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発見! 幸せのふわふわ毛玉!

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発見! 幸せのふわふわ毛玉!

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■探検、陸の孤島遺跡群
 ――陸の孤島遺跡群。ツァンダ南方の山岳地帯にひっそりと存在する、中規模程度の遺跡である。
 その出入り口付近と思われる開けた場所へ、大型飛空艇が停泊し、そこから数十人からなる団体……探検部2名を含めた、契約者たちの姿が降り立っていく。
「思ったより静かね……」
 北上 奈留がぽつりと呟くように、遺跡群は非常に静かな面持ちを見せていた。空気を震わす鳥の声も聞こえぬ、静寂と呼ぶにふさわしい領域に、契約者たちはその息を飲んでいた。
「この遺跡群を今から調査できるとなると……くぅ〜、楽しみだっ!」
 だがそんな中でも、ジョニス・アンダーソンは未調査区域であるこの遺跡群の姿に目を輝かせていた。初めての調査員になれるという嬉しさは、静寂に潜む危険などには目移りもしないのであろう。
「そんなわけで……みなさん、今回もよろしくお願いします!」
 ジョニスは再度、契約者たちへ頭を下げて今回の調査の協力に対してお礼を述べる。そしてそのまま今回の目的を再確認し、これからの行動指針を伝えていく。
「それで早速だけど、遺跡内の調査を依頼されているふわふわ生物の捜索と並行して行いたいと思うんだ。まだこの遺跡群は未調査だから、どこをどう探していいのかもわかっていないみたいだし、なるべくならランドサーペントに襲われる前に見つけてしまいたいという気持ちもあるから」
 さすがは探検部部長の看板を背負っているからか、指針内容はテキパキとしたものであった。概ねジョニスの案で大丈夫そうなので、契約者たちはそれに頷き、早速遺跡の中を探索することとなった。

 ……グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)の表情は、実ににこやかなものである。おそらく、ジョニスと同等の輝きを持っているだろう。それほどまでに、今回の遺跡調査には興味を惹かれていた。
「グラキエス、浮足立つのはわかるがもう少し腰を据えて動かねば。調査の見落としが出てくるかもしれないし、なにより疲れるのが早くなるぞ」
 『秘宝の知識』に裏付けされた『トレジャーセンス』をいかんなく発揮し、『サイコメトリ』で情報を読み取りながら嬉しそうに遺跡を巡るグラキエスに対し、ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)はグラキエスの体調を考えてか、気が気でない様子だった。そのため適度に声をかけ、グラキエスが無茶をしないよう抑制をかけている。
 ただでさえ楽しみにしていた遺跡調査に加え、ふわふわ生物なる未知の生物も見てみたいという気持ちがグラキエスを浮足立たせているのは明白であり、ゴルガイスはそんなグラキエスに無理をさせないよう行動していた。
「……エンドロア、集中しろ」
 そんな中、短い言葉でグラキエスを諭しているのはウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)だった。彼もまたゴルガイスと同じく、グラキエスが無事に遺跡調査を終わらせることを第一に考え、守ろうとしている。
「まったく……アラバンディットの言うとおりだった。――アラバンディット、俺が周囲を警戒する。お前はエンドロアを守れ」
 注意が散漫しているグラキエスに小さくため息をつくものの、内心ではなんとかしてでもグラキエスを楽しませてあげたいという気持ちが強い。それならば、自分たちでグラキエスを助け、守ろうと結論付けたようだ。ウルディカはそんな思いを胸に、グラキエスをゴルガイスに任せると、自身は『殺気看破』と『野生の勘』を働かせて周囲の警戒に移っていった。
(グラキエスの体調を考えるなら、なるべくは戦闘を避けたいところではあるが……)
 『適者生存』によってできるだけ戦闘を避けたいと思っているウルディカではあるが、周囲の空気はそうもいかないらしい。普通に行動している分には気づけないが、周辺を警戒することによって初めて、周囲から漂う静かな殺気を感じ取れている。しかし相手も慎重になっているのか、すぐに飛びかかってくる……ということはなさそうだ。
