロンさんがいる、ということ? なんか、それもどうなのかな」
「みんなおんなじ名前だと、区別がつかないね。
 ……そうだ! ねえお姉ちゃん、この子に名前をつけてあげようよ」
「べ、別にいいわよ、そんな――」
「名前? いいわね。何にしましょうか」
「お姉ちゃんが『シア』で私が『レア』だから、うーん……『ミア』でどうかな」
「ミア……いいわね。それにしましょう」
「って、聞いてないし!」
 マロン改め『ミア』が抗議の声を上げるも、もう決定事項のようで、詩亜と玲亜はマロンのことをミアさん、ミアちゃん、と呼ぶ。
「ミア……それが、あたしの名前……。
 う、嬉しくなんかないんだからっ」
 プイ、とそっぽを向くミア、その実ひどく嬉しがっている事は、誰の目から見ても明らかであった。

「あぁ、いい……。幼女と幼女がキャッキャウフフ……わざわざイルミンスールまで来た甲斐があった……!」
 そんな三人の仲睦まじい様子を、刀村 一(とうむら・かず)が恍惚とした表情で見守っていた。
「イルミンスールは幼女ちみっこがいっぱいという噂は、本当だったんだな……。そもそも校長からして幼女だし――んがっ!」
 なおも幼女を妄想していた一が、背中に乗っていたリン・リーリン(りん・りーりん)に頭の鉢巻を引っ張られる。
「カズちゃん! ぼけっとちみっこのほう見てないで、ちゃんと狩るのっ!」
「分かった、分かったから額を叩かないで! ……ふぅ。じゃあ何から収穫しようか」
「栗も梨も葡萄も全部なの! そしてそれをリンのためにお菓子にしなきゃだめなのっ!
 果実を優雅に収穫して華麗にお菓子に仕上げる、それが立派なおじさまの条件なのっ」
「き、厳しいなぁ、リンちゃん。……そうだな、自分も立派な紳士になるための修行中。
 分かった、栗でも梨でも葡萄でも何でも収穫して、お菓子を作ってあげよう!」
 ぐっ、と拳を握って決意を新たにした直後、視界に詩亜と玲亜、ミアが入る。
「ミアさん、はい、どうぞ」
「私とお姉ちゃんで、花冠を作ったよ! 被ってみて!」
「そ、そこまで言うなら、被ってあげないこともないわよ」
 詩亜と玲亜が二人で作った花冠を被せられ、ミアは口こそ悪いがまんざらでもないといった様子だ。
「……あぁ、でもやっぱり幼女ちみっこ、可愛いなぁ……」
「手が止まってるのーーーっ!!」
 ついつい見惚れてしまった一の額に、リンのチョップ連打が炸裂する。
「痛い痛い痛い!! 真面目にやります、だから額てしてしは止めて!
 ……いいかいリンちゃん、あんな可愛い幼女だ、どこかの悪い人がいつ襲い掛かるか分からないだろう?」
「ん? ……んー、言われてみればそうなの」
幼女ちみっこは愛で見守るものだ! それが紳士ってやつだ!
 自分は、紳士でない不届き者から幼女ちみっこを守るために、全力で見守っているだけなんだ!」
「おー、なるほどそうだったの……って、騙されないのーーー!!」
「うぎゃーーー!!」

 ……そして、楽しい時間はあっという間に過ぎ。

「もう暗くなってきたね……そろそろ、帰らなくちゃ」
 夕日が地平線の向こうに沈み、辺りは段々と暗闇に包まれつつあった。
「ねえ……こんなこと、聞いていいのか分からないけど。
 今日が終わったら、ミアさんはどうなるの……?」
 詩亜の問いに、ミアは寂しそうな、それでいてすっきりしたような顔で答える。
「あたしも、多分他の果実もみんな、今日一日をめいっぱい楽しませてもらった。
 それに、なんとなく分かるの、この姿でいられるのは今日一日限りだ、って。もうすぐみんな、元の果実に戻ると思うわ」
「えっ、そうなの……? 折角仲良くなれたのに、お別れなの……?」
 玲亜の表情が陰り、やがて目尻に涙が浮かぶ。
「泣かないの、詩亜。悲しいのは私も、ミアさんも同じよ」
「あ、あたしは別に……悲しくなんて、ない、……、わけないじゃないっ」
 別れが悲しいのを認めたミアと、玲亜が抱き合ってわーん、と涙する。詩亜も一緒に泣きたいのを堪えて、せめて最後に何か思い出に残るものはないかを考える。
「……! 確か、これにカメラ機能が……あったわ」
 持って来ていた銃型HCのカメラ機能を確認した詩亜が、玲亜とミアに「写真を撮りましょう」と持ちかける。
「ぐすっ……うん、そうしよう。でも、三人一緒がいいよね」
「そうね……誰かが代わりに取ってくれるといいのだけど……」

「うおおおぉぉぉ!! おじちゃんは今、猛烈に感動しているっっっ!!
 是非この自分に、最後の思い出のワンシーンを撮影させて――んがっ!」
「カズちゃんこわすぎなのーっ! ぜんぜん紳士的じゃないのーっ!」

 感動のあまり涙を流しながら一が撮影を持ちかけ、リンに鉢巻を引っ張られて窘められる。
「あ、あの……じゃあ、お願いします」
「ごめんなさいなの、この人悪い人じゃないけどちょっとおかしい人なの」
「うっ、リンちゃん、おかしいってちょっと酷いんじゃないかな?」
「事実だから仕方ないの。さ、しっかりと撮ってあげるの」
 今度は悲し涙を流しつつ、詩亜からHCを受け取った一が、ピントを合わせて三人を収める。
「それじゃ行くぞ。……はい、今っ!」

 ……そして、HCのメモリーには、花冠を被ったミアと両脇に並ぶ詩亜と玲亜の笑顔が刻まれたのだった――。