 ――グラキエスが《銃型HC弐式》に遺跡内の地図や画像を記録しながら探索を続けていると、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)たちと村主 蛇々(すぐり・じゃじゃ)たちの混成グループが先行して進んでいるのが目に入った。
「浪漫は追いかけないといけないであります。さぁ行け、いざ行け葛城探検隊!」
 葛城探検隊の隊長としての自覚を持ってか、先頭に立って遺跡内をやや浮かれ気味に突き進む吹雪。その後ろを探検隊副隊長であるコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が控え、やや暴走気味の隊長のフォローに回っていた。
「あんまり進みすぎるとはぐれちゃうわよー!」
 コルセアのツッコミも空しく、吹雪は珍妙な隊歌を口ずさみながらずんずん先に進む。コルセアはそれを追い、その後ろには罠や敵襲がこないか確認しながら移動するイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)、さらにその後方には探検隊客員隊員(ということになっているらしい)の蛇々たちがついていっていた。
「……あのタコみたいなの、店長が見たらどう思うんだろ」
「見た目がアレだし、売れなさそうの一言で済むと思うよ?」
「だろうな」
 イングラハムの後ろ姿を見ながら、蛇々とリュナ・ヴェクター(りゅな・う゛ぇくたー)、そしてエスフロス・カロ(えすふろす・かろ)はぼそりと話し合う。見た目が完全にモンスターのようなアレっぽいので、間違えて攻撃しそうになりかねない。三人はそれに注意しながら、葛城探検隊についていきつつ、ふわふわ毛玉生物の捜索をおこなっている。
 主に蛇々が『サイコメトリ』を遺跡内のあちこちで使って毛玉の足跡(?)を追おうとしているのだが、現在はこれといった成果は無し。毛玉生物は暗い所を好む、ということなのでリュナは『光術』を使って暗がりの部分を明るく照らしていくがこれまた目的の毛玉は見つからず。エスフロスは蛇々とリュナの護衛として、『殺気看破』で周辺の警戒をしていた。
「毛玉、見つからないわね……ふわふわ毛玉とか絶対にあの不気味骸骨マスコットより人気出そうだし、何としてでも見つけないと!」
「む〜ん……こっちにもいない。わたしも毛玉ちゃんほしいから頑張ろうっと!」
 蛇々たちは今回依頼を出した雑貨店で現在も絶賛アルバイト中である。そのため、店長の役に立ちたいという一心で今回のふわふわ毛玉捜索に参加した。もっとも、本人たちもその毛玉生物が欲しくて動いているのもあるのだが。
「毛玉毛玉と……未知の生物に過剰な期待をしてどうする……もしとんでもない化け物だったら対応しきれんぞ」
 一方のエスフロスは護衛の面として、そして探検部の手伝いという面からか一歩引いた視点での言葉。しかしふわふわ毛玉という可愛らしいモノに、女子二人はすでに危険なものではないという認識になってしまっているようで、あまり聞いている節はなさそうだった。
「まぁいい、もし見つかったら店長に特別手当を出してもらおう。毛玉とか毛玉とか……」
 ……だが、エスフロスも毛玉の魔力には抗えないようであった。


 それから数刻が経つものの、毛玉はおろかその足跡すら見つかっていない。『サイコメトリ』による情報では確かに毛玉は“存在”するのだが、あまりにも断片的過ぎて確たる証拠になっていないというのが現状なのだ。
 同じく毛玉捜索をおこなっている騎沙良 詩穂(きさら・しほ)とも合流し、葛城探検隊を筆頭にさらに遺跡内の調査を進める一行。相変わらずの周囲に潜む静かな殺気は『殺気看破』でしか読み取れない状況であるのだが、いまだ敵は襲ってくる気配を見せない。周囲を警戒するウルディカやイングラハム、エスフロスはより周辺への警戒を強めながら、一行はある大きな建物へと入っていった。
 ……そこは、一見すると何の変哲もない朽ちた集会所のような場所である。蛇々やリュナは暗がりの奥まった所を捜索してみるものの、そこに毛玉の姿はなかった。
「ここにも毛玉はいないみたい。次行きましょう……ん?」
 いないのならば次を捜索。そう思っていた蛇々だったが、何気に蛇々たちと一緒に毛玉生物を探していたグラキエスが興味深そうに集会所跡地を見て回る。
「うん……この建物。集会所にしては大きい、だとすればこの遺跡群はかなり大きな都市だったか、それに準ずる施設の可能性があるかもしれないな」
 未知の発見からくる推測。『考古学』をたしなむ者ならば誰もが通るその道を、グラキエスは通っていた。何度目になるだろうか、推測が生み出す心の快感を、グラキエスは心地良く受け入れながら至福の時を味わっていた。例えそれは、記憶を失っていても楽しめるひと時……考古学の浪漫の真髄というものを、確かに感じ取れているようであった。
「――自分も浪漫を探すであります。きっとこの奥まった所に……」
 吹雪が集会所跡地の別な奥の場所を調べる。吹雪の言う浪漫、とは早い話がお宝である。ランドサーペントが闊歩しているこんな危険な遺跡ならば、きっと上質なお宝があるに違いない! ……そう考えた吹雪は、今回の依頼に乗っかって遺跡の宝を手に入れようと画策していたのだった。
 ――奥の隙間を見ると、何やらスイッチらしきものが。吹雪は確信する……このスイッチこそ、お宝に通じるものだと。
「それ……ポチッとな」
 隙間へ腕を伸ばし、あからさまな怪しさを放つスイッチを押す吹雪。その瞬間――。
「っ!? 何かくるっ!!」
 押されたスイッチに反応し、開かれる集会所跡地の窓。どうやら窓を開けるためのスイッチだったようだが、窓が開かれた瞬間にその窓から、太い注連縄ほどの大きさを持った数十匹の蛇――ランドサーペントの幼体が入り込み、契約者たちに襲いかかろうとしてきた!
「グラキエス!」
 突然の敵襲に対し、ゴルガイスは『神速』を使ってグラキエスのすぐ傍へ移動、その巨体を盾代わりにして守っていく。すぐさま攻撃態勢を整えると、襲いくるランドサーペント幼体たちへ『ドラゴンアーツ』で強化した『鳳凰の拳』や『ヴォルテックファイア』で確実に、そして速攻で倒していく。
 グラキエスに負担をかけさせまいと、ゴルガイスはもちろんのことウルディカも《黒曜石の銃》で的確にランドサーペント幼体を撃ち抜いて撃退する。グラキエスも幼体群に対応しようと身構えるが、ゴルガイスに諭されてしまった。
「ここは我たちに任せてほしい。――なによりも、すでに決着は見えているようだしな」
 ……ゴルガイスの言うように、窓から侵入してきたランドサーペントの幼体たちは他の契約者たちによって片付けられていた。どうやら、敵戦力としてはあまりにも未熟だったようだ。
「これで全部……かな。でも、どうして襲ってきたんだろう」
 骸となったサーペント幼体を《居合いの刀》でつつきながら、詩穂は首を傾げる。その問いには、奥の倉庫部屋らしき部屋から出てきたイングラハムが答える。
「おおかた、我慢できずに飛び込んだ若輩者だろうな。ここの遺跡群全体が“蠱毒の壺”のようなものかもしれない」
 『殺気看破』でいまだに――否、より強くなった殺気を感じ取ってか、遺跡群全体の状況をそう比喩するイングラハム。
 ……蠱毒の壺、それは旧き時代における呪術の一種であり、一つの器の中に様々な蟲――この場合、蛇なども含まれる……を入れて、それを喰らい合わせる。そして、最後に残った一匹を用いて呪術を執り行う……というものである。すなわち、この陸の孤島遺跡群自体がランドサーペント同士による蠱毒の壺状態であり、ここに足を踏み入れた契約者たちはその喰い争いに参加したのと同様なのだ。
 ――すでに遺跡群全体はランドサーペントの巣になっていることを改めて思い知った契約者たち。……と、そこへコルセアにそこそこ怒られた吹雪がようやくイングラハムと合流する。そして……。
「あ、その手に持ってるのはお宝でありますな! 独り占めしようとは許さないであります!」
「しまった!」
 ……こともあろうかこのモンスターまがい、吹雪が安易にトラップを引いて怒られているのを尻目に、お宝の独り占めをしようと目論んでいたらしい。コソコソと価値のある物を隠しながら蠱毒の壺の比喩をかっこよく言っていたのである。盗人猛々しいとはよく言ったものだ。
 しかし、その宝の一部を見たグラキエスがぽつりと一言、こう呟いた。
「それ……多分、価値のないただの風化物だと思うんだが」
「――なん……だと……」
 ……イングラハムの手から風化物と鑑定された、お宝と思われた物が滑り落ち、虚しく割れた瞬間であった。